表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/21

【第1話】異世界転生初日、誰からも話しかけられない男

俺の名前は志無野しなしの 睦夫むつお

年齢49、独身、友達ゼロ、生涯現実から遠ざかってきた人間だ。

推し活だけが俺の人生の意味だった。アイドルのライブに通い、グッズを愛で、アニメキャラの誕生日にはケーキまで焼いてきた。誰かに必要とされた記憶はないが、必要とされたい気持ちなら、ずっと持っていた。


そんな俺が、なぜか異世界にいた。


目を開けた瞬間、そこは石畳の道。空は高く、周囲には獣人や小人が歩いていて、どう見てもファンタジー世界だった。頭の中で警報が鳴る。これは夢か、妄想か、あるいは──


「ここは異世界・カレルディア。あなたは選ばれし転生者です」


頭上から声が降ってきた。神のような響き。まさか、これが……世に聞く“テンプレ転生”ってやつか?


俺は震えた。人生で初めて、期待という感情が湧いた。


「……やっと、俺のターンか?」


スマホのような光のパネルが目の前に開く。いわゆるステータスウィンドウだ。


【初期スキル】

・言い訳(Lv99)

・責任回避(常時発動)

・共感遮断(呪い・解除不可)


「……は?」


俺は読み直した。何度も読み直した。

もう一度言うが、チートでも魔法でもない。“ただの社会性破壊スキル”だ。


おまけに称号欄には、

【称号:人間的バグ】【属性:情緒腐食】と書かれていた。


ステータスを閉じる間もなく、周囲の視線が刺さるように集まってきた。


「見て、“共感スキャン0.0”だって……」

「うわ、また出た。“俺は悪くない”型のやつじゃん」


この世界では、共感力が数値化されて可視化されるらしい。

他人の気持ちを察し、歩み寄る力──それが、この世界での“社会的戦闘力”なのだ。


魔力、剣術、財力。そのどれよりも優先されるのが、共感力。

そして、俺のスコアは【0.0】。最低記録。歴代ワースト更新。


何もしなくても、周囲の人々が俺を避けていく。

ステータスが表示されただけで、村の子どもが泣いた。通りすがりの老婆は指をさして言った。


「感情の墓場が歩いてるよ……」


気づけば、俺の名前は村の掲示板に貼り出されていた。


『要観察対象:感情遮断型転生者 志無野不二雄』

『接触時、情緒汚染の可能性あり』


──転生して5分。

誰にも話しかけられないどころか、俺はもう社会から隔離され始めていた。


異世界転生、主人公になるどころか“エラーとしてログイン”してしまったようだ。


第1話、終了。

俺の異世界人生は、すでに回線落ち寸前で始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ