14話 勇者なる存在
マグラーナの勇者、フィーファはレイラから存在は聞かされていたものの勇者を自称するような者が実在するとはまことしやかに信じ難かった。
アルフィダがその勇者の事を話題に出したためラミュアやレンなどのイノセントのダークエルフも交え話は件の勇者の事に、
「マグラーナの勇者、マグラーナ国内ではかなり著名だがどういう訳かマグラーナ国外から出ればその名前を知る者は余りにも少ない、情報が操作されてるのはまず間違いないだろうな、」
「僕もそんな奴の事は今日まで聞いた事もないな、」
「私はレイラから話だけは聞いてたので存在は知ってましたけど、そこまで興味を引かれたわけではなかったので…」
「まぁなんだ、きな臭いから独自に調べてみたんだがここ数年で頭角を出して来てるみたいだな、勇者という呼び名も一部の者が言ってるだけで浸透してないのもそこまで不自然では無いのかもしれない、ただ、」
「ただなんだね?」
「勇者を支持してる者の中にはかなり高位の貴族もいるみたいでな、そういう連中がスポンサーとして裏にいるのかもな、」
「ふむ、マグラーナにはそれだけ勇者に肩入れするメリットがあると、しかしわからないね、マグラーナの君、レイラといったかな?」
「はい…」
「君は他の者にレスティーナに潜入してフィーファ君の側仕えになって彼女の信頼を得る、はやい話がスパイになるという任務に後ろ向き、いや、否定的だった…」
「はい、」
「なのに勇者の命令には従った…と?」
「彼の命令には何故か拒絶しようとかそういう感情が湧き上がってこなかったんです、それが最善でこれ以上ない方法な気がしてきて、」
「つまり君はその勇者なる人物の指示にバカ正直に従ったというわけかな?さぞかし顔の立つ美丈夫なのだらうね、一度拝見したいものだよ、」
フィーファはレイラの話に強い違和感を感じていた、彼女とはこの2年間ほとんどの時を共に過ごしてきた、彼女の性格、人となりは理解しているつもりだ、思い上がりでないなら曲がった事を嫌う彼女がこの様な任務に付いて私を騙すなど考えにくい、また、彼女は人に媚びる様な人間ではない、勇者だかなんだかしらないが人攫いを推奨するような人物を彼女が認めるとは考え辛かった。
「……とにかく私の目的はレスティーナ王都に潜り込み、レスティーナでの地位と信頼を獲得し、フィーファ様、貴方に接触し、自然な流れでマグラーナにお越しいただくのが目的だった、しかし一部の過激派は時間の超過に難色を示し作戦の早期終結を望んだ、」
「それがあの火事ですか?」
「はい、あれは私も…こんな事を言っても言い訳がましいだけなのは十分理解しています、ですがあれは私も知らない、聞かされていない事でした、過激派はフィーファ様の身柄を確保出きればフィーファ様がどうなっても構わないと、死んでさえいなければかまわないと、そう考えているんようなんです。」
下唇を噛み悔しげに語るレイラ、どのような経緯があろうとレイラが2年、出会った頃から既に騙していた事実は覆らないし、変わらない、それがフィーファにとっては悲しいし、悔しいし、それでも、ここまでの仕打ちを受けて尚レイラの事を嫌いになれない自分の甘さにうんざりするし、辟易としてしまっている。
「まぁ、当然の話だね、」
「なんだと!?」
ここまでのレイラの話にラミュアはさも当然だと言ってのける、それが気に食わなかったレイラはラミュアへと食って掛かる、
「当然だと言ったんだ、考えてもみろ?当時若干13〜
4歳の子供にこんな大役任せるには荷が重いなんて言葉では足りない、君以外にあの国にはマグラーナのスパイがいて然るべきだし、君がしくじった場合の保険は何重にも用意されていたんだろう、しかし君の言ってるように上は事を急いだ、理由はいくらでも考えられるがそんな事は些事だ、マグラーナはレスティーナ進行の足がかりとして僕等を利用し、レスティーナとイノセントの同士討ちを画策していたからね、」
「なっ!?」
いきなりの爆弾発言に驚愕を顕にするフィーファ、全く予想していなかった情報に理解が追い付いていないようだ、
シェインに至っては小難しい話しの羅列に先程から空気になってしまっている程だ。
「ちょっと待って下さい、レスティーナとイノセントの同士討ちってなんですか?い、意味がわからない、」
「簡単な話しだよ、用は君をどうにか利用して自分たちのしでかした事を僕達イノセントのせいって事に仕立て上げて二国を同士打ちさせて美味しい所をかすめ取ろうと言う考えなんだろう、実にあさはかだね、」
「そんな……、」
ラミュアの推察に鎮痛な声を上げるレイラ
「何をショックを受けているのかな?真っ黒なマグラーナ首脳陣の中にレスティーナのお姫様を連れていけばどういった結果が待っているかは少し考えればわかるはずだ、少なくとも彼女の今後に幸せなど無いだろうね」
「ぐっ、…………私だってこんな事したくなかった、でもどうしょうもなかったんだ、勇者に頼まれて、私は…」
「どうしょうもなかったって、レイラはその勇者に何故そこまで執心しているんですか、おかしいです、そんなの!」
「わからないんですよ、私自身、今はこんな事やめて逃げ出したい、でももう、逃げ道なんてどこにもない、どこにも、なんであんな命令、私、あぁ、」
「ようはその勇者とか言うやつの言いなりなんだろ、まるで洗脳されてるみたいじゃんなんか、」
「洗脳って、シェイン、フザけてる場合じゃないんですよ、」
「え?あぁスマン」
「いや、案外ありえるんじゃないのか?洗脳、」
「アルフィダさん?何を」
「馬鹿なと一掃するには早計が過ぎる、お姫様も聞いたことはあるだろう?バグ持ちの噂は」
「バグ持ち?そんなの伝承とか噂じゃ」
「噂と吐き捨てる事もないさ、バグ持ちは実在するからさ、」
「……そんな、本当なんですか?」
「ちょっと待ってくれよ、バグ持ちってなんだよ、」
「あぁ、知らなくても無理はない、発症者は極めて少なく表舞台にも滅多にでてくる事はないから半ば伝承とか伝説のような扱いを受けてるからな、バグ持ちってのは要は特異能力者の事だな、」
「特異能力者?」
「脳になんらかの異変が生じバグ、すなわち欠陥を持った者達をバグ持ちと俺達は呼んでいる
脳に欠陥をもった代償として常人では持ち得ない特異な力を発言したと言われているが厳密には魔法とか精霊術や錬金術とは異なるから自然の理に反するような事は出来ないと聞くな。」
「アルフィダはそのバグ持ちが例の勇者なのではと言いたいのですか?」
レイラはアルフィダに確認する様に問いかける、
「人の意志に反した命令を相手に違和感なく下す事が出来るなどシェインの言ったようにもはや洗脳の両分だ、魔法でも可能なのかも知れんがここまで人の意識に刷り込む事に特化しているならもうバグ持ちの能力と考えた方が手っ取り早い。」
「一見横暴にも思える説だけど意外と的を得てるかもしれないね、僕は残念ながらバグ持ちと面識はないけど君は面識があるのかな?」
「残念ながら面識はないさ、ただ知識として知ってるだけさ。」
「勇者が洗脳術を…では私はこれまで勇者の……」
「レイラ……」
「私は、私はなんなんでしょうね、自分の意志で動いてるつもりが全て勇者に操られていて、何一つ自分で決められず、貴方に危ない目にばかり合わせて、私は私は…」
「レイラ…、なら貴方はどうしたいんですか?」
「え?」
「本当の貴方は何をしたいんですか?貴方は本当は何がしたいんですか?」
「私がしたい事?」
「はい。」
「私は…ただ、お父さんの役に立ちたかった。
お父さんに認めてほしかった、
お父さんの好きなモノを私も好きになりたかった。」
「わかってるじゃないですか、それが貴方なんです、レイラなんですよ、私の知ってるレイラなんですよ!」
レイラとてフィーファと同じ、環境はちがえどずっと孤独に一人で生きて来た事は共通している、勇者の命令がきっかけの出会いではあったが彼女もまたフィーファのことを妹のようにあるいは友達のように思っている
そんな彼女が不幸な未来を歩む事など容認出きるわけもない、
だが自分はマグラーナ王国と言う大きな組織の歯車でしかなく、自分一人の意志なぞ路頭の石ころ程の価値もなしとずっと諦めて目をそらして生きて来た。
ただならばと、その時が来るまでは彼女の友として姉として、近衛としてまもろうと誓った
でもそんなのは言い訳だ
ただの逃避だ
マグラーナに彼女を引き渡せば彼女に災厄がおとずれるのは確定している
自分が勇者の洗脳にかかっていようがいまいがそんなことは些末な事だ
何をしないのかとフィーファは問うた。
そして自分は答えた、なら、
「はい……、私はフィーファ様に幸せであってほしいし、お父さんに認めてほしい、それだけなんです。」
後は自分に素直になればいいだけなんだと。
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