76話 後悔
カラダが痛い、色々な所が痛い
どうしてモルタはいつもこんななんだろう、
モルタの居場所は何処?
モルタに優しくしてくれる人は何処?
モルタを必要としてくれる人は何処?
モルタは……なんのために生まれてきたの…?
モルタって……なに?
目を開けるとそこには天井があった
木で作られた質素な内装、
体には包帯が巻かれてイて傷の手当がされている
ムクリと起き上がると近くにいた誰かが慌ただしく声をかけてくる
「ご無事ですか!フィーファ様!!」
「良かった……無事で…本当によかった……」
誰だろ…?この人達…シェインじゃない……
「誰……?」
「え……、俺の事をお忘れですか?フィーファ様?」
「モルタはフィーファじゃない、モルタはモルタ」
「え?」
「アレク…やっぱりこの子、フィーファ様じゃないんだよ?」
「でもここまで瓜二つで別人とは…」
「髪の色も目の色も違う…この子は多分…ねぇ…貴方の名前はモルタって言うの?」
「モルタはモルタだよ、」
「そっか、私はアリエスって言うの、こっちはアレク、二人共貴方の味方よ…安心して?」
「味方……うぅ…」
「モルタ!?」
「大丈夫だ、眠っただけみたいだ、」
「そっか……」
アレクはそれきり黙り、むかいの椅子に座って何やら考え事をする、部屋の中に重苦しい空気が流れる
彼等はかつてマグラーナ国で勇者と呼ばれた者、アノスが率いていた勇者パーティーに属していた者達だ。
勇者が大衆に対して洗脳の力を行使し、自分の意のままに操り利用していた事が明るみになった後はその大衆の怒りのはけ口としての役を与えられ生きたまま監禁、能力の要だった目をほじくり出され喉も潰されそれでも尚生かされている
そんな勇者の兄であるアレクはマグラーナを出て冒険者として旅立つ事にしたがかつてアレクの幼馴染で許嫁だったアリエスがついてきたという感じだ、
もっともアリエスも勇者アノスの洗脳という呪いにかかり、その間、自分の意志ではないにしろアレクに陰湿極まりない仕打ちを行って来た過去がある、
下手をすれば命に関わる程の事もやった
今アレクが生きているのは奇跡と言っても過誤ではなく
アリエスはそれが誰よりも分かっているからこそ軽はずみな行動など取れないでいた
アリエスにとってアレクは将来を近い合った仲だ
結婚し、当たり前に共に歩んで行く物だと考えていた、
しかしそんな未来は勇者アノスのてによって消え去った
今アリエスに出来る事、
それは再び彼の信頼を勝ち取る事
その為にどれだけ拒絶されようともこの旅に同行する
彼女はその覚悟だった
「ねぇアレク…」
「……、」
「この子がフィーファ様でないなら一体誰なのかしら」
「そんなの俺に分かるワケないだろ…」
「……そうだよね……ごめんなさい」
「……何故お前が謝るんだよ…」
「え…、その…貴方の気分を損なわしたと…思って…」
「………、そんなつもりは…」
またしても重たい空気が二人の間を支配する
アレクもアリエスが昔の様に戻りたい、許して欲しいと考えてるのは理解してる、全てはアノスが原因
彼女に落ち度は無い…それがわかっていても以前の様に接するのは難しい、何年間も彼女にされた仕打ちが忘れられる程生易しいモノではないのだから
「私…この子の事を救ってあげたい」
「何?」
「きっとこの子はずっと何か大きなモノに怯えて生きる事を強いられて来たんだと思う、私はこの子の力になってあげたい」
「………、」
「何も言ってはくれないんだね、私も貴方に許して欲しいなんて烏滸がましい事は言わない、ただ見ていて欲しい、貴方にもう一度信じて貰える私になるために、見ていて欲しい」
「その為にその子を利用するのか?」
「利用?違うわよ…この子は私と同じだと思ったの」
「君とこの子が同じ?」
「彼女の見た目、フィーファ様にそっくり、これ程似ることなんて普通あり得ない、でも本人では無いってさっきこの子と話してわかった」
「俺達を騙そうとしてるのかも知れないぞ?」
「この子の目はそこまで浅ましく物事を考えてない、ただ純粋に人の愛に飢えてる」
「君が人に愛されてないとでも?」
「違うよ、この子は多分誰かに利用される為に存在させられてるんだと思う、アノスに利用されてた私みたいに誰かに利用されその誰かを絶対者と刷り込まされてる、使い捨ての道具の様に利用されすり潰される、多分私はこの子に自分を重ねてる、この子を助ける事であの時の自分を助けてあげたいと考えてるのね、」
「自分勝手な理屈だな」
「…そうだね、自分勝手だね、でもほっとけ無いのは本当の私の気持ち、」
「好きにすればいい」
「うん、ありがとう、アレク」
旅をする二人は道中で倒れているフィーファ、いやモルタを見つけここに運び込んだ、
片腕が無くなっていたりと重症だが街医者によれば命に影響は無いようだ
しかし安静にして置かなければならないのは間違いなく二人はこの大きな風車のある街に留まっていた
アレクはアリエスとモルタがいる宿から出ると手に持った剣を持って人の少ない場所に向かう
それは奇しくもモルタが倒れて板場所、町外れの渓谷だった
アレクはあの騒動以降剣士を志している
シェインに才能があると言われたのも理由の一つだが最も大きいのは弱い自分が許せなかったといつ事から来るものだ
自分がもっと強ければもっと違った展開になっていたかも知れない、弟は大罪人とされ目と声を奪われ今なお死ぬ事を許されず生地獄の中にいる
それを可哀想とは思はない、彼はそれだけの大罪を侵した、しかし兄である自分がもっと見てやればアイツを止めれていたかも知れない
そうすればアリエスもプリシラも…そしてフィオナも…
弱い自分が許せないアレクは渓谷で一人剣をふる
自分一人の頑張りで全を救える等というある意味傲慢な考えをその内に秘めながら
アリエスは部屋から出ていったアレクの後をずっと見ていた、もう昔の様にはいかない
全てあの男の、アノスの手によって歪められた
あの男は今、城の地下深くに幽閉されている
視力と声を奪われ、普通であれば惨いと言わざるおえない仕打ちだ、しかしアリエスはそんな事一切思わないしそれを間違ってるとも思わない。
あの男のせいで私は…いやマグラーナに住む殆どの女性は未来を絶たれた。
命を落とした者も少なくは無いだろう
後悔があるとすればこの手でヤツに制裁を加えられなかった事か、
最も今はそんな事はどうでもいい。
アレクとの未来を、彼との和解が第一に考えなければならない。
アリエスの気持ちは昔から変わらない、彼がアレクが好き、その思いだけは変わらない。
なら何故あの男の呪いを跳ね除けこの思いを告げられなかったのか、
自分の弱さが…憎らしい…。
「うぅ……、あっ…アリエス……だっけ…?」
すると緑豊かなお国のお姫様そっくりの少女が目を覚ましたようでぼ~とした様子でこちらを見てくる
「ええ、私の名前良く覚えてたわね、ありがとう、それとおはようモルタ」
「おはよう…アリエス…あれアレクは?」
「アレクは今出かけてる、夕方には戻って来るわ」
「そっか…」
「うん…」
見れば見るほどフィーファ姫にそっくりだ、
目や髪の色は違うがそれ以外は本当にそっくり
双子でもここまで似る事は無いだろう、まるで鏡に写したかの様に似ている
「ねぇ?モルタは何処から来たの?」
「何処から……、」
そう言われたモルタはゆっくりと指を頭上に掲げた
「上?」
「モルタはパパと一緒にずっといたの」
「パパ?」
「うん、モルタを作ってくれたパパとずっと一緒」
「モルタを作った…?」
「うん。」
うなずいたモルタは頭上に浮かぶ月を窓から見上げながら呟いた
「モルタは月から来たの」
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