56話 不穏の影
シェインとフィーファはガノッサ邸に向かう馬車の中で向かい合って話合っていた、
無論話の内容は先程の王との事だ、
「呼び出された時はどうなるかと思ってたけど、なんだかんだ上手くいったよな、王様の協力も取り付けれたし、案外何とかなるもんだな!」
「はい、でも奇跡ですよ、祖父があんな風に私に自由をくれるなんて今でも嘘みたいですし、何か企んでるんじゃないかとつい勘ぐってしまいます」
「根拠は無いけど多分ソレは無いんじゃないか?なんつーか、付き物が取れたみたいなスッキリした顔をしてたし、」
「付き物ですか、やはり神との出会いが祖父にとってとても大きな分岐点だったんでしょうね、」
「神か、結局アイツは何だったんだろうな、」
「わかりませんね、何にも、今後絶対会いたくない方筆頭ですね、」
黒髪の美女、人では持ち得ない圧倒的力を持つという事以外フィーファやシェイン達には彼女の事は何もわからない、
フィーファの祖父であるレスティーナ王ならば何かしらの有益な情報を持っているかと思えばそうではなく、断片的な情報から彼女を神と思い込んでいた始末だ、
ただ分かった事も多い、
シェインの父親がかつてフィーファの母、エルミナ姫の近衛騎士として歓喜の剣を保有していたバーミントなる人物である可能性が出て来た事はシェインにとっては大きな発見だろう、
黒髪の美女の空間転移かそれに近い魔法でカラッタ村に飛ばされそこでシェインの母、クリスに出合ったのだろう、
「そこでどうして俺が生まれる事になるのかは全くわからないが……」
「え?」
「あっ、いや、何でもない、」
「はぁ……、私とシェインはやっぱり似てますよね、」
「は?どこが?」
「境遇が……ですよ、」
「あぁ…、」
「皮肉な話ですよ、私達の親が意図せず知り合いで愛し合っていたなんて、創作の中にだって滅多にありはしないですよ、こんな事は、まっ、シェインのお父様が本当に件の人物なら…ですけどね」
「別にどうだっていいさ、親と俺等は関係ない、俺等は俺等だ、」
「ふふ、そうですね……」
フィーファはシェインの横に突然座り直すと彼の肩に頭をおもむろに乗せ、すぅすぅと寝息を立て始めた
これまでずっと気を張って来たため疲れのピークがここで襲ってきたのか、フィーファは驚く程あっさりと眠りについた
「無防備すぎるだろ…まったく、」
悪態を付きつつも無理に起こそうなどせず、むしろ少しシェインの顔が赤い分、少なからず内心動揺していたりするのだが、彼もなんだかんだいいつつ思春期の子供であるため、同年代で好きな少女がこうも無防備な姿を晒し自身の肩に頭を置いてくれるというシチュエーションにモヤモヤした感情を持たざるおえないのだった
と、そんな一幕があったりしたが二人を運ぶ馬車は滞りなくこれと言った騒動に巻き込まれる事なく目的の場所であるガノッサの屋敷に辿りついたのだが、
「なんだ、どうしたんだ?」
ガノッサの屋敷周りが妙に騒がしい、
良くない感じだ、胸騒ぎのような感覚がシェインを襲う、
「うぅ~ん、…、何かあったんですか?シェイン?」
「アレ…、」
「え…?何かあるんですか?ガノッサの…屋敷が?」
ガノッサ邸の周りに野次馬が集まっている、
まるでそこには何か面白い見世物でも有るかのように、
馬車を急停止させてもらい、シェイン、フィーファは飛び出すように下車し、ガノッサ邸に向かう、
「おい、アレ、フィーファ様じゃないか?」
「えっ?嘘、私始めてみましたわ!お噂通りお美しい方!」
「ウソウソ!本当にフィーファ様?」
野次馬の前に姿を晒した為か町民から次々に声をかけられる、その声がまた別の声を呼び、フィーファは人の波に押し寄せられそうになる、
「ごめんなさ!私今急いで…!」
「フィーファ様!私フィーファ様に人目会いたく!」
「フィーファ様!どうか我がドィード家を!」
フィーファを取り囲む人々は思い思いの理由で彼女に迫る、単に友好を育みたい者、政治的、あるいは私欲のため、理由はそれぞれだが皆一様にこのチャンスを逃すまいと必死だ、
しかしソレも仕方のない事、彼女は一国のお姫様
彼女を介して国王に懇意にしてもらおうと画策する人間がいても何ら不思議は無いだろう
加えてフィーファ姫は一般的に引きこもりで有名だ、こんな所でその姿を見る機会というのは決して多くはない、
貴族令嬢達からすればそんなフィーファに会ったというのは社交界仲間に自慢する絶好の材料となる、
彼等彼女等の波に飲まれそうになるフィーファだったがそんなフィーファの手を取り、人の波から掻き分け逃げ出せたのはシェインの助けがあったからだ、
「行くぞ?」
「あっ、はい!」
シェインはフィーファを抱き抱えるとそのまま衆人環視のなか颯爽とそこから駆け出した
「なんだ!?アイツ!」
「きゃーフィーファ様が!フィーファ様が誘拐されてますわー!」
「衛兵!衛兵を呼べよ!何やってんだ!」
人々は何やら騒ぎ立てているがそれには構わずシェインは全力で駆けてガノッサ邸に入りこんだ、
流石に貴族達で構成された衆人環視が他人の敷地にまで入り込んで来ることは無く取敢えず人心地付けたと思ったのもつかの間、敷地の中は更に慌しい空気に晒されていた
「ふぃ、フィーファ様!それにシェイン様も、良くご無事で!」
そう言って二人の前に急ぎ足でやって来たのはガノッサ邸で働く使用人の男性だった、
「何が合ったのですが?この騒ぎはいったい?」
「はい、それが、ガノッサ様が重体で…、」
「ガノッサが重体!?」
使用人の男性に案内されるままついていけばガノッサの寝室に案内されそこに入れば上半身を包帯でグルグル巻にされた痛々しい姿のガノッサが寝かしつかされていた
「あぁ…フィーファ様、申し訳ありません…私が不甲斐ないばかりに……、」
「ガノッサ!、無理に起き上がらないでください、体に障ります、…いったい何があったのですか?」
「……、レイラとレコが拐われてしまいました……、」
「レイラとレコが!?」
ガノッサから聞かされた話は驚愕に値する内容だった
レイラとレコの二人の女達が拐われたというのだ、
フィーファやシェインがいない間に何が起こったというのか、
「そんな、何処の手のものですか!」
「わかりません、かなりの使い手で奇妙な武器を使っていて、まるでかないませんでした、私が付いていながら……、申し訳ありません……、」
「レコってあの澄ました顔のメイドだよな?」
「ええ、そうですね……でもどうしてレイラとレコを…」
「レイラもかなりの使い手だし、おっさんと二人を相手にして圧勝してしまうなんて相手はラミュアくらい強くないと勝てないぞ?どうなってんだいったい、」
「とりあえず相手はレイラとレコを拐っただけで二人は殺されてたりしないですよね?」
「殺されてはいないでしょう、相手の目的は我々の無力化だったように思いますし、初めからレイラとレコの身柄が目的だったのでしょう、」
「相手は何人だったんだ?」
「3人だ、もっとも戦ったのは一人だけで、我々はたった一人相手に敗北した、情けない、本当に…」
「敗北を悔いるよりもまずはレイラとレコの安否、それから拐った連中の目的と何処の組織の仕業か、其れ等をはっきりさせないといけません、私はもう一度城に戻ってお祖父様に掛け合ってみます、シェインも付いて来て、」
「あぁ、」
「待ってくだされ、このガノッサも…」
「ガノッサは療養してください、そこ体では足手まといです。」
「ぐっ、そうですな……フィーファ様……」
「はい?」
「お強く成られた、もうガノッサは必要ないですな…、」
「馬鹿な事を言わないでください、必要無い人なんてこの世界に一人だっていませんよ、だから早く良くなって何時もみたいに威張り散らして下さい」
「いばっ、くふふ、あはははっつぅ、」
「ちょ!大丈夫かよ、おっさん?」
「くふふ、いやはやまさかフィーファ様から威張り散らしてなどど言われるとは思わなんだモノでな、」
「わっ私はただ早く元気になって欲しくて、」
「わかりました、このガノッサ、フィーファ様のために一刻も早くこの怪我を完治させ、一日でも早い復帰をしてみせますぞ!」
「はい」
「おっさん、安静にな、」
その後ガノッサ邸の裏側からそっと抜け出したシェイン、フィーファは使用人に予め用意させた馬車でレスティーナにとんぼ返りするハメになり、シェイン自身こんなに城に行く事になるなんてついここ前からすれば嘘みたいな話だなと感慨にふけざるおえなかった
「しかし、レイラとガノッサのおっさんを同時に相手にして勝ってしまえる奴とか半端ないな、」
「二人共、無事でいてくれたらいいんだけど」
「そうだな…、相手の目的もハッキリしないし、なんか不気味だな、」
フィーファは胸元で両手を合わし二人の無事を祈る事しか出来ない自分の無力を呪うしか出来なかった
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