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7話  黒尽くめの騎士



「ちょ!?勝手に入ってくんなよ!」


「何いっちょ前にいきがってんのよ、見られて何か困る物でもあるわけ?」


「……いや、ないけど…?」


「ならいいでしょ」


そういって母さんはずけずけと俺の部屋に入って来た。 いったいなんの用だろうか? 今は1人にして欲しい気分なのだがそんなの知ったこっちゃ無いと言わんばかりに母さんはベッドに腰掛ける。


「アンタあの騎士のおっさんにコテンパンにやられて拗ねてんでしょ?たくっだらしないわねー」


「なぁっはぁ!!?」


痛い所を疲れて上ずった声が出る、動揺してるのが透けて見えてつい虚勢を張りたくなる。


「何年アンタの母さんやってると思ってんのよ、全部お見通しよ、アンタの考えてる事なんてね、」


「はぁ?そんなんじゃねーよ、馬鹿にすんな!俺は!」


「怖かったんでしょ?」


「っ……!」


「アンタはまだ子供なんだし怖がったってなにも恥ずかしい事じゃない、死ぬ事が怖くない人間なんかいやしないし、大人でもそれは同じ。」


「正直言うとね私はアンタにはこの村で好きな娘でも作ってその娘と結婚して子供も作って普通の村人として普通の生涯を送って欲しいって思ってる、剣なんて危ない物振り回して欲しいなんて思わない、でもアンタはそんなの嫌なんでしょ?」


「………。」


「シェイン、これはアンタの人生だよ、アンタの好きなように生きたらいい。ただ、悔いとか後悔が残らない様にするんだよ、後から悔やんでも何にもならないからね、」


「…母さんは悔いとか後悔とか…あるの?」


「当たり前でしょ?悔いと後悔しかないよ…本当、やり直せるならやり直したいよ」


「そうなんだ…」


「だからかな…アンタにはそんなモノとは無縁の人生を生きて欲しいと思ってるよ」


「意外だな、なんか、母さんは頭ごなしに否定してくるもんだと思ってた、」


「さっきもいったけど本心ではアンタに危ない事なんかして欲しくはないよ、でもアンタはほっといたらきっといつか勝手にこの村を出て行くでしょ…それならいっそ、母親として息子を送り出したいってだけなのかもね、」


「母さん、俺…覚悟もなんもできちゃいない、でも約束したんだ、護ってやるって、だから俺…行くよ」


「そっか…そうね、わかったわ、ちょっと待ってて、」


「え?」


そういって母さんは俺の部屋から出て行くとあるものを持って戻って来た。

母さんの手もとには細長い何かを布でぐるぐる巻きにされた物が握られていた。


「これをアンタにあげるわ」


母さんが俺に手渡した物はずっしりと重くそれがなんなのか感触から察することが出来た。

視線で開けていいかを母さんに確認するとコクリと頷いたので俺は厳重に巻かれた布を剥がすと中からは予想通り剣が出て来た。


「これって…」


しかもただの剣じゃない、 金の装飾がなされたとても高価そうな剣で一介の村娘でしかない母さんがこんな物を持ってる理由が思い当たらなかった


「なんでこんな物が…」


母さんに聞こうとした時だった。


「シェイン!!クリスさん!!2人とも!!」


出入り口を兼ねる我が家のドアの前から聞き慣れた声、ロイおじさんの声が聞こえてくる。 その声は酷く焦っていてただ事ではないことを示していた。 急いでドアをあけるとロイおじさんは間を置かずに


「速く逃げないと!」


と急かしてくる。


「どうしたんだよロイおじさん、少し落ち着けよ!」 「落ち着いてる場合なんてないんだよ!速く逃げないと!」


「ちょっと本当に落ち着いて、どうしたのロイさん、事情がつかめないわ、」


そうロイおじさんに語りかける母さんをみて冷静になれたのかロイおじさんは痰を切ったように叫んだ、


「モンスターが村の中に入ってきて村人を襲ってるんだよ!」


「!!?」


「ここも危ない、速くしないとアイツらが襲ってくる!」


「ちょっと待てよ、ロイおじさん、なんで村の中にモンスターなんかが、そんな話、今まで聞いたことが…」 「こんな事いいたか無いけどあのお姫様達が連れ込んだって村の連中は言ってる、」


「なっ!フィーファ達は関係ないだろ!?こんな事にならない様にこんな夜更けに村を出て行ったってのに、」


「結果論だ、言っても仕方ない、そんな事より速く!」


「くっ!」


周囲の状況を確認しながらロイおじさんの後を付いていく俺と母さん、少し進むと普段の平穏な村の中では絶対見る事はない、と言うより見るはずのない光景が視界に広がっていた。 おびただしい血痕の後や見知った村人の死体が辺りに転がっていてつい先程まで何気ない会話を交わしたはずの相手がもう二度と動く事のない肉の塊に変わり果てている光景はシェインにとって異常過ぎて認識が追い付いてはくれなかった。


「酷い…こんな事って…」


周囲の状況をみて悲観にくれる母さんは動揺を隠せないでいるようだが事態は更に深刻差を増していく。


「マジかよ…っ!」


俺達3人を囲うように何処からともなくモンスターの群れが集まり出してくる、まるで新しい獲物を見つけて喜び勇んでいるようでその目は爛々と輝いて見えた。


「母さんそれかして!」


シェインは母親が持つ剣を手にすると襲いかかって来た狼のようなモンスターを勢いに任せて切りふせた。


「すげぇ…!」


その余りの切れ味の良さに思わず驚嘆の声が漏れる、これまでなまくら剣を使って来たシェインにとっては衝撃に足る斬れ味だったがそれに付けても脅威的なまでの手応えに改めて何故母親がこんな物を持っていたのか気になるのは自然な事だった。 しかし今はそんな些細な事に気をやっている暇はない、モンスターを一匹斬り捨てたところで後から際限ないかの様にモンスターは襲いかかってくる。 シェインは母親やロイおじさんを護りながらモンスターを次々と斬り倒していった。


「すげぇな、まさかこんなにアイツが強かったなんて、ビックリだぜ、」


「えぇ、私もシェインが戦ってる所なんて初めて見るけどあの子あんなに強かったのね…、」


モンスターはシェインにとって敵では無かった。


昼過ぎに出会した大型モンスターよりも小型の獣が主とした大群で襲って来ている、一匹一匹は問題なく倒せる、しかし、それが大群で押し寄せてくる、子供の体力で、しかも誰かを守りながらではどうしても隙は生まれる。


「うわぁ!?」


「ロイおじさん!?」


シェインの守りを切り抜けた狼型のモンスターはロイおじさんの足に食らい付く、シェインはそのモンスターを斬り飛ばし2人を守るもように陣取る。


「痛っく、すまねぇ…シェイン」


「はぁはぁ、大丈夫か?おじさん」


「気にすんな、お前に心配される程じゃねー」


「母さんロイおじさんを…」


「大丈夫、あんたは前に集中して!」


状況は最悪といって差し支え無かった。 2人に気を取られていたシェインは疲労から注意力が散漫になっていた事が災いしモンスターの一匹を取り逃してしまう、


「しまっ!?」


あわや2人に飛びかかったモンスターをシェインがどうにか出来る訳もなく、足を負傷し身動きが出来ないロイとそのロイの手当をする母親は完全に動きを制止させていた。 誰もが駄目だと諦めた瞬間、衝撃が波のようにモンスターに飛来し、ギャウゥン?と悲鳴を上げたモンスターを吹き飛ばした。 モンスターは数回地面をバウンドすると血を吹き出して事切れた。


「はっ!?」


衝撃波の発生源と思われる場所に目を向けると1人の騎士がそこに立っていた。

いや、厳密に奴が騎士かはシェインには判別出来なかった、ガノッサのような人物を騎士とよぶならソイツは余りにも異質過ぎたからだ。


全身を黒で統一しており外套やマント等の装着物はみな黒、とりわけ異質さを強調しているのは奴が顔を隠すためなのか仮面を被っているからだろう。


「誰だあんた?助けてくれたのか?」


仮面の男はただこちらに視線を向けるだけで言葉を返して来ることは無かった。


ただその右手には外套やマント等と同じく真っ黒な大剣が握られている。 助けてくれたのは事実だ、だがシェインはこの目の前の仮面の男に対して気を緩めたりはしなかった。 当たり前だ、誰がこんな見るからに怪しい奴を信頼するというのか、


「最悪だ、ただでさえ訳わかんねー状況なのに訳わかんねーのが出て来て、なんだってんだよっ…、」


そこでシェインはあることに気付く、モンスターが襲ってこなくなってる事に


「いや、襲って来れないのか、あの仮面にビビってるのか?」


どちらにしても好都合かも知れない、目の前の仮面さえなんとかすればこの場を乗り切る算段も立つかも知れないと楽観的に考え初めていた時その目の前の仮面の男はボソッと声を出した。


「今はまだ孵っていないか…」


「は?帰る?」


「仕方ない、時間は限られているからな、」


そう独り言を漏らした黒衣の騎士はシェインへと向かってゆっくりと歩いてくる。 手にした剣を強く握り歩幅は徐々に速くなっていき気付けば仮面の騎士はシェインの目の前に肉薄していた、


「シェイン!!」


母親かロイか、どちらかの悲鳴染みた声に托される様にシェインは騎士の剣を母から譲り受けた剣で受け止めた。


「何すんだよ、アン…タ!!」


そのまま剣で騎士を押し返そうとするも萬力のような騎士の力はビクともせず力勝負では叶わないと即座に悟ったシェインはつばぜり合いを辞め距離を取る。 ザッと足下から地面と靴の擦れる摩擦音がする、距離をとり透かさず体制を整えるあいだも黒衣の仮面から目を離さない、離す事が出来ないのが正確か、相手は明らかに格上だ、白銀の鎧を纏った騎士、ガノッサのような殺意を込めた剣を向けて来るわけではない。


ただ明確な敵意を向けて黒衣の騎士は剣を振っている。 そこには殺意はない、故にシェインは格上の相手と相対出来ている、危機感は感じても相手から恐怖心を刺激されずに済んでいる、だがそれは同時に黒衣の騎士をより歪に不気味に見せていた。 シェインを襲った動機も理由もわからないまま殺意なくこちらを殺しに来ている事がどれ程気薄気味悪く持ち悪い事か、


「なんなんだ、てめえ!!、俺に恨みでもあるのか!?」


「…………。」


「っ!!てめえ!!」


シェインが激昂しょうとした、その時、


「白い世界に飲まれる夢を見た事はあるか?」


そう仮面の騎士はシェインに問いかけた。


「はっ?」


白い世界の夢、

今だに見る夢の内容に公言してきた奴なんて今まで誰もいなかった。

自分から話ても思春期の子供に良くあるアレ、

そんな感じにからかわれて真面目に取り合って貰えた事などない、

だからシェイン自身深く考える事をやめた。

なのにだ、


「なんでお前が知ってんだよ?」


よりによって目の前の不気味な男に夢について問われたのだからシェインは気味悪くてしょうがなかったのだ



白い世界に飲まれる夢、それはシェインが定期的に見る夢の内容と一致していた。


今朝だってその夢をみたから記憶に新しい内容に思わず間抜けな声が出る。


何故この男が俺の夢の内容を知っているのか、夢の内容を俺以外が知る事など絶対にあり得ない、昔母さんやロイおじさんに夢の内容に付いて話した事はあるが余りにも内容を得ない素っ頓狂な話に2人とも相手にしてくれなかった事を思い出す。

昔は自分だけこんな妙な夢を見るものだから自分は何か凄い運命を背負ってるんだと突拍子の無い事を考えていた恥ずかしい過去がある。 最近は夢を見るのはそういうものだとして深く考えない様にしていた。 それだと言うのに目の前のこの仮面の騎士はそんなシェインの頭の中に土足で入り込むかの如き発言をしてきたのだ。 驚かないはずがない。


「その様子だと見たのだな。」


「なんなんだよアンタ、どうして知って……、」


「お前は卵の片割れ、アベルのコードを持つ者だ、」


「はぁっ?アベルのコード?」


仮面の騎士はもう話す事は無いと言わんばかりにシェインに向け剣を振り下ろした。


「くぁ!?」


なんとか剣でそれを受け流すも仮面の騎士の猛攻は止まらず徐々にシェインは後方へと押される、モンスターとの連戦に加え目の前の相手からの猛攻はシェインの体力を著しく奪っていく。


「クソ!クソ!何で、こんな!」


シェインの悲鳴染みたぼやきが口から漏れるも仮面の騎士は手を緩める事はなく淡々と木こりの仕事を熟す様にシェインへの猛攻を繰り返す。 大きな力の込められた一撃が何度もシェインへと向けられる、もし判断をあやまれば簡単にシェインは命を落とすだろう、なのに殺意を感じない、殺意を含まない攻撃は逆にその異様な状況からシェインの判断力を奪っていく。


気付けば豪華な装飾のなされた母から托された剣は宙を舞いシェインと言う持ち主の手から離れた。 丸腰となったシェインに向けて仮面の騎士の剣はなんの躊躇もなく振り下ろされ赤い鮮血が飛び散る、シェインの目の前には自分を育ててくれた母親、クリスが血塗れで倒れ伏す姿が写し出されていたのだった。

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