第五十六話 ケチャの迷宮の守護者と襲撃者
バグベアード帝国の遺物を求めてケチャの迷宮を探索していく僕達。
「シュヴァルツ、何か音が聞こえない?」
「剣戟……ですね……どうやらこの先で戦闘が行われているようです」
アビスデビルのデルーラがいた鍾乳洞を通り抜けると、進行方向から剣戟の音が聞こえてくる。
「ヴォラーのヴァウラ達かな? 急ごう!」
「ハイ、マスター」
通路を進んでいくと武器がかち合い、怒鳴り合う声が聞こえてくる。
耳をよく済ませると僕の知らない二つの言語が聞こえてくる。例えるならドイツ語と英語でお互いを罵倒し合っているのを母国語しかわからない日本人が聞いているとでもいえばいいだろうか。
「片方はバグベアードの種族言語ですね。もう片方は……アビスモンスターの言葉です」
「バグベアード語? バウラ達かな?」
「いえ、少々発音が番うので別の部族かと思われます」
シュヴァルツが進行方向から聞こえてくる怒鳴り合う声を聴いて、言語を特定する。
バウラ達がこっちに来たのかと思ったがシュヴァルツが言うには別の部族のバグベアードだという。
通路を通り抜けると、かつては兵舎だったと思われる広間に出る。元々は家具や武器だったものが部屋に散乱しており、部屋の中央では白い体毛に青白い肌のバグベアードの戦士が三人。そのバグベアードと交戦しているのは二つの生物を合体させて失敗したような奇怪なモンスター達だった。
「うえ、何あれ……気持ち悪い」
「あれはグリムという魔王シディアスによって生命を歪められ狂気に陥ったこの世界の住人のなれの果てです」
奇怪なモンスターを見た瞬間僕は嫌悪と吐き気を覚える。
シュヴァルツはその奇怪なモンスターの姿を見て正体を教えてくれる。
「マスター、どうします?」
「とりあえずバグベアードに手を貸そう。シュヴァルツは魔剣アルクラーウを使って! 万物の根源たるマナよ かの者達の傷を癒せ 集団治癒!!」
「了解しました」
僕とシュヴァルツはバグベアード達に手を貸すべく行動する。
まずはバグベアード達の傷を癒してこちらが敵ではないことをアピールする。
バグベアード達はいきなり傷が塞がって驚いているが、目の前のグリムとの戦闘を優先する。
「ダゼド、ボガズバ!」
「ずっ、ズガ!?」
シュヴァルツが魔剣アルクラーウを掲げながらバグベアード達の言語で話しかける。バグベアード達は新たな乱入者である僕達を見て戸惑ったような声をあげる。
「ウルキュルグウググ!」
グリム達は聞いてるだけで不愉快になる声を上げて手に持った武器で攻撃してくる。
「ハゼ、ガガ!」
「ジ!」
バグベアード達とシュヴァルツは協力体制を結ぶことに成功したのか、短く言葉を交わすとお互い頷き合い、グリム達と戦う。
バグベアード達の武器は石器製でグリム達に傷をつけれるが、決定打にはならない。バグベアード達はシュヴァルツを攻撃の主体にして、牽制にシフトしていく。
シュヴァルツは片手で魔剣アルクラーウを使いこなし、グリム達を倒していく。
四対三が四対二に、最後はバグベアード達がグリムの四肢を取り押さえてシュヴァルツが止めを刺す方向で戦闘を終わらせた。
「ギョク、ヴォラークラーク」
「ジゾ? ヴォラークラーク?」
戦闘を終えると、シュヴァルツは僕を指さし紹介するような感じでヴォラーとクラークという単語を繰り返す。
「マスター、どうやら彼らは味方になってくれるようです」
シュヴァルツと青白い肌のバグベアード達が話し合いを続ける。僕はバグベアードの言語がわからないが、シュヴァルツが必死に身振り手振りを繰り返したり、魔剣アルクラーウを指さしたりすると、バグベアード達は何か納得したように頷く。
「マスター、彼らはバウラ達が言っていた遺物をここに隠して守っていたバグベアード帝国氏族の末裔のようです。指導者の下に案内してくれるようです」
交渉は成功したのか、青白い肌のバグベアード達はグリムの死体を担ぎ、ついて来いというように手招きして先に歩いていく。
バグベアードの戦士たちについて行くと、魔剣アルクラーウを見つけた墳墓で見かけたような巨大な鉄扉の前に辿り着く。
「ヴォナー! ゾブグ、ヴォラークラーク、ゼズ!!」
バグベアード達の戦士たちが扉の前で大声を上げる。
「シュヴァルツ、彼らはなんて?」
「ヴォラーという氏族のクラークを連れてきたと言っています」
小声でシュヴァルツに意味を聞くとシュヴァルツも小声で教えてくれる。
しばらくすると、何か仕掛けが作動する音が聞こえて鉄の扉が開門されていく。
扉の向こうは光を放つ苔と巨大なキノコが群生するエリアだった。
バグベアードの戦士たちと同じ青白い肌のバグベアード達がいて、遠巻きに僕達を見ている。
ケチャの迷宮に住んでいるバグベアード達の集落はジャングルの奥地に住む少数民族のような原始的集落で、ネズミを柵で囲って飼っていたり、石を壁にこすりつけて研いで武器にしていたりする。
バグベアードの戦士たちに案内されて集落の中心部へと向かうと、骨のアクセサリーと化粧をしたバグベアードが待っていた。
「どうやらあのバグベアードがこの集落の指導者のようですね」
バグベアードの戦士たちがグリムの死体を置き、僕達を紹介するように喋っていると、話を聞いていたシュヴァルツが通訳してくれるように会話内容を教えてくれる。
バグベアードの指導者は戦士たちの話を聞き終えると僕達を見つめ、僕達がここに来た理由を聞いてくる。
シュヴァルツがバグベアードの言葉でここに来た経緯を話すと、バグベアードの指導者はここに二つの遺物があること、何者かによって遺物を安置している聖地が汚されグリムのような異形なモンスターの襲撃を受けていることを教えてくれる。
「彼らの聖地である銀の海を汚した怪物を倒してくれたら、遺物を持ち出すことを許してくれるそうです」
「それじゃあシュヴァルツ、指導者さんに僕達がその聖地に向かうって伝えて」
「わかりました」
僕達が銀の海という聖地に向かうことを伝えると、指導者はほっとしたように頷き、聖地と言われる銀の海までのルートを地面に書いて教えてくれる。
バグベアードの指導者から教えてもらったルートに従って通路を進んでいくと、幅が広く流れの緩やかな地下水脈の川が、道を東西に分断していた。
「この川を渡った先が……マスター、敵です!」
「素直に行かせてくれないか」
川の対岸からモンスター達がやってくる。
敵のほとんどはグリムだが、一体だけ青紫のゴリラと馬が溶けあったようなモンスターが突撃用の槍を構えてこちらを威嚇していた。
「グリガールというグリムの上位種族です。力が強くて突撃攻撃を主体にしています」
シュヴァルツがゴリラと馬が溶けあったモンスターの正体を見抜く。聖地を汚した存在は全体的に悪趣味な生物を作るのが趣味らしい。
グリガールは後ろ足で地面を削るように何度も蹴って突撃体勢をとる。残りのグリム達は手に持ったクロスボウをこちらに向けて発射する。
「万物の根源たるマナよ 我が意思に従いて その悪意を敵に返せ 矢返し!!」
即座に僕が矢返しの魔法を唱えて、グリム達が放ったボルトがUターンしていく。
グリム達はまさか自分が撃ったボルトが返ってくるとは思わなかったのか。歪な顔を驚愕に染めてボルトを受けてギャアギャア悲鳴を上げる。
「キィィィィ!!」
グリガールがガラス窓や黒板を爪で引っ掻いたような不快な雄たけびを上げて突撃してくる.
「万物の根源たるマナよ 絶対零度の息吹となりて 我が敵を包め! 氷結の嵐!!」
僕はグリガールの不快な雄たけびに顔をしかめながらも魔力を集中させて呪文を唱えると一定範囲に猛吹雪が起こり、グリム達と川ごとグリガールを凍らせる。
「シュヴァルツ」
「はいっ!」
追い打ちをかけるようにシュヴァルツが跳躍し、凍ったグリガールとグリム達を両手剣で粉砕していく。
「よし、先へ進もう!」
「ええっ!」
次の増援が来る前に少しでも銀の海へ近づこうと僕とシュヴァルツは走り出した、




