第四十七話 魔動車購入しました
「報酬の話をしようか。蟲退治を依頼したが、想定外すぎる数だったし、貴重な魔剣を手に入れてくれたしな……予算は限られているし……どれくらい払えばいいやら」
皇帝アルターの墳墓の様子を映したメモリーストーンの上映がおわると、レイル教授が報酬について話始めるが、報酬額を決めかねて首をひねって悩んでいる。
「ルーシェスは何か欲しい物とかないか?」
「急に言われましても……あ! 魔動車って手に入ります?」
レイル教授は結局報酬が思いつかないのか、僕に何か欲しいものがないか聞いてくる。
最初は何も思いつかなかったが、戦士の塔の探索の時に乗せてもらった魔動車の事を思い出し、それが手に入らないか聞いてみた。
「まっ……魔動車かぁ……うーん……私のを手放すか? いやしかし……」
「いや、無理ならいいんですよ」
「いや待て! そうだ、フェイスレス錬金術工房の紹介状を書こう!」
レイル教授は予想していなかったのか、唸りながら考え始める。
ダメもとで聞いただけなので無理なら無理でいいというと、レイル教授は妥協案として魔動車を製造したフェイスレス錬金術工房への紹介状を書くという。
「紹介状ですか?」
「さすがに魔動車の現物報酬は難しい……が! 紹介状と購入頭金のたしになるように現金報酬を支払おう。どうだ? フェイスレス錬金術工房は会員か、会員からの紹介状がないと商品を売ってもらえないところなんだ」
なぜ紹介状をと思っていたが、レイル教授が言うにはフェイスレス錬金術工房というのは会員制のお店らしい。
「紹介状があれば今後もフェイスレス錬金術工房で買い物できるし、悪くはないと思う。どうだろうか?」
「じゃあ、それで」
僕が納得するとレイル教授はほっとした顔になり、高級そうな紙を取り出して羽ペンで紹介状を書いて封蝋すると、現金と一緒に渡してくれる。
「今回君に依頼して本当に良かった。遺跡がどうなってるかはわからないが、失われたバグベアード帝国六つの秘宝の一つ、魔剣アルクラーウが手に入ったのは僥倖だ!」
レイル教授は僕の両手をがっしり握ると激しく上下に振る。
「六つの秘宝?」
「ん? 聞きたいかね? 聞きたいだろう? 説明してあげるともっ! キルス! お茶と茶菓子を用意してくれ! さあ、こっちに来たまえ」
僕が六つの秘宝とは何かと質問するとレイル教授の目が光りスイッチが入ったように笑顔を浮かべて僕をソファーに座らせると、キルスにお茶と茶菓子を用意する様にいう。
キルスはアイコンタクトで僕に良いお茶と菓子を用意するので付き合ってくださいと訴えてくると、キッチンへと姿を消す。
「この六つの秘宝はバグベアードの帝国がムスタファー山脈の地下にあるドワーフの王国の宝物庫から奪い取ったと言われている」
レイル教授は資料を入れている箱から古い羊皮紙を取り出し、テーブルに広げる。
羊皮紙には魔剣アルクラーウによく似た剣や王冠、腰紐、金と銀の球体のイラストが描かれている。
「これにはそれぞれ特別な魔法の力があると言われ、その力で帝国を拡大したともいわれている。だが帝国が崩壊の危機の時に行方知れずになって、そのうちの一つが皇帝アルターの元にあったということだ。残りの秘宝もバグベアード帝国の遺跡のどこかにあるかもしれない!」
(あれ? 僕、世紀の発見とかした感じかな?)
レイル教授の説明を聞いていると僕はそんな気になってくる。
説明もひと段落ついたところで使用人のキルスがやってきて紅茶と茶菓子のケーキを用意してくれる。
「おいしい……」
「メイプルリーフの限定ケーキでございます」
「あそこの限定ケーキか! キルスよく手に入れたな」
「少々友人の伝手を使いまして……」
茶菓子のケーキを食べると自然と言葉が漏れた。
キルスはとっておきを披露出来て満足そうに微笑み頭を下げる。
有名なお店なのだろうか、店名を聞いたレイルが少し驚いている。
「さて、お茶御馳走------」
「待ちたまえ、まだ話は終わってないぞ!」
お茶を飲んで帰ろうと席を立つと、レイル教授に腕を掴まれ強引に席に戻される。
その後は墳墓の様子を映したメモリーストーンの映像を見ながら、歴史的講釈が始まる。
鉄の扉や壁に刻まれた彫刻や壁画について、シュヴァルツがバグベアード帝国の古代文字が読めることがわかって、古文書の解読などに付き合わされる。
結局大学を出たのは日が暮れてからだった。
翌日はフェイスレス錬金術工房へと向かう。
フェイスレス錬金術工房なんて名前だが、教えられた住所は営業所みたいなところで、工房自体は別の所にあるようだ。
「凄いな……ショーウィンドーがある」
営業所の一階は魔動車がショーウィンドー越しにずらりと並び、一台一台に警備兵が付いている。
入り口でレイル教授の紹介状を渡すと、なんでこいつがという目で見られたが、入店許可をもらい、店に入る。
店内通路で武器を預け、セキュリティゲートみたいなところを通ると、アラームが鳴る。
「お客様申し訳ございませんが、マジックバッグの類を所持していませんでしょうか?」
「あ、これです」
アラームが鳴ると屈強な警備スタッフ数人に囲まれる用に呼び止められ、マジックバッグの所持を聞かれ、指輪を見せる。
「当店舗でお預かりするか、お付きの方に預けて、お付きの方はゲート外でお待ちいただけませんでしょうか?」
「シュヴァルツ、預かってくれる?」
「かしこまりました。こちらでお待ちしております」
指輪を抜いてシュヴァルツに預け、待機してもらう。
指輪を抜いた後にもう一度セキュリティゲートを通ってアラームが鳴らないのを確認すると僕は店内展示ルームに向かう。
フェイスレス錬金術工房は魔法のアイテムを数多く取り扱っている営業所で、ショーケースには様々なマジックアイテムが展示されている。
魔動車が目的だったが、他にも目移りする魔法の道具があちこちに展示されている。
ある程度の病気も怪我も毒も癒すという魔女の軟膏、レンズ越しに数時間前の出来事を覗き見る眼鏡といったものからジッポライターに魔力で加熱する携帯コンロなど野営に役立ちそうなキャンプ道具もある。
「インスタント食品はこの世界では錬金術扱いなんだ」
展示品の中には袋ラーメンのようなインスタント食品もあるが……値段が一食分でドラゴン金貨十枚にもなるので贅沢品だ。
「ドラゴン金貨二万枚もするのかぁ……」
本来の目的である魔動車の値段を確認すると、ドラゴン金貨二万枚という高額な値段で、僕の横にいる貴族か商人と思われるシルクハットに燕尾服姿の中年も値段で悩んでいる。
ちなみに比較対象としてここに来る途中で社を販売している店で見た二頭馬車(牽引する馬付き)がドラゴン金貨五百枚前後だった。
「すみません、購入したいんですけど」
「ええっと、貴方様がでしょうか? ご両親はどこに?」
近くにいた店員に魔動車の購入を告げると、店員は僕の保護者を探すようにキョロキョロして見当たらないのでどこにいるか聞いてくる。
「マジックバッグ持ってると店内に入れないから、入り口のゲートの所にいますよ」
「マジックバッグ持ちでしたか、失礼しました。支払方法はいかがいたしましょうか?」
セキュリティゲートで足止めされたことを伝えると店員は納得した様で、支払方法を聞いてくる。
「ドラゴン金貨がメインになるけど大丈夫ですか?」
「ドラゴン金貨現物払いですか? ご安心ください通貨を計算する錬金術アイテムもございます」
僕がドラゴン金貨での支払い可能か聞くと、店員はコインカウンターみたいな道具もあって対応可能と言ってくる。
「それから、あれとそれと……あ、これもお願いします」
「……お客様大変失礼で申し訳ございませんが、まず現金をお見せいただけますでしょうか?」
ついでに野営に役立ちそうな魔力携帯コンロなども一緒に買おうとすると、店員が支払い能力があるかどうか確認してくる。
「じゃあ、ゲートまで来てくれますか?」
「もちろんでございます」
店員はコインカウンターと思われる錬金術アイテムをもってゲートまでついてくる。
「お金はどこに出せばいい?」
「こちらの口にお願いします」
ゲートまで戻ってシュヴァルツに指輪をつけてもらうと、僕は店員にお金をどこに出せばいいか聞く。店員は手に持ったコインカウンターと思われる錬金術アイテムの口を指さすので、そこに直接流し込むようにドラゴン金貨を吐き出していく。
ジャラララという硬貨の音とともにコインカウンターの数値が回転していき、店員も本当にお金持ってたんだという驚きの顔になっていく。
「代金分あったでしょ? 残りの品の分もこのまま入れたらいい?」
「……あっ! い、いえ少々お待ちください!! こちらのマジックバッグ許容量限界でして」
店員は青い顔でコインカウンターを慌てて持って帰り、僕が欲しがった野営アイテムのセットと新しいコインカウンターを持ってやってくる。
「魔動車の方はどちらの屋敷に輸送すればよろしいでしょうか?」
「これに入れて持って帰るのはダメかな?」
「は? ……サイズ的に不可能かと……」
店員は僕が購入した魔動車をどこまで送ればいいか聞いてくるので指輪に収納するというと目を見開いて必死に言葉を選んで無理だと言ってくる。
「立ち合いの元、不可能だったら輸送してもらうということで」
「それでお客様がご納得いただけるなら……はい……」
店員はあり得ないという顔で冷や汗をハンカチで拭きながらついてくる。
「この車を貰うね」
そういって僕がショーウィンドーに飾られている魔動車の一台に指輪を押し付けると、シュポンという効果音が似合いそうな感じで指輪に収納される。
一部始終を見ていた店員や客は唖然としており、魔動車を警備していた警備兵はどうしたらいいか指示を仰ぐように責任者と思われる人を見ている。
「代金も支払ったし貰って帰ってもいいよね?」
「え……はっ、はい……お買い上げありがとうございました……」
呆けている店員に声をかけると、我に返った店員が引きつった笑みを浮かべながら深々とお辞儀をして見送ってくれる。
後方ではあの客は誰だという騒ぎになっていたので、呼び止められる前に店を出ていった。
後日とある新聞の三面記事に僕のことだと思われる貴族の子供が現金一括で魔動車を購入してマジックバッグに収納して帰ったという記事が掲載されていた。




