32話 レスティーナの王
馬車から飛び出すように下車したシェインの感情は感動で埋め尽くされていた
「すげーっ!これが都会!レスティーナ!」
同じ大国でありながらマグラーナとは貧富の違いがある、
道行く人々からして違う、シェインには国民全てがキラキラと光って見えた程だ、
何よりも目を引くのが町並みの壮観さだ
木々が生い茂り、緑豊かで国全体が生命力で溢れてるようであった
まるで木々全てが豊潤な命の息吹を吐き出しているような
それもそのはずでこのレスティーナと言う国が大勢したのはこの木々の生命力、“マナ”の恩恵であると言っても過言ではない
国全体を囲う様に生い茂る木々は常に高純度のマナを常時発生させてをりそんな高純度魔力を生まれた時から浴び続けた国民は殆どが高レベルの魔法適正を持って育つ、日常生活に魔法が浸透した魔法大国なのである
言うなればこの国の人々は自然と魔法との共存をなし得た種族と言える
「そんな珍しい物なんてないでしょ?どこ見ても木ばっかりですし、シェインの故郷と変わんないですよ?」
「馬鹿言えよ!全然違うじゃん、何もかんもキラキラしてるし、俺の故郷なんてただの田舎じゃん!」
「ただのって、自分の故郷を悪し様に言うモノじゃないと思いますよ」
「まぁシェインの気持ちもわかりますよ、私も初めてこの国に来た時は圧倒されましたから、」
「だよな!だよな!!」
「も〜、」
そんな感じに3人はそれぞれな反応をして楽しんでいたがコチラに駆け寄ってくる者がいた、
白い光を放つ銀色の甲冑を纏っているのはガノッサが率いるフィーファの近衛騎士団の団員だ
彼等はフィーファ達の方へと一目散に駆け寄って来たと思うと間もなくフィーファの前で膝を付き涙混じりに懇願を始めた
「フィーファざま!よくぞ!よくぞお帰りになられました!」
「団長を!どうか団長を!!」
大の大人達が半べそでまくし立ててくる
奇しくも凄まじい圧にたじろぐフィーファ
「落ち着いて下さい皆さん!何が、何があったんですか?」
そう確認を取るフィーファにたいして騎士達は涙と鼻水を流しながら訴えた
「団長が!ガノッサ団長が今日!処刑されるんです!」
「待って下さい、ガノッサが死刑?」
「はっ…はい!団長が、団長が!」
「死刑って、いつからだ!?」
シェインが割り込み騎士に問いかける
「え?、今、今からだ、もう壇上に上がってるかも知れない…」
「案内しろ!」
「え?」
「早く!!」
「わっ、わかった!ついて来い!」
騎士達はシェインを連れてガノッサの処刑場所へと案内するために駆け出す
「シェイン!!」
「!?」
「気を付けて!」
「あぁ、任せろ!レイラ、フィーファを頼む!」
「心得た!」
騎士達の先導のもとシェインは駆け出す、城下町の中を歩く人々の波をかき分け広い踊り場に出るといっそう多くの人混みが溢れていた
その中心には高台がもうけられてをり中心には手足を鎖で縛られたガノッサ、そのガノッサを囲むように槍で武装した騎士達が取り囲んでいた
「これよりガノッサ・ エルビンの死刑を執り行う」
「…………。」
ガノッサは既に自身の死を受け入れているのか抵抗の意思すら見せず今から起こる事実を運命に委ねていた
諦めがその表情からはにじみ出ていて彼が自らの死に疑問すら持たないほど追い詰められていたようだ
ガノッサを囲む騎士達はおのが持つ武器に力を込め合図を待っている、そして、
綺麗に口髭を纏めた豪奢な衣装を纏った老人が手をかざすと騎士達はガノッサに向け槍を持って突進した
「やめろーーーー!!!!」
シェインは手にした剣を頭上高く持ち上げソレを地面に叩きつけるように振った
衝撃がはしり、地面はひび割れ轟音が周囲に走る
奇しくもそれは騎士達の手を止めその注意をシェインに集中させる役割を担っていた
「君は…、シェイン…?」
ガノッサは闖入者の主がかつて自身の後進としてフィーファを守る者と認めた少年であると理解すると思わずその名を口にしていた
シェインはガノッサの死刑台に歩みより、まるでモーゼの十戒の如く海が割れる様に死刑を見物しに来た群衆は道を開ける
「何をしている、早くガノッサ・エルビンの死刑を進めぬか」
「っ!、はっ!」
シェインの乱入に気を削がれたが老人の命令に我を取り戻した騎士達は再びガノッサに向け槍を向ける
「ちっ!」
シェインは猛スピードで走り抜け一気に台に上がり詰めガノッサを守る様に騎士達に剣を向ける
「シェイン!?何故君が!フィーファ様と一緒じゃないのか?」
「おっさんこそなんでこんな事になってる?こいつ等仲間じゃないのかよ?」
「……、それは…」
ガノッサとの情報交換の合間もシェインは周囲へ剣を向け威嚇する事をやめない、
そんなシェインに向けて騎士達に指示を出す老人は問いかけてくる
「何だ貴様は?」
「アンタこそ誰だ?」
「この国の土を土足で踏み荒らしておいてこのワシを知らぬとはとんだ愚か者だな、小僧」
「名乗りもせず高みから見下すとは随分な態度じゃねーか?え?爺さん」
「自らの無知を顧みず傲岸不遜極まりないその態度、誠に不敬に過ぎるな、」
「シェイン、止めるのだ、この方こそ、元レスティーナの君主、レスティーナ王その人だ、」
「レスティーナの王様?じゃこいつがフィーファの爺さん…?」
ガノッサから衝撃の事実を知るシェイン、
この人を見下す態度しかとらない傲慢な老人がフィーファの叔父…国の王様?
「小僧…今何と言った?」
「は?」
「今ワシの愛しい最愛の孫娘を名指しで呼んだか?」
「何言って……」
「看過できぬな、者共、この小僧、生け捕りにせよ、抵抗するなら殺しても構わぬ」
「なっ!?、お待ち下さい、王!この少年は関係ありますまい!全てはこのガノッサの不徳、どうか、どうかその怒りを収めくだ…」
「黙れ!貴様の死がそこまでの価値あるモノなどと驕るなよガノッサ!」
槍兵の切っ先はガノッサからシェインへと変更される、
「悪く思わんでくれよ、坊主」
槍兵達はシェインに向けて突進する、一斉にシェインに向けられる槍の切っ先の雨になすすべなく貫かれる未来をガノッサは幻視する、だがシェインは槍が交差するタイミングで上体を屈めその小柄な体躯を最大限利用して槍兵の猛攻を避ける
奇しくも槍兵達は互いの突きが仲間の動きを阻害する形になり互いが互いに手を引っ張り合う形となる、そこにシェインは下段から強烈な突き技を放った
「勁技改・轟天」
技をモロに食らった槍兵は胸の鎧が弾け飛び後方の兵も巻き込んで上空に叩き上げられる
その光景に若干怯んだ兵に対して容赦無くシェインは斬りかかる、“格下“が大挙して襲いかかって来た場合の対抗策としてもっとも効率の良い技
「幻夢斬!」
を放った
幻夢斬は一度の斬撃で複数の斬撃を波のように放つ特性を持つ技だ、
その波は読み辛く気づいたときには技の餌食となっている事から夢、幻の様な技として命名されている
徒党を組む槍兵達はこの複数斬撃の波の前になすすべなく打倒され残るは1人、
槍兵は我武者羅に槍をシェインに対して突き出しながら突進してくるがそのリーチの長さが仇となり安安とふところに潜り混まれ小手を打たれて武器の槍を手放してしまう、
丸腰となった騎士の喉元に剣を突き付けシェインは横目で王を威圧する、
「さぁ、どうする?アンタの兵隊は全部倒したぞ?」
「随分と威勢の良い事だ、ならこのワシ自ら手を下そうか、」
年寄りとは思えない気迫を発する目の前の老人はけっして侮って良い存在ではないとシェインは痛感する、
全身から滝の如きマナが溢れ出ていて視覚化する事が可能な程だ、
流石はフィーファの血縁者だと言う事か、
どうやら王の座に胡座をかいてるだけの老いぼれでは無さそうだとシェインは剣を握る手に力を入れる
そんな時新たにこの場に介入してくる人物の声が2人の戦いに水を差す
「待って下さい!!」
そこにいたのは王の孫娘、フィーファ・レスティーナ
急いでこの場にやって来てみればシェインと叔父が今から頂上決戦をおっ始めそうな勢いだ、
フィーファからしたら何故こんな事になってんだ!
という心境だろう
「何故2人が争っているんですか!双方とも武器を下ろして下さい!」
「全てはお前が招いた事なのだぞフィーファよ、お前は大人しくワシの庇護下に居ればよいのだ、」
「お祖父様は知ってるんですか!レスティーナは!マグラーナからの進行を密かに受けていたのですよ!誰かが何とかしなければ何れこの国に災厄が訪れる、だから私は!!」
「そのような事些事に等しい、捨て置けば良いのだ」
「なっ?何を言っているのお祖父様…私は…何とかしょうと…」
「驕るなよ、フィーファ、お前はまだ子供だ、何も出来ない、何もなせない無垢な赤子に等しい存在なのだぞ?だからこそお前はワシの庇護下にいれば良いのだ、ソレを勝手な事を!」
「私が!私がどんな目にあっていたかも知らずに勝手な事を言わないで!私は!私は!!」
「知っておるよ、お前は少々無鉄砲な所がある、多少痛い思いをすれば聞き分けの一つも良くなると思っておったがまさか、家出まがいの暴挙に出るとは思わなんだぞフィーファよ?」
「は?知ってた?じゃお祖父様は私が苦しんでいたのを知ってて……?」
「許せフィーファ、これも全てはお前のためなのだ、今は分からずともいつかはわかる日が来る、その時までワシがお前を守ってやる」
「は?え?……なっ…なっ…」
「安心せい、レイラだったか、それの役目も終わった、お前に危害をかける塵も処分しょう、役目もまともに果たせない無能も処分しょう、全てはお前のためだ、必要とあらばまた全部用意しょう、今度は何が欲しい?フィーファよ。」
「黙れよ爺さん」
レスティーナ王の一方的な主張はフィーファの心を折るには十分だった
叔父の事は理解していた、しているつもりだった
しかし実際は全くわかってなどいなかった
コレではペットどころの騒ぎではない、これでは人形だ、愛らしい服を着せ家族ごっこに興じるための道具が良いところだろう。
本当に愛されているのかすら怪しくなる、
祖父はホントに“私“を見てくれているのか
もはや何もわからなくなる
心が折れる一歩手前で頼り甲斐のある少年の声がした
「今は家族水入らずの時間なのだがな?貴様はそんな事もわからんのか小僧?」
「フィーファが今どんな顔してんのか解ってんのか?たった1人の家族が!そんな顔させていいわけないだろ!」
少年はいつだって助けてくれた
絶望的な戦いにも力を貸してくれた
守ってやる、そう約束したから
たったそれだけの口約束を守るために
この約束が少年にとって大きな意味を持っている事を私は知っている
親代わりをしてくれた恩師との絆
でもそれだけではないと最近は思う様になった
願わくば彼にとっても私と言う存在が少しでも大きな意味を持っていてくれたら嬉しいな
そんなことをこんな状況で思ってしまう自分が恥ずかしかった




