30話 レスティーナへ行く前に
マグラーナ国民へ向けたフィーファとフィオナ両名の説明演説からは既に2日が過ぎ勇者騒動からは5日程の日々が経過していた
フィーファは予定通りにレスティーナへの旅に向けてコツコツと準備を整え、今日ようやく出発の日となった
「いよいよですね、フィーファ様、」
「はい、色々と苦労をかけましたねレイラ」
「そんな…、全ては私が招いた事、フィーファ様に恨まれこそしても、感謝されるなどそんな資格、私には…」
「貴方が協力してくれたから私はこの国で成すべき事が出来た、本当に感謝してるんですよ、」
「フィーファ様…、はい!」
「しかし不安は未だ消え去ったわけではありません、
コレからの事を 考えると憂鬱ですよ…」
「そうですね、マグラーナのスパイはまだレスティーナ内にも潜伏しています、それらを制圧するまでは安心など出来ないでしょうね、」
「あっ、そっちじゃなくてですね、」
「そっちじゃない?」
「お祖父様の方ですかね、」
「あぁ…」
「マグラーナのスパイに関しては洗脳の呪いも解けてますし、なによりロンド大臣からの署名を頂きましたから…まぁなんとかなるでしょう、問題はお祖父様ですよ……はぁ〜……」
「心中お察しします」
「半ばこのカラッタ村やマグラーナへの旅は家出同然に城を飛び出した結果ですし、お祖父様がどう出てくるかを考えると怖いですね、」
「あのときは仕方なかったと思いますよ?王も城の中に族が紛れてるとなると城内はかえって危険、この旅は結果だけでいえば正解だったと思います、」
「あの人に論理を説いても意味はありません、
あの人が赤だと言えば青も赤になるんですよ…」
「そんなめちゃくちゃな…」
レスティーナ王が姪であるフィーファを溺愛しているのは列国関係者の間ではそれなりに有名だ
列国間の親交を深めるためのパーティーはこれまで幾度とひらかれてきたが王は一度たりともフィーファをパーティーに同行させた事がない、
なかば監禁、幽閉を疑う者もいるほどでその寵愛ぶりは傍目には異常に映る程である
何か、他者の目にフィーファを映させたくない、そんな強固な意志すら感じてしまう程に、
無論、年若く好奇心旺盛なフィーファがそんな生活を15年も強制され続ければ憤慨が爆発するのも当然で日々のストレスに加え、例のマグラーナスパイへの精神的なダメージも加わり彼女の精神は当時限界を迎えていた、
その結果彼女は独断で城からの脱出を画策、騒動のどさくさに紛れ最低限の護衛を伴って城からの脱出を図ったのだ。
まぁ一応は城に手紙を度々送っているのでそこまで大事になってるとは思はないが…いや、思いたくないが、あの王がフィーファが帰って来たとなるとどういう態度を取るかは未知数、フィーファはそれを考えると今から胃が痛む気持ちである。
「まぁ今は心強い仲間も沢山増えましたしなんとかなるでしょう!」
「その事なのですがアルフィダから言伝を預かっています」
「言伝?」
「はい、彼は一度得た情報をラティクスに報告するため帰国するとの事です、なのでレスティーナには私達だけで行く事になりそうです、」
「そうですか…まぁ仕方のない事ですね、元々彼はラティクスの人間ですし、これまで協力してくれてたのもたまたま利害が一致しただけでしょうし、残念ですが」
「はい」
「でもレイラは彼の事を以前から知っていたようですよね、親しくしている所を何度か見ました、私は彼の事を良く知らないので少し羨ましいです、」
「彼とはフィーファ様の近衛を始める前にやっていた傭兵稼業で何度か一緒になった事があるくらいですね、ヘラヘラしてる割に腕はかなり立つので人は見掛けに寄らない事を学びました」
「まぁ確かに、いつもフラフラしてますよね、そういえばにシェインとは幼馴染なんですよね、彼」
「はい、カラッタ村に2年程滞在していた時期があるみたいですね、まぁ私が彼と会ったのは彼がカラッタ村を出てからの事だったのでその当時の事はよく知りませんね」
「そうですか、シェインもアルフィダの事はあまり教えたくないみたいでさり気なく聞いてもはぐらかされてしまうんです、」
「フィーファ様は彼の様な男性が好みなのですか?」
「ふぇ?っちっ違いますよ!!何わけわかんない勘違いしてるんですか!!そんなんじゃないですよ」
「まぁ彼、顔は良いですからね、」
「だから違いますって!!」
ケラケラと笑うレイラに顔を真っ赤にして反論するフィーファ、その慌てようが帰って怪しくみえてレイラの中のフィーファをからかいたいという感情が刺激される
「好きとか嫌いとかそういうのはよくわかりません、そもそも私は彼の事を何も知りませんからそのような感情を持つ段階に至ってませんし、むしろレイラはどうなんです?」
「私ですか?」
「マグラーナにいる間、割と彼と行動を共にしていた期間が多かったじゃないですか?何か進展だとかあったんじゃないですかー?」
「それこそ何もありませんよ、私は彼が嫌いですから」
「そうなんですか?」
「何と言うのですかね?いつもはヘラヘラとテキトーにしてるくせに妙に鋭いし、見るところはしっかり見ている、自身の才能を隠してるというか、チグハグな所が嫌いなんですよ、」
「……………、やっぱりよく見てますね、」
「見てるんじゃないです、鼻に付くんですよ、彼のそういう態度が、」
「ふ~ん、」
誰が誰を好きだとか嫌いだとかそんな他愛のない会話がこんなにも楽しく感じれるのはいまの彼女達にゆとりができたからか、それとも単純に他者との繋がりを明確に感じたいからか、フィーファは作業そっちのけでレイラとの他愛ない会話に花を咲かせるのだった。
マグラーナ城内の一室では先の勇者騒動の功労者であるアレクが傷付いた体を癒やす為に養生している
そこに見舞いにやって来たシェインが恐らくは最後となる彼との会話に話を弾ませていた
「今日中にはレスティーナに行く事になりそうだわ、少しワクワクしてんだ、」
「そうか、寂しくなるな、君にはもっと色々な事を教わりたかった」
「よせよ、俺はまだ人に何かを教えれるような立場じゃねーし、アンタならきっと勝手に強くなっていけるさ」
「そう言って貰えて光栄だよ、何処までいけるかわからないけど独学で頑張ってみるよ」
「アリエスなんかは中々強かったぞ?先生役にはうってつけだろ?」
「…………アリエス…か、そうだね、頑張ってみるよ、」
「やっぱりまだキツイか?」
「正直直ぐには割り切れないかな、でも逃げてばかりじゃ駄目だからね、俺なりに頑張るさ、」
「そっか……、じゃあ、俺はそろそろ行くわ、頑張れよ、アレク」
「あぁ、君もな、シェイン」
「おう、じゃぁな、」
そう言って部屋を後にしょうとしたシェインに向かってアレクは戸惑いつつも話かけた
これが最後になるかも知れないから
「ありがとうな、シェイン、君がいなかったら俺はずっと何も知らないままだったよ、だからありがとう。」
「おう、」
アレクの部屋から出てきたシェインをアリエスが待ち構えていた、
ずっとシェインが出てくるのを待っていたようだ
「悪いな、待たせちまって、用は済んだし邪魔者は直ぐに消えるよ」
「別にそんな風には思ってないわ、私なりに君には感謝してる、君がいなければ今でも私はアレクを傷つけ続けていただろうから、」
「俺は偽勇者の魔眼がどれほどのもんか今一実感がないし、偉そうな事は言えないけど仕方なかったんじゃねーか?好きであんな事してた訳じゃないのはアレクもわかってんだろうし、まぁ…だからといってどうなるもんでもないのかも知れないけど、」
「そう、結果はどうあれ私はアレクを傷つけた、それも想像出来る限り最悪の方法で、
洗脳されてたってそんな事を言い訳にしていい問題じゃない、私は…私は…」
「ならまた私死ぬ〜とか抜かすのか?」
「馬鹿にしないで、君に言われた通りそれがただの逃避なのはわかってる、アレクの事を考えない一方的な自己陶酔なのも、だから私は彼の側にいる、例え疎まれようと……側にいる。」
「そっか、」
「もういくんでしょ?」
「あぁ、俺は俺で守りたい人がいるからな、」
「ならお互い頑張りましょ、」
「あぁ、アンタも頑張れ、」
そう言ってシェインとアリエスは互いに健闘を祈りながら背を向け互いに守るべき人のもとに向かう
城から出てフィーファ達が待つ場所へと向かうシェインを今度はアルフィダが呼び止めた、
「よ!シェイン、」
「アルフィダ、何だよ、唐突に、」
「レイラには言ってあるんだがお前にも伝えとこうと思ってな、」
「なんだよ?」
「ここらで俺は別行動を取らせてもらう」
「別行動?何で?」
「忘れたのか?俺はラティクスの自由騎士だ、王様にもろもろ報告しなきゃならん、フィーファ様の事やマグラーナの事とかな、」
「そっか、寂しくなるな、」
「思ってもない事いうなよ、」
「思ってるさ、」
「そりゃ光栄だな、俺はてっきりコレでハーレムだ!とか喜んでると思ったぜ?」
「アルフィダには俺がそんな風に見えてたのか?残念でならないな!」
「ははは、怒んなって!約得なのは事実だろ!二人共美人だし、」
「………、」
シェインにはアルフィダに聞きたい事がここ数日の間で急増した、
もともた聞きたいことはあった、
何故師を殺したのか、
何故俺を殺そうとしたのか、
村にいた頃と違い今は目の前の本人から聞く事が出来る
のにそうしないのは何故なのか、
多分怖いのだ
聞くのが、どんな返答が帰って来るのか予想出来ないから…
「なぁ?アルフィダ一つ聞いていいか?」
「おう、なんだ?」
「王様を殺して勇者の目を潰したのはお前か?」
「流石だな、あぁ、俺だよ」
「何故王様を殺したんだ?それもラティクスの王様の命令か?」
「いや?俺の独断だ」
「なんで殺したんだ?殺さなくても他にやりようはあっただろ?」
「あるかも知れないが王には退場願うのが1番合理的だ、今のフィーファ姫にはあの王や勇者をどうにかするのは酷だ」
「そんなの!やってみなけりゃわからんだろ!」
「無駄な横道を歩いた末に寝首をかかれる事もある、そうなった時お前は後悔しないのか?」
「……そんな事にはならない、フィーファは俺が守ってみせる!」
「子供の論理が通用する場所じゃないんだよ、ここは」
「………、」
「もう少し広い視野を持て、シェイン、じゃないと後悔する事になる、俺みたいにな、」
「え?」
「選別に良い事を教えてやる」
「いいこと?」
「黒幕はアングリッタだ、」
「は?…何だよそれ?」
「後は自分で考えろ、本当にお姫様をお前の力で守りたいなら力をつけろ、じゃあな」
「ちよっちょっと待てよ!?」
シェインの静止など意にも返さずアルフィダは歩き去っていく、同じ歩幅で歩いているハズなのにまるで追いつけない、まるで蜃気楼のように朧気で掴み所がない
角を曲がった時、そこにアルフィダは既になく、最初からそこにいたのか疑問に思えてくるくらいだ
「アングリッタってなんだっけ?」
以前何処かで聞いた様な気がするがまるで思い出せない、フィーファ達に合流後に聞いてみようと思うシェインだった、
何せレスティーナへの道は長い
時間は腐る程あるのだから
書置きストックがなくなった、




