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転生 三つの願いと神の加護

男はこの何もない世界にただ一人立ちつくしていた。


どこを見ても辺りは見渡す限りの白い砂原。


上を見上げると雲一つとない青空。


風すらも感じない何もない世界。


人はおろか鳥や動物の気配すらも無い完全なる虚無の大地。


「本当に何もない……ここからスタートか」






時は少し前に遡る――


一晴斗(ニノマエハルト)よ。お主は予期せぬ死によりここに招かれた。よって今一度だけ生を受けて人生をやり直すことができるのだが――」

気が付くと男は神と自称する存在の前に居た。


男の名前はニノマエハルト。

神と自称する者の話では、どうやらハルトは前世で死んでしまったらしい。

そして転生するために神の前に招かれていた。


神という存在の長い話を聞き流しながら、ハルトは自分の両手をぼんやりと眺めていた。


確か俺は車に引かれそうになって……


ぼんやりした頭で曖昧だった記憶を手繰り、ここへ来る前のことを思い返していくうちに、徐々に自分の死という現実を実感し始めていた。



そうか……俺は死んでしまったのか……。


ハルトはここへ来る直前の状況をようやく思い出し、自身の死をはっきりと認識した。



それは、いつも通りの変わらぬ日常。仕事帰りに歩道を歩いているときのことだった。

遠くの方から明らかに速度超過をした車が走ってきているのが見えた。

危ないな。

と思ったが特にそれ以上気には留めなかった。都会では偶に見る日常の光景だった。


しかし直後、日常から非日常へ状況は移り変わる。


視線を暴走車から目前の道へ戻す瞬間、視界の端に何か動くものが映った気がした。

確認するために何気なく車道の方に目をやる。


そこには目前まで迫っている危機に気が付きもせず、呑気に道を渡ろうとする一匹の猫が居た。

猫の綺麗な銀色の毛色が昔実家で飼っていた愛猫と重なった。


車道へ目を向けると車はもうすぐそこまで迫っていた。

轢かれる!と思った瞬間――


気が付けばハルトは猫を助けるために体が自然と動き出していた。

猫を抱き上げたときには車がクラクションを鳴らしながら目前まで迫ってきていた。


もう衝突は避けれない。

せめてこの猫だけでも……。そう思いハルトは抱きあげた猫を歩道の方へ放り投げた。

直後、車のライトの光で視界が真っ白になった。


思い出せたのはそこまで。



あの猫を助けたことで車に轢かれ死んでしまったのか。と理解した。



確かに小さな頃から猫好きだったが……まさか見ず知らずの野良猫を助けて死んでしまうことになるなんてな……。

だが俺は後悔はしていない。

猫が無事だったのならそれでいい、と思った。

そう。ハルトは重度の猫好きだった。



そんなことを考えていたら神から大声で注意された。

「――お主聞いておるのか!!」


すみません。

正直全く聞いてませんでした。

と、言うわけにもいかないので軽く頭を下げた。


「まぁよい……では、望む願いを3つ答えよ」

神は右手の指を3本立てながらハルトに願い事を訪ねてきた。


考えに耽っていて話を聞いていなかったが、流れから察するに転生の特典とかだろうと勝手に理解した。


少し考えハルトは口を開く。

願いを言う前に一つ質問をした。

「このままの年齢で転生というのは可能ですか?」

ハルトの意外な問いに対し神は問い返した。

「可能だが、0からやり直さなくてもよいのか?」


「ええ、俺は今までの人生に後悔はないので」

「ふふ、そうか、良い人生を送ってきたのだな。わかった。では残り2つの願いは?」

神はハルトの答えを聞くと笑みを浮かべ、続けて残り2つの願いを確認した。


「常に健康でいられる強い体……というのは可能でしょうか?」

特に深い考えはなかったが、前世ではやたらと病気を受け入れやすい体質だったので、異世界で変な病気にかかりたくはない。と思っての願いだった。


「わかった。健康な強い肉体を授けよう、して3つ目は?」

神は今度はすんなりと受け入れ、最後の願いを確認した。

転生者が良く挙げる願いだったのかもしれない。


……。

ハルトはしばらく考え込み最後の願いを答えた。

「そうですね……。《何もないところ》に行きたいです」


その要望を聞いて神は戸惑っていた。

今まで幾人もの転生者を見届けてきたが、こんな願いをしてきた者は一人もいなかったからだ。

「本当に…《何もないところ》がよいのか…?」


願いを聞いた直後の神の様子に若干の違和感を覚えつつもハルトは続けた。

「はい、周りに《何もないところ》から第二の人生をスタートしてみたいです」

ハルトは何もない田舎や僻地で農耕をし、のんびり暮らす新生活をイメージしつつそう答えた。

第二の人生は自由気ままに自給自足でほのぼのスローライフを満喫するつもりだった。



「わかった……転生者の意思を通すのが絶対のルール。止めはせん。だが……命を無駄にするものではないぞ」


何やら覚悟を決めたような顔をし、そう言うと神は人差し指をハルトに向けた。

神の指先が光ったのち、ハルトの体もその光に包まれた。


「これは特例だぞ?他の神にも内緒だ。これでお主は日に三度だけ望むものを作り出すことが可能な創造神の加護の力を使えるようになった。この力を使って転生後の人生を頑張ってみなさい」


ハルトはなぜ自分が神に心配されて特例の力を与えられたのかよく分からなかった。

……異世界で自給自足って過酷なのかな?

よくわからないが、便利な力を貰えたようなのでラッキー。と思い、それ以上は気に留めなかった。


次に神は杖を掲げてハルトを異世界へ送る準備を始めた。

「それではお主を新たな世界へ送るとしよう」

神が構えた杖の先から光が発せられ、ハルトの体を包んでいく。


「頑張るんじゃぞ」

真剣な表情の中に若干の不安を浮かべつつ神が頑張れと告げた。

「はい。色々とありがとうございます」

ハルトは神の表情と頑張れという言葉に違和感を感じたが礼を言って頭を下げた。


直後、ハルトの体を覆った光が強く輝き始め、新たな世界に転送されようとしていた。

ハルトが新たな世界に飛ばされる直前。神がこう言った。

「すぐに死なれても私も寝覚めが悪いのでな……サービスとして空気と大地だけは存在する世界を用意した。あとは与えた力を使って何とかしてみなさい」


その言葉を聞きハルトは先ほどまで感じていた違和感も相まって確かな不安を感じた。

「あの――」

確認しようとしたが聞き返す間もなく、ハルトは新しい世界に転生を遂げた。

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