55話
「ソレはワシがエルミナの近衛騎士となった者、近衛騎士バーミントに託した物だよ…」
レスティーナ王のその言葉は驚愕に値するものだった、
主にシェインそしてフィーファにとって、
「バーミントさんにお祖父様が?それは本当なのですか?」
「嘘を言ってどうする?アレは歓喜の剣、我がレスティーナ王家の保有物だ、近衛騎士になった奴にワシが手ずからくれてやった物だが小僧、何故貴様が持っている?」
「まっ待てよ、バーミントって誰だよ?」
「忘れたのかい?前に君には話したと思うけどなぁ?」
「え?ラミュア?」
「君の御父上、僕がそう辺りをつけてる人物だよ、」
「何故、ラミュアさんがその事を?」
「彼は色々と興味ぶかいからね、個人的に色々と調べてみたんだよ、しかしなるほどその剣は王が自らバーミント氏に手渡していたと、これはもうほぼ正解だろうね、」
「何が正解なんだよ?」
「君の父親がだよ、わかってるだろ?現実逃避はやめたまえ、見苦しいよ?」
「ぐっ、」
ラミュアは以前シェインの魔法を斬ると言う能力を剣の加護など、何かしらかの原因があると決めつけシェインの事を徹底的に調べ上げた、
村育ちの凡庸な少年、彼個人にまつわる情報はそのような物だ、強いて言うなら片親で物心ついた頃には既に父親がいなかったくらいのものだ
しかし、彼を取り巻く環境は特殊に過ぎた
親のいない子供などこの世界ではそう珍しい物ではない、探せばいくらでもいる、
しかしただの村育ちの子供が豪華な装飾のなされた剣など保有しているだろうか、
魔法を斬る等という芸当を可能にする剣術を行使できるだろうか、
そこには全て必然が存在している。
ラミュアにとってシェインは噛めば噛むほど味がにじみ出るスルメのようなものだった、
興味を持つなと言うほうが無理な事だ
「なる程な、そう言われてみればあの男の面影がある、たしかに似ているな、何処に消えたのかと思えば、くく、片田舎で子供を作っていたとは、笑わせる」
「お祖父様、どういう事なのですか?わかるように説明してください!」
「お前には前に話しただろう?お前の母、エルミナにはかつて想い人がいた、騎士の身分でありながら王族の女に恋をした哀れな男だ、あの男はアレの結婚が決まった後もアレに執着した、よほどアレが恋しかったのだろう、愚かしい事だ、だからヤツにくれてやったのだ、エルミナのずっとそばにいれる立場、永劫あの女の近くにい続けれる役目、近衛騎士の役目をな、」
「ではお祖父様…貴方はその時に…歓喜の…剣を……」
「そうだ、奴には近衛騎士の立場をくれてやった、あれで優秀なのは認めてはいたからな、しかし、あの事件がきっかけで奴は姿を暗ました、」
「あの事件とは?」
「お前達も良く知っているだろう?神…黒髪の美女が現れた一度目の婚姻式だ、バーミント、奴は自身の役目を実直に果たそうとしたよ、エルミナに危害を加えようとするあの神…、いや女に対して奴は果敢に立ち向かった、その結果、奴は女の手によって消滅させられた、誰もが奴、バーミントの死を確信した、奴をこよなく愛したエルミナさえもな、」
「じゃ、親父、…そのバーミントって奴は消滅、消えたんじゃなくて俺の故郷に飛ばされてたって事なのか?」
「そうなるな、悪運が強いだけなのか、そもそも、女はあの襲撃時、ワシを含め誰の命も奪ってはいない、圧倒的力で全てをねじ伏せ神たる威厳を見せつけた、女にとっては楯突いたバーミントすら眼中には無かったのだろう、あの女は一貫していた、」
「一貫?」
「うむ、あの女は執拗にエルミナだけを狙っていた、ネメジス、我等を脅かす者、生きていてはいけない、そう言っていてな、」
「ネメジス!!?」
「お前も聞いたか、ネメジス、ワシも何の事かはわからん、しかしエルミナに対してあの女はネメジスと呼んで強い増悪を向けていた、」
「お母様…いえ、エルミナはネメジスと、そう呼ばれる存在だったのですか?なら彼女は私とエルミナを間違えて…?」
「知らんよ、少なくともエルミナに神と目されるような存在から命を脅かされる様な要素は少なくともワシは知らんよ、ただ事実として女はエルミナを襲った、しかし奇跡が起こった」
「奇跡?」
「バーミントが消滅し、エルミナがあの女に殺されそうになった時何かが起こった、ワシにはあの女が空間に飲み込まれていく様に見えた、ただそう見えただけだ、わかってはいない、女からすれば凡庸な存在でしかないワシにはあの時、何が起こったのかそれを特定も断定も出来はしない、ただわかることもある、あの女は空間に飲まれワシ等は助かった、それだけの事だった、」
「なる程、だから君はあの婚姻式跡地を取り壊さず長年放置し、立入禁止エリアとしていた訳だね、彼女を刺激しない様に、」
「………、そう言う事だ、亜人の女王よ、」
「ふふふ…君のことだからコンタクトは試みたんだろ?超常の力を持った者の捕獲に成功したんだ、力を欲する君が何もしないで放置してるとは思えない、まぁその様子では特に成果は得られていないようだがね、残念だったね」
王はよろよろと歩いて自身の玉座に腰掛け、シェイン、フィーファ、ラミュアをそれぞれ見舞わした後いった
「神はいなかった、少なくともワシが盲信していたあの女は神などではなかった、たしかにあの女は人を超越した力を持っている、なんなら本当に神なのかも知れぬ、だが神とは人に信仰されて始めて神としての意味を持つとワシは解釈している、そういった意味からすればワシはもうあの女を神とは思えぬ」
今の王は何処か付き物が取れたような、それでいて少し寂しさを滲ませた表情でそういった、
「縋るべき神をなくしたワシにのこされたのは一国の王としての立場のみ、只人としての教示のみだ、フィーファよ、」
「はっはい?」
「お前にこの国を託そう、ワシが逝った後はお前がこの国を継げ、」
「はぁ?何故いきなりそんな、」
「お前が言ったのだろうが、私が国を継ぐから老人は草葉の陰から見守っていろと、」
「た、たしかに言いましたけども、何故いきなり…、」
「いきなりではないよ、元々お前に託すか、このまま誰かの手に委ねるか、その何方かになるだろうと考えてはいた、」
「君らしからぬ無計画さだね、」
「笑ってくれぬな、イノセントの女王、あの女の…あの女の力の秘密を解き明かせればワシは高次の力を手に入れられるとそう考えていた、しかしその術も失われた、元々ワシはこの国を誰かに明け渡そうなど考えてはいなかった…、
かつてこの大陸を支配した魔王は200年生きたという、おそらく魔王は長寿の術を持っていたのだろう、我が祖先は魔王の財を元にこの国を立ち上げた、魔王の財でだ、ならば魔王の長寿の謎もこの世界の何処かにあると考えるのは自然だろうて、」
「ならじいさん、あんたは長寿になってもっと長くこの国に君臨しょうと考えていたのか、」
「人であれば不老長寿は誰もが憧れる、自然な事だろう、
エルフ族を蛮族と貶めながらその実人間は誰よりも彼等に憧れる、真にラミュア殿が言うように、統率の取れない醜い生き物だよ、人間というのは、」
話疲れたのか老人は一息つくとフィーファ、そしてシェインを見ながらゆっくりと話しだす
「ワシの夢、神の世界を知り、その世界すらもこの身に取り込み高次の存在へと至る夢は潰えた、この身はいずれ腐れ朽ちる、王として、世界に君臨しようなど烏滸がましい望みを持っていた訳では無い、ワシはただ父より託されたこの国を永劫見ていたかった、
しかしそれは叶わぬ夢だ、ならばワシと同等かそれ以上の才能に恵まれた男児に託したかった」
「君の口ぶりでは王たる資質は女では務まらない、そう言ってる様に聞こえるが」
「それは違うさ、イノセントの女王、ワシはソナタを王と認めている、エルミナも優秀であったのはたしかだ、
しかし女は脆い、精神も、体も、何もかも、
ワシが愛した妻ジュリアはエルミナを産んでから流行り病に侵され急に老いぼれ衰え衰弱していった、母もそうだった、皆、ワシが愛した女は皆早くに死んでいった、あの時思ったのだ、、だからこそ、女では駄目なのだと、優秀なレスティーナの血を引いた健康で優秀な男児でなくてはこの国を率いてはいけない、」
「お祖父様が、私やエルミナを軽視するのはそれが理由なのですね…」
レスティーナの王族の中でも女は特に短命である
皆例外なく優秀ではあったがそのことごとくは速くに命を落とす、結果として王族の女は以前よりもデリケートに、それこそガラス細工のように丁重に扱われるようになった、
気づけばまるで閉じ込める様に王族の女は城の中に引きこもらせるのが習わしのようになっていった
レスティーナ王もその習わしに乗っかっただけ、
それがレスティーナの王族としての正しい流儀であり、常識であったから、
別に子が可愛くなかったわけではない
当然憎かった訳でもない、
ただ王は絶望していた、愛した女は皆早くに自分を置いて去っていく、
ならば愛さなければいい、王がそんなネジ曲がった考えに行き着くのは自然な事だった
その一方で子等に期待もしていた、
その期待が彼女等をより追い詰める事になると知りながらも…
「神はいなかった、そんな者は最初から…、少なくともワシはその一端に触れる事すら出来なかった、
ならワシに出来る事はただの人として未来を孫に託すのみだ、小僧、たしかシェインといったか?」
「シェイン・デューンフォルテだ」
「ならばシェイン、シェイン・デューンフォルテ、その歓喜の剣を今より真に貴様の物とする事をワシが認めよう、」
「おっ、お祖父様!?」
「俺はアンタの道具になるつもりなんかないぞ!」
「勘違いするな、タワケめ!貴様の訳の分からぬ力などどうでもよいわ、ワシは人として、人であるシェイン、貴様に言ってるのだ、その剣を正式にワシから手にする覚悟を示せ、」
母から…そしてフィーファからこの“歓喜の剣”を託された、最初はただの派手な装飾のなされた豪華な剣という印象しかなかった
しかしフィーファからこの剣の本当の意味を聞かされそしてシェインはフィーファを護る騎士となった、
しかしそれは形式的な物に過ぎず正式な過程を経た物ではない
しかし王はシェインにいった、
ワシが認めると、それはつまり、
「あんたに言われるまでもない、俺は最初からそのつもりだ」
「そうか、ならばいい、レスティーナの女は短命だ、フィーファの命尽きるまでお前がソレを守り通せ、それが主を守護する4つの感情を体現した内の一つ、その剣を持つお前の責務だ、」
シェインは王に対して黙って頷く、
王にもシェインの覚悟はしっかりと伝わったからこそシェインから視線を外しフィーファを見る
「フィーファよ、経験をかさねよ、その少年と様々な場所に行き、様々な人を見て、様々な事を学べ、お前が家出して得た経験は無駄ではない、しかし人は利用するものだ、情けは己が為にならぬ時もある、信頼し、利用し、時に切り捨てる覚悟を持ち、己が糧にせよ、その少年、シェインと様々な事を学べ、お前が王位の継承をするまではこのジジイが国を守ろう、しかし、ワシが去った後はこの国を頼むぞ」
「お祖父様…、私を、認めてくれるのですか?」
「フン、驕るな、ただの消去法に過ぎぬわ、ただお前達に賭けてみるのも悪くないそう思っただけの事だ、ワシは疲れた、少し休みたい、貴様等は立ち去れい」
「おいおい、国王、僕の提案を忘れてやいないかい?どうなんだね?僕と協力関係は結んでくれるのかい?」
「はあ、面倒な…………、いいだろう、協力しよう、イノセントとレスティーナはコレより同盟関係だ、」
「ふふふ…良い判断だ国王、では僕も帰るとするよ、また今度酒でもどうだい?」
「フン、考えておこう、」
「了解だ、レニ、帰るぞ、おきろ、」
背にもたれかかって爆睡している部下のレニの首根っこを猫を持ち上げるように掴んでラミュアは王の間を出ていった
「そういや、いたな、アイツ……忘れてたわ、」
「まぁ全然喋ってませんでしたしね、」
手をヒラヒラとやってラミュア達はさきに王の間から出ていった
フィーファはそんなラミュア達から祖父へと視線を向け、躊躇いがち2だかハッキリと言う
「お祖父様……、ありがとうございます」
「ふん、」
そっぽを向いた国王を尻目にフィーファ、そしてシェインも王の間を後にする、まさかこの様な形でフィーファは祖父から認められる事になるとは思っていなかった、
長期戦を覚悟していたため祖父の心変わりは意外だったが嬉しい誤算と言えるだろう、
まったくとんだツンデレ爺さんだったな!とシェインが言うがまったくだ
デレるならもっと早くからにしてほしい
まぁそれだけ祖父にとって神という概念との決別は大きな通過点だったのかもしれないが、
それでもフィーファはこれまでの祖父の行い、言動を容認出来はしない、あの男に何度も命を危険に晒されてきたのだから、簡単に許してはやらない、ここは祖父の流儀に習うとしょう
「ふふふ…とことん利用してやりますよ!」
「へ?何、フィーファ……さん…?」
「ふふふ…ふふふ…ふふふ……、」
「おおぉう……」
時折真面目にフィーファに恐怖を感じるシェインだった
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