第五十二話 領主マウロ・オジャールからの呼び出し
「ル、ルーシェス様……ご領主様から呼び出しがかっております」
「え? どういうことですか?」
海賊の島にあった遺跡探索から戻ってきた僕はダーヴィスの邸宅で報告し、クリスタルボックスの開封方法を調べてもらう約束をする。
ダーヴィスとの対面を終えて今度は冒険者ギルドで依頼完了報告のために冒険者ギルドに戻ると、受付嬢のベスティアが緊張した面持ちで召喚状を手にここセブンブリッジの領主から呼び出しが来ていると知らせてくる。
召喚状には領主の蝋印がされており、形式ばった文章だが速やかに領主の城まで来るようにという内容だった。
領主に呼ばれる理由はわからないが、執政者に逆らってもいいことはないので公衆浴場で旅の汚れを落として着替えると、魔動車で領主の城に向かう。
領主の城は十五年前まで戦争していたこともあって城というよりは要塞のような作りだった。
入り口の門番に召喚状を見せると案内をつけて中に入れてくれる。
中庭にもなってる広場の一角に車を止めて建物に案内される。
そこは円形のロビーで床は大理石でできていた。よく見れば大理石の床にはナブー王国の国璽があしらわれている。
「茶……室?」
案内された部屋はどう見ても日本の茶室を模した作りだった。
違うのは広々とした和室で、座布団の代わりにソファーと黒檀のテーブルが畳の上に置かれていたり、所々和洋ごちゃ混ぜになっている。
「………」
メイドさんがお茶を持ってくるが、ティーポットから柄杓に紅茶を注ぎ、柄杓から茶碗に注ぎ、砂糖を入れて茶筅でかき混ぜる。
間違った日本知識の外国人の接待を受けてるような気分で思わず苦笑する。
「領主様は東方にある蘇芳という国の文化を好んでまして……」
僕の苦笑する顔を見てメイドさんがなんでこんなことするか教えてくれる。言葉の裏から、私無理やり付き合わされてるんですという雰囲気が伝わってくる。
「お待たせしたでおじゃる」
茶碗で紅茶を飲んでいると、狩衣という公家の衣装を見よう見まねで作った服装の白粉顔の男性が入ってくる。バラエティー番組のコントで公家のコスプレしている人という印象だ。
「公家?」
「おお、おぬしは蘇芳文化に通じておるか? いかにも向こうの貴族である公家を真似た衣装でおじゃる。蘇芳の言葉を借りるなら雅であろう? ホッホッホ」
やってきた男の姿を見て思わず公家と呟くと、公家姿の男性は同好の士を見つけたように目を輝かせて自分の衣装を自慢する。
「御当主様、本題に」
「おお、いかんいかん。つい蘇芳文化を分かってくれそうな若人と出会えてはしゃいだでおじゃる」
執事と思われる老人に窘められて公家姿の男性は手に持ってる扇子で頭をこつんと叩いて反省する仕草をする。その扇子がディスコで使うようなファーの付いた大きな扇子で突っ込みそうになるのをぐっと我慢する。
「麻呂はここセブンブリッジの領主であるマウロ・オージャールと申すでおじゃる。ナブー王家からは伯爵の爵位を頂いているでおじゃる」
「ルーシェスです。アイアンランクの冒険者です」
「シュヴァルツです。アイアンランク冒険者でマスターの守護をしております」
公家姿の男ことマウロ伯爵が自己紹介し、それに合わせて僕達も起立して挨拶する。
「此度の呼び出しの件でおじゃるが、おぬしらはセブンブリッジ大学のレイル教授の依頼でバグベアードの墳墓から剣を回収したでおじゃるな? あの遺物に関連する任務を受けて戴きたいでおじゃる」
マウロ伯爵は僕達を呼び出した理由を述べる。
「どんな任務ですか?」
「ふむ……エンドアという地方を知っているでおじゃるか?」
「エンドアといいますと、人間の法が及ばぬ無法地帯。終末戦争を生き延びたモンスター達が跋扈する危険ではあるが希少な素材や資源が眠っているフロンティアともいわれている土地ですね」
「ほほう、お主の従士は中々博識でおじゃるな」
僕が任務内容を聞くと、マウロ伯爵は扇子で肩を叩きながらエンドアという地名を知っているかと聞いてくる。
シュヴァルツがエンドアという土地について知っていることを話すと、マウロ伯爵は少し驚いた後に好意的な笑みを浮かべる。
「その土地ではバグベアード帝国皇帝の末裔を名乗る二つの部族が覇権争いをしているでおじゃる。そしてその二大勢力の一つがダントーイン帝国の支援を受けているのでおじゃるよ」
マウロ伯爵は執事に目配せして、地図を持ってこさせると情勢の話を始める。
「ナブー王国とダントーイン帝国は長年争い合っているが、大規模な武力衝突はない。それはここラーメイ山脈がダントーイン帝国とナブー王国双方の城壁の役目を担っておる。そのため帝国との武力衝突は西にあるこの渓谷で行われるでおじゃる」
マウロ伯爵は扇子で地図を名乗ったりしながらナブー王国とダントーイン帝国の戦争について語る。
「ダントーイン帝国がエンドアのバグベアードの部族になぜ支援するかというと、帝国の支援で国をまとめ上げさせ、エンドアから攻めさせるためでおじゃる。それが実現するとナブー王国は東西二面で防衛しなければならないでおじゃる。これを防ぐために我々ナブー王国もエンドアのもう一つの部族に支援を送ることを決定した」
「もしかして六つの遺物を集めて、ナブー側の部族に提供するとか?」
「その通りでおじゃる」
話の流れから大体読めてきたので、バグベアード帝国の六つの遺物を集めるのかと聞くとマウロ伯爵は肯定する。
「それなら僕達以外の冒険者、それこそシルバーやゴールドクラスに依頼したほうがよくないですか?」
「そこらへんは国の事情とか色々係るでおじゃる。シルバー、ゴールドランクともなると目立つでおじゃる。国内では好戦派や貴族血統主義者がバグベアードに支援することに難色を示しており、バグベアード側も我々が表立って支援すると政治的軋轢や疑心暗鬼、ともかく色々と社会情勢的に不利になるでおじゃる。お主等はアイアンランクになったばかり。世間一般からすればひよっこがやっと一人前になったお主等にそんな注目はいかぬよ」
遺物探しならシルバーやゴールドランクの方がいいのではと意見を言うと、マウロ伯爵は様々な事情から僕達が適任だと言ってくる。
「依頼内容は残りの遺物を見つけて、我々ナブー王国側が支援するバグベアードの部族に渡してもらいたい。ただし、我々ナブー王国の関与は知らせてはならぬでおじゃる。あくまでお主等一介の冒険者が義憤や金銭から部族に渡したという形にしてもらいたいでおじゃる。報酬はたんまりと約束するでおじゃる。成功すれば麻呂だけではなく、ナブー王国からも恩恵があるでおじゃるよ」
マウロ伯爵が執事に目配せすると執事が出ていき、銀のトレイに契約書と通貨の入った袋を複数用意する。
「事が事でおじゃる。申し訳ないが依頼を受けてくれるならナブー王国が関与していること、任務で知りえた機密を漏らさないでほしいでおじゃる。漏らせば王国の敵として追われる立場になる可能性もあると伝えておくでおじゃるよ」
マウロ伯爵は契約書内容を読み上げて、機密事項に関しては再三注意と脅しをかけてくる。僕は何度も読みなおして覚悟を決めると、依頼契約書にサインする。
「よく決心してくれたでおじゃる。あれを持ってまいれ」
僕が契約書にサインするとマウロ伯爵は肩の荷が下りたようにほっとして、手を叩くと使用人たちがセブンブリッジ大学に保管されているはずの魔剣アルクラーウを持って入室してくる。
「あれ? これってセブンブリッジ大学に保管していたんじゃ?」
「麻呂が今回の為に取り寄せたでおじゃる。少々大学では保管が完ぺきとは言えぬでなあ」
「どうゆうことですか?」
「うむ、最初は学部による派閥争いじゃったのだが……」
マウロ伯爵によると僕が魔剣アルクラーウを預けた後、錬金術学部と考古学部で剣の所有で揉めたらしい。
錬金術学部では魔剣アルクラーウを解析して新たなマジックアイテムを開発するために保管を自分たちがすると主張。考古学部がそれに反対して小競り合いに。
その争いに紛れるようににダントーイン帝国かエンドアのバグベアードの部族のどちらの手の者かかわからないが剣を盗もうと賊が大学に侵入、警備員が殺される事件が起きた。
「その後も剣を盗もうと侵入を試みたり、学生を脅して持ってこさせようと脅迫を受けてるようでな。今回の任務も含めて麻呂が取り寄せたでおじゃる。お主は風変わりなマジックバッグを所有していると聞いているでおじゃる。その中に保管して任務に挑んでほしいでおじゃる」
マウロ伯爵は魔剣アルクラーウを持ち出した意図を僕に伝えてくる。
「まずはラーメイ山脈北西部にあるオリエントという街に向かってほしいでおじゃる。こちら側が支援するバグベアードの部族ジュルチェというバグベアードにコンタクトを取るでおじゃる。そやつはこちらの現地スパイじゃ。宝石で装飾を施した剣を持つバグベアードでおじゃる。オリエントの灰色の詩人亭という宿に常駐しているはずでおじゃる」
マウロは現地スパイの情報を教えて、符丁とマウロの使いであることがわかる貴族の紋章が入ったハンカチを渡してくる。
「現地までの移動手段は?」
「ドラゴンレイルのチケットをこちらで取るでおじゃる。それに乗車して現地まで向かってほしいでおじゃる」
マウロ伯爵は最初の任務としてオリエントという街でバグベアードのスパイとコンタクトを取れといい、移動手段としてドラゴンレイルという乗り物を利用するように言ってくる。
「伯爵様、こちらを」
「ふむ……ルーシェス、お主も見るがよい」
別の使用人がノックして入ってくると、マウロ伯爵にメモを見せる。
マウロ伯爵はメモの内容を確認すると、僕にも見せてくる。
メモの内容はナブー側が支援するバグベアードの遺物探索隊が襲撃を受けたという内容。
ダントーイン帝国側が支援するバグベアードだけではなく、統制の取れたアンデッド集団にも襲われたことから、帝国側、王国側、第三勢力が遺物を狙っている可能性がある報告だった。
「ここにきて三つ目の勢力でおじゃるか……麻呂もできる限り調べてみるでおじゃるが、ルーシェスお主も三つ目の勢力と遭遇したらこれで連絡してほしいでおじゃる」
マウロ伯爵は扇子で首や肩を叩き頭を悩ませ、何か思いつくと使用人に物を持ってこさせる。マウロ伯爵が持ってこさせたのは木箱に入ったレターセットだった。
「これは?」
「錬金術師が作ったマジックアイテムでおじゃる。手紙を書いて空に投げれば……ほれ!」
マウロ伯爵は見ればわかると言って、手紙に文字を書いて投げると、手紙が鳩に変身して部屋の中を飛び回り、執事の肩に留まる。すると鳩はまた紙切れに戻り、執事が紙を回収する。
「手紙が執事に届くように設定しているでおじゃる。判断に困るときや進捗情報が手に入ったら知らせるでおじゃるよ」
マウロはやり方を見せると木箱を渡し、肩を叩いて頼んだでおじゃると告げて出ていった。




