5話 決着のあと
早朝、日は昇りきっておらず空はいまだ暗く冷たい空気が肌をさす。
草木をわけ整理されていない道をガタゴトと騒音を響かせながら質素な馬車が進んでいた。
そんな馬車を囲うように白銀色の鎧を纏った騎士が馬に騎乗し 追従しているのだから折角質素な外観に偽装していても意味は 余りなかったりするのだが…、
そんな馬車のなかでつい1時間程前の事を金髪の少女、フィーファは思い返していた。
シェインとガノッサの決闘はことのほかあっさりと決着がついた。
勝者はガノッサ、
文句の付けようの無い程に圧倒的な力の差を見せ付ける結果として勝負は終わった。
技術やセンス、才能はシェインが圧倒的に優れていたのかも知れない、
ただ経験の差は如何んともし難く、また覚悟も足りないシェインは結局、口先達者な子供の域を出ることはなく、結果として敗れる事になった。
その後数時間後に村を出る事となったがシェインは最後までフィーファの前に現れる事はなく数人の村人に見送られフィーファ一行は日も昇らぬ内に村をたった。
正体不明の追っ手に追われる旅 、最初はグラインを探すだけのつもりだった旅路は謎の追っ手からの逃走劇へと変わりフィーファが何者かに命、あるいは身柄を狙われている事を証明させる事に図らずしもなってしまったのが現状だ。
「フィーファ様、どうか機嫌を直してくだされ、貴方も分かっているでしょう?
あの者は未熟です。
付いてきたとしてもいつか取り返しの付かない過ちを犯し貴方に危害を及ぼす事になるでしょう、その様な癌を早めに取り除くのも私の務めなのです、どうかご理解下され」
「頭ではわかっています、 ですが気持ちの面では理解出来ませんよ、確かに彼は未熟かもしれません、でも彼は確かな実力を持っています、それに彼は…シェインはグライン様の弟子です、きっと私達の力になってくれた!なのに…」
「…フィーファ様…貴方は…」
フィーファが自身が思っていた以上にあのシェインとかいう少年に固執していた事にガノッサは驚き、そして動揺を隠せないでいた。
ガノッサ自身が言うようにあの少年は未熟だ、それは間違いない、しかし同時に才能の固まりだったのもまた事実だ。
それは彼と剣を交えたガノッサ自身が痛いほどに理解していた。
自身を含めたレスティーナ王国騎士団員六名が束になって掛かり倒せなかったあの大型モンスターを倒して見せた実力は本物だった。
自分自身が自ら相手をして相手の実力を測れないなら自分は騎士失格だろう、 ガノッサはシェインの強さを認めてしまっていた、だからこそ認める訳にはいかなかった、
あんな辺境の村で育っただけの世間知らずの子供に自身がコレまで積み上げて来たものを否定される事を。
「フィーファ様、これはご友人を作る旅ではないのですよ?」
「レイラ…?」
そこで今まで黙っていた女戦士レイラが口を開いた。
「差し出がましい事は重々承知していますが私からは貴方が駄々をこねているようにしか見えません」
「だっ駄々!?」
「はい。」
「私のどこが駄々を捏ねる子供なんですか!」
「見たまんまじゃないですか」
「んな!?」
「私には折角出来た気の合う友人を取り上げられて文句を言ってる様にしか見えません」
「っ!っうぅ~レイラぁ~」
馬車内に不穏な空気が広がるのをガノッサは感じていた。 もともとは自分が巻いた種だがレイラの放った容赦ない言葉は的確にフィーファの自尊心に針を刺したらしく2人は身分の差等関係なく一触即発の空気を形成していた。
「レイラの…レイラのバカー!そこまで言う事ないじゃないですかー!私より一つ上だからっておねぇさんを気取らないでくださいよ!!」
「バカとはなんですか!私は間違った事は言ってませんよ! だいたい貴方はもう少し立場ってものを考えて下さい、それに気取っているのではなく私のほうが年上なのは事実なのですから仕方ないではないですか!」
「何が仕方ないんですか!そもそも私はお姫様なんですよ?もっとこう敬いかしずきこうべをタレて崇拝するのが筋ってもんでしょ!?」
「私貴方の飾らない態度は好きですよ、と過去に仰ったから飾らない態度で接しているのに、あの頃のフィーファ様は何処に行かれたのやら…」
「貴方ねぇ~、限度って物があるでしょ?」
年若い2人の女子トークは成人男性であるガノッサには立ち入る事の出来ない領域の話だ。
過去レイラの余りな態度に釘を刺したらフィーファから余計な口を挟むなとこちらが注意されるしまつ、 これまで城のなかで半ば監禁に近い生活を送って来たフィーファにしてみれば年の近いレイラとの会話はフィーファに取って数少ない娯楽の一つなのだろう、そもそもレイラがここまで素行を崩すのは彼の知る限りフィーファの前でだけだ、
「レイラ…?大丈夫ですか?」
和気あいあいと続いていた2人の話はフィーファのレイラを気遣う声色で中断された。
「申し訳ありません、突然眠気が…体調管理を疎かにしたつもりは無かったのですが…」
「無理もありません、この所ずっと張り詰めていましたし…」
レイラが眠気を抑えられないでいるようにガノッサもまた突然の眠気に気を保てなくなっている事に気が付く、 しかし自分は彼女を守護する身の上で主君に眠いなどと口が裂けても言えるわけはなく、そんな自分の状態に情けなさを感じずにはいられない。
「ガノッサも辛そうですね、少し安んでください、私は大丈夫ですから」
「申し訳ありません、貴方を守護する大役を任されておきながらこの体たらく、体調管理は欠かさずにいたのですが、」
「ずっと気を張り詰めていたのですし、仕方ありませんよ、少しの間だけでもー…」
そうフィーファが言葉にしようとした瞬間大きな揺れが馬車を襲った。 転倒こそしなかったものの普通ではこれ程馬車が揺れる事はあり得ない、素直に原因を探求するなら何者かの介入を疑うのが妥当だろう。
「ガノッサっ!ガノッサ!!」
「ぐうぅ~ぐうぅ~、」
「寝てる?」
眠りこけるガノッサに次いでレイラに視線を向けるも 「すぅ…すう…」 レイラは静に寝息を立てていた。
揺すってみても2人が目覚める気配はなく深い眠りに付いている、
「あんな大きな揺れの後にここまで深い眠りについてるなんて……これって…」
警戒心が強い2人がこんなになるのは正直あり得ないというのがフィーファの率直な思いで疲労だけが原因でないのを疑うには充分過ぎた。
はじかれるように馬車から飛び出たフィーファはそこに広がる光景に思わず絶句する。
馬車に追従していた6人の騎士たちがそこいらに倒れているのだ、数が足りない所を見るにはぐれた者もいるのかも知れない。
「大丈夫ですかっ!?」
急ぎ声をかけるとすぅすうと言う寝息が聞こえる、 みな眠っていた、馬車の中の2人と同じように、
「そんな…」
もはや間違いなかった、 ハメられたのだ、ここまで自分を追って来た何者かに、
「驚きましたね、まさか動ける方がいるなんて」
そこで後ろから声をかけられた、
「おぉ、これはこれは、レスティーナの姫君でしたか、噂に違わぬ対魔力、流石ですね」
後ろにいたのは自分とそう年の変わらない身なりの少年だった。
ただ両手に鉤爪を装備しており、白いボサボサの髪は何処か不衛生な印象を受ける、 浅黒い肌、尖った耳にはある種属の特長が一致する。
「ダークエルフ?」
「いかにも、俺は列国五大国家の一つに属するイノセント帝国の女帝、ラミュア様の下僕でレン・ニーズブルーという名前ですよ、ぜひお見知りおきを」
「そのレン・ニーズブルーさんが私などにどう言った用向きなのですか?」
「なに、大した内容ではありませんよ、ただ我等に同行願いたい、それだけです、お姫様」
ニィっといやらしく笑うダークエルフの少年レンはついて来ないとわかってるな?と言わんばかりの態度でフィーファにそう申し出るのだった。
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