第五十五話 ケチャの迷宮
バグベアードの部族ヴォラーとのクラークという同盟を結んだ僕達は目的地であるケチャの迷宮に入る前に情報交換を行う。
「ケチャの地下に迷宮が?」
「ああそうだ。帝国が崩壊した時遺物を守る一族が、この地に逃げ延びて遺物を守るために迷宮を作り上げたと言われている。ここには二つの遺物が眠っているはずだ」
ヴォラーの歌い手であるバウラはこの地に眠る伝承を教えてくれる。
「迷宮で気を付けるべきことは?」
「それははっきりとは言えない。遺物を守るために迷宮に帝国の氏族が住み着いたともいわれているし、捕まえたモンスターを迷宮に解き放ったともいわれている。今日まで帝国の末裔を名乗る戦士がその武勇と栄光を求めて迷宮に挑み誰も帰ってきていない」
迷宮内で気を付けることはないかと聞くと、バウラは申し訳なさそうに情報がないと答える。
「この迷宮は浅い層と深い層があり、その両方に遺物があると言われているが……何分長い年月が経ちすぎている。最悪とっくの昔に持ち出されている可能性だってある。それでも我らは迷宮に挑み、祖先に武勇を示さねばならぬ」
「浅い層と深い層? 二つも僕達が探索するの?」
「いや、二手に分かれる。深層に向かうポータルがあるが、それは我ら帝国の秘術。クラークであるお前にも申し訳ないが見せれない」
バウラはケチャの迷宮が浅い層と深い層の二重構造だと説明してくれる。
両方探索するのかと思っていたら、ポータルという瞬間移動装置があるらしい。
それはバグベアードの秘匿技術らしく、僕達は見ることも利用してもいけないようで、代わりに浅い層の探索をバウラはお願いしてくる。
「わかった、浅い層は僕達に任せて。……ところで遺物ってどんなの? 手に入れたらどうしたらいい?」
「ケチャの迷宮に隠された遺物は黄金の飾り石とミスリルでできた腰紐だ。手に入れたら……これを渡しておこう」
浅い層の探索を引き受けた僕はバウラに遺物の形状と連絡方法を聞くと、バウラは遺物の形状を教え、石を渡してくる。
「これは?」
「我ら部族に伝わるコムストーンだ。リンクした石同士離れていても会話ができる。遺物を見つけたら連絡してくれ。浅い層の入り口はあちらだ、お前たちに祖霊の加護があらんことを」
バウラ達は独特の仕草をすると浅い層の入り口があるという方向とは逆の道から山を登っていく。
「僕達も行くか」
「ハイ、マスター」
バウラが教えてくれたケチャの迷宮の浅い層の入り口を目指す。
山道を登っていけば洞窟が見つかり、その洞窟を潜ると急勾配のトンネルが伸びている。
壁面には何かの鉱脈と思われる層の筋があちらこちらにあり、僕が作り出した光球の光に反射してキラキラしている。
鉱脈のトンネルを抜けると広々とした部屋に辿り着く。
部屋は所々崩落が起きており、崩落によって破壊された石造の残骸などが瓦礫に埋まっている。
「荒らされていますね……」
部屋には全部で十二個の石棺が立てかけられて埋葬されているが、全部蓋が破壊されて荒らされている。
中に埋葬されていた遺体は無残に投げ捨てられて骨がバラバラになっている。
「クラーク聞こえるか? 我々は深部層に到着した。ダークが言うには深部は不浄な力で汚されてアンデッドが生まれやすい場になっているという。実際こちらは転移してすぐにグールに襲われた。そっちはどうだ?」
部屋を探索しようとするとバウラから貰ったコムストーンからバウラの声が聞こえてくる。
それと同時に地面にばらけていた骨が組みあがっていき、スケルトンになるとこちらを睨んでいるように目が赤く光る。
「こっちも今スケルトンたちと出会った。かなりの数だよ」
「何とか生き延びてくれ! 幸運を祈る!」
バウラとの通話はそれで終わったようでコムストーンからは返事はない。
「どうやらバグベアードのスケルトンのようですね……全部で十二体ですか」
「さっさと先に進むよ! 万物の根源たるマナよ 日輪の光となりて その輝きを照らせ 太陽光爆発!!」
僕が呪文を唱えると杖の先端から太陽の光が爆発するように広がり、バグベアードのスケルトン達が太陽の光に触れると一瞬で灰になり散っていく。
「どうも先客がいるようだね」
「はい、先ほどバウラさんの話からしてネクロマンサーが侵入してこの迷宮に何かしたようですね」
「アンデッド系なら 太陽光爆発でごり押しできる」
「ネクロマンサーにとっての誤算は対アンデット魔法を持つマスターが来たことですかね」
僕達はそんな話をしながら次の通路を進む。
スケルトンたちがいた部屋から先に進むと、壁の一部が崩れた部屋に到着する。
部屋の床にはかなりの数の人型の骨が埃をかぶってあちらこちらに散らばっていた。
またスケルトンが襲ってくるかと構えていると、地面や壁から半透明のバグベアードの幽霊が十体現れる。
「スペクターですね」
「以前であったレイスとどう違うの?」
「レイスよりは弱いです。スペクターも太陽の光が弱点です」
シュヴァルツはバグベアードの幽霊を見てその種族を言い当てる。
アンデッド系なら僕の太陽光爆発で一網打尽出来るので怖くはない。
再度 太陽光爆発で鎧袖一触でスペクターたちを消滅させると、僕とシュヴァルツは部屋の探索に入る。
「本来の通路が崩落で塞がっていますね……」
「瓦礫撤去は最後の手段にして別のルートがないか調べよう」
先へ進む通路は崩落により瓦礫が積み上がり塞がっている。
撤去して進めるならいいが、瓦礫を撤去したせいでさらに崩落を促しての生き埋めは嫌だ。
「マスター、下に部屋があります。どうやら崩落で下の階と運よく繋がったようですね」
シュヴァルツが崩れた壁に近づくと下に部屋が見えるという。
僕が明かりを操作して覗き込むと十メートルほど下に部屋があるが見えた。
「降りてみようか」
「私が先行します」
指輪からロープとピトンを取り出して、シュヴァルツに下に降りる足場を作ってもらう。
「先に続く通路があります」
「わかった、シュヴァルツは警戒していて」
下の階にロープを伝って降りていく。
下の階は上層部の天井が崩落してできた瓦礫で埋まっており、かなり歩きにくい。
通路は狭く人一人がやっと通れるほどで、でこぼこした道が右へ左へとうねりながら続く。
狭くうねった道を通り抜けると、鍾乳洞が広がっていた。
鍾乳洞からはあちらこちらから水が滴る音が響き、洞窟の床と天井には鍾乳石以外に紫色の巨大な水晶があちこちに生えている。
「何……これ……」
魔法の光源の照らされた水晶は怪しく光り、その中身を僕達に披露するように見せる。
紫色の水晶の中には恐怖の表情に歪んだバグベアードが水晶を内側から叩き割ろうとした体勢で閉じ込められている。
よく見ればこの鍾乳洞にある水晶すべてにバグベアードや洞窟に住む蟲や爬虫類……生物という生物が閉じ込められている。
「ヴォオオオオオオ!!!」
「うわっ!?」
「マスターっ!?」
水晶に気を取られていると、鍾乳洞の奥にいた何者かの不意打ちを食らう。
何者かは雄たけびを上げると、頭に激痛が走り僕はその場にしゃがみ込む。
シュヴァルツが僕を護る様に身を挺すと、鍾乳洞の奥から襲撃者が姿を現した。
その肌は毒々しいほど紫色で、顔はしわくちゃの老人でだらりと長い舌が垂れている。両肩から触手を生やし、見る者の気が狂いそうな雰囲気を漂わせていた。
「アビスデーモンのデルーラ!? なんでこんなところにっ!?」
シュヴァルツは現れた襲撃者を見て驚愕の声を漏らす。
現れたのは終末時代の魔王シディアスの負の遺産ともいえるアビスデーモンのデルーラ、それが二体。
「マスター、状態異常を治療するアイテムを使ってください。奴らの雄叫びは精神をかき乱して痛みを煩わせます」
「わか……た」
シュヴァルツが僕の頭痛の原因がデルーラの雄叫びだと教えてくれたので、指輪からポーションを取り出す。
それを妨害しようと二体のデルーラが肩から生える触手をしならせて襲い掛かってくる。
「させま―――なにっ!?」
シュヴァルツが両手剣を抜いてデルーラの一体に斬りかかるが、デルーラは器用に触手をしならせてシュヴァルツの両手剣に絡みつかせて動きを封じようとする。
もう一匹のデルーラはシュヴァルツの脇を抜けてポーションを飲み終えた僕に襲い掛かってくる。
「シャアアア!!」
「うぐっ!?」
バシーンと痛烈な音が鍾乳洞に鳴り響き、僕は触手に叩かれて、鍾乳石を破壊しながら吹っ飛ぶ。
「いたたた……折れては……ないな」
ガラガラと音を立てて鍾乳石を払いながら起き上がる。防護効果のある服のおかげで打撲ぐらいで済んだが、多分青痣とかになっていそうだ。
「マスターっ!? いい加減放せっ!!」
シュヴァルツは絡みついた触手を強引にはがそうとするが、巻き付いた触手はゴムの様に伸縮してはがれない。業を煮やしたシュヴァルツは両手剣を放して蹴り飛ばし、魔剣アルクラーウを抜いて構える。
「グラララ!!」
「うわっ、ととっ!?」
僕に攻撃してきたデルーラは両肩の触手を巧みに操り連続攻撃してくる。
僕は大きくバックステップしたり、その場でしゃがんだりして必死に避け、反撃のチャンスを伺う。
「万物の根源たるマナよ 我が敵を破壊せよ 破壊!!」
僕は触手を避けながら呪文を唱えて杖の先端をデルーラに向けると、デルーラの体が風船のように膨れ上がり、限界を超えると破裂する。
シュヴァルツと対峙していたデルーラは、シュヴァルツから絡めとった両手剣を触手でもって振り回す。
「吹きとべっ!!」
シュヴァルツはそれを避けたり、魔剣アルクラーウで受け流し、デルーラの懐に入ると切っ先を向けて叫ぶ。
アルター皇帝の様に魔剣アルクラーウの切っ先からビームが発射されて、デルーラの頭部を消滅させる。
「ふう……この鍾乳洞にいたのはあの二体だけだったようですね」
「あの叫び声はきつかった……もう一本飲んでおこう」
戦闘を終えた僕はもう一本状態異常治癒と治療用のポーションを飲んで体を癒し、小休憩をとった。




