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ユーディキウムサーガ 父親に捨てられた少年は好きになった少女のために最強の剣士を目指す  作者: ムラタカ


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24話 茶番の先に見えるモノ

フィーファ達とマグラーナ専属騎士団長ロンドとの密談からおよそ一日が経過した午後のこと


荷物持ち担当のアレクは変わらず勇者パーティーと行動を共にしていた。

フィーファから聞かされた話、弟が洗脳能力で幼馴染達を操ると言う話の信憑性について考えていた。


いや、考えるというより気づけば考えてしまっていたといった方が正しい、

一度そうだと思いこめばそれが真実で正しいと思い込むのが人間だ、彼にはこれまでの幼馴染や妹の豹変など彼女等の言動の不自然さにようやく合点がいった感じであるがだからといって彼女等と元通りの関係を組みたいかといえば答えはいいえと答えるだろう。

仮に幼馴染や妹が正気に戻ったとして昔のように接するには自分の精神は余りに疲弊し過ぎた。


人間不信ならぬ身内不信とでも言うのか、もはやアレクには何が正しいのか分からなかった、

ただシェインとの木刀での打ち合いは楽しかった。

あれ程一つのことに打ち込んだのはいついらいか、

時間を忘れるとはまさにこんな感じなのかと久しく忘れていた感覚に心が踊ったものだ、

なら俺はいったい何がしたいんだろう…と考えていたとき、

足に鈍い痛みを感じた


「何ボサッと突っ立てんだ、このグズ!」


どうやら俺は幼馴染の女剣士アリエスに足元を蹴られていたようだ、アリエスは心底不快そうにコチラを睨みつけるとそれまでとは一転して笑顔で弟である勇者アノスの元へとかけよっていった。


「おいおい、駄目だろアリエス、あんなのでも一応俺の兄貴なんだ、暴力はいけない、暴力は」


「もぉ!アノスはなんて優しいの、あんななんの役にもたたない無能を気遣うなんて、」


「当然だよ!アノスお兄様はあんな一家の恥にも優しくせっする勇者様なんだもん!」


「ふふ、そうね、私もう、アノスさえいればもう他になにもいらないわぁ、」


またいつもの茶番が始まった、いやこれはアノスが彼女達を操ってやらせてる事ならまごうことなき茶番そのものなのだろうか、


「くく、どうしたよ兄貴?羨ましいのか?昔はこいつ等もお前にメロメロだったけど今は俺にぞっこんだわ!参ったなぁーコリャ!」


「……、」


「おいおい、どうしたよ、とうとう頭まで可笑しくなっちまったかぁ?えぇ?」


「……、」


「ちっ、だんまりかよ?イライラするよなー、言いたいことがあんならハッキリ言えよ?あぁ?」


「…なら教えてくれよアノス?

おれにはどうしても知りたい事があるんだよ…」


「!、へへ、なんだよ、優秀な兄貴様が俺に何を教えてほしいって?教えてやってもいいけど態度しだいしゃ、」


それまで沈黙を守っていた兄に唐突に教えてほしい事があると問いかけられ、アノスは気分良く兄に対して質問への回答を快諾するもただ教えてやるだけじゃつまらないとここでも自分が兄より優位であると証明するために

頭を下げる事を要求しようとする、だがそんな弟の言葉など意に返さずアレクは弟に問いかける。


「お前がアリエス達を洗脳し、好き勝手に利用しているのは本当か?」


「はっ!??」


唐突に確信を付くような問いかけに絶句するアノス、

しかしそれも一瞬の事で彼の中にはどす黒い感情が渦巻き始める。

兄がどのようにして洗脳の事について知り得たかはわからない、

しかしそんな事は些細な事だ、

どうせコイツには何もできない、これまでがそうだったようにコレからもコイツは俺の足元で這いつくばるうじ虫の如く蠢くのが関の山だ、

どこぞの冒険者のように追放だのクビだの甘っちょろい扱いにはしない。

生きてる内は扱き使ってボロボロの雑巾のように酷使して特等席でアリエスやプリシラなどコイツが大切にしてた女供を性欲の捌け口にしてるところを見せつけるのだ。


「よぉー兄貴、やっぱアンタ凄いぜ!そーだよそのとーり!俺がこの力でこの二人…いや、この国の女供を全て俺の思いのままにしていたのさー!!」


「…。」


「ははは!よぉ、どんな気分だ、自分の大切なモンが見下してた弟のオモチャにされてる気分はよぉ!最高だったぜアリエスの具合は!フひひひふぶぉあっっ!?」


意気揚々とアレクを挑発していたアノスは高笑いの最中にアレクから勢いよく殴り飛ばされ下品な悲鳴をあげながら倒れ込む。


「ぎゃあぁー?アノスウぅぅ?」


「お兄様!?」


その様を見ていた幼馴染のアリエス、実妹のプリシラは悲鳴のような声を上げうずくまるアノスに駆け寄る


「てっ…テメェぇ!!」


「グズの分際でよくも私のアノスを!よくも!よくもーー!!」


「グズでも兄だと思って労ってやってたのに調子にのりやがってっ、殺してやるー!!」


「もういい、もうたくさんだ、終わらせてやる…」


そうぼやくとアレクは担いでいた荷物をおろし、その中から一本の剣を取り出した。


「こいつ!?」


「何生意気に剣なんえ持ってんのよ?馬鹿みたい」


「実の妹に刃物を向けるなんて落ちたモノね、ホントに哀れだわ、最・低!」


剣で武装したアレクに対してそれぞれ声を上げる女2人、


「馬鹿じゃねーの?マジで?お前が今更そんなもん持ったところでなんも変わんねーよ、おい!アリエス!プリシラ!コイツを痛い目に合わせろ!!」


「えー?もういいでしょ?殺しちゃおうよ!こんなヤツ」


「そーだよお兄様!私お兄様は1人いればいいもん!」


「気があうじゃない、プリシラ、私もコイツみてるとイライラするのよ、もう殺しちゃおう?」


「駄目だ、コイツは生かして地獄を延々と見せてやるんだ!だから殺すな!死にたいと思うくらいボコボコにしてやれ」


「えー面倒くさいなぁー」


「しかたないわね、もぅ、アノスはワガママなんだから」


「くっ!」


剣を構えるアレクにアリエスが襲いかかる、荷物持ちとして鍛えた腕力と元々男で有ることを甘味しても力比べでアリエスに遅れをとることは無いと判断したアレクだったがアリエスは女としての身軽さをいかし軽やかにアレクの剣を避けアレクの胸元に切り傷を入れる、

咄嗟に反撃を試みるもそれすらアリエスは当然と言わんばかりに避け距離を取る、

それを追うためアリエスに向かって駆け出そうとするも目前のアリエスがニタァっと笑みを浮かべた事に違和感を感じたのも束の間、

後方から強い衝撃が襲かかり続いて焼ける様な熱さが背中を覆う、

気づけば衣服が火を上げており、下手すれば体に引火して焼き死にかねない、

咄嗟に地面に転がり混んで火を消すがこの一瞬の間にアレクはアリエスに蹴り飛ばされてしまう。


胸元にキズ、背中に火傷と既に満身創痍の体で女二人にいいようにあしらわれていた。


その後も懲りずに二人に挑みかかるも結果は変わらずアレクの剣は簡単にあしらわれ、そのたびにアリエスはカウンターの攻撃をアレクに確実に与え、時折プリシラの魔法攻撃が四方八方から飛来しアレクの注意力や体力を奪っていく、

それでも未だにアレクが生きてるのは荷物持ちとして二人の戦いを後ろでずっと見てきたからか、それとも二人が勇者の指示した通り殺さずいたぶってるためか、


曲がりなりにも勇者パーティーとして勇者を護りつづけた女剣士と魔法使いの二人組、今日剣を握り出したばかりのアレクがどうこう出来る程単純なわけでもなく、二人の連携は憎らしい程の完成度だった、

こんな時なのにアレクは二人と仲良く遊んだ日の事を思い出して1人で泣きたくなるのを必死に堪える。


「情けない、こんなものなの?こんな男のことを昔好きだったなんて我ながら黒歴史だわ、殺して過去の汚点を清算したいわよ、ホントに…」


「だめだよ?アリエスお姉様、お兄様から殺すなって言われてるでしょ?お兄様に嫌われてもいいなら好きにすればいいけどっ!」


「相変わらず本当、憎たらしい子ね貴方、不出来な愚兄が泥と汚血に濡れて屁泥みたいになってるのにケラケラと、いい趣味ね?」


「お姉様にだけは言われたくないわ〜、元とはいえ、愛し合った中でしょ?こんなにイジメちゃっていいのかなー?」


「残念ね、プリシラ、貴方の口車に乗って上げる気はないのよ?

アノスから言われてるもの、コレは殺さないわ、コレが死にたくなるくらい痛めつけるだけよ、手伝いなさい」


「ちぇー、」


そういって二人は中むずまじくかつての兄であり幼馴染を殺すことを道端の虫を殺す位の感覚で述べて、アレクに剣を、魔力を向ける、

もう疲れた、ここで死ぬ事も一つの運命ならそれを受け入れるのも一興かとアレクの中に諦めの気持ちが満ちる。

しかしアリエスがアレクの首に対して振り下ろした剣は首を切り下ろす直前で止まっておりアレクは死なずにすんでいる、

それどころかプリシラが放った魔力は2つに分断され空中で爆発した。


「君は…、シェイン!?」


「よぉ!随分とボロボロじゃんか、アレク」


アリエスの剣はシェインの剣で受け止められておりアレクの首への到着の妨げとなっている。

直ぐ様に剣を引いたアリエスは躊躇なくシェインに対して剣による連撃を浴びせるがシェインはそれを簡単にあしらいアリエスに強めの一撃を食らわして彼女を物理的に後退させた。


「こっ、コイツ!!」


直ぐ様体制を立て直したアリエスは突然の闖入者を睨みつける、相手は自分よりも幼い外見の少年だった、ボサボサの髪の毛と頬に十字のキズがあるのが特徴の青い目の少年、年の頃は14〜5といったところか、20歳をこえた自分には酷く幼く見えるが、私はこんな子供に剣で押し負けた、勇者アノスを守る存在である私が!

そう憤るアリエスだが当の少年であるシェインはなんでもない事の様にアレクに話しかける。


「ココは俺が預かるからアレクは勇者を追えよ、兄弟同士の決着を付けて来いよ!」


「なっ?馬鹿を言うな、彼女達は君を殺すつもりなんだぞ!そんなの、置いていけるはずがないだろ!?」


そう言ってシェインを止めようとするアレクだが、

勇者一味が二人を待ってくれるわけもなく…


「ねぇ?アノス!この子殺してもいいよね?なんか邪魔だし、生意気!!」


「……、だな、このガキ良く見ればフィオナにいいっ寄ってたガキだし、フィーファちゃんにもすり寄ってたし、ウザいから殺しとくか、」



「なっ!やめろ!アノス!シェインは関係ないだろ!やりたいなら俺にしろ!」


「黙れよ負け犬!お前はそこで自分のカスっプリにしょげて縮こまってろよ!」


「アノス!貴様ぁ!!」


勇者アノスの無慈悲な言葉にその兄であるアレクは静止の願いを叫ぶがそれにアノスが答えてくれるような人物なら最初からこんな事にはなっていない、

アノスに掴みかかろうとするアレクのまえに火の玉が飛来し爆発、爆炎はアレクに襲いかかるもシェインが割って入り、その爆炎すらも切り裂いて剣で出来た風が衝撃波となり紫煙を吹き飛ばす。


「くはぁっ!?シェイン?…すま、ない…」


「いったろ?勇者を何とかしたいなら女供を黙らせるのが方が早い、」


「しかし、君一人で彼女達の相手は…」


「さっきから巫山戯た事言ってるけど俺があんなのに負けるとか思ってるの?」


「あんなの?」


「いいからアレクは勇者をぶん殴れよ、それでカタが付くんだろ!?」


シェインのアリエス達には勝てて当たり前と言わんばかりの発言に強く憤慨している者達が二人、当然アリエスとプリシラ達当人だ、まるで舐め腐った発現の数々に元々沸点の低い彼女達の怒りは簡単に度を超え、もはやシェインにたいして一切の容赦をしない気でいる。


「手加減なんてしてもらえると思わないでね?大人をナメた落とし前はその身を持って償いなさい?」


「私の魔法を2回も無駄にして…許さない!!」


「……、気の短い奴等だ、」



「シェイン…、」


「いいから行けよ、」


「……、済まない、」


勇者は既にこの場から逃げだしたのか既にいない、アノスは勇者である弟との決着を着けるためにそれを追う。

無関係な少年を巻き込んだ事にわだかまりがないわけではない、10も年の離れた少年に頼らざる負えない不甲斐なさや情けなさなど上げればきりがない、それでもこの場を整えてくれた小さな友人に感謝を込めてアノスは弟の跡を追う。


「やっと行ったか、」


「直ぐに始末するからね、坊や」


シェインを取り囲むような配置で各々の武器を構える勇者に洗脳された女達、それを見回しながらシェインは呟く。


「哀れなもんだな…」



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