10話 行方不明のお姫様
カラッタ村から旅立ったシェインとアルフィダの二人はアルフィダが旅に重宝している愛馬に二人乗りし木々が生い茂る山林を突っ切っていた。
馬に乗るのが始めてなシェインはその視界の高さに最初こそ臆したものの直ぐに慣れ、今は代わる代わる変化する景色に感動していた。
最もシェイン本人は心の内で複雑な感情を持つ相手のアルフィダに自分が今の状況に浮かれてる事を看破されたくないと、平静を装っているがアルフィダ当人からすれば表情をコロコロ変えるシェインの七面十色な様子に和まずにはいられなかった。
それでも退屈に感じる時間というのは必ず来るもので当たり障りのない暇の潰し方として会話が選択されるのは仕方のない事だったのかもしれない。
「なぁ、騎士になったって言ってたけどこの2年でどうしてそうなったのか聞かせてくれよ?もう内緒は無しでさ、」
「別に面白い話じゃないぞ?」
「いいから、そう言うの、」
「…、そうか…俺はもともとラティクスの出身なんだよ、だから俺からすれば村から出てから里帰りしただけなんだよ。」
「ラティクス?」
「お前ラティクス王国を知らないのか?マジかよ、今まで何してたんだよ?」
「うっ、うっせーよ!知らないモンは知らないんだよ!仕方ないだろ、村の中じゃそんなの知らなくても何とでもなったんだしさ」
「村から出たいクセに知識不足は良くないぞ、勉強は最低限しとけよ、剣士にも教養は必要だぞ?」
「説教とかいいから!」
「……はぁ、まぁいい、まずラティクス王国からだけど列国五大国家は流石に知ってるよな?」
「大昔にいた五人の英雄が築いた5つの国をまとめた総称だろ!しってるよ!」
「ラティクス王国はその列国五大国家の一つに数えられてる国だ、俺はそこの出身なんだよ、」
「マジか、スゲーな!」
「別に何も凄くないさ、そこの出身だってだけの話だし、俺は村から逃げ出してそのままラティクス王国に逃げ帰ったんだよ、そこで死ぬつもりだった」
「死ぬつもりだった?」
「ラティクス王国の王と先生は旧知の中の親友だったらしくてな、その先生を殺した俺を王は許さないと思ったんだ、死刑で殺して貰えるってな、」
「………。」
「でも王は俺を殺さなかった、俺に生きて償えって、先生の分まで生きて先生の護りたかった物をお前が守れって王はそう言ったんだよ。」
「それで……、」
「それからは傭兵として我武者羅に戦ったさ、国のため、王のため、先生の守りたかった物を手当たり次第に守れればそれで良かったんだが、ある日王に呼び出されて行ってみれば騎士としての授与式で気付けば騎士職を任命されたって経緯さ」
「なんか、激動だな、」
「別にあっという間だったよ、気付いたら騎士になってたんだよ、まぁ、自由騎士にな。」
「自由騎士?」
「国内じゃなく国外への出向、外部調査なんかが主な任務の騎士の派生職さ、」
「へぇ、なんかスゲーな!」
「ははは、あんがとよ、」
“自由騎士 “
アルフィダが言うようにその任務は他国への出向、派遣、その外にも密偵や情報収集など他義にわたり、その任務内容から騎士と言うよりは傭兵やスパイなどの汚れ仕事を行う者としての印象が強い、ただ任務中の行動の一切は独自に判断する事が許されている。
つまり自由に行動する事が許されてるが国はその責任を一切おわない、問題の内容如何では認知しないというものだ、 騎士としての称号、ライセンスはあってもその役職内容から同僚からは見下されやすい立場にある、
「厄介払い、そのための自由騎士。」
師殺し、気が触れてる、狂人、そんな肩書きを持つ者を同じ環境に置きたがる物好きが何処にいると言うのか、アルフィダにとって自由騎士とは体の良い左岸処分のための言い訳に与えられた立場に他ならなかった。
最もアルフィダ自身はこの自由騎士という役職を存外気に入っていた。
一定の成果を出せばある程度の我が儘は通る上給料も良い、レスティーナのお姫様の保護が目的の任務ではあったがこうして、予想外の事は起きるもので昔馴染みのシェインとまた話す事が出来る様になった事を彼は純粋に喜んでいた。
「とまぁ、そんなわけで今回はレスティーナの姫様が他勢力に狙われてるって情報を聞いて独自判断で動いてたわけだ。」
「独自判断って、いいのかよ?勝手な事して、」
「それが自由騎士の仕事だからな、それにレスティーナとラティクスは同盟国だ、恩を売っておいて損はないさ、」
「恩ねぇ、」
「なんだー?レスティーナのお姫様がやっぱ気になるのか?かわいいらしいしな、」
「だから、そんなんじゃないっつてんだろ!」
「心配すんな、いくらかわいいからって一国のお姫様を口説いたりしないさ、高嶺の花が過ぎる」
「話を聞けよ、たくよ…、」
悪態をつくシェインにハハハと笑って誤魔化すアルフィダ、そこにはかつての同門として同じ師の元で剣を競い合いお互いを高め合った弟子兄弟としての絆があった、だからこそ兄の様な存在で目標であったアルフィダが何故あんな事をしたのかシェインにはわからなかった。
アルフィダは自分は気が触れている狂人という、だが今目の前にいる彼は冗談を言い笑い合える人間性を持っている。
そこでふとシェインは昔を思い返す、かつてのアルフィダはこんなに笑い感情を素直に表に出す様なヤツだったかと、 違和感はあるが考えても仕方ない、今は件の人物、レスティーナのお姫様であるフィーファ達 に追い付くのが先決だ。
そうして気持ちを切り替えたシェインだが今まで雑談に乗り気だったアルフィダがすっと黙って馬の手綱を握って前方に集中していた。
その姿は今までのおちゃらけた彼が昔の彼に戻ったようで無自覚に悪寒のようなものが走った。
「気付いてるか?シェイン…」
「っえ?何を?」
「違和感だ、」
「違和感?」
「さっきから妙な視線を複数感じる、」
「なっ?視線?」
「誰かが俺達を見てるんだよ、遠くから」
「俺は何も感じないけど、勘違いじゃないのか?」
「だといいんだがな…、」
そういったきりアルフィダは黙り込み手綱を強く握りしめる。
アルフィダは昔から勘の良い奴だった
奇襲とか不意打ちとかそういった攻撃手段は基本的に難なく躱しやり過ごされるイメージしかない
そのアルフィダが誰かに見られていると言うのだ、
先程の仮面の騎士やモンスターの事もある、シェインのなかで自然に緊張感が芽生えていってもそれは仕方ない事だったろう。
「うわっ!」
その時馬がヒッヒイイィー! と主の急停止の合図に悲鳴染みた声を上げる、
シェインも突然の事に体制を崩し落馬しそうになるのを必死にこらえて体制を整え乱暴な運転を行う馬主に苦情の声をかける。
「おい!アルフィダ!てめえ落ちそうになったろうが!」
「シェイン、アレ」
シェインの苦情を意に介さない態度でアルフィダは前方を指差す、その先には見知った人物が倒れていた
「ガノッサのおっさん!」
それはフィーファの護衛役である近衛騎士ガノッサであった。
彼は現在フィーファと同行し彼女を護っているはずだが実際は地面に倒れ伏し意識を手放している。
しかも回りには彼の部下と思しき騎士達も彼と同じ様に寝転がっている状態からみて何かしらの事態に巻き込まれたと見て間違いなさそうだ、
シェインは直ぐにガノッサの元に駆け寄ると彼を抱き起こし呼びかける、
するとうぅぅ…と声を漏らしながら意識を取り戻したようだ、
「ガノッサのおっさん!」
「君は…何故君が?あっ!そうだ、フィーファ様は…
彼女は無事か?!」
「いないけど、フィーファに何かあったのか!」
「そっ…そんな、フィーファ様…」
ガノッサの呟きになんとなくだが状況が読み込めてきた、
どうやら状況は最悪と言って差し支えのないもののようだ。
フィーファが勝手に独断行動を取るとは考え難くはぐれたか、あるいは拉致されたか、
まぁ、ガノッサ達が揃って意識を手放していた事から鑑みるに何らかの罠に嵌まりその隙にフィーファは拉致されたか、色々と予測は立つがこれが1番可能性としては高い。
「失礼ですがレスティーナの姫、フィーファ様の側近の騎士とお見受けする、出来れば情報の提供を願いたい」
「何だね君は?」
「失礼、私はラティクスの自由騎士、アルフィダという者です、」
「ラティクスの自由騎士…、では君が噂の氷の自由騎士」
「卿にも知られていましたか、恥ずかしいモノですね、」
「えっ?氷?何ソレ?」
「今はそれ処じゃ無いだろ?
フィーファ様の事に集中しろ」
「えっ?でも…」
アルフィダとガノッサのやり取りから聞こえた氷の自由騎士なるフレーズに強い関心を向けるシェインだがアルフィダが言うように今はそこに拘ってる場合で無いことは一目瞭然でシェインは気になる気持ちを心の奥に押し込め今は事態の集中に務める事にした。 そこでシェインはある人物が見当たらない事に気づいた、
「なぁ?あの赤髪の女槍使いは?」
「赤髪?」
「!?っレイラ殿!?」
そこでようやく槍使いの少女、レイラがその場にいない事に気づいたガノッサは無駄な事と理解しながら周囲を確認するがやはりと言うか彼女の姿は見当たらなかった。
「そんな…フィーファ様だけでなくレイラ殿まで?
私は何をしてたのだ…」
「今は自責の念に捕らわれてる場合ではありません、一刻も早く二人の捜索を優先するべきと愚考しますが?」
「っ!わかっている!貴様などに言われずともな!」
「そうですか、」
「おい!おっさん!いくらなんでもその態度はないんじゃないか!仮にもー」
「いいんだ、シェイン…」
「でもよ?」
「ソレよりお前はあの騎士様に付いていってくれないか?」
ガノッサは短身森の奥えと踏み入っていく、
この状況で単独行動の危険性は素人のシェインにも容易に理解できた、だが
「なんでだよ?」
「わかるだろ?近衛騎士様は頭に血が登ってらっしゃる、あれで冷静な判断が出来るとは到底思えない、」
「ソレはわかるけど…、はぁ…分かったよ、」
「ありがとよ、なにかあればこの場で落ち合う、いいな?」
「了解、」
そういってシェインはガノッサの元へと走っていった、
「さてと…赤髪の女槍使いか、」
一人になったアルフィダは広大な森の中で一人そう呟いた。
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