2話 建国の英雄と呼ばれていた者
獰猛な咆哮をあげ巨大な体躯を持つモンスターは鋭い爪先ごと右腕を少年少女にむけて振り下ろした。
とっさにシェインが少女を突き飛ばしたお陰で二人共モンスターの攻撃を回避する事ができたが少女は尻餅を付き痛そうに顔を歪める。
しかし少女にそんな暇は許されない。
急いでモンスターの様子を確認すると不幸中の幸いかモンスターは自身の腕が地面に刺さって上手く引き抜けないでいた。
どうやら鋭利な爪先は地中深くまで刺さってしまい引き抜くには多少の時間を要するようだ。
「今の内に貴方は逃げて、コイツは私が…」
「アンタまだそんな事言ってんのか」
呆れを含んだ声色でシェインはぼやくと殺気だった獰猛な化け物に対して怯む事無く立ち向かっていった。
「あっ!待って!」
少女の制止も聞かずシェインは 地面に突き刺さった獣の腕に走り登って行くと興奮した獣は虫を払うように少年を残ったもう片方の左腕で払い飛ばそうとする、しかしシェインはそれをすんでの距離で交わすとそのまま獣の肩辺りまで登りきりそのいきおいのまま獣の目に錆び付いた剣を突き立てた。 大きな悲鳴の咆哮を上げる大型モンスターは少年を殺そうと大きな手足をばたつかせるが少年によって喪われた目の死角に回り込まれ少年に翻弄されていた。
そのまま獣の背に何本か刺さっている剣を引き抜き着地ざまに獣の足首の健を切り大型モンスターから動きを奪ってみせた。
「なんてデタラメな…」
信じがたい光景が目の前で広がっていた。
正規の訓練を受けた大人の近衛騎士数人が束になってもかなわなかった大型モンスターにたいして少年はその小柄な体を駆使し、ときにフェイントなどを織り交ぜ化け物を圧倒してみせていた。
もう片足の健すら切りさいて獣から完全に移動能力を奪い最後には獣の頭頂部に全体重を乗せて剣を突き立た。
最後の抵抗なのか大きな悲鳴の雄叫びをあげ獣はその場に崩れるように倒れて息絶えた。
未だピクピクと痙攣しているが肉体が死を迎えるのは時間の問題だろう、 シェインは単独で自身の体長の2倍近い巨体の化け物を倒して見せた。
少女にとってそれはあまりにも常識外れで信じがたい光景だった。
「貴方は…いえ、まずは助けて頂いたお礼が先でしたね、ありがとうございます。助かりました。」
「いや、…まあ無事で良かったよ、」
「私の名前はフィーファ、連れの者とこの先の村に用があって訪れたのですが、貴方にはなんと感謝を述べればよいか、本当にありがとうございました。」
「良いよ別に…えーと俺はシェインだ、それとホントにそんな気にしないでくれ、それよりあの化け物はなんだったんだ?この辺りであんな凶暴なの、見たことないんだが?」
「…おそらく、私を狙っていたのでしょう、」
「アンタ、あっ、いや、フィーファさん…?」
「ふふっ呼び捨てで構わないですよ。」
「そっか、ならそうさせてもらうよ、で、なんであんなヤバそうな化け物に追われてるとかカラッタ村になんの用があったとか色々聞いてもいいのか?」
「それは…」
と少女、フィーファがどもっていると
「フィーファ様!御無事でしたか!」
と走り寄ってくる団体が見えた。
「ガノッサ!それにレイラ達も!良かった、無事だったのですね。」
シェインやフィーファのもとにやって来たのは白銀の鎧をみに纏った身の丈2メートルはありそうな大柄の男だった。
精巧な顔つきにはフィーファの無事を安堵する表情が伺えるがその表情は単なる主従関係と言うよりは親子のような親しさが見え隠れしていた。
その後方には槍を持った赤髪の少女がいた、。
まだあどけなさが残るものの彼女もまた戦士なのだろう、切れ長の睫毛から覗く双眸は鋭く、彼女にとっての闖入者であるシェインをにらみ付けており、警戒心を抱いているようである。
さらにその周囲には大柄の男と同様の白銀色の鎧を纏った兵団がいたが彼等は満身創痍といった感じで額から血を流す者や同僚に肩を貸して貰っている者など痛々しい印象である。
「申し訳ありません、フィーファ様、このガノッサが付いておきながらあなた様に危険なマネをさせて、これでは近衛として面目が立ちません」
「私は大丈夫でしたしそう気にしないでください、それにあのモンスターなら先ほど倒されましたし、もう脅威となるものはないでしょう」
そういうとフィーファは倒れて息絶えた獣の怪物へと目を向けた。
「はい、そのようですね、しかしどのようにして、我々近衛騎士でも歯が立たなかったと言うのに…」
「彼の助力…と言うより彼に助けられた形となってしまいました」
そう言ってフィーファはシェインへと目を向ける。
「彼が!?」
件の少年、シェインは彼が護衛対象とする少女とそう変わらない年代の子供だ、自分達でも相当の苦戦を強いられたあのモンスターを単独で打ち倒したなど到底信じられる訳はなかった。
「君がアレを倒したのか?」
「え?あぁそうだけど、」
「にわかには信じがたい話だが証拠が転がっている現状では信じざるをえないか…、我等の姫君を助けてくれた事に礼を言おう、ありがとう。」
「え、はぁ…どうも」
フィーファはそんな2人のちぐはぐな会話を聞きながら考え事をしていた。
考えることは山とある。
取りあえずはこんな所で立ち話を続けていても何も進展は望めない。
負傷した兵も多いことから落ち着ける場所を目指すのが目下の目標とするのが妥当だろうと思い声を出そうとした所である物が視界に入った。
それはこの何もない木々に囲まれた草原にぽつんと立てられていたため目立つのに今の今まで視界に入っていなかった事が自分達がどれ程追い詰められていたかの証明にも思えて何とも言えない気持ちになった。
その物体、墓石に近づきそこに彫られたグライン アンティウスの名前を見てフィーファは絶句する事となる
「グライン…アンティウス…ここに眠る……、」
「アンタ、先生の知り合いなのか?」
気付けば墓石の前でたたずむフィーファの姿に疑問を感じたシェインは彼女へと思ったままの疑問をぶつける事にした。
「…いえ、直接的会った事はありません、ただグライン卿の噂は聞き知ってます、かの御仁ならば私を救ってくれると思いこの村まで来たのですが……」
「…バカな、グライン卿が既に亡くなられていた?君?この墓は間違いなくグライン卿の物なのか?」
「……グライン先生は2年前の事故で命を落としてるんだ、それで先生の遺言でここに墓を立てて欲しいって……」
「事故?」
「事故とは何かね?卿程の方が命を落とす程の事件がこの村でかつてあったと言うのか?」
「…………」
「質問に答えないか!」
大男からの質問攻めにシェインは口を閉ざし答えなかったのだがその事が気に障ったのか男はシェインへ語気を荒げ質問への口調が強くなっていた。
「何なんだよアンタ、さっきから一方的に!アンタの質問に俺が答えなきゃいけない義理なんかないだろうが!?」
「何だと!貴様!それが我等レスティー…」
「ガノッサ!少し落ち着いてください!」
大男の剣幕に不穏な物を感じたフィーファは2人の言い合いに割って入ると話の主導権を得るためにも口を開いた。
「ガノッサが失礼しました、私から礼をいいます、ごめんなさい、シェイン」
シェインに対して謝罪の言葉を述べるフィーファに対し大男は何か言いたいような顔を向けるもそのフィーファから黙って!と睨まれれば大男は酸っぱいものを食べた子供のような顔をして押し黙るしかなかった。
「アンタ…フィーファも大変だな、色々…」
そう返してきたシェインに対して誰のせいだと内心思いながらも平常心を心のなかで唱えながら
「…それでシェインはグライン卿とはどのような関係なのですか?」
と質問を返した。
「グライン先生は俺の剣の先生だよ、俺は先生から剣術を教わったんだ」
「驚きましたな、グライン卿が弟子をとっていたとは、そのような話は聞いた事ありませんでしたから、」
「でもこれで一応の納得は出来ましたよ、シェインがあれほどの戦いが出来た事に」
もっともそれが大人数人がかりでもどうにもならなかった化け物を単独で倒せる説明になってる根拠としては弱いと思わざるをえないのが実状だが。
「俺からも聞きたいんだけど、グライン先生ってなんか凄い有名な人なの?俺、先生の事何もしらないからさ、」
シェインの質問に対してフィーファは墓石にそっと目をやりながら
「かつては建国の英雄と呼ばれた騎士長様ですよ」
そうつぶやいた。
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