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ユーディキウムサーガ 父親に捨てられた少年は好きになった少女のために最強の剣士を目指す  作者: ムラタカ


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19話   聖女フィオナ

フィオナはシェインとアレクが木刀で打ち合ってる姿を見ていた。

ただその顔は疑問に塗れている。


今頃アレクは心身ともに打ちひしがれ意味のない問答を脳内で繰り返してるはず、そこにタイミングよくあの男の肩に手を起き優しく語りかけるのだ、大丈夫ですか?アレク兄さん、無理しないで?と、

精神的にも不安定なあの男はそれだけで私への依存度を上げるそのはずだった。


「どういう事なの、これ?」


青い目にボサボサ頭の田舎臭い少年とアレクが楽しそうに棒でチャンバラごっこに興じていた。

幼稚な遊びにいい年した青年が必死になってる滑稽さより鼻に付くのはその青年、アレクが生き生きとしてるからだろうか、

長年かけて弱らせた彼のメンタルはこの短期間で明らかな回復の兆しを見せていた、


「何、アイツ、余計なことして、」




フィオナはアレクとアノスの幼馴染、アリエスの妹、

幼いころから身に持った唯一無二の才能、高い魔力量と聖魔法の適性、この2つから彼女は聖女として村中で祭り上げられた、両親はそんな彼女を当然溺愛した。


しかし彼女にはどうしてもほしい物が一つあった。

それは隣の家にすむ男、アレクが自分の姉であるアリエスに向ける愛情だった。

別にアレクの事が好きなわけではない、それは今も変わらない、では何故愛情を欲するのか


答えは簡単だ、姉のアリエスに向けられるアレクからの愛情が自分もほしいからだ



両親に溺愛された、

家族以外からも溺愛された

私が欲しいと言えば他に手に入らない物は何もなく姉であるアリエスの物すらそれは例外では無かった


手に入らない物などこの世にないとすら幼いころは思っていた。

だからアリエスに向けられる愛情が欲しくなった。

欲しい物が自分のモノにならない程その欲求は増すものだ。

手に入ればそれでもう満足だった。

いらなくなれば捨てるだけ、

いつも通り、簡単な話しだった


しかしアレクは決して私を選ばなかった

姉のアリエスはたしかに美人だがそれだけだ。

私のように神に愛され唯一無二の才能を持ってる訳でもない。

見た目にしたって勝ってる

太陽の光を反射して黄金色に輝く銀の髪に透明感のある白い肌、まだ14ではあるが子供ながらに良好なスタイルを持っている。

なのに、なのにだ

何故だ!何故私を選ばない


幼いころからこんな感じに歪んだ精神を誰にも咎められず蝶よ花よと育てられたフィオナという名の少女はその愛らしい見た目に反して他者を見下す汚い人間性を育んでいった。

転機がおとずれたのはだいたい3年前くらいか、

アレクの弟のアノス、

アレクに比べ根暗で地味で陰鬱な雰囲気の冴えない塵

そんな塵に何かしらの力が発現した。

おそらく人の心を支配する洗脳係の能力。


あれほどアレクを愛していた姉は人が変わったようにアレクをこき下ろし罵声を浴びせるようになった。

まるで心底不快であるという様に、

ついでそれまで次男であるアノスを罵り、長男のアレクに懐いていた彼等の妹のセシリアにも影響がでて、これまでとは逆で次男を愛し長男を罵倒しだしたのだ。

当時の皆の変わり用に意味がわからなかったがすぐに得心する事態が起きた。


アノスが私の目をみて俺を好きになれと命じてきたのだ。

そのときに体の中に何か得たいの知れないものが一方的に侵入してくるような不快感をかんじ、それを無自覚に拒絶した結果私は自分を保つ事が出来ていた。

何のことはない、

あの時アレクは私を洗脳し娼婦の如き貶めようと考えていたのだ、実に気色悪い話しだ。

アレの力が通用しなかったのは私の中にある力、聖魔力が私の意思に反応し汚らわしい力の流入を防いでくれたのだ。

結果私は今も正気を保っている。

最初はアノスの力を無力化し皆を助けようとも思ったがそれでは面白くない。

せっかくの掘り出し物だ、私は利用する事にした。


アノスと姉、アリエスがイチャイチャすればアレクのメンタルは削がれいつか気持ちも覚める、そこに私が優しく言い寄ればアレクの愛情を得れるのではないかと考えアノスを泳がせた。



アノスは予想以上にアリエスと爛れた関係となった、姉が正気になったらどうなるか少し楽しみ。


二人がお盛んに夢中な時その隣の部屋でアレクが耳を塞いでうずくまってるところを偶然見たときは可笑しくて笑いそうになったほどだ。


アレクのメンタルはボロボロで調子づいたアノスは色んな女に手を出し酒池肉林を謳歌していた。

力を最大限に活用し、一介の村人が貴族に取り入り高名な貴族婦人や令嬢達の心を掌握し、その影響力を拡大していった。

偶然と奇跡が身を結び何故かアレは勇者としてたいそうありがたがられ崇拝されるまでになる。


ただあの男の力は私の様な特異者を除き女にのみ作用する不完全なもので万能ではない、

でも女であれば誰でも言う事を聞かせられるのだ。

貴族だろうと王族だろうと関係なしだった。


聖女と勇者、誰もが心躍り沸き立つフレーズだ、当然私達を周りはくっつけようとしたしアノスなんかは露骨に股間に山を生やしていて気色悪い事この上なく冗談でもお断りだった。


なんども部屋に誘ってくるし、洗脳してこようとするわで常に気を貼っていなければならず流石に厄介だった。

この時ばかりは自分の聖魔法に死ぬ程感謝したほどだ。

まぁ私を信仰対象とする教会を後ろ盾とする事でなんとか難を逃れたわけだが、

そうこうしてアレクのメンタルをコントロールし彼が身も心も私に依存し愛をささやく様になったら私の望みは叶う。

そうなったらアレクには悪いがボロ雑巾のように捨ててしまおう。






なのに……


「なんなの…コレは…」


長い時間を掛けて追い込んだ隣の家のお兄さん、

現在の勇者パーティーの荷物持ち、アレクはフィオナと年の近そうな少年と棒切れでチャンバラごっこに勤しみ楽しそうに遊んでいた。

久しく彼のそんな顔を見ていなかったため、思考が止まり唖然としていた。




「アレク兄さ〜ん!」


「フィオナ?」


「もう、アレク兄さんなかなか戻って来ないから心配したんですよ?あれ?そちらの方は?」


「あぁ、彼はシェイン、旅人らしいんだが、ここで少し剣術を教えて貰ってたんだよ、」


「剣術?私には棒で遊んでいたように見えましたけど?」


「ははは、済まない、直ぐに戻るよ」


「はい、早くしないとアノス様が怒りますからね」


「……そう、だね…」


「じゃそういう事だから、シェイン、楽しかったよ」


「あぁ、良かったらまた来いよ、いつでも相手してやるよ!!あぁ、それとあわせたいヤツがいるんだよ、」


「会わせたい?俺にかな?」


「あぁ、多分びっくりすると思うぞ?」


「ははは、それは楽しみだな、それ「少しよろしいですか?」はたの…フィオナ?」


二人の会話に割り込みフィオナがシェインに綺麗な青い瞳を鋭く歪ませ噛みつくように話しかける


「申し訳ありませんが私達はマグラーナ王から直々に任務を受けているんです。とても残念ですがお約束は出来ないんです、ホントにゴメンナサイ、」


「そうか、なら仕方ないな」


「ホントにゴメンナサイ、せっかくのお誘いなのに、もし良かったらまた誘って下さいね」


そういってフィオナはシェインの右手を自身の両手で包み込むように握り花のような笑顔を浮かべる。

この方法でフィオナに鼻の下を伸ばさなかった男はいない、どれだけ頑固でプライドの高い男でもこれをやれば直ぐにフィオナの言いなりだ。


しあし内心ではフィオナは帰ったら早く手を洗いたいと考えるほどこの行為が嫌だがこれ以上この少年に邪魔されたくないがための行動だった。


しかし


「え?」


シェインはフィオナの手を払い除けていた。


「あっ、悪い、なんか条件反射で、」


シェインとしてはホントに条件反射での行動だった、

悪気など一切ない純粋な、

しかしこの行動はフィオナのプライドを著しく傷つけたらしく、


「ひっ、酷い!私はただ…、」


嘘泣きを始めた。


「シェイン、いまのは君がどう見ても悪い、彼女に謝ってくれ、」


「あぁ、えとゴメンな、そのホントに悪気はないんだ、自分でもわからないんだけど咄嗟にさ、」


「酷い酷い酷いぃ〜うわぁ~~ん」


シェインは困り顔で頭をガリガリかいた、まさかここまで泣かれるとは思ってもおらず正直若干引いてしまっている、ただシェインのなかで一つの疑問がずっと引っかかっていたからどうせ泣かれているならついでに失礼を承知でそれを聞いてみる事にした、


この質問はシェインにとっては何て事のない普通のもの


しかしフィオナにとっては人生の分岐点に立たされたと言っても過言ではないような大きな衝撃を彼女に与える事となる。


「お前なんでそんな面倒くさいキャラ演じてんの?」



フィオナは泣き真似をする余裕すらないのかただ呆然と言い放ったシェインを見つめていた。




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