第五十一話 ドワーフの遺跡
「いやー……これは予想外だな。宝見つけて戻ってきたのかと思ったら、別の海賊に浚われた子供を助けて帰ってくるとは……」
海賊に浚われた子供たちを助けてスパイク船長のキャンプに戻ると、船長たちが苦笑していた。
海賊の宝探しに地図に載ってない島にきて、海賊とモンスターの密輸取引現場目撃なんて誰も予想できないと思う。
助けた子供たちはセブンブリッジ近隣の農村や漁村の子供で人攫いに浚われて、そこから海賊に売られたらしい。
「へえ……この島に水没した終末戦争時代の遺跡があるんですか?」
「子供たちの話と海賊とモンスターの遺留品を調べた限りでは」
子供たちに事情聴取すると、ここに運ばれてくるときに海賊たちの会話を聞いており、あの海賊はこの島近海を縄張りにするサバギンのグループと取引をしていたらしい。
そしてその話を裏付けるようにシュヴァルツが海賊やサバギンの遺体を探ると血判状や取引の目録が出てきたという。内容はこの島に水没した終末戦争時代の遺跡があり、あの海賊たちは島近海を縄張りにしているサバギンと取引して、生きた子供たちなどを餌として引き換えにして、水没した遺跡から遺物をサルページさせていたという。
「あの海賊たちは取引しつつ地上から遺跡の入り口も探っていたようで、サバギン達は海賊が巣に攻撃すると疑心暗鬼だったようです」
「だから僕達が現れただけで裏切ったとか騒いだわけか」
「もしかしたらサバギン達からすると、用済みになって取引にかこつけて始末しに来たと思ったのかもしれませんね」
取引現場での騒動で僕の咄嗟の演技が通用したのもそういう裏事情があったのかもしれない。
僕達は子供たちをキャンプに預けて島を探索する。
あの海賊とサバギン達がいた砂浜から南下していくと、比較的建物が残っている遺跡群を発見する。
「なんか……入り口小さくない?」
「おそらくこの遺跡はドワーフ達の集落だったのでしょう。当時の伝承に魔王軍から逃れるためにこういった島や辺境に避難した人達の話があります。この島もドワーフ達が疎開した場所だったかもしれません」
子供の姿である僕は大丈夫だが、シュヴァルツは膝を曲げて前かがみにならないと入れない建物がちらほらとあった。
天井の低さや入り口の狭さから違和感を口にすると、シュヴァルツはこの島の遺跡群はドワーフの集落だったかもしれないという。
ドワーフの集落という遺跡群の探索は困難を極めた。
無秩序にしか思えない街路、行き先のない階段、漆喰で塗り固められた戸口とそこから続く回廊。まるで迷路のような作りの集落に思えた。
「ここすっごく住みにくくない?」
「おそらく魔王軍という外敵に備えて居住性を犠牲にした作りなのでしょう……マスター、隠し階段です」
あれこれ調べていると、シュヴァルツが半地下作りの建物で漆喰で隠された地下への階段を見つける。
階段を降りると回廊になっているが、ここは地上部分よりもさらに複雑でドワーフ達以外の種族の事を考えてない構造だった。
「どうやらここはドワーフ達の地下工房だったようですね」
複雑な回廊を抜けるとそこは今までの狭い場所とはうってかわって広い空間だった。
シュヴァルツが周囲の残骸などを調べて、ここがドワーフ達の工房だったのではと予測をつける。
「隠し港の方の海賊はこの島の遺跡に気づいていたのかなあ?」
「水や食料の補給地の一つか、彼らだけが持っていた独自のルートの目印だったのではないでしょうかね? ここまで荒らされた様子は特にありません」
ドワーフの工房内を調べてふと僕は洞窟の隠し港で死んでいた海賊達は何を思ってこの島を海図に記入したのか疑問を口にすると、シュヴァルツが自分の推測を言う。
「マスター、また隠し扉です」
工房の壁を調べていたシュヴァルツは隠し扉を見つけてドアを開ける。
隠し扉の向こうは細長い下り通路になっており、通路からひんやりした空気と潮の香りが漂ってくる。
光球を生み出して通路を下っていくとところどころにぬるぬるとすべる海藻が絡みつき、足音に驚いてフナムシや蟹がかちかちと音を立てて逃げてゆく。
やがて目の前で空間が広がり、水の音が聞こえてきた。
通路の終着点は部屋になっており、その部屋は半分海に沈んでおり波が打ち寄せる床にはその波が運んできたのだろう砂が積もっていた。
波打ち際に重ねられているのは、珊瑚やフジツボのこびりついた金属細工、機械部品の数々であり、それらのがらくたに混じってなにやらキラキラ光る宝飾品もあるようだ。
「ここから先は水没して海に繋がっているようだね」
「気を付けてくださいマスター! 何かが浮上してきます!」
水底からいくつか影が浮かんだかと思うと、四体のサバギン達が姿を現す。
その中でも特に異様だったのが腕が四本もあるサバギンだった。
「あれはマレンと呼ばれるサバギンの群れのリーダー格です」
シュヴァルツが四本腕のサバギンを指さして名前を言う。
確かにマレンと呼ばれた四本腕のサバギンは他のサバギンと違って昆布や金属の破片や貝殻、や水没したエリアで見つかったであろう装飾品や胸当てで着飾っている。
光球の光に青白い鱗がぬらぬらと照かり、赤い瞳はこちらを獲物と認識しているように睨んでいる。
「マスター、あのトライデントはマジックウェポンです」
シュヴァルツはマレンが持つトライデントを指さしマジックウェポンだという。よく見ればほのかに色のついたオーラをまとっており、普通の武器ではないことだけはわかった。
「ウボオオオオオオ!!」
マレンがトライデントの穂先をこちらに向けて雄たけびを上げると、残りのサバギン達もトライデントを構えて襲い掛かってくる。
「ガアアアッ!」
「なにっ!?」
「シュヴァルツ!?」
マレンがマジックウェポンと思われるトライデントをシュヴァルツに向かって投擲する。
シュヴァルツは両手剣で打ち返そうとすると、トライデントの穂先が巨大な手に変化してシュヴァルツを地面に押しつぶそうとする。
残り三体のサバギンも押しつぶされそうになっているシュヴァルツに群がろうとする。
「させないっ! 万物の根源たるマナよ 氷の刃の群れとなりて、我が敵を切り裂け 氷の剃刀群!!」
「ギギャアアア!!」
僕が呪文を唱えて杖で地面を叩くと、周辺の水たまりの水が瞬時に凍って破裂する。
破裂した氷の破片は剃刀の如く鋭い切れ味をしており、爆散した氷の破片がシュヴァルツに群がろうとしたサバギン達をズタズタに切り裂き倒していく。
「万物の根源たるマナよ かの者に雄牛の如き強さを 筋力上昇!!」
「感謝します! ふんっ!!」
続いて僕はシュヴァルツに筋力を強化する魔法を付与する。シュヴァルツは僕の魔法の補助を受けて巨大な手になったトライデントの拘束を振りほどく。
巨大な手になっていたトライデントは元の姿になるとマレンの手に戻ってくる。
「シュヴァルツ、あとはあいつだけだ!」
「はいっ! 行きますっ!!」
シュヴァルツが駆け出し、上段からの大振りで両手剣を振り下ろす。
マレンは四本腕でトライデントをしっかり持つと、三股の矛先部分でシュヴァルツの両手剣を受け止めつばぜり合いに持ち込む
「万物の根源たるマナよ 炎の球となりて 我が敵を打ち砕け 火球!!」
僕は炎の球体を魔法で生み出し、マレンに向けて投げる。
マレンに炎の球体がぶつかると、マレンの装飾品の一つが割れて、僕の魔法を無効化する。
「嘘っ!」
「防御系の使い捨てマジックアイテムです! 連続で攻撃してくださいっ!」
シュヴァルツはマレンに蹴りを放ち一旦離れると先ほどの魔法無力化はマジックアイテムによるものだという。
確かに魔法が命中した瞬間、マレンの装飾品が壊れたのが見えた。
「万物の根源たるマナよ、無限の雹となりて、我が敵に降り注げ 雹の嵐!!」
再度僕は魔法を唱える。マレンの頭上に雲が現れたかと思うと握り拳大の氷の塊が次々と降り注ぐ。
マレンが身に着けていた装飾品が魔法を防いでいたが、降り続ける雹の嵐に装飾品の方が限界を迎えて破裂する。
「ギシャアアアア!!」
マジックアイテムによる防護を失ったマレンは激しい雹の嵐に体中を打たれて悲鳴を上げ、何とかしようとトライデントで雹を降らす雲をかき消そうとする。
「隙あり!」
その瞬間を狙ってシュヴァルツはマレンの胴体に両手剣を突き刺し、腹部から顎に向かって切り上げる。
それが致命傷となり、マレンは血を吐いて仰向けに倒れ、水底に沈んでいき、水がマレンの血で染まっていく。
「ふう……終わったー……」
「どうやらここがあのサバギン達の巣になっていたようですね」
僕はその場に座り込んで一息ついているとシュヴァルツが水中に潜ったりして海底に沈んだ財宝などを引き上げていく。
「これは何?」
「これはドワーフの金庫ともいわれているクリスタルボックスですね。ドワーフに伝わる秘儀でクリスタルの中に大切なものを収納する物です」
シュヴァルツが拾ってきたのはドワーフ技巧の装飾品や調度品。その中で一番価値がありそうなのが巨大な水晶の中に巻かれた羊皮紙が入っている置物。
シュヴァルツが言うにはドワーフの金庫と言われるアイテムらしい。
「中のやつ取れるの?」
「ドワーフのみですね。下手するとクリスタルボックスごと中身が破壊されてしまう可能性があります」
水晶の中にある羊皮紙が気になるが、今の段階ではどうにもならない。
ダーヴィスさんに渡せば何とかしてくれるだろう。
とりあえず僕達は戦利品を回収してスパイク船長のキャンプへと戻った。




