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ユーディキウムサーガ 父親に捨てられた少年は好きになった少女のために最強の剣士を目指す  作者: ムラタカ


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79話 アングリッタ王立技術学院



アングリッタ王立技術学院は王国に住まう貴族の子供達のほぼ全てが通うマンモス学院だ。

故に縦社会が形成され貴族間での優劣が大きな影響を及ぼす。

所謂カースト制度が学園側の意向から独り歩きし生徒達の間で拡大解釈され当たり前の様に用いられている。

社会の縮図たる学院の中では生徒達は己の立場を理解し尊大な態度を取るものもいれば粛々とした態度をとる者や優雅たれを基盤とする礼儀を重んじる者など多くの考えが錯綜している。

そんな中にアルフィダ、レイラ達は放り込まれる事となる。


 「短い期間ですが貴方方と共に学ぶことになったアルフィダ君とレイラ君だ、みんな仲良くするように。」


「ご紹介に預かりました、アルフィダ·ミルシュバーグとレイラ·ウルカストです、以後お見知りおきを。」



アルフィダの短い自己紹介に社交辞令の拍手が返される。

それをアルフィダも社交辞令の笑顔でもって返礼する。

レイラもそれに習い頭を下げる。



「君達の席はあの空いている所を使うといい。」


「了解しました。」



教師に席を示されたアルフィダはレイラを伴ってそこに向かう。

隣席には藍色の背まで届く長髪の少女が座っていた。



「よろしくねアルフィダ君、それとレイラさん、私はナナリア…ナナリア·シュタイナー。よろしくね。」


「アルフィダだ。よろしく」


「レイラです。よろしくお願いします。」


「ふふ、うんよろしくね、でもこんな時期に編入なんて珍しいね、あまり見かけない顔だし。」


「ああ、お嬢様の御厚意でね、短期間ですがここで学ぶ機会を与えてくれたんですよ」


「お嬢様?」


「ええ、フューフェ·ウラニティお嬢様のね」


「え?あのウラニティ家の?」



ナナリアの声に何人かの生徒が反応する。

恐らくはウラニティの名に反応しての事だろう。

ミルシュバーグもウルカストもここアングリッタではそこまで浸透した名ではないのだろう。

無理もない、どちらも一応は貴族姓ではあるがいずれも外国であるラティクスとマグラーナの国籍内の名だ、ここアングリッタでしかも学生がわざわざ知っているとも思えない。


田舎貴族だと下に見てた転校生がまさかの大貴族の紹介でここにいるなど彼等からしたら予想外も良いところだろう。


ウラニティ家はかつてアングリッタの王族と血縁関係にあった大貴族だ。

もっとも今やその権威も無いに等しい。

先々代の妃を先代当主に持ちその息子である第3王子がレスティーナの姫君と政略結婚する筈が大事故を起こして責任を問われ今はその関係も気薄な物となっている。


血縁関係が有る事や第1、第2王子達の働きが無ければ国外追放もあり得たかもしれないなんて言われてる程の惨事を引き起こしたのがウラニティ家という貴族だ。

そしてフューフェの父親はその問題の第3王子だった過去を持つ者だ。

彼には王族の血が流れているので表立った処分は出来ないが当時の事を知る者からはきらわれており現在も孤立状態が続いている。

そんなウラニティの紹介…実質上のコネ入学となるアルフィダ達に対して同級生達は複雑な顔をする。


しかしアルフィダ達を明らかに下に見る者達も多いのは間違いなくそこかしこからほくそ笑むかの様な冷笑が見てとれた。



(はぁ……面倒くさい事になりそうだ…)


「まさかウラニティ家からの推薦だとは…フューフェお嬢様は息災でしょうか?」


「彼女の事をご存じなのですか?」


「話した事はありませんよ、ただお見掛けする機会はそれなりに」


「成る程…まぁそれなりに息災にしてますよ、少々お転婆で困りますがね」


「あら?お転婆なのですか?そんな印象はありませんでした」


「人は見かけに寄らない物ですよ」


「成る程?」


「まぁ…長い人生ですからね、何処かで彼女と親しくなる事もありましょう。」


「ふふ、そうですね」



ナナリアお嬢さんか、掴み所のなさそうな令嬢だ、

まぁ仲良くしておいて損はないだろう、何せここでは俺達は文字通りのよそ者な訳だし、味方は多いに越した事はない。


それからいくつかの授業を受けたが、得難い情報をいくつか学べたのは行幸だった。

まさかこんな情報をただで学ばせてもらえるとは思わず普通に驚かされた。

それはアングリッタの歴史や発掘された技術、カガクについてだ。

無論他国に公表されていない類の…。



カガクは魔力や精霊力、生命力を一切用いる事無く力を生み出す画期的な技術だ。

昔の人類は魔力を持たない代わりにこのカガクなる力を当たり前に行使していたと言う。


昔の人類は魔力を持たない…。

そんな話は初耳だ。

俺も魔法の行使は苦手でからっきしだ、早々にその道は蹴ったが魔力が全く無い訳ではない。

というよりこの世界に住む人間は皆大なり小なり魔力を保有している。

しかしここアングリッタの歴史によればかつてカガクを行使した旧文明人は魔力を一切持たなかったという。

そこから考えられるのは俺達人類と旧文明人は全くことなる人類と言う事になる。

何故なら俺達人類の体に流れる魔力は生命力とイコールなのだから無くなったらそのまま死んでしまうの。

だからこそ旧文明人の体組織構造は俺達とは根っこから異なる物なのだろう。


発電と言うカガクがある。

運動エネルギーを人口的に生み出し電気を生成する。

聞けば簡単そうに聞こえるがそのためにはいくつかのプロセスを必要とし、それを実行するための大掛かりな施設を必要とする。


例えばアングリッタとレスティーナを挟む形である小さな街、通称風車の街にはその名が示す通り馬鹿でかい風車がある。

あれは風車の運動エネルギーで電力を生み出し、そのエネルギーで闇から街を光で照らしているらしい。



何百…いや何千年も前にかつて存在したとされる旧文明人…彼等にはそれを実現する技術と知識があり、この世界の各所にその名残が点在している。

アングリッタはそんな技術を掻き集めはってんした国なのだ。




「これらの情報…知識は他国には流れていない物だ…いや、一部には漏れてるんだろうけど大々的には秘匿された技術の筈だ…あのお嬢様は何故こんなことを学べる施設に俺達を…?」



学院には定期的な休み時間が設けられている。

そして今は昼休み、昼休みには45分もの長期球型を取ることが学院側の規律として全生徒に義務付けられている。

その時間を利用してアルフィダとレイラは昼飯を取っていた。



「フューフェ様はあくまでも私達につかの間の休暇を、等とおっしゃってましたが…」


「あの女の目的がわからんな、ただの道楽なのか、それとも狙いがあるのか…」


「十中八九あるでしょうね、何せ彼女はそう言う能力の持ち主ですし…」


「能力か…案外そこに紐づいてるのかもな…」


「?」


「想像の域を出ないが彼女の行動動機は保身に在るんじゃないかと思ってな?」


「保身?」


「表向きにはフィーファ嬢への嫌がらせなんて言ってるがその影に別の目的を隠してる気がするんだよ」


「ですが彼女のフィーファ様への憎悪は本物の様に思えます…それに勝る目的が?」


「だからこそ保身だ…彼女は情報屋だ…古今東西情報を制するものはその命を狙われる傾向が強い…フィーファ嬢への憎悪が本物でもそれを隠れ蓑に行動する事は出来る…俺達をこんな所に押し込めたのにも何らかの目的があっての事かも知れん…まぁわからんけどな…」


「まぁ…いまは常況に流されるしか無い訳ですね…」


「そう言う事だな…」



そんな話を昼飯を食べながらしているとアルフィダの元へと誰かが歩み拠ってくる。




「楽しそうに女と食事とは優雅なものだな?え?自由騎士」


「うん?誰だお前?」


「きっ貴様!」



突然アルフィダに話しかけて来た男はいきなりアルフィダに突っかかってくる。

突然の事に焦るアルフィダだがかれの顔を見て見知った人物だとそこでようやく気付く。



「あんた…確か…グラニュー糖…」


「ライル·グラニエールだ!いい加減覚えて貰おうか?自由騎士」



グラニエール…たしか名門貴族のお坊ちゃんか、

フューフェ嬢の御付きをしていたはずだが何故ここに?

こいつもここの生徒だったのか…面倒くさい事になって来たな…。



「あんたもここの生徒だったか…まぁ…仲良くやりましょうよ?先輩?」


「先輩と認めているなら態度を改めて貰いたいものだな?後輩?」


「で?なんの用なんです?」


「俺と決闘しろ!」



そう言うとライル·グラニエールはテーブルに白いハンカチをおいた。

古風な決闘の申し出の仕方だ。



「お断りします。」


「逃げるつもりか!この臆病者め!」


「はぁ……アンタと決闘して俺になんのメリットがある…?下らない…」


「な…なんだと貴様!…主君の信頼を奪われた俺の気持ちを踏みにじり…あまつさえ決闘すらも…」



面倒くさい奴が面倒くさい考えを押し付けて来た。

今は一種の休日なんだ、こんなのに絡まれていらない体力を使いたくはない…


そんな事を考えていると今度は別の奴がやって来た。



「ライル様…ここは私達にお任せを。」


「ミリアンか…お前に何が秘策があるのか…?」


「ええ、お任せを…そこの貴方?」


「え…私ですか?」


「ええ、貴方です」



今度はやたらとプライドが高そうな女が現れ、レイラに声を掛ける。



「私はミリアン…ミリアン·マグリミス…王立技術学院、王立騎士団所属首席騎士見習いです」


「はあ…?」


「私はこの近衛騎士ライル卿が所属する王立騎士団の養成科においてトップの成績を誇る首席見習い騎士です、騎士養成科を卒業後ライル卿の右腕としてその才能を役立てる所存ですが私には何分実戦の経験がありません、噂によれば貴方方は多くの修羅場をくぐり抜けて来られたのだとか?是非そのお力を拝見したいですね?」


「私にどうしろと?」


「簡単な話ですわ、そこの自由騎士が戦わないというならその配下の貴方にお願いするまで、まぁ断られても構いませんがその場合…貴方は主君の誇りも守れない半端者としてこの学院で後ろ指を刺される事になるますわね?」


「………、」


「おい…レイラ……、…おい、こんなのの相手にしなくてもいいんだ…」


「わかりました…お受けします」


「おい!」


「くす、ならばその白いハンカチは貴方が受け取るのが作法ですわね?」



そのままレイラはハンカチ掴み取る。


ここに何故かレイラとプライドの高そうな女見習い騎士ミリアンとの決闘が決まってしまった。

面倒くさい事になりそうだ。



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