57話 二人の行方
王城にトンボ返りする羽目になったシェイン達は早急にフィーファの祖父である国王への謁見を取り次いで貰ったが予定が詰まっているらしく血縁者だからとその予定を繰り越してはくれなかった
シェインは悪態を付いていたがフィーファは王としての職務は大事です孫の我儘に付き合ってばかりでは威厳を保てませんからねと待たされる事には納得していたがそれでも顔には焦りの感情が透けて見えていて到底隠しきれてはいなかった、
待っている時間が無駄に感じてしまうのは人のさがなのかもしれないがレイラとレコの両名を拐った連中にかんする情報が無い以上闇雲に動くのは下策でしかなく結局は王との謁見を待つしかない
シェインは何かを待つ時間が長く感じる事をこれ程に苦痛に感じた事はなく、まるで謁見の時なんて一生来ないんじゃないか等と馬鹿げた事を考えてしまう
「まさか王様に会うのにこんな時間がかかるなんて思わなかった…、」
「別に一緒に待ってなくてもよかったんですよ?祖父とは私だけで話ますし、」
「今の俺は正式にお前のボディーガードになってんだし、離れたら意味ないだろ?」
「ここは、私の家でもあるんです、変なことにはなりませんよ、」
「変な事になったから俺とお前が出会う事になったんだろ?」
「確かに…そう思うと何だか複雑ですね、私がこの城を出るきっかけになったのがマグラーナの悪巧みなんですから、マグラーナに狙われなかったら私はシェインに会えなかった、」
「結果良ければ全てよしだって昔、先生も言ってたし、過程はどうあれ今が良ければそれでいいじゃん、後は王様から情報聞き出してレイラ達を助け出せば全て解決だ、」
「そうですね……あ、」
「やっとか、」
話していれば時間の経過は事の他早く過ぎ去るもののようで衛兵によって謁見の許可がおりた事を知らされたシェイン達はお互いの顔を見つめ、頷き合って衛兵の案内に従い付いていった
つい先程も訪れた場所には変わらず王がドンと構えるように玉座に控えていてコチラを何とも形容し難い薄ら笑みで見つめていた
シェインと王との戦闘で部屋の中は大きく荒れてはてていた筈だがどういう手品か王の間の内装は始めて訪れた時同様、威厳を取り戻す様に元通りに戻っていた、
(コレも魔法の力なのか、便利なもんだな…)
シェインがそんな事を思っていると王は強かに話し始めた
「よもや出て言って直ぐにワシの元に帰ってくるとは、そんなに寂しかったのか?うん、フィーファ?」
「そんな訳あるわけないでしょ、お祖父様、貴方の教え通り早速お祖父様の力を頼らせてもらいたくて参りました、それだけです。」
「ほお?早速この老体にむち打ちに来た訳か、血気盛んで大変宜しい、で?何が欲しい?」
「情報です。」
「ほぉ?」
「今し方、グライン邸に戻って見れば私達が留守の間に襲撃があってレイラとレコが拐われていました、私を攫うならまだしも何故彼女達をと、犯人の目的、行動、動機、何もかもが不鮮明で……、」
「呆れたものだな、お前はそんな事もわからんのか?」
「え?」
「お前はワシからこのレスティーナを継ぐと言ったのだろう?ならばこの程度の事もわからんようでは困るな、」
「なら、お祖父様には犯人の目的がわかるのですか?」
「全容は掴めずともおおよその予測はつく、少しは考えてみよ、」
「そ…、そんな事を言われても……」
レイラもレコも末端の人間だ、フィーファの様に王族の血を引いてる訳では無い、
レコの出自は知らないがレイラに至っては元が貧民孤児、誘拐するメリットがない、もし彼女を人質としてフィーファに何かしらの接触を図りたいならガノッサも一緒に拉致していてもおかしくはない、しかし犯人はガノッサをそのまま放置するどころか声明文の一つも残しはしなかった
そもそもに置いて二人だけを拉致した理由がもっと俗的なものの可能性はどうだろうか?
レイラとレコは美人だ、女性としての魅力をあの二人は十二分に満たしている
こんな事を考えるのは生理的嫌悪感で不快極まりないが、男達の欲望の捌け口に利用しようと?
自分で考えておいて何だがありえないだろうなと思えてしまう、
それならもっと立場の弱い者を狙えばいい気がする、
今は王族近衛騎士から外されてはいるがガノッサの家は名門貴族だ、そんな所に拉致騒ぎを起こすなど、
私が犯人です、見つけて下さいと喧伝しているようなものだ、
「……………………うぅ……。」
「分からぬか…?情けない……、シェイン…、お前はどうだ?なにかわかるか?」
「え?……、えーと、そういえばアングリッタってどういう国なんだ?」
「へ?アングリッタ?何故今そんな事を…」
「ほぉ、どうして今、アングリッタの名前を出した?」
「え?いや、その…」
「言ってみよ、気になる要素があの国にあるからその名を出したのだろうて?」
「前に仲間が黒幕はアングリッタって言ってたのを思い出したんだ、もしかしてなんか関係してるのかなって」
「ほぉ、随分と頼りになる仲間を持っているのだな?」
「え?」
「アングリッタ?何故アングリッタが?」
「マグラーナがレスティーナに陰湿な攻撃を仕掛けてきていたのは事実だ、あの国は後が無かったからな、先代は優秀な王だったがヤツは最後の最後で愚をおかした、無意味な情に絆され無能を跡継ぎに選んだ、その結果あの国は自滅の道を歩む事になった、
列国に新たに加わり歴史の浅い亜人国イノセント、
魔力に長けていても物理的軍事力、その強さに脆い我がレスティーナ、
この二つに加え自滅が決定しているマグラーナを潰し合わせれば総取りが確約される、この旨味を独り占め出来るのは何処だ?」
「それがアングリッタだというのですか?、…早計ではないのですか?マグラーナの強行が全てアングリッタの手の内で練られた事だとお祖父様は言いたいんですか?こんな事を言いたくはありませんがラティクスの可能性だってあるのではないのですか…?」
「この国はアングリッタから強く恨まれているからな、動機としては十分よ、」
「誰のせいだと…」
ケラケラと笑って戯ける老人を睨み付けるフィーファ、
エルミナとアングリッタの王族を結婚させようとして件の事件が起こった、
結果、エルミナは行方不明の死亡扱い、
アングリッタの王族も何かしらのトラウマを抱える精神的負荷を負ったと聞かされている
恨まれる可能性は確かにあるかも知れないがコチラもエルミナを失ってしいる
痛み分けの様に思えるし、何よりトラウマを抱くような体験をしたならもうこの国に干渉しなさそうなものだが
(国は一枚岩じゃない事くらいわかってますが、3国も巻き込んでまでするような事には思えません…)
リスクが大き過ぎる、
列国の内3国に同時に喧嘩を売ってその報復を恐れていないと言うのか、
マグラーナは自滅したとはいえここレスティーナとイノセントは健在、この二つを同時に相手にする気概でいると言うのか?あのアングリッタという国は
「先ず、現ラティクス国王ガイウスはせこい真似を嫌う、アレは頭が筋肉で出来ているからな、裏でコソコソするのを嫌う、もし国盗りを画策しているならもっともわかり易い方法を取るだろうよ、」
「わかり易い方法?」
「戦争だよ、正々堂々とアレは戦争を仕掛けてくる」
「戦争?戦争に正々堂々もないでしょう?」
「アレはそういう人間だ、裏でコソコソ策謀を巡らすくらいなら決闘の延長線として戦争を仕掛けてくる、血を流す事、それ自体に美を感じ意味を持たせる、戦いという行為に美徳を感じる、所謂狂人だ」
「…………。」
「たしか先生とラティクスの王様って知り合いなんだよな?先生の友人がそんな人だなんて信じられないぞ」
「先生?誰の事だ?」
「グライン卿ですよ、シェインはグライン卿の弟子なんです、」
「グライン!?グライン・アンティウスか!?あの一騎当千の……、なる程、シェイン、貴様の剣はアンティウス流から来るものか、」
「そうだ、俺は先生からアンティウス流を学んでる」
「クハハ…なる程、かの御仁が魔法を斬るという噂は本当だったと…ワシの立ち回りは間違っていなかったようだ、」
「立ち回り?」
「魔法を基礎とした戦略を主とするワシと、魔法を無効化するグライン氏の剣術、相性は最悪だろうよ、ワシは別に戦闘狂ではない、戦わずに済むならそれに越したことはない、幸いグライン卿は人格者だ、戦意の無いものにイタズラに剣を向ける様な俗物ではない、だからワシは彼とは戦わずに済む道を選択してきたというだけの話だ」
「そっか、先生はやっぱり凄い人だったんだな、」
「ラティクス王ガイウスは王選抜選挙で武功をあげ王になった、あの国は完全実力主義だからな、その王を影で支えたのがグライン卿だ、実際、彼の影響力はラティクス内ではかなり高く英雄として祭り上げられている、ガイウスはそんなグライン卿を戦友としてまた、ただの友人として称えている、彼の顔に泥を塗る様な事はせんだろう、」
「つまりは私欲で戦争を起こすような事はしないと…言う事ですか…」
「そうなる、まぁ可能性はゼロでは無いだろうが限りなく薄いだろう、」
「ならアングリッタって国がやっぱ黒幕なんか?」
結局のところラティクスが白なら消去法で残ってるアングリッタっと言う事になる、
もとよりアルフィダのいった黒幕はアングリッタという言葉はかねてよりずっと引っかかっていた
「断定は早計だろうがあの国は色々ときな臭い動きが多い、」
「列国以外とかはどうなんだ?」
「それこそありえませんよ、列国五大国と対等な立場にあるのは同じ列国五大国のみ、この世界に五大国に対向出来る勢力なんてありはせんしませんし、どこぞの中小諸国が相手取れる物ではないんですよ、」
「いや、前になんとか宗教が五大国に匹敵するって言ってたろ?フィオナのいるトコ、あそこはどうなんだ?」
「聖魔導教会ですか?あそこはただの宗教団体ですよ、規模は確かに大きな物ですが流石に……」
「いや、そうとも限らんぞ、」
「お祖父様?」
「前に行っただろう?アングリッタと白銀聖魔導教会は繋がっている、また聖魔導教会は外の世界とも何らかの繋がりがあるという噂だ、」
「外の世界?」
「このハイゼンテール大陸だけが世界の全てではない、一説によれば大陸の向こう側、外の世界にもなんらかの文明は続いている、ただの俗説と机上の空論と投げ捨てていい話ではないのだよ」
「しかし、ここハイゼンテール大陸から外の世界に行く手段なんてありません、眉唾ものですよ、お祖父様」
「我々に出来ないからといって外の世界の住人に出来ない通りは無い、既にこのハイゼンテール大陸に外の世界の人間が上陸し、素知らぬ顔で生活していても何ら不思議ではないのだ、」
「そんな…まさか…」
「ならさ、黒髪の女ももしかしたら外から来たのかもな、」
「シェイン…?」
「左様、あの女の力の源流が外の世界から来ている物なら外の世界とは正しく神の世界と言って差し支えない、我々の知らない技術、知識、その恩恵をアングリッタは白銀聖魔導教会を介して得ようとしている、ワシはそう考えている、」
「ちょ…待って下さい…話が大きく…飛躍し過ぎです…私はただレイラやレコの行方が知りたいだけで…そんなだいそれた自体とあの二人は関係がありませんよ…」
「あの二人の共通点はマグラーナからのスパイだと言う事だ、大本のスパイは私が全て処分したがレスティーナに派遣されたスパイの唯一の生き残りであるあの二人が生きている事を心良く思はない存在がいるのだろうな?」
「は?ではレイラ達は…」
「案ずるな、今すぐ殺される事は無いだろう、殺して終わりならお前達がここに来ていた隙に殺されている、生きて拉致したい何だかの理由があるのだろう、」
「何だかの理由って…なんですか?」
「わからぬよ」
「わからぬよってわからないじゃ駄目なんですよ!早くしないとレイラ達が!」
「落ち着けフィーファ!」
「でもシェイン!」
「王様、二人を拉致したのはアングリッタの刺客でいいんだな?」
「断定はせん、が、その可能性は高いとワシは見ている」
「十分だ、行こうフィーファ」
「え?あっ、はいっ!」
もう王様には様はないと言わんばかりに踵を返しシェインは王の間の出入り口へと向かい、フィーファもそれに習いシェインについて行こうとする、
が、
「待たぬか、たわけが」
「何だよ止めても行くぜ?」
「止めてはおらぬ、ただ碌な準備もせずどうやって行くつもりだ、アングリッタはすぐ隣にある訳では無いのだぞ?」
「だからって何もしないワケにはいかないだろうが!」
「しばしまて、足を用立ててやる、」
「!?…本当ですか?お祖父様…」
「嘘を言ってどうする、」
「しかし、どうして…」
「言った筈だ、その少年と様々な経験をつめと、良い機会だ、此度の権はお前に一任する、見聞を広め見極める力を養え、そうでなくては王の器など育ちはせん」
「お祖父様……、わかりました、必ずやります、成し遂げます、」
立ち去ろうとするシェインの後ろ姿に王は声をかける
「シェイン。」
「!?」
「孫を頼む」
王はシェインに向き直りあらたまって少年に懇願する、
シェインはそんな老人に対して当たり前のようにこう返した
「あぁ、任せろ」
次の日、シェインとフィーファを乗せた馬車は旅立っていった、遠いアングリッタを目指して
そこに何が待ち受けているか、
二人が知る由もない
もしこの小説を読んで少しでも面白いと思はれたなら、ブックマークや、↓の★★★★★を押して応援してもらえると幸いです、作者の執筆モチベーションややる気の向上につながります、お願いします




