第五十八話 グレイヴォルドヘ
ケチャの迷宮でバグベアード帝国の遺物を手に入れた僕達は残りの遺物を手に入れるためにグレイヴォルドと呼ばれるエンドアにあるモンスター達の街へと向かう。
「街に遺物があるの?」
「グレイヴォルドは元々はバグベアード帝国の廃墟を他の部族たちが不当に占拠して作られた街だ。あの街の地下のどこかに遺物が眠る忘れられた神殿がある」
グレイヴォルドへ向かう途中、ヴォラーのバウラに遺物について聞くと、バウラは屈辱に満ちた顔でグレイヴォルドについて語る。
「まさか街中を無作為に掘るの!?」
「さすがにそんな無茶は出来ん。この遺物の力を使う。この王冠には他の遺物がどこにあるか大まかな方向を指し示す。問題は……かなり近い場所で使わないと反応しない」
遺物が街の地下に眠っていると言われて僕は町中を掘り返すのかと聞くと、バウラは王冠を持ち出して、この力を使うという。
はめ込んでいた黄金の飾り石を外して王冠の力を使うと、王冠が方位磁石の様に黄金の飾り石を持つ者の方角に向きを変える。
「じゃあ掘る前に王冠もって街中を駆け回るの?」
「そうなるな……」
グレイヴォルドがどんな街かわからないが、方位磁石の様にくるくる回って遺物のありかを探す王冠を持つ集団なんて目立って仕方ない。
バウラもその映像が浮かんだのか、そっぽ向きながら消えそうな声でそうなると呟く。
ケチャの迷宮からエンドア方面に向けて旅をして三日目の朝、サバンナの平原の遠くにたくさんの干しレンガ作りの建物と、竈や焚火から立ち上る煙が見える。
グレイヴォルドを囲う城壁は中途半端で城壁の所もあれば木の柵や土嚢を積んだだけ、酷い所になると囲いも何もない地区もあった。
「我々が向かうのはバウスと呼ばれる西側の地区だ。そこならクラーク達外国人も比較的安全に過ごせるはずだ」
バウラはグレイヴォルドの街について話してくれる。この街は一言でいえば日本の外務省が可能なら渡航を取りやめるようにと言ってくるような危険地域のような場所だった。バウスという地区以外では大勢で行動しないと命の保証がないと言われるような場所らしい。
街に入るための税を支払い、バウス地区へと足を踏み入れる。
そこは様々な種族の坩堝と言っていい場所だった。僕みたいな人間は少なく、セブンブリッジ方面では見かけないような種族が多い。
街並みも独特で、種族に合わせた干しレンガの建物や遊牧民が使うようなゲルというテントみたいな建物、路上のあちこちで煮炊きをしていて、その上には隣の家まで伸びるロープに洗濯物が干されている。
宿をとると僕達は今後の計画を立てる。
「まずはこれを見てくれ。これはグレイヴォルドができる前の古地図だ。こっちが現在のグレイヴォルドの地図だ」
バウラは年代物の古地図を広げ、その横にグレイヴォルドの地図を添える。
「グレイヴォルドはいくつかの地区があり、地区ごとに首長と主要種族がいる」
バウラはグレイヴォルドの行政を説明してくる。グレイヴォルドは各区域の首長による会議制度で運営しているらしく、地区ごとに法律が違うという。
地区によっては異邦人に対して排他的、敵対的な場所もあり、最悪その地区で遺物を探索するとなると戦闘や犯罪者になる可能性があるらしい。
「まずはバウス地区から探索をしたい。クラーク、護衛を頼みたい」
「うん、いいよ。バウス地区で見つかると良いね」
大まかな行動方針を決めると僕達は宿を出る。
バウラは王冠の力を使い、グレイヴォルドに眠る遺物の位置を探す。
ヴォラーの面々と僕達でバウラを囲み、バウス地区の探索を開始する。
「反応があったぞ! こっちだ!!」
探索を開始して数時間、ついに王冠が遺物を感知したのか反応を示す。
街中の人込みを四苦八苦しながら潜り抜けて王冠が示す方角を進んでいく。
「反応が近いぞ!」
街の大通りや路地裏などあちらこちら歩きまわされて辿り着いたのはバザールが開催されている大きな広場。
テントや屋台、敷物を引いただけの露店が立ち並び、買い物客でごった返す広場のどこかに遺物が埋まっているらしい。
バウラは王冠の反応を見ながら道を示すが、バザールの広場を移動するのも四苦八苦だ。
「ここだ」
人にぶつかったり流されそうになりながら広場の端の方にあるテントとテントの間の地面を指さす。
一見するとただの地面だが、王冠の反応はまっすぐ地面の下を刺している。
「人目が多すぎて掘れないよ」
「……ここはバザールを開いてる場所だな? ヴァーン、このエリア一体を借りれないか調べてくれ。宿で合流しよう」
「かしこまりました」
遺物が埋まっていると思われる場所を見つけたが、バウス地区でも一、二を争う賑わいを見せる場所を掘ればいやでも人目につく。
バウラはしばし考えるそぶりをすると、ヴォラーの目と耳を担当するヴァーンに土地を借りれないか調べてくるように命令し、ヴァーンは人ごみに消えていく。
「広範囲の土地を借りてそれっぽいテントを立てて露天のフリをすればある程度はごまかせるだろう」
「何を売るの?」
「それは……ヴァーンが戻ってきたら宿で話し合おう」
バウラは遺物が埋まっている土地一体を借りて偽のテント露天を立てて発掘を行うアイデアを提案する。
僕が売り物はどうするのと聞くと、バウラは痛いところを突かれたようにそっぽ向いてぼそぼそと宿で話し合うといって逃げるように宿に戻る。
「全員が揃ったようなので、遺物をどうやって発掘するか話し合おう」
その日の夜、バザールの土地を借りれないか調べに行っていたヴァーンが戻ってくるとバウラが話し合いを始める。
ヴァーンが言うには土地を借りることは可能で、遺物が埋まっている場所は比較的安いことが分かった。
テントや発掘用のシャベルなども用意はできたが、肝心の売り物をどうするかでつまずく。
「準備中ということにして掘り進めるというのは?」
「遺物が出るまでずっと準備中はさすがに怪しまれるでしょ?」
「どこかで買った品物を並べるとか」
「発掘中の音や土はどうする?」
僕とシュヴァルツ、そしてヴォラーの面々は発掘中の偽装露天をどうするかで悩み始める。
「夜に掘るのは?」
「夜は夜で夜行性種族のバザールが行われている。あそこは昼も夜も眠らないんだ」
夜中にこっそり掘ろうという僕の案は残念ながら廃案になった。まさかバザールが二十四時間営業だとは思わなかった。
「うーん……僕が何とかするよ」
「ルカール、何か案があるのか?」
「僕の手持ちのアイテムをいくつか売る。発掘の音は魔法で何とかするよ」
いいアイデアは浮かばず話し合いは平行線、疲れが見えてきたところで僕はアイテムボックスでもある指輪からゲームから受け継いだアイテムや今までの冒険で手に入れた宝石などを取り出し、これを商品として売る案を出す。
「音をどうにかする魔法は?」
「消音と言って、範囲内の音を消す魔法がある。それで何とかなるでしょ?」
「すまないルカール。私にできる事なら何でもしよう」
「それについては遺物を全部手に入れてから話し合おうよ。今は発掘を優先しよう」
バウラが頭を下げると、他の面々も頭を下げる。だが、ヴォラーの目と耳を担当するヴァーンだけが頭を下げない。
「ヴァーン! お前もルカールに頭を下げろ」
「すっ、すまない……考え事をしていた。感謝する」
それに気づいたバウラが注意するように怒鳴ってヴァーンも慌てて頭を下げるが、何となく不承不承という感じがする。
「とにかく明日場所を借りて発掘を始めよう」
何となくヴァーンの態度が気になるが、今は遺物を優先だ。今夜は眠って明日の発掘に備えることにした。




