4話 俺がお前を助けてやるよ
私を助けて欲しい。 彼女はそうシェインに告げた。
何気に放たれた言葉ではなく確かな決心を込めた言葉のようにシェインには聞こえた。
「助けて…欲しい……?」
「はい…私を…いえ、私達を助けて欲しい…のです。」
「どういう事なんだよ、一体フィーファは何から助けて欲しいんだよ、」
「そう…ですね、何も話さずただ助けて欲しいと言うだけでは何も伝わりませんよね、」
そうつぶやくとフィーファは何かを決心したように表情を引き締めると改めてシェインの顔を見つめた。
「改めて自己紹介させて貰いますね、私はフィーファ、フィーファ・レスティーナ。…列国五大国家の一つに数えられるレスティーナ王国の7代目王女に当たります。」
「……えー…と…お姫様って事か、…事ですか?」
「取って付けたような敬語はいりませんよシェイン、さっきと同じ態度でいてください。話を戻しますがかんがねその認識であってます」
「そのお姫様がなんでこんな辺境の村まで化け物に追われるようなリスクを冒してまで来る必要が、」
「先ほども話しましたが私の…私達の目的は貴方の師、グラインさんだったんです。」
「先生に…」
「はい、今私達の国は他国からの侵略、…そう、恐らくは侵略に当たる行為に晒されています。 お恥ずかしい話ながら城内は誰が敵で誰が味方かも分からない状態でして誰も信じられないような状態が長く続いていたんです。」
「どういう事なんだ?よくわからないんだけど、国ってのはもっとこう大きな岩みたいに揺るがない物なんじゃないのか?」
「どんなに大きく立派な岩でも長い時間雨風に晒されていれば形が変わり元の形状から変化していく物です。まして人が作った組織なんてものは悪意や善意で如何様にも変わって行くものですよ、」
フィーファは視線を下にやり息をすぅーと吸い込むと一気に言葉をはきだした
「私は自分の家である城の中で命を狙われたんです。」
絶句だった、言葉が出ないとはまさにこんな時の心情のためにある言葉なのだと思い知らされる。
「 寝室に火をつけられたんです、ご丁寧に部屋のなかには結界が貼られていてそれを解除している余裕はありませんでした。 」
「そんな…それじゃ…」
「はい、確実に計画的な犯行でした。私は城のなかで誰かに殺されかけたんです」
「ダルくて重い体をなんとか動かして火を消そうとしましたが意識を保つだけで精一杯で死ぬ事も覚悟したんです」
「部屋から逃げ出せなかったのか?」
「結界で鍵がかけられていましたし何より体がまともに動かないのであの時はあー私死ぬんだーってヤケクソになってましたし真面な思考が出来てなかったんですよ、そんな時、私を助けてくれたのがレイラだったんです。」
「レイラ?」
「シェインも先ほど会ってますよ?」
「そうなの?」
「スタイルの良い赤髪の女の子ですよ」
「あぁ、アイツか、」
ガノッサとか言うずう体のデカい大男の後ろでガンを飛ばして来てた槍をもった女の事を思い出す。
歳は俺達と変わらなさそう、鋭い目つきの女という印象が強い。
やたらとガンを飛ばしてきてたのでぶっちゃけちょっと怖いと言うのが正直な所だったりするが、まぁ馬鹿正直に言ったらフィーファに舐められそうなので言わない。
「意外だな、俺はてっきりあのオッサンが助けにきたのかと思ってたよ、」
「オッサンってガノッサの事ですか?駄目ですよ、他人をその様な俗称で呼んでは」
「で、火を付けた犯人は見つかったのか?」
「見つかっているなら私は今ここにはいませんよ。」
「それもそうか…、…ちょっと聞きたいんだけどさ、フィーファは侵略を受けているっていったけど根拠とかあるのか?なんか話を聞いてると身内…えーと、その城の中の誰かの可能性の方が高そうに思うけど…?」
「確かにその可能性の方が大きいかも知れませんね、でもいやじゃないですか、知り合いの中に私を殺すという明確な意志を持った人物がいるというのは、ゾッとしますよ、」
「まぁたしかにな……」
「ハッキリしているのは城は安全では無くなった、 私の憩いの場では無くなった、列国間では常に国同士で足の引っ張り合いが慢性的に行われています。
あの火事も今にして思えば私を殺す意図は無かったのかもしれません、結果はどうあれ敵対国にとって私と言う存在は政治的価値がある、だから弱らせて拉致しょうとかそんな考えをもってる輩がいたと考えても何ら可笑しな事じゃないとか色々ですね、」
「いくらなんでもガバガバなんじゃないのか?拉致が目的なら殺してしまったら元も子もないじゃないか!」
「多分価値があるってだけで死んだらそれはそれでって感じなんじゃないでしょうか、」
「投げやりなお姫様だな…」
「私は自分にそこまでの価値があるとは思っていませんからね…」
目を伏せて儚げにぼやく彼女がこれまでどんな人生を歩んで来たのかはシェインにはわからない、わからないけどこれだけはハッキリと断言出来る。 「この世の中に価値の無い人間なんかいねーよ、生まれて来たからには何かしらの意味があるんだ、あるはずなんだ、 だから自分に価値が無いなんて言うなよな、」
そう断言するシェインの姿に一瞬呆気に取られるも次の瞬間には可笑しくなって笑っていた。
「なっ何笑ってんだよ、人が真面目にっ…」
「ふふ、ゴメンゴメン…つい可笑しくって、でもそうですね、何か色々悩んでたのが馬鹿みたいに思えてきました、」
そんなフィーファの様子にシェインのなかで何かの踏ん切りが付いたのかおもむろに立ち上がると
「よし!決めた!」
と決意を口にする。
「助けてやるよ!俺に何が、どんなけの事が出来るのかわかんねーけど俺が助けてやる!」
「貴方が…ですか?」
「先生が言ってたんだ、お前に剣を教えるのは人殺しをさせるためじゃない、誰かを助けるためだってさ、」
「素敵な教えですね、私はグラインさんには会う事が出来ませんでしたがシェインを見ていればとても立派な方だったのだとわかります。」
「あぁ、俺の目標だ、だからフィーファ、俺はお前を「笑止!」たっ…えっ、?」
シェインの決意に割り込み被せるように会話に乱入してきたのは白銀色の鎧を着込んだ大男、ガノッサだった。 ガノッサはシェインを睨みつけ まるで哀れむかのような視線を向けて来た。
シェインとフィーファ
二人の前に現れた大男、ガノッサは大きな顔を真っ赤にしながらがなり立てるように言った
「助ける?つけ上がるなよ少年、君のような青二才が興味本意で首を突っ込める世界の話ではないのだよ、この問題は」
「なに?」
シェインは精一杯ガノッサを睨みつける、小さな子供が大人に虚勢をはるように、しかしそれが虚勢だとわかっているからこそ、ガノッサはよりシェインを睨みつけ答えた
「聞こえなかったのか? 君のように平和な世界で生きてきた子供に立ち入れる次元の問題ではないのだ」 「子供扱いするな!俺はっ」
「子供扱いされた事にムキになっているのが君がまだ子供である何よりの証拠だ、そもそも君は、君は自身の剣で人を切る覚悟があるのか?」
「俺の剣術は人を殺すためのものじゃない!俺の剣術は…」
「その考えが甘いと言っているのだ、その甘い考えの結果、君は何を失う事になるか、まるで考えが及んでいない、」
「分かったような事言いやがって、俺が倒した化け物相手に多人数でかかって返り討ちにあった雑魚が偉そうに!」
「たしかに我等は君の倒したモンスターに敗れた、それは事実だ、君の力が無ければ我々は姫を護る事もろくに成せない弱者だろう。」
「…だったらっ!」
「君は強いのだろう姫が君に頼りたくなるほどに、我々より、情けない話だ、君主を護る事もできず敗走を重ね、我々に姫を護る資格はないのかもしれない。 だが、我等には姫を護る義務、責務がある、そして意地があるのだ、レスティーナ王女専属近衛騎士としてのプライドが!」
「ガノッサ…」
フィーファは自らの騎士の心使いに複雑な心境となる。 自分でも彼の言わんとしている事は理解している、自分がしようとした行為は実戦経験もない子供を死地へと誘おうとしているのだからその行為は死神と何ら変わりない、何より彼という素人を戦場に立たせるデメリットは彼女の知人となる仲間達に負担をかける、最悪死人も仲間から出るだろう、その覚悟、責任を取れるのか、それをガノッサは彼に言っているのだ、 であるならば自分のとった選択がいかに危ういか彼女は理解出来ないほど子供でも無かった。 そんな事を彼女が考えている内にも状況は進んでいく。 ガノッサは腰に収めた剣を抜き放ちそれをシェインの元へと投げ渡した。 その剣は定めたようにシェインの足元に刺さりさもシェインに使って下さいと言わんばかりに 彼の視線を釘付けにした。
「何のつもりだ?」
「抜け、君に覚悟があるならお得意の剣でそれを証明してみせろ」
「剣で勝負?化け物に勝てなかった奴が俺に剣で勝てると思ってんのかよ!」
「ツベコベ言わずかかって来たらどうだ?それとも怖いのか?」
「舐めるなよ?返り討ちにしてやるよ!」
シェインは地面から突き刺っていた剣を抜き放ち、ガノッサは自身の武器であるハルバードを構えた。
「近衛騎士団長ガノッサ・ケルビン参る!」
「っ!シェイン・デューンフォルテだ!」
互いに真剣での勝負、 シェインが握る物も錆び付いて刃のかけたナマクラではなく入念な手入れが行き届いた本物の剣である 死ぬ事も十分にありえる真剣勝負が始まった。
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