44話 メイドのレコ
さらに祖父との食事から一日が経過しフィーファは昨日の祖父の話を思い返していた
「はぁ…、しかし参りましたね、やっぱりと言う
か、政略結婚を私にも押し付けてきた、私まだ15なのに…」
娘に強要した結果大きな失態をおかした癖にその過ちをまたもや繰り返そうとしている
アルフィダの言った黒幕はアングリッタというのは昔祖父、そして両親に起因する事と見てほぼ間違いないだろう、恐らくは私の血縁上の父にあたる人物が何が知らの因縁、恨みを祖父、ひいては私に持っていると、
その恨みを返すためにこんな戦争になってもおかしくない事をやっているのだろう、冗談じゃない
「早くここを出ていかないと、お祖父様の人形で終わる人生なんていやです、でもどうやって…」
この一週間、ここから抜け出すための悪あがきは色々やって来た、
しかしそのことごとくは祖父の手回しによって潰されている
実力行使に出たとしてもこの国には名だたる魔法使いが大勢いる、
私一人の力で太刀打ち出来る程レスティーナの魔法使い達は手緩くない、色々と考えないといけない事が増えるとついつい楽しかった思い出に逃げ込んでしまう
「ガノッサは近衛騎士を辞めさせられたし、恐らくは一般騎士職に左官されてるのかな、レイラはマグラーナに帰ってシェインはどうしてるのかな?カラッタ村に帰ったのかな?」
カラッタ村、のどかでのんびりした良い村だった
シェインは何もない退屈な場所だなんて言っていたが私はそんな風には思わない、
平和で何処までも普通の自然が続いてる、あの村にはこの国の様な濃いマナで溢れた喉が詰まるような圧迫感もない
たしかにこの国は膨大なマナによって他国より恵まれた立地によるアドバンテージがある、
民はみな充足した日々を送れてるし、それも祖父の手腕が為せる事なのだろう
だが、だからと言ってこの国の為に見を粉にする覚悟なんて私にはない、
王族として恥ずべき思考、責任も取れない怠惰な自分
国民は私のことを無能な愚姫と誹るだろうか?
「カラッタ村で生まれ育ってたら私はただの村娘としてシェインと一緒にずっと暮らしていけたのかな…?
でもシェインはいずれ旅に出ていく、なら私はシェインを支える後衛職の魔法使いになって色々な所に一緒に行って、旅をして色んな物を見て回る…ふふ、それはとっても楽しいんでしょうね…」
イケない、また妄想していた、アリもしない幻想を、
つくづく自分の弱さが憎くなる、
その時コンコンと言ういつものノック音が聞こえた
はい、と返事をすると入ってきたのはやはりというか
専属のメイド、レコだった、
20代前半くらいだろうか、私よりも年上で身なりも整っている、長身の美人さんだ、
レイラと被る特徴だが彼女は武道に対してはからっきしだし、戦ってるところなんて想像も出来ない、
ただ目つきがやや鋭くいつも機嫌が悪そうなイメージがついていて若干苦手だったりする
とはいえ一週間もたてばそれなりに仲もよくなる
「ベットメイキングに参りました、申し訳ありませんがしばらく時間をいただければ…」
「私の事は気にしないで良いですよ?」
「ではそのようにします、」
「………、」
「…………………、」
それなりに仲は良くなってない様だ
「何か御用でしょうか?フィーファ様?」
「え?いえ、ただ一緒にいる時間も長くなるでしょうし仲良く出来たらいいなと思いまして」
「国王陛下からはメイドとして行き過ぎた行動は慎むよう厳命されております、フィーファ様の命令であれば応じますが?」
「そう、ですな…、」
模範的なメイドさんだ、私とのコミュニケーションも仕事と割り切っている様だ、
そつのない返し、義務的なやり取り、しかし祖父と対面している時に比べたら幾分マシではある、
「一つ聞いてもいいですか?」
「なんなりと」
「では遠慮なく、貴方はどうして私の専属なんかになったのですか?」
「そう命じられたからです」
「命じられるまでに至った過程があるでしょ?それとも貴方はなんの努力もなしにレスティーナの王族専任メイドになったんですか?それは凄いですね」
フィーファの徴発とも取れる発言に流石に思う所でもあったのかただでさえ目つきの悪いレコの目がいっそう鋭くなった、
「フィーファ様、貴方が城を飛び出す前に様々な災難に合われていましたよね?」
「え?」
「シャンデリアが落ちてきたり、お食事に毒が混入していたり、夜中襲われそうになったり……」
「……、貴方…まさか……」
「レイラは良いですよね、同じマグラーナの出身なのに彼女はマグラーナの、勇者の呪縛から開放され今は自由の身、突然勇者への恋慕の気持ちも消え失せ、残ったのは帰る場所も家族もなくなった現実だけ、正気に戻った仲間は次々と国王陛下に処分されていきました、各担当大臣や、尚書、財務官などこの国で大きな役割を持った同僚達は最後に私達を売り自分達だけは助かろうとしていましたが王は一切の猶予を与えず平等に私達を粛清しました」
「貴方がマグラーナの……、スパイ」
「私だけじゃありませんよ、この国に使える人材の大半はマグラーナから派遣されたスパイです、考えてもみてください、小汚い貧民孤児のレイラを傭兵だからと貴方の護衛役に迎えるなんて無理があり過ぎる、この国の重役の立場にあった同僚達の働きあったればこそです、なのに、アイツは私達を裏切り何処ぞでのんびりと暮らしている…」
「貴方はどうして祖父からの粛清を逃れたのですか?祖父が貴方だけ見逃すとは思えない…」
「そんな事もわからないのですか?私は見逃されてなどいません、生殺与奪は常に王の意思なんですよ、あの方に忠誠を近い逆らわない事、それが生きる唯一の方法なんですよ、」
「……、同情はしませんよ、こうなったのは半分は貴方の意思です、」
「そうですね、勇者に洗脳されてたとはいえ、王族というだけでぬくぬくと暮らす奴等に罰を与えたかったというのは紛れもない私の意思です、この立場も受け入れていますよ」
「貴方も私が楽して生きていると思っているのですね、」
「ふふふ、本当におめでたい、ワガママお姫様ですね、貴方は、何もしなくても食事が出てきて何もしなくても将来が確約されている、恵まれた環境に有るのに何故それを自らに手放そうとするんですか?」
「たしかに端から見れば私は恵まれているのかもしれません、でも私はそんな物より自由が欲しいんですよ、与えられた物より自分で苦労して得た物にこそ価値がある、そう皆と旅して学びました、それはとっても尊くて掛け替えのない物になるんですよ、」
「そんな物は持つ者の驕り高ぶりですよ、」
コレ以上話す事はないとそう言わんばかりの態度でレコは仕事を始める
フィーファもコレ以上彼女と話す事はないんだろうなと静かに部屋を出ていく
話す事が無いというより話し難いと言った方が正しいか、
彼女がマグラーナの関係者なのではないかとは何となくだが考えていた
ただ祖父の性格から考えて生かしておくメリットが思いつかなかった、
しかし何のことはない、
彼女は生かされた、
なんのために?決まってる、見せしめだ、
誰の為の?私?マグラーナ本国?
そんな事は私にはわからない、祖父の考えなど私に解るはずがない、
あの人の価値観は私とはかけ離れた所にあるのだから
自室を抜け出て宛もなくただ馬鹿みたいに広い王城内を歩いていると不意に声をかけられる
「あら、フィーファ様、お久しぶりね」
そんな鈴を鳴らすような澄んだ声が後ろから聞こえる
非常に耳あたりのいい声色だがフィーファはその声に聞き覚えがある、同性でも聞き惚れる声だがフィーファはその声の持ち主のネジ曲がった性格を知っている
だからどれ程の耳心地の良い声でもそれを額面通りに受け取れはしなかった
「フィオナ……さん?どうして貴方が」
そこにいたのは外の世界にすら影響力を持つとされる宗教組織に見を置く聖女だった




