第四十九話 海賊の隠し港
「ここが海賊の隠し港?」
「あの日記を信じるならそうなりますね。違ったとしても何らかの遺跡ではありますね」
冒険者ギルドからの依頼で洞窟で目撃された怪物の調査と討伐に来た僕達は、隠し扉を抜けて人の手が入った通路を進んでいく。
しばらく進んでいくと大きなホール状の空間に出る。
通路は途中で途切れて代わりに丈夫な石橋が反対側の通路まで伸びている。
橋の下は地下水脈といえばいいのか、洞窟内を流れる海流とでもいいのか、ゴウゴウ激しい水音を立てて水が流れている。
「この橋はかなりしっかりしていま―――」
「シュヴァルツっ!?」
シュヴァルツが先行して石橋を真ん中まで渡り、問題ないと僕に伝えようとした瞬間、天井から落ちてきた何かがシュヴァルツの頭部に覆いかぶさる。
シュヴァルツの頭に覆いかぶさったのは触手の生えた巨大な脳みそだ。
巨大な脳みそは触手をシュヴァルツの兜の隙間にねじ込み何かしようとしているが、シュヴァルツは脳みそを掴むとブチブチブチと肉がちぎれる音を響かせて強引に引き剥がし、橋から谷底に投げ捨てる。
「私は無事です」
「今のモンスターはいったい……って、戻ってきた!?」
シュヴァルツは引きはがすときにちぎれた触手を兜から外して谷底に捨てる。
僕がシュヴァルツの元に駆け付けようとすると、谷底に投げ捨てたはずの脳みそモンスターが浮遊しながら戻ってくる。
よく見れば引きちぎられたはずの触手が再生している。
「あれはタッチドですね。古代の錬金術で生み出された魔法生物です。触手に麻痺針があって、再生能力を持っています。主に獲物に不意打ちして麻痺させて絞め殺します。私には効きませんが」
シュヴァルツが舞い戻ってきたタッチドを見て、解説し最後に自分には麻痺は効かないと強調して言う。
タッチドは今度は僕を獲物に定めたのか浮遊スピードを上げて、触手を伸ばしてくる。
「万物の根源たるマナよ 矢となりて 我が敵を討て 魔法の矢」
僕は呪文を唱えて十本の魔法の矢でタッチドを攻撃する。
魔法の矢が命中するたびタッチドの本体部分がはじけ飛び、僕に辿り着く前に肉片になる。
シュヴァルツが先ほどの不意打ちの仕返しなのか肉片や、まだぴくぴくと動く触手を容赦なく踏みつぶす。
「先に進みましょうか」
「あ、うん」
心なしかすっきりしたような声のシュヴァルツに促されて僕は橋を渡り、先に進む。
橋を渡った先はT字路になっているが、右側は崩落しており、瓦礫の下敷きになった人骨の片足が見え、左の通路からは波音が聞こえてきた。
僕達は波音が聞こえる左の通路を進んでいくと隠し港と思われる施設に辿り着く。
港には朽ち果てた大型の木造帆船が沈みかけているように傾いている。
「本当に海賊の隠し港だったんだ」
「っ! マスター伏せて!!」
「うわっ!?」
傾いた木造帆船に見とれていると、シュヴァルツが僕を強引に押し込んで伏せさせる。その瞬間、先ほど僕の頭があったと思う部分を何かが通り過ぎる。
「ハーピーですっ! どうやら巣になっていたようですね」
「うわぁ……気持ち悪い」
隠し港のあちこちから血を浴びたような赤黒い髪の禍々しい老婆のような顔、人間の女性のような上半身、両腕は翼になっており、下半身は鳥の足になっていた。
その数は次々と増えていき、不愉快な鳴き声をあげて隠し港内を飛び回る。
「危ないっ!」
ハーピーの一匹が急降下してきて、その鋭い脚の爪で攻撃してくる。
シュヴァルツがとっさに身を挺して僕を護ってくれ、金属を引っ掻くような音が響く。
「シュヴァルツ!?」
「大丈夫です! 来ますよ!!」
「アアアアアア!!」
息をつく暇もなくハーピーたちは次々と急降下して攻撃しては、反撃を受ける前に上空へ逃げる。
数の多さにシュヴァルツは僕を護ることだけで手いっぱいなようで、反撃に出れない。
「万物の根源たるマナよ 雷の城となりて 我が敵を撃ち落せ 電撃の力場!!」
何とか隙をついて呪文を唱えて杖で地面を叩くと、僕とシュヴァルツを包み込むように電気の膜が貼られる。
「ギャサアアア!!」
ハーピーの何匹かが膜に向かって攻撃しようとして爪先が膜に触れた瞬間、感電する時に聞こえてくる音とハーピーの悲鳴が隠し港に響き渡り、黒焦げになったハーピーが墜落してくる。
仲間の感電死を見たハーピー達は僕達の上空を旋回し、電気の膜に穴がないか調べ始め、港内に残っている残骸を足で掴むと僕達に向かって投げ落としてくる。
ハーピーが落としてくる残骸は電気の膜に触れると燃えて炭になる。
「うわっ、意外と頭いいな」
「ハーピーは人間並みの知恵を持つモンスターですからね」
ただの残骸では効果がないと学習したハーピーは今度は二人がかりで大きな石などを掴み上げて落としてこようとする。
「こっちだって手をこまねいてみてるだけじゃないんだ! 万物の根源たるマナよ 稲妻となりて 我が敵達を貫いていけ 連鎖電撃!!!」
さすがにあの大きな石は電気の膜でも防ぎきれない。ハーピーたちが巨大な岩を落とす前にこちらは杖を向けて呪文を唱えると、杖の先端から稲妻が発射されて連鎖するように次々とハーピー達を黒焦げにしていく。僕の魔法の電撃に焼かれたハーピー達は体から煙を噴きながらボチャボチャと海に落ちていく。
「あーびっくりした……シュヴァルツ、大丈夫?」
「この程度かすり傷です。マスターの魔力ですぐに回復します」
シュヴァルツの鎧にはあちこちハーピーが引っ掻いた跡が残っていたが、その傷が薄くなっていったかと思うと徐々に消えていく。
「ここは随分前に放棄されたようですねえ」
「くっさい……」
シュヴァルツと一緒に海賊の隠し港を探索するが、遠い昔に放棄されたのかあちらこちら朽ち果てており、ハーピー達の巣になっていた。
またハーピーの巣には食べかけの魚など生ごみが大量に山積みになっており、生ごみ特有の臭いが充満している。
「巣には宝石とかいっぱいあったね」
「ハーピーは宝石など光物を好みますので」
「ハーピーってカラスみたいな習性があるんだ」
生ごみの臭いに耐えながらハーピーの巣を探索すると金貨や宝石などが見つかる。
ある程度港を探索し終えると、今度は傾いた木造帆船へと向かう。
「どうやら戦闘があった模様ですね」
帆船に近づくと、海賊船の船員と思われる骸骨があり、この船で戦闘が行われたと思われる痕跡があった。
「アンデッドじゃないよね?」
その言葉がフラグになってしまったのか、カタカタと骨を鳴らして骸骨たちが武器を持って起き上がってくる。
「お約束すぎるんだよっ! 万物の根源たるマナよ 日輪の光となりて その輝きを照らせ 太陽光爆発!!」
ある程度予想は出来ていた僕は即座に対アンデット用の太陽光爆発の呪文を唱えてアンデッドを一掃する。
「船長室や貨物庫は水没していますね。私が調べてきます」
「水の中大丈夫なの?」
「私は呼吸不要なので、水の中でも活動は出来ます」
アンデッドになった海賊たちを一掃した僕達は足場に気を付けながら木造帆船を調べるが、宝がありそうな船長室や倉庫は水没している。どうしようか悩んでいると、シュヴァルツがそのまま水の中に潜って船長室へと向かった。
「お待たせしました」
しばらく水面を見つめているとシュヴァルツが浮上していくつか戦利品を持って帰ってくる。シュヴァルツが持ち帰った戦利品は金銀財宝に一本の錆びたカトラス、そしてフジツボとかが付いた長方形の金属の箱。
「このカトラスは? 海の中にあって錆びてるけど」
「船長室で殺されていた海賊船長と思われる死体が持っていたカトラスです。柄に独特の髑髏が彫られているので、好事家とか買い取るんじゃないかとおもいまして」
錆びたカトラスを手にとって、こんなのどうするのと聞くと、シュヴァルツは柄の部分に彫られた髑髏を指さす。
有名な海賊船長が持っていたカトラスなら歴史的価値があるかもしれない。
「こっちは?」
「船長室の隠し金庫にありました。水中で開けるわけにはいかないので持ってきました」
「これ開けれるの?」
フジツボや錆びだらけの長方形の金属の箱は鍵穴部分もフジツボが付着しており、簡単に開けれそうに見えない。
どうやって開けようかと思っていると、シュヴァルツが港の倉庫からバールのようなものを持ち出し、強引に開ける。
「地図?」
「海図のようですね……どこかの島でしょうか?」
中に入ってたのは羊皮紙の地図。箱が防水だったのかそれとも偶然が重なったのか羊皮紙に劣化は見受けられなく、広げるとどこかの島までの海図が刻まれていた。
「うーん……宝の地図とか?」
「可能性はありますね」
海図を覗き込むが。知識がないので読み方がわからない。
「ダーヴィスさんに売ろう! 運が良ければ宝探しの仕事として回してくれる」
僕はそう決めると戦利品を回収し、漁師さんが待っている洞窟の入り口まで戻った。




