第四十四話 墳墓の奥へ
「また広間……」
部屋は広間になっており、北側と西側がアルコーグになっており、乾燥して朽ち果てた遺体が埋葬されている。
部屋の中央には石棺があり、石棺を見下ろすように犬のような石像が祭られている。部屋東側にはこの先に続く通路と扉がある。
「ここにはズワーズはいない?」
「そのようですね」
耳を澄ませるがズワーズ特有のはい回る音は聞こえず、この部屋にはいないように思える。
ズワーズがいないなら先に進もうとすると、部屋の中央にある石棺の蓋がずれていき、中にいたミイラ化したバグベアードの死体が起き上がる。
バグベアードのミイラが起き上がる同時に、犬のような石像の顔がこちらを向いて目が光ったかと思うと、台座から飛び降りミイラのバグベアードに従うように寄り添う。
「うへっ!? もしかして遺跡のガーディアンか何か?」
「マスター、こちらからも敵です!」
シュヴァルツがアルコーグを指さすと、アルコーグに埋葬されていた遺体が寄り集まり骨の集合体になる。
「あのミイラはコープス・コラクジョンというアンデッドの上位モンスターです! 石造の犬はグレイヴハウンドという主に墓荒らしを退治する役目を持ったゴーレムで、あの骨の集合体はトゥームボーンです!」
「どう見ても友好的って感じじゃないですよねえ……」
シュヴァルツがモンスターの正体を叫ぶ。アンデッドとゴーレムたちはじりじりと僕達を包囲しながら近づいてくる。
「アアアアアアア!!」
「うわっ、くっさ!?」
コープス・コラクジョンが悲鳴を上げると、広間を腐臭が覆う。あまりの臭さに僕は両手で口と鼻を塞ぐが、油断すると吐きそうになる汚臭に苦しむ。
「コープス・コラクジョンの腐臭の雄叫びですね」
それってただの口臭じゃ?と思うが、そんな突っ込みを入れられないほどの臭さに僕は動けない。
「アオオオオン!!」
「させませんっ!」
グレイヴハウンドが僕達に向かってとびかかってくるが、シュヴァルツが両手剣で扇状に払い、グレイヴハウンドの攻撃を押し返す。
その隙を狙うようにトゥームボーンが自分の体の骨をこちらに飛ばしてくる。
「マスターには触れさせません」
シュヴァルツが僕をかばうように盾になり、飛来してくる骨を全身で受け止める。
トゥームボーンは骨を飛ばした分体積が少なくなったが、他のアルコーグから骨を補充してまた大きくなる。
「シュヴァルツ、ダメージは?」
「あのような攻撃で傷つくほどやわではありません、皆無です!」
僕は鼻をつまみながらシュヴァルツの怪我の具合を聞くと、シュヴァルツは自分は無傷だとアピールする。
「く、臭すぎて魔法に集中できないから、シュヴァルツが何とかして」
「了解しました」
腐臭が目にも染みてきて涙が出て視界がぼやけてくる。コープス・コラクジョンがまき散らす汚臭で集中できず魔法がまともに使えない状況なので、シュヴァルツに動いてもらうことにした。
「我が主に勝利を捧げん!」
シュヴァルツは頼られて張り切っているのか、グレイヴハウンドに上段から両手剣を振り下ろす。
グレイヴハウンドの一体を両断するが、もう一体のグレイヴハウンドが体当たりしてシュヴァルツに攻撃し、そのままシュヴァルツに組み付こうとする。
僕は息を止めて臭いを吸わないようにして、指輪のアイテムボックスからトリケラトプスのミニチュアを取り出し、トゥームボーンめがけて投げると、投げられたミニチュアのトリケラトプスはグングンと巨大化していき、原寸大のサイズになると地響きを立てて着地して、トゥームボーンに突撃する。
この世界に転生する時に引き継いだゲーム内アイテムで、サーヴァントミニチュアといい使用すると味方NPCとして短時間の間一緒に戦ってくれる。
この世界でもアイテム能力を発揮し、トリケラトプスはトゥームボーンたちを次々と突進で粉砕していく。
「アアアアアアーッ!!」
コープス・コラクジョンはグレイヴハウンドに組み付かれそうになっているシュヴァルツに向かってまた雄たけびを上げる。
その雄叫びは衝撃波になり、地面をえぐりながらシュヴァルツに向かっていく。
シュヴァルツはグレイヴハウンドの組み付きを引き剥がすと衝撃波に向かって投げつける。
衝撃波に投げつけられたグレイヴハウンドは体中罅だらけになり崩れていく。
その間にシュヴァルツは跳躍してコープス・コラクジョンの頭上から両手剣を振り下ろし、一刀両断した後、横一文字に両手剣を振って十字に斬る。
「あ……臭いが消えた」
コープス・コラクジョンが倒されると同時に汚臭が消えて、僕は一安心したようにほっとする。
僕が呼び出したトリケラトプスも効果時間が終了したのか元のミニチュア状態に戻り、ひびが入って壊れる。
「マスター、お怪我は?」
「怪我はないけど……服に臭いが……お風呂入りたい……消臭剤が欲しい」
コープス・コラクジョンが倒されて広間に充満した腐臭は消えたが、服に汚臭が染みついてしまった。
指輪のアイテムボックスから別の服装に着替えるが、肌や髪に臭いが染みついてそうな気がしていい気分がしない。
「マスター、さっさと終わらせて公衆浴場に行きましょう」
「うん、そうする」
テンションを落としながらも僕とシュヴァルツは次の部屋へと向かう。
次の部屋は氷室の様に肌寒く、鉄錆のような匂いが充満していた。
部屋の中央には三角形に見立てた本の支柱と、三本の柱の中心部に噴水がある。
噴水は今も作動しており、血のように赤い水が噴き出していた。
「噴水?」
「あの噴水は血で満たされていますね」
「うへぇ……気持ち悪いな」
噴水に近づくとさらに鉄錆の匂いが濃くなり、噴水手前の床にはバグベアード帝国の文字が掘られている。
「墳墓に踏み入れし者よ、汝が我が配下の同胞ならば、噴水に敵手の鮮血を捧げよ。墓を荒らす愚者ならば我の配下の同胞たちの贄となり、飢えと渇きを満たす栄光を喜べ……だそうです」
「うーん……また何か出てきそう」
シュヴァルツが床の文字を読み、僕がそんなこと言ったのがフラグになったのか、血の噴水から複数のモンスターが飛び出してくる。
「バグベアードのスケルトンのようですね……全員あの噴水のに潜んでいたせいか、骨が赤黒くなっています」
飛び出したのは六体のバグベアードのスケルトン。一体一体持ってる武器が違い、全身の骨が赤黒く染まっている。
「マスター、来ますよっ!」
「依頼料わりにあわないよっ!」
スケルトンたちはこちらを認識すると攻撃を仕掛けてくる。
最初に攻撃を仕掛けてきたのは先端に棘が付いた鎖を鞭のように扱うスケルトンで、僕達に向かって棘の付いた鎖を振り下ろしてくる。
僕達はそれを左右に飛びのいて避けると、その瞬間を狙っていたかのように弓を持った二体のスケルトンが僕とシュヴァルツに攻撃を仕掛けてくる。
「万物の根源たるマナよ 我が体を幽界へ誘え 明滅!」
僕が呪文を唱えると体が半透明になり、スケルトンアーチャーの矢が体を通り抜け、シュヴァルツの方は両手剣で矢を切り払い、スケルトンアーチャーの攻撃を防ぐ。
僕達が着地すると同時にファルシオンのような剣二刀流のスケルトンが怒涛の連続攻撃を行うが、幽体となった僕の方は攻撃が全てすり抜けていく。
「万物の根源たるマナよ 音の槍となりて 我が敵を吹き飛ばせ 衝撃の槍!」
僕は即座に呪文を唱えて、衝撃波で二刀流スケルトンを攻撃する。
まともに衝撃波を食らったスケルトンは五体バラバラに粉砕されるが……
「嘘っ!?」
血の噴水から水のチューブみたいなものが伸びて、粉砕されたスケルトンの残骸に吸着すると、ばらばらになったはずのスケルトンが元通りになる。
シュヴァルツの方に攻撃を仕掛けた二刀流スケルトンも両手剣で一刀両断されるが、同じように噴水から伸びた血のチューブで復活する。
「火球!」
「うわっ!?」
血の噴水の特殊能力に目を奪われていたら、最後のスケルトンが魔法使いで、僕に向かって火の玉の魔法で攻撃する。
明滅の魔法で幽体になった僕の体は物理攻撃は無効化するが、魔法は無効化できない。
「あちちち……」
ゲームから引き継いだ防具のおかげでかすり傷ほどのダメージだが、状況的にめんどくさい。あの噴水をどうにかしないとスケルトンたちは無敵かもしれない。
「マスター、攻撃を続けてください。先ほどよりも噴水の血の量が減っています」
「ん? リソースは有限なのか」
どう攻めるかと悩んでいると、シュヴァルツがまた二刀流使いのスケルトンを粉砕するがまた復活する。
だがスケルトンが復活したことで確信を得たのか、噴水の血の量が先ほどよりも減っていることを指摘する。
「よーし、こんどはこっちの番だ! 万物の根源たるマナよ 鋭き歯となりて 我が敵を噛み砕けっ! 鮫口!!」
魔法の鮫を二体呼び出し、空中を泳ぐ魔法の鮫がスケルトンたちを攻撃する。
シュヴァルツも何度復活しようがお構いなしに攻撃を繰り返しスケルトンを粉砕していく。
「万物の根源たるマナよ 矢となりて 我が敵を討て 魔法の矢!!」
僕も魔法の矢を撃ち、後方に控えるスケルトンアーチャーやスケルトンメイジに攻撃する。
血の噴水はオートメーションなのか、僕達の意図に関係なく血のチューブを伸ばしてスケルトンを復活させていき、どんどんリソースを消耗していく。
「これで終わりだあああ!!」
どれくらいの時間戦い続けたかわからないが、ついに噴水の血は枯れ果てて、スケルトンたちも復活しなくなった。
魔法の鮫たちによって最後のスケルトンも噛み砕かれて、ついに戦闘は終了した。
「はー……さすがに疲れたぁ」
「いやはや、こんな仕掛けがあるとは思いませんでした」
僕はその場に座り込み、指輪からHPとMPを回復するポーションを飲む。
ポーションの味はミントっぽい味で、飲み終えると魔法の使い過ぎで重かった頭がすっきりして、口と鼻がスースーする。
「さて、次の部屋も探索しようか。いい加減ズワーズの巣を見つけないと」
「そうですね」
小休憩を終えた僕達は両開きの鉄扉を開けて次の部屋へと向かった。




