40話 再戦(ラミュア編)
いつも誤字報告ありがとうございます
炎を纏う巨大な鳥の化け物ペールペーを従えたイノセントの女王ラミュアに挑む事になってしまったシェイン一行
今回の彼女に手加減の意思はない、
こちらも死ぬ気で挑まなければ殺されて終わり
フィーファがいれば太刀打ち出来たかも知れないがそもそもフィーファを助けるためにラミュアに挑むのだからこの愚痴は最初から意味をなさない
深呼吸を一つ、目の前に集中する
(今まで通りじゃ勝てない、ジジイの時の繰り返しだ、考えろ考えろ考えろ…、)
「シェイン…。」
「?」
過去の敗北に飲まれるシェインにガノッサは語りかける
「自分の力を信じろ、前までのお前さんは驕り高ぶり自身の力を過信し、他者を見下す傾向があった、敗北を知ったお前さんだからこそ言う、自分の力を今一度信じ女王陛下を分からせてみよ!!」
「雑談とは舐められた物だ、僕を目の前にしてその不敬、万死に値するよ!!」
ラミュアはペールペーを差し向けてくる
いわば炎の塊が意思をもって襲い掛かってくるのだ
その脅威は如何ほどか、
無防備を晒していたシェインの両肩をレイラが掴み押し倒してその脅威から守る、
二人はペールペーが放つ爆風に吹き飛ばされ地面をゴロゴロと転げ周りながらもなんとか体制を整える
「シェイン、私はお前になら倒せると思ってる」
「はぁ?」
「お前になら王も王女も倒せるっそしてフィーファ様を助けるんだっ」
「…っ、くそ、どいつもこいつも無茶振りばかりっ!」
目の前には何も変わらない光景が広がっている、炎の塊が悠然と対空している、周囲の瓦礫には火が引火して長期戦も厳しい状況
そもそもこんなのと長くやり合うつもりは無い
(見ろ見ろ見ろ、ヤツの隅々までくまなく、魔法なんてものは所詮“線と線”の繋がりに過ぎない、ソコを斬れば魔法は斬れる)
先生から教わった剣術の極意
剣とは、武器とは人が手にして始めて武器としての意味を持つ
その武器を扱うのが人、人間である限り目の動き、息遣いや呼吸、筋肉の収縮伸び縮み至る所に癖がある
武器を使う人間は体を用いなければ武器を行使出来ない
、当たり前の事だがその結果人として産まれ持った癖がどうしても攻撃に転じるさいに影響する、
先生はそれを隙といった
どれ程の体格差があろうと、どれ程の年齢差があろうとこの隙の見極め技術が最終的な勝利へと繋がると
この技術の応用が魔法斬りとなる
魔法を人の体と同じ様に見た場合、線の集合体となる
魔法とは無数の線が折り重なって人が言う魔法となる
シェインの魔法斬りはこの線の接合部が甘い部分に剣を立てているだけだ
それだけで魔法はほつれ、ほどける様に分解される
それはあたかも他者からは魔法を斬っている様に見えるのだ、
高速で飛び回り炎を纏った鳥の化け物ペールペーの線はそのスピードや炎が邪魔をして見えづらい
故に前回シェインは苦戦を強いられた
「ぐ、化け物め、これでは女王に近づく事もままならんか!」
「ガノッサ殿!やはりコイツをなんとかしないと私達に勝機はありません!」
「ぐう、しかし!」
長スピードで飛び回り炎を吐き出す化け物に2人は成すすべもなく体力を削られていく
どこか諦めにも似た感情が二人を支配し始めた時シェインはゆっくりと鳥の化け物はと歩き進んでいく
「シェイン!?」
「レイラ、ガノッサのおっさん、サポートを頼む…」
「っ!!、勝機があるのか!?」
「わかんねー、でも試したい事がある」
「試したい事?」
「良いだろう、その話乗ってやろう」
「信じさせてもらう!」
再度大きく息を吸い込み吐き出す、目を瞑り、勢いよく開く、そして
「行くぞ!」
一気に駆け出す
これ迄の繰り返し、馬鹿の一つ覚え
真正面から敵に駆け、挑む
「はは!愚かな!ペールペー!!」
業火の如き炎がシェインに飛来する
これ迄シェインが見てきたものの中で極大の炎
しかし、
「斬る」
炎は縦に分断される
次から次へと放たれる炎をシェインは次次斬り捨てる
縦に横に、斜めに斬り捨てる
そして
グギャァァァぁぁぁぁぁああ!!?
ペールペーの翼をも切り落とす
翼をもがれた巨大な鳥は浮力を生み出す事が出来ず大地に叩き落とされる、そして
「終わりだ!」
巨大な鳥ペールペーの頭に剣を突き刺すとペールペーは最後短い悲鳴を上げ光の粒子に変換され消えていった
「ふふふ、僕の自慢のペールペーをこうも容易く葬るとは、いやはや、僕も君の事を舐めていたよ……、いいだろう、殺す!!」
そう言うとラミュアはさらに魔力を捻出しこれ迄以上の力を誇示する
「馬鹿な、まだあれ程の力を!?」
「これが…イノセントの女王の力……、」
「………、どれだけデカかろうが斬るだけだ!」
「いいね!いいね!!楽しませてくれるよホントに!なら僕も取って置きをご覧に入れよう!!“白光の聖女”の前準備に是非試射しておきたかったんだ!!」
そう言うとラミュアは放出した極大の魔力を再び自らに取り込みさけんだ、
「我が呼び掛けに応じ従い汝等唱える者共よ
その憤怒をもて血肉持つ者共に魂の鉄槌を…
魔神三面相!!!!」
ラミュアの体を媒体とし彼女を中心にて左右と直上に顔が、巨大な顔が生み出される、
魔力にて編み上げられた巨大な顔はそれぞれがラミュアを介して膨大な魔力を孕んでいる
その表情はどれもこれも悲哀や怨嗟、憎しみをその内に溜め込んでいるのかこの世の者とは思えない程の怒りに支配されているかの様だ、
「漆黒ノ業火ヨ黒キ光ニテ 敵ヲ滅ッセヨ」
「幽ク燃ユル怨ミヲ解キ放テ 怨冥殺海」
「来タレ最優ノ鎮魂歌、迷エル魂二救済ヲ」
ラミュアによって生み出された顔達はそれぞれが高度な呪文を詠唱し、馬鹿みたいに強力な魔力塊を生み出す
一度に強力な魔力塊を同時に3つも練り上げる事を可能とする裏技的方法、
闇属性
霊属性
精属性
異なる3つの属性を制御し、
まったく新たな形に作り変える
「3重協奏滅界波動!!」
これは駄目だ、
そう直感が訴えていた、
魔力、つまり線が多過ぎる、ただ多いだけじゃない、
そのどれもが複雑で人の目で網目を見てる余裕は無い
そんな悠長な事をしていれば立ちどころにあの魔力の暴力に肉体が挽肉に変換されるだろう、いや、あれはそういう物じゃない、消滅させられ俺と言う物が残らない、
「シェイン!?」
「逃げよ!シェイーーン!!」
「あっ!あぁアァアアァああぁぁぁ!!!!」
逃げる暇なんてない、兎に角コレを何とかしないと死ぬ、殺される
必死に、
必死に、腕を動かす、剣を振る、顔の肌が焼き焦げて血が吹き出す
衣服の所々が燃えて消滅する、
線を斬って線を斬って線を斬って線を斬って線を斬って線を斬って線を斬って線を斬って線を斬って線を斬って
どれだけ繰り返しても線は無くならない、
まるで同じ作業を延々と繰り返すだけの苦行
なんの生産性もない、
ただの生地獄
体中が気づけば痛い
手から腕から足から腰から腹から頭から
至る所から血が吹きでる
左目の視界が赤い
しかも見えづらい
恐怖で涙が出てくる
目尻に塩っぱい水がたまる
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい……
体が消える、手が足が肩が腰が胸が首が顔が消える、俺が消える、
シェイン・デューンフォルテという人間が消える
母さんごめん、俺は何もなせなかった
先生ごめん、俺は何もなせなかった
アルフィダはどうして先生を殺したの?
父さんはどうして母さんと俺を置いて何処かに消えたの?
仲間が出来た、
大切な仲間、友達、
アルフィダ、レイラ、アレク、ガノッサのおっさん
そして、守りたい、大切な人
始めて好きになった人
フィーファ…
光が広がる
世界が広がる
五感が広がる
感覚が広がる
視界が広がる
自分が広がる
白い世界が広がる、広がって飲み込まれる
白い世界に飲み込まれる
死にたく無い
「死にたくないの?」
死ぬのは怖い
「怖いの?」
皆と離れ離れになる
「離れるの?」
寂しいのは嫌だ
「嫌なの?」
悔しい
「悔しいの?」
さっきからなんなんだ!お前は!
「わたし?」
お前だ!
「さぁ?なんなんだろうね?」
ふざけてるのか?
「ふざける?」
嫌だ、こんなの嫌だ
死にたくない
生きたい、
「おもしろいね」
おもしろい?
「うん、おもしろいよ」
何がおもしろいって言うんだ
俺は必死なんだよ!
「そんなに生きたいなら生きればいい」
「え?」
「君に力を上げる、だから…‥たし…-_--_ろ____---て---_-`- 」
シェインを飲み込んだ大きな魔力の塊は今尚その力を誇示し、膨張を続けている
闇と霊と精という一般に知られない3つの属性魔法を行使しただけでも高位としては十分、いやそれ以上の高みにあるだろう、それどころかその3つをかけ合わせ全く新しい属性を作り出すラミュアは正しく化け物の領域にいる、
闇を蝕み精神と霊体を蝕み、あらゆる精神体、多次元の存在すら殺すラミュアの狂気が生み出した集大成
シェインはアンティウス流剣術を用いてこれに数秒程持ち堪えた、しかしそれも虚しく彼は魔力に飲み込まれ、その体はバラバラに分解され消し飛んだ、つまりは消滅だ、
「シェイン、…、そんな、」
「私のせいだ…、私が……」
レイラ、ガノッサは己の無力を痛感する、
「素晴らしい、驚くべきだよ、感嘆に値する、僕の3重協奏滅界波動に数秒とはいえ持ち堪えるなんて!見直したよシェイン、君は合格だ、君の願いは聞き届けよう、もう…君はいないけど、」
命をとして抗って見せたシェインの奮闘を称えるラミュア、しかしシェインはその力の前に消えた、
彼女はそれを悔やむ
これ程の才能を彼は持っていた
それを自らの手で詰んでしまった
彼の健闘に答えなければ彼の死に報いなければならない、これは彼女なりのケジメだった
しかしそんな彼女の自己陶酔とも言うべき懊悩を吹き飛ばす事態が発生する
重協奏滅界波動によって発生した強大な魔力の塊が不規則に歪み膨張する
しかし限界まで膨張した魔力は次の瞬間爆発するように
四散し消滅する、
「馬鹿な、僕の重協奏滅界波動が!?」
爆風か吹き荒れる中其れ等を切り裂いて3つの閃光がラミュアへと襲いかかる
「なっ!?」
3つの閃光はそれぞれがラミュアの周りに浮遊する3つの顔に直撃し、跡形も無く、いや残してもらう余地もなく消滅する
「は?なっ何だっていうんだ?」
ラミュアの眼前には“シェイン”が立っていた
消滅したはずだった、
消し飛んだはずだった
なのに、彼はそこにいた
しかもただいるだけじゃない
体中から白いオーラと形容すれば良いのだろうか?
靄のような物が浮き出てをり髪も半分白く変色していた、ただ目だけは青いまま
青く何処までも青く海の様に、あるいは空の様に何処までも青く、その底無しの空のような青い目は畏怖をラミュアの心に擦り付けるには十分過ぎた
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