11話 亜人の女王
整理されてない荒れた森の中を二人の少年少女が歩いていた。
一人は透明感のある美しい金髪を腰あたりまで伸ばした整った顔立ちの少女、フィーファ レスティーナ。
かの列国五大国家の一つに数えられる王国の王が寵愛を一身に向けていると言われている孫娘だ。
もう一人の少年は黒い褐色の肌と尖った耳が特徴的な少年
見た目こそ年端もいかない幼い少年だが彼はダークエルフ族の少年
見た目通りの年齢でないのはフィーファの知識からしても明らかだった。
ダークエルフというよりもエルフ族全体が不老長寿に代表される種族であるため、幼い見た目にはんしてフィーファの数十あるいは数百倍の年月を生きていたとしても驚くには値しないのが現実だ。
現在フィーファは何の因果かそんなダークエルフの少年の後を付いて歩いていた。
事の発端は今から数十分前に遡る。
フィーファの身近な物達が次々と意識を失い昏睡、その原因たるダークエルフに同行を托されたならばそれに従うしかないのが現状だ
抵抗する事も勿論考えたが相手の規模も不明、此方はある意味人質とも言える物達を取られている、抵抗なぞ出来るハズも無かった。
「どちらに連れて行ってくれるおつもりですか?」
「ははっ、気になるかい?」
「えぇ、それはもうとっても」
「ははっ、大丈夫、安心しろよ、別にとって食おうなんて考えてないからさ」
「…」
「ごめんごめん、怖がらせるつもりは無かったんだ、ただお姫様の反応が面白くてさ、君にはこれから俺達のボスにあってもらう。」
「ボス?ダークエルフの親玉さんですか?」
「そういう事、厳密にはダークエルフと言うより俺達亜人種の統率者だね、」
「まさか、イノセントの女王!?」
「勉強熱心だね、感心感心」
「この一件にイノセントも関わっているということですか?」
「関わっているというより無理矢理関わるように巻き込まれたというのが正解かな?」
「まさか、あのイノセントのクィーンが、」
イノセント帝国
レスティーナ王国やラティクス王国同様列国五大国群に連なる国名である。
もっとも前同盟国が退いた後に加盟した新参国で他の4国に比べて影響力は小さい。
しかし他義に渡る種族を擁する一大亜人国家で他の列国所属国にはない文化や概念を持ち様々な知識や技術を持つため、決して侮る事は出来ない。
もっとも賞賛するべきはそんな十人十色な民族種族の文化、思想、宗教観を持つ物達を一つの国でまとめ上げ列国五大国家の一つに数えられるまでに成長させたのがイノセントの女王と呼ばれる一人の女性だと言うことだろうか?
王族に属する身であるフィーファは同じ女でありながらそれだけの偉業をなしたイノセントの女王に元々強い憧憬の念を持っており無自覚ではあるが憧れてもいた。
もっとも本人に会ったことは今まで一度も無いため女王には絵本の中に登場する架空のキャラクターの様などこか卓越した人物像をもっており、正直なところこれから会えると言う事実に浮き足だっていた。
「私に会いたがっているのですか?イノセントの女王が?一体何故?」
「お姫様とは落ち着いた所でゆっくりと話をしたいと言っていたよ、出来ればこんな誘拐まがいの方法はとりたくなかったとね、ま、俺から色々と言うのは野暮だし、彼女から直接聞いてくれ、君も聞きたい事が沢山あるんだろ?」
「それは…そうですが、」
イノセントの女王が自分のような者にいったいどんな要件があるというのか、フィーファにはわからなかった。
たしかに自分は王族であるのは間違いないのだがただのお飾りといって差し支えない、
国の実権は王であるおじい様が持っているし、その家臣達から自分は嫌われているのもよく知っている、
良くも悪くも飾りのお姫様でしかない自分に取り入るメリットはフィーファ自信ないと、自分に価値などないとそう認識している。
ただそんな自分を付け狙う刺客がいるのもまた事実で他の視点から見れば身柄を抑えるだけの価値はあるのだろう。
ソレすら国王の孫娘と言う外付けの価値で自分自身の価値ではない。
仮に一連の事件の黒幕が今から合う女王だと言うなら自分はどうするべきなのか、
一目散に逃げるべきなのか、
殺されるのを覚悟して会うべきなのか、
どのみち選択肢は後者にしか残されていない 。
フィーファはイノセントの女王に会う決意を密かに固め、おのれの運命を受け入れる覚悟を決めた。
巧妙に隠蔽魔術によって隠された道の先にはコレまでの森とは異なり開けた空間があった。
どのような魔法かは定かではないが空間そのものに作用しているようで彎曲された空間の中にはそれなりの規模はある屋敷が建っていた。
「空間に干渉する魔法!?でもこんな大規模な事……?」
「ダークエルフは重力操作や空間操作等の闇魔法を得意とする、この手の彎曲魔法はもっとも得意とする所だよ、もっともコレだけの規模の操作を可能とするのは女王たる彼女だけだろうね、」
「コレを、たった一人で?」
「さ、付いて来て」
そう言って先を歩き出した少年にフィーファは戸惑いがちではあるが付いて行く。
城の中は悪い意味で整理が行き届いていた。
と言うより何もない、花瓶や絵画などが飾られているものと予想していたがそういった類のモノは何もなく、味気ない殺風景な内装、だからか余計に広く感じられた。
「コレも一種の空間操作みたいなものですかね?感じ方一つで捉え方はいくらでも変えられると、」
「君とゆっくりと話しがしたくてね、急いで用意したのだがお気に召さなかったようで残念だよ。」
「!?」
上階の方から声が響いた。
フィーファが声のした方へと視線を向けると階段をゆっくりとした足取りで下って来る女性と目が合った。
フィーファと同じくエメラルド色の綺麗な瞳、髪もフィーファと同じく金色でその一本一本が金衣のように細かく何かの細工品のよう、ただ毛先は彼女の膨大なマナ総量により瞳と同じ色に変色している。
肌はダークエルフの少年、レンと同族であるからか褐色で耳も長い、ただ妖艶あるいは蠱惑的、どう例えるのが正解かわからないが女性としての魅力を凝縮したような美女がそこにいた。
「彼女が件のお方、イノセントの女王、ラミュア様だ、」
「あなたが…」
「いかにも僕がイノセントの王…ラミュアだ、もっともコレは偽名でね、今は故あってこの名で通させてもらう」
「はぁ…そうですか、」
「ははは、いきなりこんな事言われても困るかな、偽名を使う重い女、関わりたくないって思ったかな?」
「えっ!?あ、いやその、そんな事は…」
「無理しなくてもいいんだよ、面倒くさいと思ったら遠慮なく面倒くさいって言ってくれたらさ」
「…その、正直…はい」
「……意外と正直じゃないか、 好きだよ?君みたいなのは、」
「すまないねお姫様、これでラミュアさまは嬉しさの余り少しはしゃいでるんだ、今日と言う日を心待ちにしてたみたいでね、」
「レニィ!?」
「本当の事でしょ?わざわざこんな所に高位魔法で屋敷まで建ててコチラの苦労も理解してほしい。」
「ホントいい度胸してるよね、君は、仮にも僕は一国を束ねる王なんだよ?もう少し敬いかしずき頭を垂れるのが筋とイウモノなんじゃないかな? 」
密かに憧れていた亜人の女王がこんな残念僕っ子女だったとはとフィーファはなんとも形容し難い感慨に捕らわれていた。
しかしこんな茶番を見にこんな所に来た訳ではない、気を引き締めフィーファは漫才に興ずる二人に割り込む事にした。
「あの!」
「あっ?ゴメンね、ちょっとふざけすぎたかな?
僕としては少しでも君の緊張をほぐしたかったんだけどね?」
「緊張を?そうだったんですか?」
「そうそう!まさか女王たる僕がそんな小さな事をネチネチ言うわけないじゃないか、なははは!」
「………」
既にこの数分のやり取りで女王ラミュアへの畏敬の念はフィーファから消え去っていた。
それでも尚油断してはいけないと思うのは彼女から感じる膨大なマナ(体内魔力)の力かそれともその美しいエメラルド色の瞳のせいか。
「さて、じゃ単刀直入に言わせて貰うと君が僕達に聞きたいのは君にちょっかいをかけてる者の正体が僕達なのではないかという疑問だよね?」
「!!…はい、」
「簡潔に答えるなら答えはNOだ、僕等は君が体験した一連の事件にたいして一切関わっていない、むしろ、僕等も被害者といっていいだろうね、」
「は?被害者?そう言えばレニさんも同じような
「レニをレニと呼ばないで貰えるかな?」
……こ…へ?」
「申し訳ないがレニをレニと呼んで良いのは僕だけなんだ、他の者はレン、ニーズブルーからどの様に名前を変えて呼んでも構わないがレニと呼ぶ事だけは許さないよ?」
「済まないね、お姫様、内のボスがメンヘラ女で、申し訳ないがコレからは俺の事はレンとかその辺りで呼んでくれると嬉しい。」
「はぁ…、はい、そうさせてもらいます…」
フィーファは先程からのラミュア女王とのやり取りに心の底から疲労感を感じていた、
大きな事を成した偉人には変わり者が多いと言うがまさに彼女はそう言った例に漏れず変人でオマケにメンヘラ気質も持ち合わせているようだ、
デタラメな人物という印象を彼女に持つもコレもラミュア女王の計算尽くの言動ならその策士ぶりも大したものだと感心もすると言うものだった。
だが今は彼女から情報を引き出す事が先決、これ以上横道にそれてはいつまでも本筋に入れないとフィーファは改めてラミュア女王に向き直る。
「それで被害者とはどう言った意味なのですか?」
「簡単な話だよ、君が体験した一連の騒動の原因の正体が僕達の仕業に仕立て上げたい勢力がいる、
君達と僕達、この二つがいがみ合う形にしたい者の企てに僕達は迷惑していると言う事さ、」
「その話を信じていい根拠は?私は実際に命を狙われているのですよ?にわかに信じて手痛いしっぺ返しを食らいたくはありません」
「たしかにね、でも考えてみてほしい、逆の立場から見ればわかるだろうけど僕達が君達に嫌われる様な事をしてもメリットが此方には何も無い、損するだけだよ、」
話に一区切り入れるとラミュアは改めて話出す。
「僕の……、僕達の国はようやくの思いで列国五大国家の一つに数えられるまでに大きくなった
その道のりは簡単ではなかったよ
いくつもの金と時間、そして人びとの犠牲の上に成り立つ成果だ、決して軽視してはならない
イノセントという国は僕達の絆で成り立っているんだ、絵空事、きれい事、そんな風に思う者もいるだろうね
だが僕は彼等の信頼が無ければここまで来れなかった事を知ってる。
僕はもう失いたくない
だからもう絶対に失敗はしたくない、いや、出来ないのさ
だからこそデメリットにしかならない行動など起こせるハズがない
今この時にレスティーナに攻撃するなどと馬鹿げた事をする理由も余裕もどこにもないんだよ、」
「………。」
とぼけた厄介メンヘラ女と言うのがラミュア女王に対するフィーファの真っ当な評価だったが彼女はれっきとした女王としての人格をもった女性だと改めさせられる、 彼女は自身が収める国の長としてしっかりとした覚悟と信念を持っている
その彼女が今回の一連の出来事に巻き込まれた事をどれだけ遺憾に思っているか
フィーファに疑われている事をどれだけ不愉快に思っているのか
フィーファには想像も出来ない事だろう。
「ではラミュア女王はこの騒動の黒幕が何処の誰なのか知ってるというのですか?」
「確証は持ってないけどほぼ間違い無いだろうというくらいのあたりは付けているよ、」
「それは…誰なのですか?」
「それは君がもっとも……
「フィーファ様!!」
ラミュアの言葉に被せるように屋敷の扉を突き破り侵入してきたのは赤髪の女槍使いレイラだった。
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