第六十話 セブンブリッジへ
バザール広場の襲撃から脱出した僕とシュヴァルツはバウス地区にある廃墟の一つに身を隠す。
「それは多分ドッペルゲンガーでしょう。殺した相手の脳みそを食らうことで姿と記憶を手に入れる事が出来る魔王シディアスが呼び出した悪魔です」
「そんな奴がなんで遺物を……」
ほとぼりが冷めるまでの間廃墟に隠れていた僕はシュヴァルツにバザールで起きた出来事を伝える。
特に銀のマネキンのような生物の外見を伝えるとシュヴァルツはそれがドッペルゲンガーだと推測する。
「これからどうします?」
「あのドッペルゲンガーがどこまで携わっているかわからないけど……マウロ伯爵に連絡を取ってみる」
僕はセブンブリッジを出る前にマウロ伯爵から渡された魔法の紙で現在の状況をつたえるように手紙を書き、空に飛ばすと手紙は鳩の形になって空へと飛んでいく。
「状況は最悪だけど、不幸中の幸いは魔剣アルクラーウがこっちにあることだね」
「最後の遺物も敵の手に渡っていなければまだ手はあります」
そんな話をしていると、バウラから貰ったコムストーンが通信が入ったことを知らせるように振動する。
「よう、ルカール生きてるかい?」
「ドッペルゲンガー!」
誰からの通信かと怪しみながら応答するとジュルチェの声がコムストーンから聞こえてくる。
「へえ、俺の正体を見破ったか? ご名答だよ、ルカール」
「お前にルカールと言われたくないっ!!」
僕が正体を知っていることにドッペルゲンガーは驚き、コムストーン越しに拍手が聞こえる。
「この仕事も大詰めの段階だが、君たちが持ってるピースが必要でね。私は今回手に入れた物全てをセブンブリッジにいる同胞に渡す予定だ。貴君らに根性の一欠けらでもあるなら追ってきたまえ。私を見つける事が出来たらきっと実に興味深いものが見れるぞ?」
ドッペルゲンガーはこちらを挑発するような口調でセブンブリッジへ来るように言ってくる。
「逃げてもいいが、その時は私はジュルチェとしてマウロ伯爵に面会してあることないことを吹き込むだろうね? マウロ伯爵はどちらの言い分を信じるかな? 私を捕まえて白日の下に晒すべきでは? どちらでも私は楽しめそうだがね。ああ、大人しく魔剣アルクラーウを提供してくれるなら喜んで受け取ろう。また連絡するよ」
ドッペルゲンガーは言いたいことを言うと一方的に通信を切る。
「ドッペルゲンガーより手紙が先に届けばいいんだけど……」
バウス地区に潜伏して三日目、マウロ伯爵からの手紙が届いた。
「マスター、伯爵はなんと?」
「喚問召喚状と言っていい内容だよ。早急にセブンブリッジに戻って喚問に応じないとナブー王国は僕とシュヴァルツを賞金首に指定するだってさ」
届いた手紙をシュヴァルツに見せながら僕はセブンブリッジに戻る準備をする。
ここグレイヴォルドではバザールでの事件など日常茶飯事の出来事なのか、警備隊は犯人は都市の外に逃げたと発表して捜査を打ち切っている。
僕とシュヴァルツはフードを被って最低限の変装をしてグレイヴォルドのドラゴンレイルの駅へと向かい、ナブーの王都アザーン行きのチケットを買う。
ドラゴンレイルに乗り込めば車内販売されている新聞を買いあさり、情報収集をするが、特にこちらに関係のありそうな記事はない。
「ドッペルゲンガーの目的は何なんだ?」
「奴らは魔王シディアスの配下です。ですが魔王シディアスは勇者アークによって魂を消滅されて復活すら不可能です」
ドラゴンレイルに揺られながら僕とシュヴァルツはドッペルゲンガーの目的を推測する。
シュヴァルツは終末戦争と呼ばれる勇者と魔王の戦いの話を持ち出し、魔王は復活しないという。
「もしかしたら世界を混乱させたいだけかもしれません」
「なにそれ? どういうこと?」
「ドッペルゲンガーは元々は要人などに姿を変えて人間同士を疑心暗鬼に陥らせて内部から、もしくは人間同士を争わせることに快楽を感じます」
「まさか自己満足のために暗躍していると?」
「わかりません……ただ、あの時の通信を聞いてると、何らかの組織に所属か雇われているが、露悪的行為でこちらの反応を楽しんでいるように見えます。わざと居場所とか教えたり、私たちが持ってる魔剣アルクラーウを回収しなかったり……」
そんな話をしているとドラゴンレイルは大きな山の峰々が途切れる回廊に差し掛かる。
「曇ってきたね」
「………」
先ほどまで晴天だった空は、急激な曇り空に覆われる。
僕が一雨来るかなと思っていると、シュヴァルツは何か思い詰めたように雲を見つめている。
「シュヴァ―――っ!?」
シュヴァルツに声をかけようとした瞬間、急ブレーキでもかけたように客車全体が激しく揺れる。
シートベルトも何もない座席、僕は慣性の法則に従って吹き飛びそうになるのをシュヴァルツに抱きとめらる。
「いっ……いったい何が?」
列車内は阿鼻叫喚と言っていい状況だった。急ブレーキで吹き飛んだ人や飛んできた荷物の下敷きになってる人などのうめき声が聞こえる。
「ドッ……ドラゴンだああああ!!!」
比較的無事だった人が窓を開けて身を乗り出して先頭車両の様子を覗き込むとそんなことを叫ぶ。
僕も窓から身を乗り出して外を見てみれば、線路の上に落石が落ちており、その上にドラゴンがいた。
赤茶色の鱗、まつ毛のように目の上に生えた無数の角、顎髭のような無数の角、鶏冠は目の上部分から尾まで続いている。
「運搬中の全ての貴重品と食料を我によこせ。十分な貢物ならば、貴様らを殺さないとも考え無くはないぞ?」
「ドラゴンが喋った!?」
ドラゴンが口を開くと共通語で金品と食料を要求してくる。
客車内の乗客たちは絶望的な顔になり神に祈る者や、車掌と思われる人に何とかしろと詰め寄ったりしている。
「どうやらこの山一帯を巣にしてるドラゴンのようですね……」
「ドッペルゲンガーの手の者じゃない?」
「野良だと思いますが……」
シュヴァルツはドラゴンの姿を見て、近辺の山を巣にしてるのらドラゴンだという。僕個人としてはドッペルゲンガーによる妨害の可能性も捨てきれない。
どうするべきかと思っていると、ドラゴンレイルの天井に設置されているバリスタから矢が放たれる。
「馬鹿野郎っ! 誰が撃てと言った!!」
「恐怖に負けて撃っちまったものは仕方ねえだろ!!」
車掌が電信管でバリスタの射手に怒鳴るように状況を求めると、電信管越しにドラゴンレイルの護衛を担当してる警備がドラゴンに対する恐怖から攻撃してしまったようだ。
「なるほど、それが貴様らの答えか! 全て食らった後に財宝は頂いていこう!!」
バリスタの矢は外れるが、それが列車からの答えと認識したドラゴンは翼を広げて戦闘開始を告げるように二足歩行で立ち上がると咆哮をあげて空を飛ぶ。
「運転手! 後退だ! 後退しろ!!」
「スピードが出ない! 何とか倒してくれ!!」
車掌は電信管で運転手に急いで後退しろと叫ぶが、このドラゴンレイルは後退の速度は出ないらしく、運転手から迎撃しろと怒鳴り声が返ってくる。
「車掌さん! 僕達は冒険者です! 迎撃に参加します!!」
「あっ、ありがとうございます! あそこの連結から天井に登れます!!」
「シュヴァルツ、行くよ!!」
「了解です、マスター!」
僕は冒険者ギルドのカードを車掌に見せると、車掌は連結部分にある梯子を指さす。
「バリスターッ! 巻き上げ急げっ!! 死にたくなかったらさっさとやるんだああ!」
天井に上ると列車の警備達が必死にバリスタを巻き上げ、次々と矢を発射する。
だが、ドラゴンの機動力の方が上なのか一発も命中せず、焦りと絶望が広がっていく。
「地を這う蛆虫どもがっ! 我が息吹に焼かれろっ!!」
「万物の根源たるマナよ 我らを護る帳となれ 耐性の帳!!」
ドラゴンが炎のブレスを吐くと同時に僕は呪文を唱えてブレスを防ぐ帳を展開する。
「うわあああっ! ……あ……あれ? あつくない?」
「僕の魔法で防ぎました! 迎撃を!!」
車両の天井にいた警備達はドラゴンノブレスを見た瞬間その場にしゃがみ込んだり、諦めたように立ち尽くしたりしていたが、僕の魔法で助かったことがわかると歓喜の声を上げる。
「小癪な真似を!」
「これでもくらいなさいっ!!」
「ぐわっ!?」
シュヴァルツは魔剣アルクラーウの切っ先をドラゴンに向けて光線を放つ。
ドラゴンは剣から光線が出るとは思っていなかったのか直撃を受ける。
「おのれぇぇぇ……我が体に傷をおおお!!!」
ドラゴンは自分の体に傷をつけられたことに怒り心頭だが、魔剣アルクラーウの光線は脅威と感じるのか上昇して距離をとる。
「隊長! 射角の死角で狙えません!!」
「とにかく撃って近づけさせるなっ!!」
バリスタでドラゴンを攻撃していた警備隊は、ドラゴンが上昇したことで射角的に狙えなくなる。隊長と思われる人が弾幕を張れというがあまり効果はないようだ。
「万物の根源たるマナよ 我らに翼を 飛翔!!」
僕とシュヴァルツは飛翔の魔法を唱えてドラゴンに向かって空を飛んでいく。
シュヴァルツは魔剣アルクラーウの光線でドラゴンを攻撃する。
「おのれっ!」
「耐性の帳!!」
ドラゴンはシュヴァルツの光線を何発もその巨体に受けて傷ついていく。
反撃とばかり炎のブレスを吐き出すが、僕が耐性の帳で防御する。
「小癪な人間ごときがあああ!!」
ブレスが効かないとわかったドラゴンは肉弾戦に攻撃を切り替え、牙や爪、尻尾で攻撃してくる。
「万物の根源たるマナよ 矢となりて 我が敵を討て 魔法の矢!!」
「ぐうううっ!!」
僕達はドラゴンの攻撃を上下左右縦横無尽に飛び回って避けて、僕は魔法の矢で、シュヴァルツは魔剣アルクラーウの光線でドラゴンを追い詰めていく。
「おのれ人間どもめっ! この屈辱忘れんぞ!!」
「あっ! まてっ!!」
「マスター、敵の方がスピードは上です」
満身創痍のドラゴンは再度炎のブレスを吐くとuターンして逃げていく。
追いかけようとするがシュヴァルツが止めるように僕の飛翔魔法よりもドラゴンの飛行速度の方が上で、直ぐに点になる距離まで離れていく。
ドラゴンを追い払った僕達はドラゴンレイルに戻ると、警備隊や乗客たちからは歓声で迎え入れられた。




