第五十九話 発掘と……
「よし、ルカール。始めてくれ」
「万物の根源たるマナよ 音を喰らえ 消音!」
翌日の夜、僕達はバザール広場の遺物が埋まる一角を借り受けて、発掘作業を開始する。
外から見えないように大きなテントで囲い、発掘作業の音が漏れないように消音の魔法をかける。
ヴォラーの面々は僕が魔法をかけたことを確認すると、つるはしやシャベルを手に地面を掘り進める。
土を掘り、石を割る音がしないことにヴォラー達は驚きながらも発掘作業を続ける。
音が一切聞こえないことを確認すると、僕とシュヴァルツは露天の店先に立ってアイテムボックスにある適当なアイテムを商品として並べる。
夜のバウス地区はかがり火に照らされ、夜目を持つ種族たちがバザールの買い物に来る。
中には夜目が効かない種族もいてランタンやたいまつ片手にバザールを覗いている。
「いらっしゃいませ~」
ぎこちない営業スマイルで接客をしながら、時折ヴォラー達の発掘がどのくらい進んでいるか確認する。
ヴォラーの面々はこういった発掘作業に慣れているのか、順調の様に見える。
「ルカール、入り口を見つけた!」
発掘作業開始して体感で数時間ほどたっただろうか、土で汚れたバウラがやってきて声をかけてくる。
発掘現場には砂利や土が山盛りになっており、皇帝アルターの墓所で見かけたような戦士の彫刻がされた石板が露出している。
ヴォラーの面々がテコ棒とハンマーで石板を強引にこじ開けると通気口のような穴が現れる。
覆い付きのランタンで通気口を照らせば石を削って作ったと思われるメンテナンス用の梯子っぽいものがあった。
「僕達も入ったほうがいい?」
「すまないが遠慮してくれ。この石板から読み解くと我々バグベアード以外が足を踏み入れると悪いことが起こるようだ」
ダンジョン探検かと準備をすると、ヴォラーの知恵者であるダークが僕の参加を拒否する。
「ルカール……すまないが探索が終わるまで何とか人が来ないように見張ってくれないか」
「君たちにとって神聖な場所だしね。わかった、吉報を待ってるよ!」
「見つけたらコムストーンで連絡する」
バウラはそういうと、通気口にロープを垂らして落ちないように体に巻き付けて石の梯子を下っていく。
「バウラ達は入り口を見つけたって」
「我々は同行しなくてもいいんですか?」
「どうも僕達が入るとよくないらしい」
売り場に戻って応対していたシュヴァルツにヴォラー達の状況を報告する。
シュヴァルツは最初僕達も行かなくていいかと聞いてきたが、知恵者のダークの言葉を伝えると納得したように客の応対に戻る。
ヴォラーの面々が遺跡に潜って数時間、バザールの夜の部もそろそろ終了時間に近づいてきて、客足も少なくなってきた。
コムストーンからは反応もなく、このまま朝を迎えると昼の部の人の為にテントをどかさないといけない。
「ヴァーンだ。遺物を見つけた これより帰還する」
僕達も通気口に突入するべきかと思っていたら、コムストーンが震えてヴォラーの目と耳役のヴァーンが通信してくる。
「バウラ達は無事?」
「ああ、無傷だ」
「マスター、緊急事態です」
「え?」
ヴォラーからの通信を聞いていたら、シュヴァルツが肩を叩いて緊急事態を知らせる。
何事かと振り向くと、グレートアックスを手にフルプレートで武装したミノタウロスが三体、更にレイスが二体現れてバザール客を攻撃しながら殺気を込めた目でまっすぐこちらにやってくる。
「ヴァーン! 緊急事態だ! 襲撃者だ! ヴァーン? もしもし?」
コムストーンに向かって襲撃があったことを知らせるが応答はない。
向こうでもトラブルかと確認を取りたいが、浮遊するレイス達がこちらに向かって鋭い爪で攻撃しようとする。
「くっ!? 万物の根源たるマナよ 矢となりて 我が敵を討て 魔法の矢!!」
僕とシュヴァルツは左右に飛びのき、レイスの攻撃を避けると呪文を唱えて十本のエネルギー状の魔法の矢でレイス達を攻撃する。
「ギャアアア!!」
それぞれ五本ずつの魔法の矢が命中して、レイスが悲鳴を上げて爆ぜる。
「ブオオオオオオオ!!」
「うぐっ!」
レイス達を倒したと思ったら、一体のミノタウロスが頭部の角で突撃してきて露店を破壊する。
設置していた机などが破壊されて木片が吹き飛び、その残骸が僕にぶつかる。
「おのれっ!」
「ブモオオオ!?」
シュヴァルツが両手剣を抜いて突撃してきたミノタウロスの背中を斬りつける。
「うぐっ!?」
「シュヴァルツ!?」
時間差で残りの二体が突撃してきて、シュヴァルツが吹き飛ばされる。
(一般市民が多くて威力の高い範囲魔法が使えない……)
反撃しようにもミノタウロス達は逃げ惑う市民を盾にするように位置取りをしてくる。
ヴォラー達が戻ってくる様子はなく、僕とシュヴァルツで何とかしのぐしかないようだ。
「万物の根源たるマナよ 我が呼び声に応えよ 鋼鉄人形招来!!」
杖で床を叩くと、地面から金属でできたゴーレムが三体現れると逃げ惑う人はさらに敵が増えたと騒ぐが、構っている暇はない。
「アイアンゴーレムたちよ! ミノタウロスを倒せっ!」
「マッ!」
召喚したアイアンゴーレム達はズシンズシンと地響きを上げてミノタウロス達に向かっていく。
ミノタウロス達も迎え撃つように巨大な斧を振り下ろすが、アイアンゴーレムは痛みを感じることもなく、その剛腕でミノタウロスを殴る。
「マスターっ!」
「シュヴァルツ無事?」
「大丈夫です、動けます!」
吹き飛ばされたシュヴァルツが戦線に戻ってきて、乱戦を続けるゴーレムとミノタウロス達に向かっていく。
「る、ルカー……ル……」
「バウラ! よかった無事……うぐっ!? ば……バウラ……なんで……」
僕もミノタウロスと戦おうとしたら、背後から声をかけられる。
いつの間にかヴォラーのメンバーが地上に戻っていたようで、バウラの無事を確かめようと近づくと……バウラがいきなりナイフで僕の腹部を刺す。
「ルガ……ル……無念……」
僕に攻撃をしたのを合図にヴォラー達の皮膚が溶け、ゾンビに変わっていく。
「アハハハハッ! いつ見ても裏切られた奴の顔は最高だな!」
バウラ達の背後でヴォラーの目と耳であるヴァーンがバウラ達が持っていた遺物を手にゲラゲラと笑ってこちらを指さしていた。
「ヴァッ……ヴァーン……裏切った……か」
傷口を抑えながら僕はヴァーンを睨む。
「いいや、ヴァーンは裏切ってねえよ。ヴァーンはなぁっ! イーヒヒヒヒヒヒッ!!」
ヴァーンはゲラゲラ笑うが、その顔が歪んでいき、どろりと溶ける。
溶けた顔の下はナブーのスパイであるバグベアードのジュルチェの顔が現れたかと思うと、またジュルチェの顔でケタケタと笑い、また顔が溶けて次は鏡面のように磨かれた銀のマネキンのような姿になる。
銀のマネキンのような人型生物はスクロールを取り出し、封を破るとスクロールが燃えてゲートのようなものが現れる。
銀のマネキンはサークレットを被って、ヴォラー達が持っていた遺物でお手玉しながらゲートを潜り姿を消した。
「くっ……くそ……」
「ルカール……殺してくれ……同胞を解放してくれ……このような屈辱……」
バウラは絞るように声を出して僕に殺してくれと言ってくる。顔は悔しさに歪み、目からは血の涙を流す。
「ばっ……万物の根源たるマナよ にち……日輪の光となりて その輝きを照らせ 太陽光爆発!!」
僕は力を振り絞って叫ぶように呪文を唱える。
「ルガール……ありがとう……すまない」
太陽光の光に包まれる瞬間、バウラ達は僕に向かってにっこりとほほ笑んで浄化されていった。
「ぐっ……ううっ!」
僕は歯を食いしばりながら、指輪から治癒のポーションを取り出すと傷口に振りかける。
腹の内部から焼けたような痛みはすぐに治まると、ミノタウロス達とシュヴァルツの戦闘がどうなったか確認する。
アイアンゴーレム達とシュヴァルツはミノタウロス達とまだ戦っており、動きが鈍いアイアンゴーレムは何度もミノタウロスの斧に叩かれてボコボコに歪んでいるが、負けじと殴り飛ばして角をへし折る。
シュヴァルツもアイアンゴーレムと連携して、ミノタウロスの一匹を袈裟切りで倒す。
ミノタウロス側は満身創痍になっても逃げるそぶりは見せず、興奮したように口の端から泡を吹きながら怪我を無視して戦闘を続ける。
「万物の根源たるマナよ 矢となりて 我が敵を討て 魔法の矢!!」
僕は呪文を唱えて十本の魔法の矢をミノタウロス達に向けて飛ばす。
ミノタウロス達は避ける様子もなく、そのうちの一体が攻撃を受けながらアイアンゴーレムを攻撃して道連れにするように果てる。
最後の一匹も疲れてきたのか膝をついた瞬間、シュヴァルツによって首を斬り落とされた。
襲撃者との戦闘が終わった瞬間、グレイヴォルドの警備隊と思われる集団が増えを鳴らしながらこっちにやってくる。
「マスター、その傷はっ!?」
「説明は後、面倒に巻き込まれる前に逃げるよっ! バウラ……仇は僕が必ず討つ! 不可視!」
僕の魔法で灰になったバウラ達に向かってその一言を告げると、姿を消す魔法を使ってバザールから逃げ出した。




