第五十話 地図の島へ
海賊の隠し港で宝の地図と思われる海図を手に入れた僕は、冒険者ギルド経由で以前宝探しの依頼を受けたダーヴィスにコンタクトを取った。
二日ほど間が空いて、僕はダーヴィスの邸宅に呼ばれる。
ダーヴィスの邸宅はセブンブリッジ郊外の小高い丘にあるゴシック形式の歴史のある古風な屋敷というか……城とも言えそうな邸宅だった。
「ようこそルーシェスさん、シュヴァルツさん。あ、アイアンランク昇格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
邸宅を訪れると応接間に通される。
しばし応接間で待つとダーヴィスが入ってきて、僕達のアイアンランク昇格に賛辞を告げる。
「しかし、冒険者というのも儲かるものなんですな。魔動車を購入したとか」
「思い切って買ったおかげで仕事しないとかつかつですけどね」
「乗り心地とかどうです?」
魔動車でここに来たのを覗いていたか使用人が知らせたのか、ダーヴィスは僕が購入した魔動車の乗り心地とか聞いてくる。
「さて、そろそろ本題に入りましょうか? なんでも海賊の宝の地図と思われるものを手に入れたとか」
しばし魔動車について話し合い、ダーヴィスが紅茶を飲んでのどを潤すと、今回の目的である地図について聞いてくる。
僕は地図を取り出しテーブルに広げると、見つけた状況をダーヴィスに伝える。
「ほぉ~、偶然とは言え海賊の隠し港を見つけるとは……」
「運がよかったというかなんというか……」
ダーヴィスは僕の冒険の話を聞いて子供の様に目を輝かせる。
ちなみにあの隠し港はセブンブリッジ領主の命令で衛兵やブロンズズランクの冒険者たちで利用できるかどうか調査しているらしい。
「では改めて聞かせてください、ルーシェスさんはこの地図をどうしたいんです?」
「ダーヴィスさんに売って、以前のような宝探し依頼として仕事にしてくれると嬉しいです」
「ふむ? ご自分で探さないのですか?」
ダーヴィスは真剣な顔で顎髭をいじりながら、この地図をどうしたいか聞いてくる。
「海図はわかりませんし、船も持ってません。それにダーヴィスさんはこういう宝探し系の冒険譚とか好きだから喜ぶかなと思いまして」
「はっはっは、私の事を考えてくれたのは嬉しいですねえ。わかりました、この地図は……ドラゴン金貨十枚でどうでしょうか? 地図の場所がわかりましたら指名依頼を出させていただきます」
「では交渉成立ということで」
商談が成立すると僕とダーヴィスは握手をして、地図の場所がわかれば指名依頼するという旨の契約書を作る。
「うちの航海士に見せれば何かわかるでしょう。次の約束があるのでこれで失礼します」
契約書にサインすると、地図は屋敷の使用人が地図入れのケースに入れて持っていく。
ダーヴィスと契約を交わして一週間後、僕とシュヴァルツはダーヴィスが所有するクリッパー船のコーラル号の上にいた。
ダーヴィスはこの一週間の間にあの海図を現在の海図と照らし合わせて地図の島を割り出し、船を用意して契約通り僕達に探索の依頼を出してくれた。
「しかし、こんなところに島があったなんてな。航海ルートからかなり外れているから気づきもしなかったぜ」
現在の海図に書き直した宝の地図を片手にコーラル号のスパイク船長がそんなことを言う。
「航海ルートから離れることはないんですか?」
「そりゃ天候やらモンスターやら海賊やら、いろいろなことでちょっとは逸れることはあるぜ。でもな航海ルートってのはな、今日まで多くの船乗りたちが命と引き換えに見つけたモンスターに遭遇しにくい安全なルートなんだよ。そのルートを逸れたら目隠しして綱渡りするぐらい危険度が上がる。だからあの時みたいにモンスター襲われたら頼むぜ!」
航海ルートについて質問すると、スパイク船長は航海ルートがどうやってできたか熱く語る。そしてモンスターが現れた時は頼んだと僕の背中を強くたたいた。
「島だ……」
今回は海洋モンスターに襲われることもなく、目的地と思われる島が見えてくる。
「あの島は……火山島だな。だいぶ昔に噴火して浮上したってとこか……あそこ見てみろよ、島が海に沈んでるだろ? 浮上した証拠だ」
スパイク船長は望遠鏡で島を覗き、火山島と予測を立てる。
僕に望遠鏡を手渡して指さしてたので、望遠鏡越しに覗けば、島の南部エリアが海に沈んでいる。
「上陸できそうなのが北西部の砂浜ぐらいだな。そこでいいか?」
「はい、お願いします」
小舟に乗り換えて島に上陸する。
砂浜は元は珊瑚礁だった場所らしく、砂を踏むと独特の音が鳴る。
船員たちがキャンプを組み立て、僕とシュヴァルツは島内陸部を探索する。
「ここに建物があったようですね」
島を探索し始めて一時間、シュヴァルツが建物の基礎がそこかしこに残っているが、地上部は崩れた跡地をいくつか見つける。
「津波にやられた感じですね」
建物跡地の瓦礫をどかしたりすると水たまりがあり、海の魚たちが泳いでいたりするのを見て、シュヴァルツはこの建物が津波で押し流されたのではと予測を立てる。
渺々と風が吹き、時々耳に届くのはつんざくような海鳥の鳴き声が聞こえる中、探索を続けると、島の反対側に出る。
島の反対側にも珊瑚礁の砂浜があり、入り江に浮かぶ船と、そこから上陸する一団の姿を見つけた。
「シュヴァルツ、姿を隠すよ。万物の根源たるマナよ 我らの姿を覆い隠す帳となれ 不可視化!」
上陸する一団が何者かわからないので僕とシュヴァルツは不可視化の呪文で透明になる。
「アンデッド? それに海賊……ですかね?」
姿を隠して様子を伺っていると、上陸した集団の姿がはっきりとわかる距離までやってくる。
先頭を歩くのは四体のスケルトン。前後に二体並んで細長い木箱を肩に担いで運んでいる。
その後ろからは目に宝石がはめ込まれた髑髏の刺繍がされたバンダナを頭に巻いた人間の男が三人。
「バンダナの刺繍はちゃんと見えるようにしておけよ! 取引相手はそれがないとこちらを味方として認識しないからな!」
真ん中の男がリーダー格なのか残り二人とスケルトンに何か指示をしている。
「どうやら密輸取引の現場のようですね」
「取引相手が誰なのかわかるまで待機で」
上陸してきた海賊たちは宝が目的ではなく、この無人島で密輸取引か何かしているようだった。
時間にして十分ぐらいだろうか、海面に影が現れたかと思うとサバギン達が八体ほど姿を現す。
「や……やく……やくぞぐのもの……」
「こいつだ」
サバギンが活舌の悪い人間の言葉で何かを求めると、海賊のリーダーがスケルトンに持たせた細長い箱を降ろし、蓋を開ける。
箱の中には両手足を縛られ猿轡をかまされた少年少女が押し込まれていた。
「シュヴァルツ!」
「承知!」
「だっ、誰だ!!」
「じっ、じらないやづ……う。うらぎっだな!」
子供の姿を見た途端僕とシュヴァルツは不可視化の効果を解除して砂浜に飛び出す。
突然の来訪者に海賊は動揺し、サバギンは伏兵を忍ばせていたと勘違いしたのか、海賊たちをののしる。
「だんな! 手筈通り皆殺しですね!!」
「なっ、何を言ってる!? ちっ、違う! こいつらは俺達の仲間じゃない!」
「う。うらぎっだ! にんげんごろぜ!!」
サバギンが海賊たちに裏切り者とののしる言葉を聞いて、僕はさらに場を混乱させるように、さも海賊に雇われた様な事を言う。
海賊のリーダーは慌てて弁明するが、サバギン達はトライデントを構えて海賊たちに攻撃しようとする。
「くそっ! スケルトン、俺を護れ!」
サバギンの誤解を解くことをあきらめたリーダー格の海賊はスケルトンに自分を護るように命令すると、スケルトンたちが武器を構えてリーダー格の海賊の周りに集まる。
「くそっ! 取引を邪魔しやがって!!」
「邪魔です!」
取り巻きの海賊の一人がカトラスを抜いてこちらに斬りかかってくるが、シュヴァルツの両手剣で胴体を真っ二つに斬られて絶命する。
「そうだ! 万物の根源たるマナよ 我が呼び声に応えよ 骨人形招来!!」
リーダー格の海賊がスケルトンに命令するのを見て、僕は妙案を思いつき魔法を唱え杖で地面を叩くと砂浜の下から次々とスケルトンが起き上がるように現れる。
スケルトンに見えるが、これはボーンゴーレムというアンデッドとは違う魔法生物だが、サバギン達には違いなんて分からない。
「ボーンゴーレム! 僕とシュヴァルツ以外に攻撃だ!」
僕の命令を聞いてボーンゴーレムたちが手近にいたサバギン達を攻撃する。
「りっ、リーダー! どうしたらっ!?」
「とにかく俺達以外を殺せっ!!」
海賊たちも混乱しているようで、サバギンやボーンゴーレム、それどころか味方のスケルトンにまで攻撃してしまう。
「馬鹿野郎! そいつは俺のスケルトンだっ!」
「そっ、そんなこといっぎゃあああ!」
間違って味方のスケルトンを攻撃した海賊はリーダーに怒鳴られて戸惑っている隙を突かれてサバギンのトライデントに貫かれる。
海賊を殺したサバギンはスケルトンに斬り殺され、そのスケルトンがボーンゴーレムに殴られて頭部が粉砕される。
そんな乱戦状態だったが、徐々にボーンゴーレムがサバギン達を追い込んでいき、撲殺していく。
サバギンもトライデントで応戦するが、ボーンゴーレムの骨の体にトライデントのような突き武器は相性が悪く、骨の隙間に穂先が引っかかって手元に戻せなくなったりしている間に殴り殺されていく。
「うおおおおっ!!」
さらにその混乱した戦場にシュヴァルツが飛び込んで両手剣を振り回し、スケルトンやサバギン達をずたずたにしていく。
「ちくしょおおお! 俺達を宝班目海賊団と知って手を出してるのか! スケルトン、あのガキを殺せ!!」
「知るか! 子供を犠牲にするやつが僕は大っ嫌いなんだよ! 魔法の矢!!」
リーダー格の海賊が生き残ったスケルトンを僕に仕向けてくる。
僕は魔法の矢を唱え、十本のエネルギー状の矢がスケルトンとリーダー格の海賊を撃ち抜いていく。
「畜生……なんなんだよ……おまえ……は……」
魔法の矢に撃ち抜かれたリーダー格の海賊は理不尽だと言いたげな顔で血を吐き崩れ落ちた。
「シュヴァルツは遺体を探って。僕は子供たちを助ける」
「了解しました」
僕はシュヴァルツにそういうと、拘束されている子供たちの所へと向かった。




