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ユーディキウムサーガ 父親に捨てられた少年は好きになった少女のために最強の剣士を目指す  作者: ムラタカ


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77話



「モルタは月から来たの」


「月…?月ってあの夜空に浮かぶ月の事?」


「うん、そうだよ?」



荒唐無稽な話だと思った。

月は空高くに浮かぶ人の力の届かない場所だ。

来ただとか行くだとかそんな行為の及ばない存在。

古くから様々な噂や憶測、伝承があるがそれは人の力では到達出来ない場所だからこそ生まれる一種のロマンだ。


行く行かないではなくそもそも手の届かない場所。

そもそも場所という概念が当てはまるのかすらわからない。

この少女はそんな場所から来たと言ったのだ



「え…とっ、冗談かな?」


「冗談じゃないよ…本当だよ」


「でもそんな事…あり得るわけ」


「モルタは月…ロストエデンで生まれ育ったの」


「ロストエデン…?」


「うん。」


ロストエデン、聞いた事はある

昔お母さんから子守唄代わりに聞かされたおとぎ話

昔月はエデン…楽園と呼ばれそこには神様と神様に生み出された天使が住んでいると言われていた。

天使はこの星に住む私達人間を遠い月の楽園から見守っていると聞かされ悪い事をした人間は天使によって懲らしめられるというお話だ。

しかし大人になり色んな書物を読み漁った結果このおとぎ話には続きがあると知った。

エデンに住む天使は神様の怒りをかって滅ぼされ月の楽園は滅び、ロストエデンと呼ばれる様になったというお話しだ。


モルタは…彼女はそのロストエデンからやって来たという…なら彼女は…



「モルタは…天使なの?」


「天使?」


「あ……え…と…っふふごめんなさいね…何でも無いの…」



真に受けてる自分に思わず苦笑する

おとぎ話は所詮おとぎ話…作られた創作話だ。

ただこのモルタと名乗る少女が嘘を言ってるとは思えない。

ではどういう事かというと誰かに刷り込まれた嘘を真実だと思い込んでるという事だろう…。

その誰かが何処の誰かまではわからない。

しかし彼女の容姿…。

フィーファ姫に瓜二つな容姿が無関係だとは思えない。



「レスティーナの闇…という事なのかな…この少女の存在をフィーファ様は知ってるのかな…」


「フィーファ?フィーファはモルタの本物…でもモルタはモルタだってシェインは言ってくれた…」


「シェイン!?あの子にあったの?」


「え?アリエスはシェインを知ってるの?」


「うん…知ってるよ…私は昔シェインに助けられたの…彼は私の恩人なの」



アリエスの話をきいたモルタは満面の笑顔をその表情に浮かべる。

モルタとシェインが既に接触し何らかの意思疎通を行った後だと言うことが彼女の言葉から推察できる。

そして彼女は言った。

フィーファがモルタの本物と

それはつまり彼女はフィーファの影武者…あるいはそれに近い存在なのだろう事が読み取れる。



「そっか!シェインはアリエスを助けたんだ!モルタもシェインに助けられたの。だからアリエスはモルタと同じ!」


「そうね…私とモルタは同じだね」


「うん!」



とても無邪気な笑顔を向けるモルタ

そこには邪気はない。

どこまでも純粋であどけない。

こんな少女を利用しようと考えている者がいる。

それがどれ程恐ろしい事か…。



「そうだ、モルタお腹空いてない?」


「おなか?」


「何かご所望があれば作るわよ?コレでも料理は得意なの!」


「う~んと…よくわからない…」


「え……、ふふ、いいわ!私に任せて!美味しすぎて驚く程の物を食べさせてあげる!」


「う~んと…うん!」



本当に不憫だ、料理という概念すらないのか?

彼女はいったいどんな所でこれまで生きてきたのか…

他人に利用されるだけの人生。

利用され人間性が、個人の意思が否定され未来が閉ざされる絶望感。

彼女を何処かしら哀れにおもったからではない。

多分自分に重ねてしまったから…だから助けたいと思ったのかもしれない。








「うわぁ!?うわぁぁ!!?なにこれ…なにこれ!?」



モルタはアリエスの作った料理に夢中だった。

ナイフやフォークやスプーンの使い方すらままならない。

原始的な手段で料理を食べているがその顔は終始笑顔だ。

満面の笑顔でモルタはアリエスの料理を食べる。



「ふふ、美味しい?」


「オイシイ?」


「たべて幸せな気持ちの時は美味しいって言うの」


「オイシイ……モグモグ…うん!オイシイ…美味しい!!」


「ふふ、良かった…」



がつがつとモルタが料理を食べている所を見守るアリエス。

それをそっと見るアレク。


彼は少しまえに修練を一区切りさせて宿に戻っていた。

今は3人で食卓に付いている。


懐かしい。

昔はこうして彼女と彼女の作った料理をたべていた。

3年くらい前までは当たり前の日常。

それが弟のエゴで塗りつぶされた。

醜悪で見るに絶えない地獄となった。

信頼し愛していた者たちに破壊される日常。

もうあの頃には戻れないと絶望した日々。

それが終ったのは理解している。

しかし、だからといって割り切れ無い。

そこまで物分りが良いならこんなに苦悩なんてしないで済むのだから……。



「明日この街を立つ、その前に行きたい所がある」


「行きたい所?」


「その子…モルタの腕…何とかしてやりたいからな…」


「宛があるの!?」


「ああ。」


「うー?」



モルタはボロ布で隠してはいるが左腕が無い。

本人は特に痛がっているわけでは無いので気にしない様にしていたがその見た目はあまりに痛々しい。

どうにかしてやりたいと思うのが人情だろう。



「アングリッタから流れた機械技術が発展したこの街には機械で作られた義手義足を販売してる店が複数ある、明日はおれが個人的に贔屓にしてもらってる店にモルタの腕を見てもらおうと思ってな。」


「そんな店、よく知ってたわね、私全然知らなかった」


「勇者パーティで戦う術が無かった俺には情報が全てだったからな…将来的に手足を失った時の為の保険を考えていた。」


「あっ…その…ごめんなさい…。」


「気にするな、過ぎた事だ…。」


「……。」




気まずい空気が再び流れる。

アリエスとてアレクに自分が何をしてきたか忘れたわけでは無い…むしろ忘れたくても忘れられない。

夢に出てくる程のトラウマになっているくらいだ。

アレクが死ぬかもしれないような無茶を面白半分にやらせた事だってあるし実際に殺そうとした事すらある始末だ。

アレクが将来的に自身の身体が欠損する事すら見越していた事実がその深刻さを改めて実感させる。

自分がどれだけ愚かな事をしてきたかを…。



「モルタの腕治るの!?」


「え?」


「ねぇねえ!モルタの腕治るの?ねぇ?」


「ごめんなさいね、治るといっても完璧に治るわけじゃないの…。元に戻してあげられたらいいのだけど…」


「えへへ、いいの。モルタ嬉しいから」


「嬉しい?治らないかもしれないんだぞ?」


「アレクがモルタの為に色々探してくれたんでしょ?モルタはそれが嬉しいの!」


「……そっか…。」



アレクはモルタの純心さに気圧されていた。

フィーファ・レスティーナにそっくりな外見だが彼女とは全くの別人。

ここまで純粋で混じり気のない精神を宿した人間をアレクは知らない。

それどころか実の弟をはじめ、彼は人の心の負の面を見続けてきた。

だからだろうか、彼女に対して直視する事が…、それ自体が罪になるのではないかとすら思えてくる。



「取り敢えず明日は色々と忙しくなる、ゆっくり休んで明日に備えてよく寝ておけよ。」


「うん!」


「えぇ…」



こうして時間は過ぎて行く。

夜が迫りそれにつられてモルタはくぅ~くぅ~と一定のリズムを刻んで眠りにつく。 


宿の外、夜空の下アレクとアリエスは向かい合って互いに情報交換をしていた。



「シェインとモルタが既に知り合っている…それは本当なのか?」


「ええ、モルタ本人が言ってたわ、シェインに会ったって。」


「そうか…、ならフィーファ様も彼女の事は知っているだほうな…」


「そうね…そう考えるのが妥当だと思う。」


「彼女たちは何者なんだろうな?フィーファ様は彼女の事を何か知ってるのだろうか…?」


「ねぇアレク…」


「うん?」


「月のおとぎ話の事は覚えてる?」


「今お前とそんな話をするつもりは…」


「ちがうの!聞いて……、モルタ…あの子は月…ロストエデンから来たって言ってたの…」


「ロストエデン?……そんなバカげた話を今はしているんじゃないんだぞ!」


「わかってるわよ…でも実際に言ったのあの子が…」


「ロストエデン…、月から来たって?は、あり得ないだろ…そんなの。」


「私だってこんな荒唐無稽名話を信じてるわけじゃないわ、ただあの子は自分が月で生まれ育ってきたと信じてる、そう信じ込ませた奴がいるって事はたしかなんだと思う。」


「なんのメリットがあってそんな事をする意味があるっていうんだ?」


「そんなの私にわかるわけ無いわよ…ただあの子は純粋過ぎる…いえ、無知過ぎる…知らない事が多すぎるのよ…加えてあの左腕…。」


「……、」


「あの左腕はずっと前から無かったものじゃない…多分ここ数日で無くした物だと思うの…アレクはどう思う?」


「俺も同じ見解だ…切断面が新しかった…なのに出血の様子も無く痛がってる風にも見えなかった…。」


「あの子は存在自体が歪だよ、まるで誰かに利用されるために生み出されたみたいな…そんなの…可哀想だよ…」



そんなのどうしょうもないじゃないか…

アレクは喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。

彼女の境遇には同情する。断片的な情報しか無いにしろ彼女が過酷な環境で生きてきたのはまず間違い無いのだから…

しかし情報が少な過ぎる上に少なからず開示されている表面的な情報は人1人が抱えるには余りに荷が重いモノだ。そんなのどうしょうもない。



「アリエス…お前はあの子を支えていきたいと言ったな?それが何を意味するか理解しているんだろうな?」


「わかってるつもり…あの子の力になりたいなんて綺麗事で着飾ってるけど本心は自分の境遇をあの子に重ねてるだけ…、あの子を救えたら私も救われる…そう思いたいだけなのかも知れない…。貴方からすれば何言ってんだコイツと思われても仕方ないのかもね、でもあの子の力になりたいと思ってるのは私の本心、私はあの子を救いたいの……。」


「レスティーナから命を狙われる可能性だってあるんだぞ?」


「それでも私はあの子の力になりたいの!」


「そっか…。明日はさっき話た様にモルタの腕を何とかしたらここを出発する、そろそろ休もう。」


「ええ…そうね…」



それだけ話して二人は宿に戻っていった。


実際のところモルタはフィーファの影武者などではなくネメジスと呼ばれる存在にまつわるある事柄から生み出された存在だがそんな事をこの二人が知る訳もなく即ちレスティーナから命を狙われる危険も無いのだが必然的にはもっと厄介なモノに彼等は巻き込まれていく事となる。

それもまた、この二人が知る事は無く、知ったとしてもそれはまだまだ遠い先の事となるのだが。



翌日の朝、

アレクの案内で立ち寄った店では体に欠損を追った人達がその部位を補う義手義足を取り扱う専門家が製作した品々がズラリと並べられている。

過去文明の研究を盛んに行うアングリッタから流れた専門家たちがこの街では多く店を構えアレク達が訪れたこの店もそんな店の一つだ。



「ずごいな、こんな店があったなんて知らなかったわ」


「単純に欠損した部位の代わりとした物だけではなく純粋な防具も取り揃えられてる、アングリッタの技術者が独自の解釈で製作した物も多く使用者のオドとリンクさせることで使用感を底上げしたり肉体の延長線上として使う事も出来るんだ。」


「凄い技術ね…。」


「モルタは左の義手だしこれはどうだ?」



アレクが取ったのは黒い塗装が施された鉄鋼素材の義手だ。

見た目は手甲のような感じで一見すれば義手だとはわからない。

アレクはそれをモルタの腕につける。



「おー!」


「モルタ、オドを腕に流してみろ、ゆっくりな」


「おーおー、うん。」



無くなった腕の代わりに感動していたモルタだがアレクの指示通りにゆっくりと魔力を流していく。

すると義手はモルタの魔力を自動で読み取りモルタの腕に最適化しガシャっ!と組み付いた。

ブカブカだった義手は最初からそうだった様にモルタの腕に馴染んでいる。



「凄い凄い!モルタの腕!モルタの腕!!」


「ふふ、良かったね、モルタ」


「うん!」


「…、俺は店主に代金を支払って来る、アリエスは街を出る準備を進めておいてくれ。」


「ええ、わかったわ」


「アレク!ありがとう!」


「……ああ。」




彼女の屈託のない笑み、その純粋さに悪意が洗い流されていくようだ。

アリエスとの旅に一抹の不安を感じていたアレクだが彼女の存在はそんなアレクにとって大きな救いになるのではないか…

そんな事を考えてしまう程度には彼もモルタを受け入れていた。


向かう先は特に定めていないがモルタの腕の微調整のため機械技術の本場たるアングリッタに向かうのも有りかもしれないとアレクは考えていた。

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