50話 シェイン対神(仮定)
レスティーナ城、王室テラスにて二人の男女がいた。
男女はそれぞれ祖父と孫くらいの年齢差のある組み合わせで端から見れば違和感を持たざる負えないそんな組み合わせだ。
この二人に共通点があるとするならば食い入る様に丸い水晶玉を凝視している事くらいだろう。
もっとも二人の表情は全く別の感情を顔に貼り付けていた。
二人の男女の片割れ、聖女フィオナは必死に水晶玉を見つめる。
水晶玉は二人組のもう一人、レスティーナ王国の国王が用意したものでココから距離のある旧結婚式会場跡地での一幕を映し出している。
レスティーナ王の魔法によるモノだ。
そこには白い蜃気楼の様なオーラを見に纏った少年の姿が映し出され、黒髪の美女の攻撃を容易く弾いていた。
フィオナはそんな白い光に包まれ変異した少年、シェインに強い感情の籠もった視線を向け続け、一言だけ呟いた。
「綺麗……」
その呟きは王の耳にはとどかない。
当然だ、今や王は取り乱し、フィオナの呟きに耳を向ける等の余裕はない、それどころではなかったのだから。
「馬鹿な、神が盆弱な只人如きに遅れをとるだと!!?あり得ない、貴方は神だろう!?はたまた神では無かったのか?貴方が10年前に見せたあの圧倒的な力は只人に抗える程度のモノだったのか?そんな……そんな馬鹿な!!馬鹿な!!」
大きな声を上げ目の前の理不尽に文句を言う王、しかし現実はそんな王の言葉になんの影響も受ける事はない。
王という人が生み出した社会で最も高い地位と名誉がある立場にあってもソレは人の社会の中での話。
所詮人の範疇に留まるだけの凡人、只人に過ぎない王がこの事象に口出し、介入など出来りわけがないのだ。
そんな二人が異なる感情であれど強い感心を向ける今回の戦い。
旧結婚式会場跡地で今尚、熾烈な攻防が繰り広げられていた。
もっとも既に雌雄は決したと言って過言ではなかったが。
神と仮定された黒髪の美しい女はその美しい顔にあからさまな焦りをみせていた。
当事者のフィーファなどはこの人こんな顔出来たんだと見当違いな事を考える余裕が出来た程だ。
黒髪の美女は無尽蔵と思われる程の強大なオドを魔力として出力し、魔力弾としてシェインに撃ち込む。
図らずしも重ねる事になった試し撃ちで既に照準はかなり正確なものとなり、今フィーファに狙いを変えられたら間違いなく避ける事は不可能だろう。
しかしフィーファは無事、完全な安全圏への避難を成し遂げていた。
その頑強なシェルターの名はシェインの背後。
黒髪の美女の猛攻を白い光に包まれたシェインは完全に防ぎきっていた。
「凄い…、」
そんな有り触れた言葉しか出てこない程非常識な光景だった、しかし同時に悍ましさすら感じる。
アレはこの世界を乱す力だと彼女の中の何かが訴えかける。
「あぁあぁああぁぁぁあぁ、何故ダ!何故ダ!ユーディキゥム!!何故ネメジスヲ守ル!」
「俺はシェインだ!ユーデーディなんとかじゃねぇ!」
「あアアァァあぁあぁあアあああーーー!!!」
人一人を消し炭にして余り有る威力の魔力弾を連射していた黒髪の美女はこのままでは拉致があかないと悟ると両手に魔力を凝縮し、小さな光の塊を生み出す。
その光は小さいが強い輝きを放ってをり、黒髪の美女の魔力が凝縮されている事がわかった。
「駄目!シェインっ
!アレを撃たせたら…街が消える!」
「くっ!!」
しかしフィーファの悲鳴じみた訴えも虚しく黒髪の美女の手を離れ小さな光はシェインとフィーファがいる方に飛んでいく。
シェインが構えを取りその光に向かって剣を振る。
そのシェインの動作に呼応して剣が形態を変化する。
歓喜の剣にそのような機能はない。
ならば剣が形態をかえたのはシェインから発生した白い力“ユーディキウム”が影響をもたらしたと考えるのが妥当だろう。
歓喜の剣は剣先の真ん中からパックリと割れて開き中央から青白い光を発生させ竜の首すら切断出来そうな大剣へ変化する。
大剣へ変形した歓喜の剣と美女の放った光が交差し激しい光を発生させる。
「ぐっ!ユーディキウム!!!!ぬおおおくぅとおあおおおおおおぉぉぉ!!!」
「があぁぁぁあぁぁ!!!!」
眩い光が周囲を照らす、先程までは労せず黒髪の美女の力を打ち消していたが今回はそうもいかないらしくシェインはうめき声を発しながらその光を打ち消そうと足掻く、
「白い世界のお前!!見てるんだろ!?だったら俺に力を寄こせぇぇーーーー!!!」
拮抗していた光と光のぶつかり合いはやがて白い光だけが残りそれまで猛然と輝いていた黒髪の美女が放った光は白い光に飲み込まれ完全に消滅した。
黒髪の美女はただ立ち竦んでいるしかなかった。
街一つを消滅させるに足る力を二度に渡って行使しそのどちらも防がれてしまった。
一つ目は広範囲攻撃
二つ目は圧縮攻撃、
系統は違えど普通の人間にどうこう出来る代物ではない。
勝敗は決した、黒髪の美女の攻撃は白い力を行使するシェインには意味をなさないだろう。
ソレを誰よりも明確に理解した黒髪の美女には明らかな怯えがあった、なまじシェインの力の正体を”知っている“だけにその怯え様は半端な物ではなかった。
「あ“あ“あ“ぁあぁあぁグルなグるナ来るナァ!!!」
半狂乱状態の女はなまじ次元の異なるレベルの美貌を持っている為そんな醜態を晒していても尚様になる、いっそそれは一つの皮肉ですらあった。
「シェイン……?」
そんな女に向かってゆっくりと歩み寄って行くシェインだがその顔は彼が放つオーラ同様に色がなく、感情が欠如している様に見える。
髪は徐々に残っていた黒い部分も白く変色していき、より”ユーディキウム“としての機能が顕在化していく
。
神、そして神に創造されたモノ、それらに判決を下す力、今のシェインはその機能を成すための装置と化していた。
シェインのただならぬ状態を見て取ったフィーファは彼に声をかけるが反応はなくただ困惑する事しか出来なかった。
「どうしちゃったの?シェイン…、」
「………」
無言で女との距離を詰める、シェインの体から発する白い光は数秒前よりその濃さを増しており
それが女をより恐怖に陥れる。
「ア“あア“アああァぁグルナグるナ」
女は懲りずに魔力弾をシェインに放つがとうとう剣を振る事なく、白いオーラに触れただけで消滅した。
とうとう女の目の前までやって来たシェインはおもむろに剣を構え、女を殺そうとする
しかしそうはならなかった
後ろからフィーファがシェインに抱きついたからだ。
両手を使ってシェインの体を抱きしめ彼の背中に顔を埋める。
こうしているとわかる。
今のシェインはとても危険だ、体を密着させているだけでオドが、魂が消滅してしまう恐怖に支配される。
体が一刻も早く離れろと指示する
心が、魂がコイツは危険だと訴えかける
悍ましさ…そう強い悍ましさを感じる。
殺してしまえ!
消してしまえ!
消滅させてしまえ!
と呼びかけてくる
コレは一種の本能だ、ソレを実行する事で強い高揚感、征服感、多幸感、情慾が満たされる。
しかしフィーファはそんなモノ全て捨て去りただ己のシンプルな感情に任せて言葉を紡ぐ
「駄目だよシェイン……、貴方の剣は人を殺す為の物じゃない…誰かを守る為の物でしょ?」
するとシェインは大剣へと変化した歓喜の剣を手放しソレは地面に突き刺さる
白い光は消えて髪も黒に戻る
歓喜の剣は元の状態に戻り地面にがらんと音を立てて転がった。
倒れそうになるシェインを支え、強く抱きしめるフィーファ。
先程まであったシェインへの殺人欲求はなくなった。
多幸感も征服欲も高揚感も情慾も……
今にして怖くなる、あれはなんだったのか。
再度シェインを抱く腕に力をいれて再認識する。
今なら自覚出来る。
(あぁ…そっか、私ずっとシェインに会いたかったんだ、私はシェイン、君の事が好きなんだ……離れたくなんてなかったんだ…)
「あ“あ“あァァ“ああ“ユーディキウム!何故?ネメジスの味方?あ“アアァあ“あ“ああ」
「貴方が何故私に対してそれ程の増悪を持っているのか私にはわかりません…、でも…もう引いて下さい…コレ以上はお互い戻れなくなる、だから…!」
フィーファはシェインを抱きながら力強く黒髪の女に告げる、女はその目に増悪を変わらず乗せながら憎々しげに後退し最後に一言だけをこの場に残して消えた
「絶対にコロしテヤる……!」
絶対に死ねない、死にたくないのは当然だがなによりもシェインの為に生きたい…。
彼は私が死ねばきっと悲しむ
あの力を使って私が死んだ悲しみを紛らわせようと必死に戦うだろう、私はそんな彼を見たくはない、
彼の希望になりたくても彼の絶望にはなりなくない
だから行きる、死んでなんてやるものか!
フィーファは穏やかに寝息を立てるあどけない表情の少年の頬に触れそっと呟いた
「ありがとう…シェイン、」
一面に花が咲き誇る世界で仮面で顔を隠した黒衣の男は氷漬けにされた金髪の女を見上げ眺める。
金髪の女を内向した氷の固まりは天から無数に伸びた鎖で空に貼り付けにされている。
仮面の男はソレを変わらず眺めるだけだ。
そんな男の背後に青いローブを纏った男が現れ、話しかける。
「概括の段階は過ぎアベルの孵化はなった、お前の悲願が叶う日も近い、嬉しいか?カイン…。」
「私の悲願には足りない、アベルの完全な覚醒と開放…、その時、ユーディキウムは私に答えてくれる」
「俺の悲願、そしてお前の悲願、それが成就する日は近い…か。」
大量の花弁が空に舞う何処までも広い世界で二人の男達は互いの悲願に向けて語り合っていた




