20回目のノエル
【急募】夫視点
↑ご興味がありましたらぜひ!
また、私の作品は二次創作、アンサー作品、別キャラ視点の執筆はOKでございます!
今回はギリギリになってしまいましたが、お時間あれば覗いて頂けると嬉しいです!
キラキラした街並みと甘い香りに、年甲斐もなくクリスマスのご飯を考えて。
「久しぶりに二人きりだからはしゃいじゃった」なんて言ったら、貴方は呆れる?
今日は冬で一番煌びやかな日。私は一人で夕食を作っていた。フライドチキンは買わなかった。二人ともお腹が弱めで揚げ物をたくさん食べると体調が悪くなるから。ちらし寿司を仕上げているとオーブンがローストチキンの完成を知らせる。冷蔵庫には小さいケーキが出番を待っている状態だ。
料理をこたつテーブルに並べたら、あとは夫を待つだけだ。体力がいる仕事だから、きっと疲れて帰ってくるよね。
夫と出会ったのは、二十歳の頃。ドラマ撮影で東山地方に来ていた時で、サービスエリアがロケ場所だったから、ロケバスの中で休憩をしていた。その時、ロケバスから少し距離あるところに停まっていた大型トラックから降りてきたのは、長身で筋肉質な男性。遠目からでもわかる彫りの深い端正な顔立ちの彼を、気づいたら目で追っていた。
周りのスタッフに「トイレに行く」と言って彼を追いかけて、屋内に設置された自動販売機で緑茶を買う彼に「付き合ってください」と言ったら二秒ほどで「やだよ」と無骨なバリトンで返ってきた。
そのぶっきらぼうな態度にもキュンキュンして、私は走り書きの携帯番号を彼に押し付けてそのままロケバスに戻っていった。
そして、恋の神様は私に味方をしてくれたのか、彼から電話がかかって来た。それからは携帯料金が馬鹿にならないくらい色々なことを話して(私が九割話していて彼はほぼ相槌だった)、年に数回東京でデートして、彼との出会いから二年経ったクリスマスイブに、私はこれまでのキャリアを全て捨てて彼に添い遂げる決意をした。
そして今、私は横浜の小さなパティスリーでパートをしている。夫は職場を変えながらも、ドライバー歴三十年とベテランの域だ。そして四十八歳という年齢にもかかわらず身体が引き締まっててモデルみたいに格好良い。夫のDNAをしっかり受け継いだ息子はモデルと歌手の仕事を始めた。
クリスマスについては夫から「何もしなくていい」と言われていた。子供たちが自分の時間を過ごすようになったからか、早くシャワーを浴びて寝たかったからかはわからないけれど。
スーーッと引き戸を開ける音。重く吐いたため息。
「あ、孝ちゃんおかえり!」
「…いらねえっつったろ」
仕事服のまま帰ってきた夫は呆れたようにつぶやく。
「あははは! ケーキも買ってきちゃったよわたし!」
ねえ、お風呂入るでしょ?
腕を上げて体を伸ばす夫の背中を押してお風呂に行くように促した。
時計は八時半を過ぎている。湯冷めを嫌がる夫が素早くこたつに長い脚を差し込んだ。ちらし寿司を取り分けて渡すと「おお、ありがと」と硬質な低音の声が返ってきた。
「「いただきます」」
賑やかなテレビの向こう側を見ながら二人で食事を進めていると、結婚する前、電話デートしたことを思い出す。偶然お互いピザを買って、それが冷めても気にならなかったっけ。
「美味い」
「ん、良かった」
夫がぼそっと言った感想に安堵する。
『CMのあとは! LICHTさんの新曲スペシャルバージョンです!』
爽やかなテノールで番組司会を務める人気アイドルよりも二十センチくらい背の高い少年――私たちの息子がはにかんで会釈をしている。
「凜史と穂美はメシいらねえのか?」
ローストチキンを小さく齧りながら夫が私に聞いた。
「うん。凜史は生放送だし、穂美はラストまでバイトだし、」
孝ちゃんと二人だから
夫の右肘が、一瞬だけ不自然に揺れた。そして何もなかったかのように、指先についた油分をウェットティッシュで拭き取った。
「だからね、孝ちゃん! ケーキも小さいの買ってきた!」
早く暖をとりたいから、急いでケーキとフォークをキッチンから持ってきてこたつに入る。
昨年までは子供たちが好きなホールのチョコレートケーキを買っていて、本当はシャンティが好きな夫は何も言わずに、私が切り分けた黒いケーキを食べていた。
「ショートケーキみたいなブッシュドノエルって珍しくない? だいたいチョコ系だよね」
私がケーキを出しながら言ったら「店によるだろ」と返ってきた。
「今日は切らないで食べちゃお! ね?」
はしゃいだ声でフォークを渡す私に、夫は苦笑した。
小さいブッシュドノエルを二人でつつく。画面の向こうにいる息子はファンを喜ばせる良いパフォーマンスをしていたと思う。
「凜史にあとでLINEしないと」
「やめとけ、既読無視されて終わりだ」
「えー、うそー。あ、ケーキどう?」
「悪くねえ」
プロが作ったモンに“悪くねえ”っておかしいな
自分の感想へ違和感を持った夫がぼそっと呟いた。私もフォークで穿られた白い幹をフォークで突き刺して口に入れる。肌理が細かいジェノワーズと、木を覆う雪のようにジェノワーズを包む、濃厚でも甘さが強くないシャンティ。このお店は、やっぱり美味しい。
「ホワイトクリスマスに憧れるけど、このへん雪降らないからなー」
「やだよ寒い。仕事遅れるし」
「そう?」
夫の心底嫌そうな顔が少し可愛くて可笑しい。きっと雪は降ってないけど、冬の空を見上げたかった。
掃き出し窓を開けて空を見上げる。雪はやっぱり降っていない。でも――
「孝ちゃん、すごい星だよ!」
天気が良くてもなかなかお目にかかれない、黒いシルクにスワロフスキーを散りばめたような、満天の星だった。
夫がこたつから出てくる。一緒に見に来てくれるんだろうかと思っていたら、
「寒いから閉めろ」
夫は筋肉がついた長い腕に私を抱きこんで、そのまま窓を閉めた。逞しい身体からは、ミュゲのような清潔感のある甘い香りがして、香るたびにドッキリする。
ブロッコリーのサラダにローストチキンにちらし寿司、そしてブッシュドノエル。さすがに四十代二人が食べきるには品数とボリュームが多くて、ラップや保存容器を駆使して残り物の片づけに勤しんでいると、娘のアルバイトがもうすぐ終わる時間になっていた。
「あ、迎えか」
「え? もう?」
「ああ、だってもう九時前だろ?」
「ホントだ」
娘の迎えに行く夫が、上着を取りに寝室へ行った。
残り物を冷蔵庫にしまい終わったところで、夫がダウンジャケットを着てリビングに出てくる。
「綺乃」
夫の声に振り返る。
「穂美乗っけるまでドライブしねえ? 今日からだろ、あそこにあるうさぎのイルミネーション」
少し混乱した。夫から二人で何かしようって誘うことはあまりないから。それを察したのか夫が続けた。
「今日クリスマスだけどな、モノ贈るにはネタ切れなんだよ」
だから、強いて言うならお前がリラックスできる時間なのかもな
私を見ずに玄関に向かう夫が、ぶっきらぼうに言った。
私に時間を作ってくれることが、夫の時間をプレゼントしてくれることが、単純に嬉しかった。車を運転する夫の横顔はよく見るけど、やっぱり運転している姿はカッコよくて、かわいいうさぎ達のイルミネーションを見逃しそうになる。夜のFMラジオを聞きながらぽつぽつと話す。こんなに静かで幸せなクリスマスは、20年の結婚生活で初めてだった。
「ねえ孝ちゃん」
「ん?」
「手つないでいい?」
大きい手のひらを太ももに乗せられる。手をつないで喜ぶのは子供じみてるけど、それでもいい。今年は静かに、自分のペースで時間が流れるからこれでいいの。
「着いた」
「うん」
遠回りしたから、二十分のドライブだった。娘がアルバイトしているレストランの近くに車を停める。
今年は、二人で過ごせてよかったな。
そして、娘が店から出てきたら「パパの隣は私が乗る!」と駄々をこねる娘と、絶対に夫の隣を譲るまいとする私の助手席争奪戦が開始され、夫に呆れられるまであと三分。
ここで恒例のキャラ紹介です!
高篠綺乃…42歳。元女優、現在はケーキ屋さんでパート。13歳でデビューしてその美貌と表現力で女優としてのキャリアを築いていたものの、ロケ場所で会ったトラック運転手に一目惚れして猛アタックの末に結婚、女優引退。今も美貌は健在で、娘と歩いていたら姉と間違われた。夫似の超イケメン息子(19歳・両親想い)と自分似の美人娘(17歳・ファザコン)がいる。
高篠孝平…48歳。大型トラック運転手。高校卒業後にトラックドライバーの道へ進んでこの道30年。現在の横浜にある運送会社で勤続15年。身長187cmのマッチョ。純日本人なのに彫りが深い端正な顔立ちなので、飲み屋で飲んでると若い女性から逆ナンされる。ただ性格もクールなので会社の若手からは「怖い」と思われている。