第四十三話 遺跡の侵入者の正体
「ズワーズはこれで全滅かな?」
「この部屋のズワーズは全滅したと思われます」
広間の周囲を見回し、アルコーグからも新たにズワーズが出てこないのを確認して呟くと、シュヴァルツがこの部屋のと嫌な現実を突き付けてくる。
「ここで全部だと言ってよシュヴァルツ」
「いえ……ズワーズは地中奥深くに巣をつくります。巣にいるクィーンと産卵場を破壊しない限り時間がたてば増えます」
そういってシュヴァルツはズワーズの死骸を一匹一匹調べる。
甲殻を叩いたり、死骸の隅々まで視認したりしてシュヴァルツはやはりと呟く
「だいぶ大型の巣が出来上がっているようですね」
「死体でそんなのわかるの?」
「甲殻の硬度と輝き具合から大まかな年齢がわかります。死骸のここで雌雄の判別がつきますのでそれで分布割合から巣の大きさもおおよそ予想できます」
シュヴァルツはズワーズの死骸を使ってどこをどう見て判断すればいいか教えてくれる。死骸でもあんまり凝視したくないので僕はつい目をそらす。
「とりあえず、この広間を調べてみようか。侵入者の痕跡とかあるかもしれないし」
「そうですね」
僕はズワーズの死骸を指輪の中に回収して、広間を調べる。
頭蓋骨でできたピラミッドに近づくと、頭蓋骨は崩れ落ちないように脳天に鉄杭を打たれていた。
「ふむ……様々な種族の頭蓋骨ですね。鉄柵に文字が掘られていますよ」
「……シュヴァルツ、これ何語?」
「バグベアード達が使う文字ですね。ただ……マスターの知識で例えるなら日本語の平仮名ではなく、江戸時代に使われていた崩し文字で刻まれていると思ってください」
シュヴァルツが鉄柵を指さすと柵の棒一本一本に文字が刻まれている。
僕は現在この世界で使われている共通語しかわからないので読めず、シュヴァルツに何語か聞く。
「とりあえず翻訳お願い」
「はい……偉大なる皇帝アルターの偉業をたたえる。アルクラーウの剣を持ち、死して尚剛勇沈着の王なり。奈落の悪魔もかの者を打ち倒すことはできない……どうやらバグベアード帝国の皇帝を称える詩ですね」
シュヴァルツに翻訳を頼むと、シュヴァルツは今どこの部分を読んでるかメモリーストーンに映るように指をさして読み上げる。
「この頭蓋骨はアルターっていう皇帝が倒した首級かな?」
「おそらく。この軍旗もバグベアード帝国か、アルター皇帝が率いる部隊の軍旗でしょう」
僕達はメモリーストーンに軍旗の紋章が映るように近づけて撮ると、調査を再開する。
「……ここで侵入者たちとズワーズの戦闘があったようですね。ん? 穴に何か詰まってます」
シュヴァルツがアルコーグの一つを調べると、激しい戦闘痕と血痕に遺跡の入り口で見つけた黒い矢を発見する。
ズワーズの巣穴に続くと思われる穴に何かが引っかかっており、シュヴァルツはそれを取り出す。
「背負い袋? 侵入者たちのですかね? おそらく侵入者はズワーズの大群に飲み込まれて巣穴に引きずり込まれたんでしょうね。この背負い袋はズワーズにとって食べ物じゃないから放置されたのでしょう」
穴に引っかかっていたのは血がびっしりとついた背負い袋だった。
シュヴァルツが背負い袋が穴に引っかかっていた状況を推測して説明してくれるが、あまり想像したくない。
「中身は?」
「血で汚れた日記とお金、それにカギが入っていますね」
シュヴァルツが背負い袋の中身を確認すると、血がべっとりとついた日記帳にこの国とは別の通貨、そしてレトロな形の鍵が出てくる。
「日記は読める?」
「ちょっと待ってください、血が乾いてべったりくっついていて……」
シュヴァルツは日記帳の乾いた血でくっついたページを丁重にはがしていく。
僕も横からのぞき込むが、知らない言語で文字が書かれている。
「どうやら侵入者の日記ですね。大半は血で読めませんが……何やら秘密結社がこの遺跡に眠る剣を求めて侵入したようです。この鍵はこの遺跡の扉を開けるための物のようですね……おや、日記に何か挟まれていますね
血でくっついたページを剥がしてシュヴァルツが日記を解読すると、謎の秘密結社が侵入したという。
ページを開いていくとページの間に平べったい金属の板が挟まっており、動物の足跡か手形ともとれる彫刻が刻まれていた。
「結社のマークとか?」
「さあ?」
「とりあえず、ここに鍵があるということは……結社の部隊はズワーズにやられて全滅?」
「あの量が襲ってきたら普通は対処できませんから」
メモリーストーンに日記のページとプレートに鍵を録画し、僕達は広間の探索を再開する。
広間の北側には上り階段があり、階段を上るとバグベアードの戦士が向かい合い剣を交差させるような彫刻がされた城門のような鉄の扉があった。
「鍵がかかっていますね」
「この鍵で開くのかな?」
鉄の扉は施錠されており、結社が持っていた鍵で開錠を試みると開錠できる。
シュヴァルツが片側の扉を押して開くと広間よりもさらに暖かい空気が流れ込んでくる。
鉄扉の先の部屋も広間になっており、部屋の中央には一段盛り上がった床があり、盛り上がった床の四方には松明を掲げるバグベアードの像があり、松明からはどういう原理か不明だが炎が噴き出していた。
広間の両サイドの壁はアルコーグになっており、ここにも風化した遺体が埋葬されている。
「って、ここもズワーズがいるのおおおお!!」
広間に入った途端、ズワーズ特有の雨が落ちるような音を響かせて、アルコーグから津波の様に噴き出してくる。
「最大出力の殺虫の霧!!」
二度目となってもズワーズの気持ち悪い出現の仕方に僕はまた最大出力の殺虫の霧を噴射する。
「……これ、普通の冒険者だったら全滅してるよね?」
「巣を壊滅させるのに多大な犠牲を払う可能性は高かったでしょう」
殺虫の霧が晴れればズワーズの大群は全滅しており、無数の死骸で広間が埋まる。
「いっそ封印したほうがよくないかなあ?」
「何世代か後にはラーメイ山脈全土にズワーズの巣が出来て人類VSズワーズになりますよ」
「………可能な限り駆除する」
ズワーズのあまりの大群に依頼放棄して遺跡を封印したほうがよくないかと思ったが、シュヴァルツがB級映画のような大量発生した虫と人類の戦争がはじまると言われ、それは何となく嫌だったので、駆除を続けることにした。
「床に文字が掘られているパネルがあるね」
「あの鉄柵に彫られていた文字と同じ文字ですね。東西南北、上下左右、開閉、扉、天国地獄、解放と開錠……とにかく統一性のない言葉のパネルが並んでいます」
広間の一段盛り上がってる床には文字が掘られた四角いパネルが配置されており、何となくだけど正しいパネルを踏まないといけない仕掛けかもしれない。
「それっぽいヒントないよね?」
「我々が気づいていないだけかもしれません」
広間周囲を調べるが、文字パネルのヒントになりそうなものは何もない。
シュヴァルツがもしかしたら我々がヒントに気づいていないだけかもというが、手詰まりだ。
「パネルを無視して先に進もう」
広間の東側にはまたバグベアードの戦士が剣を掲げて交差する彫刻がされた鉄扉がある。
「施錠されていますが……鍵穴がありません」
「あのパネルをどうにかしないといけない仕掛けかあ……よしっ! 万物の根源たるマナよ 万能の鍵となりて 扉を開け 開錠!」
シュヴァルツが扉を調べると施錠されているというので、本来ならパネルを正しい順に踏んだりするのだろうが、面倒なので魔法で強引に開錠する。
開錠魔法で強引に扉を開けると僕達は先に進む。
次の部屋に入るとそこは下り階段の先に床、床の先に上り階段と先に続く扉があった。
下り階段の両サイドには王冠をかぶったバグベアードが様々なモンスターと戦う壁画が描かれており、どの壁画にも剣に色が塗られている。
「また文字パネルの床……」
階段を降りるとビルなどの非常階段などにある踊り場ぐらいの広さの床に文字が刻まれたパネルが設置されていた。
周囲をよく見れば、ここにも王冠を被ったバグベアードがモンスターと戦う壁画が描かれている。
「ここも正しいパネルを踏まないと何かが起こるんでしょうね」
「この壁画がヒントかもしれないけど、わからないなあ……万物の根源たるマナよ 我らに天空を舞う翼を与えよ 飛翔!」
踏むと発動する罠なら踏まなければいいわけで、僕達は飛翔の魔法でパネル床の上を飛んで上り階段の先にある扉の前に向かう。
「こちらの扉は施錠されてないようですね」
この扉もまたバグベアードの戦士が彫刻されていた。シュヴァルツが扉を調べると、今回の扉は施錠されてないようで安易に開く。
「罠調べられるメンバーとかやっぱり必要かなあ?」
僕は先を進みながらそんなことを思った。




