第六十一話 喚問
「お初に目に掛かります、私は~」
「初めまして、私は~」
「あ、どうもどうも……」
ドラゴンを撃退してドラゴンレイルに戻った僕は乗員乗客から大歓声で迎え入れられ、夕食ではドラゴンレイルの特別なチケットを購入した人しか入れない食堂で歓迎を受ける。
そこで今回のドラゴンレイルに乗っていた貴族など偉い人たちから次々と挨拶を受けて僕は愛想を返している。
「あ~……疲れたぁ~……」
「お疲れ様ですマスター」
ドラゴンレイル側のお礼として一等客室を利用できるようになり、部屋に戻るとベッドに大の字になる。
「シュヴァルツが挨拶してた方がいいと言われたからしていたけど……数多すぎだよぉ~……偉い人とか芸能人とか毎回これをこなしてると思うと尊敬するよ」
「ですがここで知己を得ていた方が得策なので、セブンブリッジに戻るまではなるべくロビー活動お願いします」
「ふわーい」
ふかふかのベッドの上でごろごろ転がりながら愚痴を漏らす。
最初は挨拶とか受ける気はなかったが、シュヴァルツがセブンブリッジで喚問を受ける際に有利になるかもしれないからと説得され、愛想を振りまいた。
まあ、生き残れたら今後の仕事に繋がるかもしれないし、受けて損はないだろう。
ナブー王国首都アザーンのターミナルエリアにつくまで挨拶は続き、僕は一生分の挨拶をしたような気分で下車する。
「セブンブリッジアイアンランク冒険者、ルーシェスとシュヴァルツだな。大人しくついてきてもらおうか」
ドラゴンレイルから降りると、騎士の集団が駅にいて人相書き片手に僕達の元にやってくると有無を言わせず連行しようとする。
「待ちたまえ! 彼らは我々の恩人だ、どのような理由で拘束するのかね?」
それに待ったをかけたのはドラゴンレイルに乗車していた貴族たち。彼らとは会食などで駅に到着したらぜひ屋敷へと誘ってもらっており、おかげで騎士たちも「あれ? この二人実は偉い人?」的な戸惑いを見せている。
「ふっ、二人には……セブンブリッジ領主マウロ伯爵より喚問召集が出されており、裁判所への出頭を命じられています」
「その話は聞いておる。だが二人が出頭を拒否した、逃げ出したわけではないのに拘束は少々おかしくないかね?」
「はっ……それは……その……」
会食の時に依頼内容は守秘義務があって話せないが不手際があってマウロ伯爵から喚問召集を受けて戻る最中だと伝えている。
それでも僕と誼を結びたいと思う貴族人達が何人かいて、今はこちらに味方してくれるようだ。
「まあまあ、彼らも任務に忠実で仕事熱心だっただけですから。僕達が逃げずに堂々と出頭に応じたらいいだけでしょ?」
「はっ、そうしていただけますとありがたいです」
ここで僕がフォローに入れば騎士側もほっとした様子で先ほどとはうってかわって敬語で応対してくれる。
「庇ってくださってありがとうございます。僕達は正々堂々喚問に応じて身の潔白を証明するつもりです」
かばってくれた貴族たちにお辞儀をして礼を述べると僕とシュヴァルツは騎士団に連れられてアザーンにある裁判所へと向かう。
裁判所に出頭すると神官と思われる老人、マウロ伯爵、僕が暴れた時の為の衛兵たちがいるだけだった。
「長旅御苦労でおじゃる。状況はマジックレターである程度は知ったでおじゃるが、ルーシェス其方の口から直接聞きたい。嘘偽りでないことを確かめるためにこの者が嘘発見の魔法を使用するでおじゃる。よいな?」
「はい、かまいません」
マウロ伯爵は無表情で淡々と話す。嘘発見の魔法がどんなものかわからないが身の潔白とジュルチェ……いや、あのドッペルゲンガーの嘘を暴けるなら受け入れてやる。
神官は祈りを捧げるように呪文を唱えて嘘発見の魔法を行使したことをマウロ伯爵に伝える。
「ふむ……ルーシェスよ、テイラスでの出来事を嘘偽りなく申してみよ」
嘘発見の魔法が行使されたことを確認したマウロ伯爵は僕に弁明の機会を与えてくれる。
僕はマウロ伯爵から依頼を受けて今日までの事を話す。
マウロ伯爵は時折神官の方に視線を向け、神官はそのたびに事実ですとマウロ伯爵に伝える。どうやら神官さんが嘘発見器みたいな役割をする魔法のようだ。
グレイウォールでの発掘作業でヴォラーの目と耳の役割を担当していたバグベアードのヴァーンの顔が溶けてジュルチェになり、更に銀のマネキンのドッペルゲンガーという悪魔になったことを伝える。
「この者が言っていることは事実です……まさか魔王シディアスの残党がまだ生き残っているなんて……ああ、アルテナよ、我らをお守りください」
「……報告には聞いていたが信じられなかったでおじゃる……嘘であってほしいと思ったでおじゃる。お主等が功名心か欲に駆られて裏切ったと……そっちの方であった方が……」
ドッペルゲンガーの事を伝えると神官は動揺し、何度も己が信仰する神に助けを求めるようにぶつぶつと呟き、マウロ伯爵は現地スパイだったジュルチェの方を信頼していたのか、そんなことを呟く。
「失礼します」
裁判所に兵兵が入ってきたかと思うと、手に持っていた紙をマウロ伯爵に渡す。
マウロ伯爵は紙に書かれている内容を見るとあからさまに動揺した顔になった。
「……ジュルチェの死体が見つかったそうじゃ。死亡推定日時は一カ月以上前。だが麻呂は数日前にジュルチェと面会しているでおじゃる。ルーシェス、其方の言う通り、麻呂が面会したのはジュルチェに化けたドッペルゲンガーなる悪魔であろう」
ジュルチェの死体が見つかったおかげで僕の嫌疑は晴れた……だけど素直に喜べない。何となくあのドッペルゲンガーがこうなるように仕組んだ気がする。
表情のない銀色のマネキンなのにこちらをあざ笑っているような気がして仕方ない。
「マウロ伯爵、ドッペルゲンガーの捜索を僕達にさせてくれませんか? あいつらはヴォラーの人達の尊厳を踏みにじった。遺物を取り戻し、ドッペルゲンガーの首を添えてヴォラーの部族に遺物を送り返したい」
「……わかったでおじゃる。こちらもドッペルゲンガーの行方を追ってみるでおじゃる。喚問は以上でおじゃる。ルーシェスよ、宿をこちらで用意するでおじゃる。今日は長旅の疲れを癒してくれ」
マウロ伯爵はそういうと頭を抱えてその場に項垂れる。
彼からすれば今回の遺物回収はダントーイン帝国の侵攻を塞ぐための計画だったのにドッペルゲンガーによって計画をめちゃくちゃにされたのだから。
そのドッペルゲンガーがダントーイン帝国側なら今後の戦争では東西防衛に戦力を割り振らないといけないだろうし、もしかしたらナブー側の国家機密が漏れている可能性だってある。
さすがにそこら辺の政治に関しては僕から出来ることはない。
今の僕にできるのはあのドッペルゲンガーを見つけてヴォラーの仇を取るだけだ。
マウロ伯爵が用意した宿はドラゴンレイルのステーションエリア内にある列車待ち客をメインにした宿の個室だった。
部屋で休んでいるとコムストーンが震えだす。
「よお、喚問はどうだった? 俺からのサプライズプレゼントは伯爵様も喜んでいたか?」
「ドッペルゲンガー……」
コムストーン越しのドッペルゲンガーは噴き出すのを我慢するように喋っている。
「おいおい、つれないなぁ~……お前が裏切っていない証拠として送ってやったんだぜぇ~?」
「ドッペルゲンガー、お前はどこにいる?」
「知りたいか? 知りたいだろうなぁ~? 教えてやるよ、お前のルカールで俺の同胞のヴォラーのバウラはなすべての遺物を揃えたらアルター皇帝の墳墓で儀式をする予定だったんだ」
「お前がっ! バウラと同胞なんて言うな!!」
「マスター、落ち着いてください」
行き先を聞けばドッペルゲンガーは喜々として居場所を教えてくる。バウラの話を出された瞬間僕は怒鳴ってコムストーンを投げつけようとして、シュヴァルツが止める。
「ああ、すまんすまん。ヴァーンの脳を食ったときに記憶と一緒に感情まで移ってしまったみたいでなあ。つい同胞と勘違いしちまったよ。アハハハハハッ! で、何の話だっけ? あ、そうだった、俺の居場所だったな。俺も今回の雇い主もアルター皇帝の墳墓にいるぜ」
「首を洗って待っていろ、決着つけてやる。バウラ達ヴォラーの無念は僕が晴らす」
「いいねえ~、バウラも報われそうだな。お前に見せてやりたかったぜ、ゾンビに変えられながらも必死にルーシェス逃げろと叫び続けていた姿をな。お前が付与した消音の魔法で声が届かないのに、喉が裂けて血を吐きながら何度も逃げろって叫んでよ、滑稽ったらありゃし―――」
最後まで聞き届ける前に僕はコムストーンを壁に投げつけて潰してしまう。
「マスター、十中八九罠ですよ」
「それがどうした? 全部踏み潰せばいい。必ず報いを受けさせる。行くぞ、シュヴァルツ」
「……わかりました、マスター」
僕達はドッペルゲンガーと決着をつけるためにラーメイ山脈のアルター皇帝の墳墓へと向かった。




