第五十三話 ドラゴンレイル
セブンブリッジの領主マウロ・オージャール伯爵から依頼を受けた僕達は依頼任務を遂行するためにドラゴンレイルという乗り物がある王都アザーンへと向かう。
ナブー王国王都アザーンはいくつかのブロックに分けられた街作りをしており、今僕とシュヴァルツはランディングと呼ばれるブロックにいる。
「ドラゴンレイルって、魔法で動く列車の事かあ」
僕の目の前にはドラゴンの顔の船首ならぬ車首が付いた巨大な列車だ。
どれくらい巨大かというと、片輪だけで二車線のレールを使う複線を使って単線走行するというダブル・トラックス形式と呼ばれる走り方をする列車だ。
貨物車や客車合わせて二十両も連結されており、モンスターが跋扈する荒野を走ったりするために車両の上にはバリスタなどが搭載されている。
今回の依頼の目的地であるオリエントの街に近い駅までドラゴンレイルで移動し、そこから徒歩でオリエントに行く。
ドラゴンレイルのターミナルエリアは多種多様な種族が入り乱れ、露天では地方料理や種族料理が売られている。
貨物車付近では商人や人足が商品の入った木箱をせっせと積み下ろししており、荷馬車がひっきりなしに往復している。
ドラゴンレイルは1日2回発車している。日本人の感覚からすると少なく思うが、整備や運行、単線での運用とか他諸々の事情から2回が限界なんだろうな。
マウロ伯爵から貰ったチケットを見せドラゴンレイルに搭乗する。ドラゴンレイルの内装は昔見た西部劇映画に出てくる蒸気機関車と客車そのものだ。
チケットの席はいわゆる自由席みたいなもので、クッションもない対面式の木製の四人がけの椅子、荷物をのせる金網があるくらいだ。
ドラゴンレイルに乗車する客層は中層市民や商人が多く、護衛かそれとも列車に乗る距離まで遠出の依頼を遂行しようとしているのかぽつぽつと冒険者も目撃する。
「そういえばシュヴァルツ、蘇芳ってどんな国?」
「遥か東方にある国です。マスターのいた世界の江戸初期に近い文化体形の島国です」
出発までまだ時間があったので、マウロ伯爵が言っていた蘇芳という国について聞くと、シュヴァルツは江戸初期に似た社会体制の島国だという。
「僕以外に転生者でもいた?」
「はい、寺で休んでいたら部下に焼き討ちされそうになったとか」
「………」
何気なしに自分以外の転生者でも過去にいたのかと呟くと、シュヴァルツが肯定して転生者の情報を教えてくれる。
寺で焼き討ちというワードで一人の戦国武将を思い浮かべるが違うだろうと思い込むことにした。
考えを追いやるために車内の窓から外の風景を見る。この世界の鉄オタなのか出発するドラゴンレイルをひと目見ようと人だかりができている。
中にはストロボカメラのようなもので写真を撮ってる人もいて、ベストショットを撮ろうと、関係者以外立ち入り禁止エリアに足を踏み入れて警備員に突き飛ばされたりしている。
王都アザーンを走りぬけ、一面畑が広がる農業地を、草原を、荒野を走り抜けてドラゴンレイルは走り続ける。
丸一日走り抜けてスタンラーンと呼ばれる街に辿り着く。クッションもなにもないイスに丸一日座っていると体がこって仕方ない。
まだ乗り続ける乗客達も出発までの時間がある時は一旦下車してストレッチや食事に出掛けたりする。
目的地のオリエントはナブーとエンドアの国境近くにある街で、アラビアンナイトな干しレンガの建物が多い。
服装もカンドゥーラといわれる民族衣装によく似た白い布の衣装を着た人達が多い。
住民も人間よりはエルフやドワーフといった異種族が多く、人間は少ない。
灰色の詩人亭はすぐに見つかり、一階の酒場にはちらほらと客がいる。
店内を見回せばマウロ伯爵が言っていた宝石で装飾された剣の柄を持ったゴリマッチョの毛むくじゃらな男が酒を飲んでいた。彼が現地スパイのバグベアードのジュルチェだろうか。
ジュルチェと思われるバグベアードがこちらを見た時に、マウロ伯爵から預かったハンカチで汗を拭く仕草をして紋章を見せ、埃をはたくようにハンカチを二回引っ張る。
「あんた、ここじゃ見かけない顔だな。お近づきに一杯奢ってくれよ」
マウロ伯爵から教えられた符丁を行うとジュルチェと思われるバグベアードが酒をねだってくる。
「いいよ。その代わりこの近辺のこと教えてよ」
「それだと二杯は貰わないとなあ」
「つまみもつけようか?」
「わかってるじゃねえか! 親父、酒と摘まみ頼んだ! 支払いはこのチビな!」
ファーストコンタクトは成功したと言えばいいだろうかな?
ジュルチェが座っていたテーブルに向かい、席に着く。
「リピリーと騎士か? あの真っ白お貴族様は随分とへんてこな組み合わせ送ってきたな。ジュルチェだ」
「貴方に会って話を聞けといわれたルーシェスとシュヴァルツだよ」
ジュルチェと名乗ったバグベアードは運ばれてきたエールを一気に飲み干し、つまみの干し肉を一口で食べながら自己紹介する。
「真っ白貴族が支援しているのはヴォラーという部族だ。奴らはエンドアにあるケチャという山に向かった。そこに遺物が眠っているらしい。こいつが地図だ」
ジュルチェは羊皮紙を懐から取り出し、ちらりと見せる。
手書きに近い地図にはオリエントからケチャという山に向かう為のルートが記入されている。
「ヴォラーが遺物を見つけたという話は聞いていない。ただ、ヴォラーはケチャに向かう途中襲撃を受けて疑心暗鬼に近い。頑張って信頼を勝ち取ってくれ」
「君の名前を出すとかは?」
「駄目だ駄目だ、俺はゴ・ラだから信じてもらえない」
ヴォラーの信頼を勝ち取れと言われて、ジュルチェでは何とかならないのかと聞くと、ジュルチェは腕の刺青を見せる。
ゴ・ラの意味は分からないが、バグベアードの部族で信用がないのかもしれない。
「ヴォラーの人達の特徴は?」
「額にこのマークがある」
「シュヴァルツ、このマーク見覚えない?」
「剣を手に入れた墳墓で見つけた日記に挟まっていたプレートに刻まれたマークですね」
ジュルチェにヴォラーの人達の見分け方を聞くと、動物の足跡みたいなマークを描いた紙を渡してくる。
それを見た僕は以前何処かで見たような気がしてシュヴァルツに問うと、シュヴァルツが魔剣を手に入れた墳墓で見つけた侵入者の遺品から見つかったマークだとわかった。
「墳墓にもヴォラーが来てたのか……ほかに気を付けることは?」
「そうだな……」
他に気を付けるべきことをジュルチェから聞いて一泊すると、僕は翌朝ケチャという山を目指してエンドアの土地に足を踏み入れる。
エンドアの土地はサバンナに近い土地で疎林や低木を所々にまじえる長草が生えている。
「今は乾季なので水分補給に気を付けてください」
シュヴァルツがジュルチェから受け取った地図をみながらそんなことを言う。
今通ってる道はエンドアとナブーをつなぐ交易路らしいが、管理する者がいないため荒れ果ててかろうじて道とわかる程度だ。
道を進んでいると、前方の大きな木立や岩陰から鎧を纏った人間の戦士たちが全部で十人現れる。
「命が惜しければ剣を渡せ」
戦士の集団のマントを羽織ったリーダーと思われる人物が要求を述べる。
「ダントーイン訛りがありますね……おそらくはダントーインの刺客といったところでしょうか?」
「……察しのいいやつだな。これで貴様らを殺さないといけなくなった」
シュヴァルツが相手の言葉を聞いてダントーイン訛りがあると指摘すると、戦士の集団は剣を抜く。
「殺せ。そのあと剣を探せ」
リーダー格の男が剣を振り下ろして命令すると、戦士達が一斉に襲い掛かる。
「万物の根源たるマナよ 黒き手となりて、我が敵を握りつぶせっ! 黒の触手!!」
僕が呪文を唱えて杖で地面を叩くと、まるで地面に墨を零したように黒い液体が広がっていく。
「怯むなっ! ただのまやかしだっ! 数はこちらの方が上なんだぞ!!」
黒い墨に戦士たちは一瞬足を止めるが、リーダー格が叫ぶと恐怖を捨てて僕達に襲い掛かろうとする。
「ぎゃあああああっ!」
「なっ!?」
バキン、ゴキンとあちらこちらから金属の割れる音や骨が折れる音と戦士たちの悲鳴が平原に響き渡る。
黒い墨に足を踏み入れた戦士たちは墨から伸びてきたタコの脚のような触手に巻き付かれて拘束されている。
そのうちの何人かは黒い触手の締め付けに負けて圧死している。
一瞬で自分の部下たちが黒い触手に捕らわれたのを見てリーダー格の男は唖然としながら墨に足を踏み入れないように数歩下がっていく。
「この魔法、強いけど悪人っぽいのがちょっとねえ……」
黒の触手は元となったゲームでも多数の敵に対して使える攻撃と拘束魔法で、黒い触手は戦士達を締め付けたまま地面に叩きつけたり、隣の戦士にぶつけたり、はるか上空へ投げ捨てたりする。黒い触手に捕まった戦士たちは全員弄ばれ無残に命を落としていく。
「ばっ……化け物……くっ!」
「シュヴァルツ!」
「了解しました」
部下たちが死んでいくのを見てリーダー格は逃走を図ろうとするが、シュヴァルツが追いかける。
「ちっ!」
リーダー格の戦士はまきびしを投げるが、シュヴァルツには効かない。
「こうなればっ!」
「むっ!」
リーダー格の戦士は逃げるのを諦めて、シュヴァルツと対峙したかと思うと……
「皇帝陛下に栄光あれっ!」
そう叫ぶと自ら剣で首を切り落とす。
首が地面に落ち、切断面から血飛沫を噴き出しながら体が崩れ落ちる。
「どうやら情報を漏らさないために自害したようですね」
「……こいつらどうやって僕達がここを通ること知ったんだろうね」
シュヴァルツは身元を証明するものがないか死体を調べ始め、僕は死体を見下ろしながら待ち伏せを受けた理由を考える。




