第五十七話 銀の海の戦い
バグベアード帝国の遺物を求めてケチャの迷宮へと挑んだ僕達は、迷宮を守るバグベアード達と出会い、遺物が眠る銀の海と呼ばれる聖地を目指す。
地下水脈の川で魔王シデアスの負の遺産でもあるアビスモンスター達を撃破し、先へ進む。
「明かり?」
「この先に何者かがいるようですね」
迷宮を進んでいくと、進行方向から僕達以外の明かりが見える。
僕とシュヴァルツは慎重に明かりの元へと進んでいく。
僕達が辿り着いたのは広い洞窟の岩棚の最上部。
明かりは岩棚の最下層から漏れており、岩棚から下を覗き込むと、水銀だろうか?巨大なプールに銀色に発光する水が溜まっていた。たぶんあれが迷宮を守っているバグベアードの部族が言っていた銀の海だろう。
「デルーラの集団がいますね」
「全員銀の海を囲むように何しているんだろう?」
岩棚から見下ろしているとアビスデーモンのデルーラ達は銀の海の周りで何かを叫んだり、体をくねくねと動かしている。
すると、銀の海がさざなみを発生させて、海の中心部から何かが浮上してくる。
「どうやら銀の海の魔力か何かを使って異界からアビスデーモン達を呼び寄せているようですね……マスター、あのデルーラを見てください。あいつの首飾り、遺物ではありませんか?」
シュヴァルツが指さした方向にいたデルーラをよく見ると首飾りをしており、バウラが言っていた黄金の飾り石の形状に一致している。
「遺物を手に入れる為にもあいつらを倒さないといけないってことか……やっつけるよシュヴァルツ、飛翔と魔法の盾を付与したら突撃だ」
「ええ、了解しました」
僕はシュヴァルツと自分に飛翔と魔法の盾を付与して事前に状態異常の抵抗力を上げるポーションを飲むと、飛行してデルーラ達に攻撃を仕掛ける。
「万物の根源たるマナよ 稲妻の竜よ 我が敵を貫け 稲妻の竜!!」
僕は銀の海から現れたグリムの集団に杖を向ける。すると杖の先端から竜の形をした稲妻が発射され、グリム達の中心部に落雷の様に命中して電撃が広がり、グリム達が電撃で焼かれていく。
「ゴウワアアアアア!!」
「効かないよっ!」
遺物の首飾りをしたデルーラが雄たけびをあげるが、事前に状態異常に抵抗するポーションを飲んだおかげで雄叫びに耐えられる。
「はあぁぁぁっ!」
シュヴァルツが急降下してデルーラの一体を一刀両断する。
「ギュワアアアア!!」
シュヴァルツが急降下してデルーラの攻撃範囲に入ったのか、数匹のデルーラが肩の触手を鞭のようにしならせて攻撃してくる。
シュヴァルツは両手剣で弾いたり、僕が付与した魔法の盾で攻撃を凌いで上昇して攻撃範囲から逃れる。
「シャアア!!」
「うわっ!? なんか飛ばしてきた!!」
上空で次の魔法を準備していると、数体のデルーラが触手で石などを拾ってこちらに飛ばしてくる。
「万物の根源たるマナよ 我が意思に従いて その悪意を敵に返せ 矢返し!!」
デルーラが飛ばしてくる石を右へ左へよけながら矢返しの魔法で打ち返す。
シュヴァルツも両手剣でバッティングの様に石を打ち返してデルーラにぶつけて反撃していた。
「ヴォオオオ!!」
「うわっ、魔法!?」
数匹のデルーラが雄叫びを上げたかと思うと、小さな炎の塊がデルーラの周りに浮かんで、次々と僕やシュヴァルツに向かって発射される。
「万物の根源たるマナよ 散れっ 魔法解呪!!」
シュヴァルツは大きく弧を描いて炎の魔法を回避して、僕は解呪魔法でデルーラの魔法そのものを霧散させる。
「ヴォナー!」
「また増援っ!?」
遺物を持ったデルーラが銀の海に向かって叫ぶと、渦巻きが発生して巨大な怪物が姿を現す。
「あれは……モルモです!」
銀の海から現れたのは錆色の皮のワニ。そのサイズは一般家屋並みで舌が二股になっており触手の様に蠢く。
「手が足りない、これを使うか!」
僕は指輪から一つの人形を取り出し、銀の海に向かって投げる。
投げられた人形はグングン巨大化していき、モルモと同じサイズの巨大な人型ゴーレムになる。
その巨大ゴーレムの右手は斧になっており、左手は鋼鉄のハンマー。挨拶代わりにハンマーでモルモを殴ると、モルモもお返しとばかりに舌を鞭のようにしならせて打つ。
「万物の根源たるマナよ 水晶の欠片となりて 暴れ狂え 破片の嵐!!」
僕が呪文を唱えると、空中に巨大な菱形の水晶が現れたかと思うと、ガラスの砕ける甲高い音と共に菱形のクリスタルが破裂し、鋭い破片が豪雨の様に降り注ぐ。
「ギョワアアア!」
「ギュワアアア!!」
豪雨の様に降り注ぐ水晶の破片にデルーラ達は悲鳴を上げて範囲から逃げようとするが、僕は破片が降り注ぐ向きをコントロールして、次々とデルーラを仕留めていく。
「覚悟っ!」
遺物の首飾りをしたデルーラは防御魔法で水晶の破片の雨を防いでいたが、その雨に紛れてシュヴァルツが急降下して両手剣を振り下ろす。
シュヴァルツの両手剣は最初はデルーラの防御魔法に阻まれていたが、強引に突破して防御魔法を破壊すると首を斬り落とし、遺物の首飾りを奪う。
一方銀の海では巨大ゴーレムと巨大ワニのモルモの怪獣大決戦が繰り広げられており、周辺は二人が暴れた際に発生する水銀の津波で浸食されて行っている。
モルモが体当たりしてゴーレムに圧し掛かると、ゴーレムは巴投げの要領で投げ飛ばし、右手の斧でモルモを斬りつける。
モルモは起き上がるとその場で一回転するように尻尾で攻撃し、ゴーレムはそれを受け止めてジャイアントスイングで投げ飛ばす。
ゴーレムは投げ飛ばしたモルモにまたがり、頭部にハンマーや斧を振り下ろし攻撃する。モルモは二股の舌でゴーレムの両手に絡みつき、お互いに引っ張り合う。
「ギャアアアア!!!」
引っ張り合いに勝ったのはゴーレムで、モルモの舌を引き千切るとモルモが悲鳴をあげる。
ゴーレムの腕に巻き付いた舌は陸に上がった魚の様にビチビチと動きながら血をまき散らし、力を失ってずるりと滑り落ちていく。
ゴーレムはモルモにまたがったまま、斧の腕を振りろしモルモの頭部をかち割る。
それが止めとなったのかモルモは動かなくなり銀の海に沈んでいった。
それを見届けるとゴーレムも役目を終えたように崩れ落ちて瓦礫になっていった。
「マスター、どうやらあの銀の海は元々魔法施設だったようですね。デルーラ達によって汚染され召喚ゲートとして使われていたようです」
遺物を取り戻したシュヴァルツが銀の海を見下ろしながらそんなことを言ってくる。
「何とか出来るかな? 万物の根源たるマナよ この地を祝福されし 清浄なる土地に変えよ 浄化!」
僕が呪文を唱えると銀の海の表面に巨大な魔法陣が現れ、デルーラ達によって汚染されていた場所が浄化されていく。
「クラークっ!」
「バウラっ!?」
銀の海を浄化していると、唐突にクラークと叫んでくる声が聞こえてきた。
声の主を探すと、銀の海の対岸側の洞穴からヴォラーのバウラ達が満身創痍で姿を現し、こちらに向かって手を振っている。
「クラーク、無事だったか」
「バウラ達も……」
僕とシュヴァルツはバウラ達の近くに降り立ち合流する。
バウラ達は僕達が無事な姿にほっとしており、僕も同じように無事だったと言いかけるが……一人足りない。
「一人足りなくない? どこかで休んでるの?」
「……ヴォラーの手ウルクは遺物と引き換えに死んだ」
「そんな……」
一人足りないことを指摘すれば、バウラ達は沈んだ顔で黄金とミスリルで編まれた腰紐を見せて死んだと報告してくる。
バウラ達が探索した深層部もアビスデーモン達がいたようで激戦だったようだ。
ウルクがアビスデーモンと相打ちになって倒してくれたおかげで遺物を手に入れる事が出来たらしい。
「クラークの方はどうだ?」
「こっちも手に入れたよ」
僕も黄金の飾り石をバウラに渡すと、バウラを含むヴォラーの面々が感嘆の言葉を漏らし、尊敬するような目で僕達を見る。
「残る遺物はあと三つだね」
「……いや、あと二つだ」
僕が残りの遺物の数を口にするとバウラ達は目配せして頷き合い、黄金の王冠を取り出して僕達に見せる。バウラが見せた王冠には何かをはめ込めるような窪みが三つあり、僕が渡した黄金の飾り石が窪みにぴったり合う。
「我が一族に伝わる遺物の一つ、王冠だ。残りの遺物はオーブとダイヤ、そのどちらかがグレイヴォルドにある」
「グレイヴォルドってどこ?」
「エンドアにあるモンスター達の都市です。中立都市でドラゴンレイルも止まります」
バウラは次の遺物が眠っていると思われる場所を口にする。それがどこかと尋ねるとシュヴァルツがグレイヴォルドはエンドアにあるモンスター達の都市だと教えてくれる。
「とりあえず一旦休もう。僕達はこの迷宮を守るバグベアード達とも話をしたから、そこで休めるかも」
「おおっ! 遠き過去に別れた同胞たちが生きていたのかっ!? さすがクラークっ!!」
ケチャの迷宮を守るバグベアードの部族の話もすると、バウラ達に笑みが戻る。
彼らと出会ってウルクを失った悲しみを少しでも癒せたらいいなと思った。




