第四十二話 遺跡の蟲退治
アイアンランクアップの打ち上げの翌日、僕はシュヴァルツを連れて早朝のセブンブリッジの冒険者ギルドへやってきた。
いつもの如く依頼掲示板には人だかりができてギルド職員が注意事項を繰り返し叫んでいる。
「アイアンランクの仕事は長期の護衛とかが多いなあ」
アイアンランクになったので、アイアンランクの依頼を見てみると、大体が護衛依頼だった。
ただ、ほとんどの護衛依頼は人数制限があり、採用条件にもチームを優先すると表記されている。
他にはモンスター討伐など心躍るものがあるが、肝心のモンスターの生息地が遠くて片道で半月近くかかったりする。そこで目標のモンスターとか探したりするとなると道中の経費とか大変そうだ。
「お? 大学からの依頼なんてあるんだ」
そうやってアイアンランクの依頼を見ていると、このセブンブリッジにある大学からの依頼というのがあった。
内容は大学の考古学チームが発見した古代の墳墓で虫型のモンスターが大量発生して調査が中断。この虫型モンスターを駆除してくれる冒険者を募集しているとの事だった。
殺虫剤魔法を持ってる僕からすればぴったりのクエストと思えたので依頼掲示板から依頼書を剥がして受付に持っていく。
「もうアイアンランクのお仕事受けるのですかワンニャン?」
依頼受理手続きをお願いすると、顔なじみとなった受付嬢のベスティアが仕事を始めている僕を見て驚いたように声をかけてくる。
「最初は様子見のつもりだったけど、蟲退治の魔法知ってる僕からしたらこの仕事ぴったりかなと思って」
「そんな魔法あるんですかワンニャン? でしたらこの仕事もスムーズに終わるかもしれませんねワンニャン」
依頼受託処理を終えると僕とシュヴァルツはセブンブリッジ大学へ向かう。
大学はセブンブリッジ郊外にあり、職員や学生にその家族、そういった人たちを目当てにした店などが出来て一種の衛星都市みたいなものだと移動中にシュヴァルツが教えてくれる。
正門前で手続きをして大学警備兵の案内をもとに敷地に入ると、大学キャンパス内は都市と言ってもいいほどの街並みだった。
警備兵によるとこのエリアは学生や大学内で働く教授以外の職員たちの寮区らしい。
「随分とカラフルなマントの人達が多いですねえ」
「ああ、あの腰までのハーフマントは学生の制服で、色は受講している学科を示しています」
時折すれ違う人たちはみんなハーフマントという腰までの長さしかないマントを着用しており赤とか青とかいろんな色に染められている。
警備兵に質問すれば、この大学の学生は受講している学科ごとに色が決められており、その色のマントを着用することが義務付けられているようだった。
大学構内は広く、一見すると城の様にも見える。
中庭の庭園では薬学用に薬草が育てられており、ガラス製のビニールハウスらしき施設もあった。
「あの髪型の人達が教授なんですか?」
「ええ、そうです」
廊下では時折、ベートーベンのような巻きロール髪の人達とすれ違う。教授格の人はあのかつらと担当する学科の色に染めたロングマントを羽織るのがこの大学のルールのようだ。
「教授、冒険者ギルドから冒険者がやってきました」
「はいりたまえ」
広い大学構内を右へ左へと移動していき、やってきたのは考古学科の塔最上階。
豪華な作りのドアとライオンの彫刻がされたドアノッカーでノックして警備兵は来客を知らせる。
中からは女性の声が聞こえるが、どこかで聞いた声のように思えた。
「君が冒険者……おお、ルーシェス君じゃないか!」
教授室にいたのは戦士の塔の遺跡探索の依頼人でもあった考古学者レイル・モーディン本人だった。
今は仕事の時間なのかレイルもあのかつらをかぶり、青色のロングマントを羽織っていた。
「教授、お知り合いで?」
「ああ、以前私が発表した遺跡の発見者の一人だよ。君が仕事を受けてくれるなんて、なんて嬉しい偶然だ」
警備兵は僕とレイルが顔見知りだったことに驚き、レイルは僕との再会に喜ぶ。
「キルス、キルスっ! 客人だ、お茶を入れてくれ」
「はいただいま」
レイルは教授室の奥にいるキルスにお茶を入れるように叫び、キルスも大きな声で返事を返す。
「おや、これはルーシェス様、シュヴァルツ様お久しぶりです」
「キルスさんもお久しぶりです」
お茶をトレイに乗せてキルスが僕の姿を見ると軽く会釈してお茶を用意してくれる。
「今回の依頼の件なんですけど」
「ん? ああ! そうだった、君はそれを受けてきたんだったな。今回の遺跡もバグベアード帝国関連だ。ただ……昆虫型モンスターの巣になっていたようでな。安全を優先して撤退して発掘が中断しているんだ」
僕が今回の依頼の話をすると、レイルは一瞬キョトンとしたあとに思い出したように手を叩き、依頼の経由を話してくれる。
今回の遺跡もレイルが研究してい追いかけているバグベアード関連の遺跡だったようだ。
「どんな遺跡なんです?」
「それを調べる前にあの昆虫共が出てきてな。まったく内部も来歴も不明なんだ。わかっているのはバグベアード帝国時代の遺跡それだけだ」
遺跡について聞くと、レイルはほとんどわかっていないと言ってため息をつく。
「君の今回の仕事は遺跡内の昆虫型モンスターを可能な限り駆除してくれ。できれば遺跡には可能な限り傷をつけないでほしい」
「対昆虫型モンスターのガス魔法があるのでそれを使えば問題ないと思います」
「そんな魔法があるのかっ!? ならばすぐにでも頼む!」
レイルは遺跡には傷をつけないでくれと言ってくるので、殺虫剤型魔法があるというと、レイルは身を乗り出し僕の両手を握って顔を近づけてすぐにでも頼むと言ってくる。
「他に何か要望とかあります?」
「遺跡内で見つけた物は一旦こちらに全部提供してくれ。これを渡すから遺跡内の状況を撮影してほしい」
他に要望がないかと聞くとレイルはメモリーストーンを取り出し、これで遺跡内の撮影と遺跡内で回収した物を提出する様にいってくる。
「これが遺跡までの大まかな地図だ。それから、二人ともアイアンランクになったのだな。おめでとう、君たちの活躍を期待しているよ」
「おめでとうございます」
レイルは手書きの地図を手渡し、ランクアップした僕とシュヴァルツに祝辞を述べ、キルスも一礼してお祝いを言ってくれる。
「ありがとうございます! 吉報まっててください」
僕達は二人に礼を述べて大学を後にしてラーメイ山脈の遺跡へと向かう。
道中野営をして翌朝には目的の遺跡に到着する。
遺跡と言っても建物があるわけではなく、山の岩肌に洞窟があり、幅広のトンネルが続き、僕はメモリーストーンを起動して洞窟内の様子を撮影していく。
踊る光球を光源にトンネルを進んでいくと整然たる舗装された石の通路に変わっていく。
「ここなんか熱いね」
「そうですね……何か仕掛けで温度調整とかしてるのでしょうか?」
遺跡内は暖房が入ったように暖かく、動いているとジワリと汗をかく。
さらに遺跡を進んでいくと、今回の討伐目標と思われる昆虫型モンスターの死体と、床に散乱した矢に気づく。
「……発掘チームが撤退する時の戦闘痕かな?」
「いえ……死骸がまだ新しいです。それにこの矢はシャフトが黒く染められて。鏃には毒が塗られています。市販品の矢ではないですね」
シュヴァルツは昆虫の死骸と矢を一本拾って調べると侵入者がいることを教えてくれる。
「モンスターの正体はわかる?」
「ズワーズですね。肉食のスカラベのようなモンスターです。獲物に群がり肉をかみちぎるモンスターです。甲殻も鉄のように固く飛んで体当たりとかしてきますよ」
シュヴァルツはモンスターの死骸を見て正体を解説する。
ボーリング玉のようなサイズのスカラベのようなモンスターだ。こんなのに群がられるなんてモンスターパニック並みの恐怖だろうな。
「どうやら侵入者はここで戦闘した後先へ進んだようです」
「やれやれ、ただの虫退治のつもりだったのに」
シュヴァルツは周囲の痕跡を調べて侵入者は先を進んだという。
僕達は侵入者たちを追うように通路を進む。
「うえっ……なんだこの部屋」
通路を進むと広間と思われる場所に出る。部屋の中央には無数の頭蓋骨で作られたピラミッドのようなオブジェがあり、崩れ落ちないようにルーンが刻まれた鉄柵で囲まれている。鉄柵にはボロボロの軍機が掲げられ、どこの国の貴族を表すのかわからないが、紋章が刺繍されていた。
「どうやらここは戦士の塔のような墳墓のようですね」
シュヴァルツが壁を指さすと、独特な模様とバグベアードの戦いや、労働、娯楽の様子を表す壁画が描かれている。
壁をよく見ればアルコーグという骸を埋葬する壁の穴が掘られており、風化した骸骨や遺体を巻いていた骸布の切れ端などが散乱している。
「シュヴァルツ、なんか音聞こえない? 雨が地面に当たるような」
「……マスターっ! ズワーズが来ます! 構えて」
部屋の中央の骸骨のピラミッドに近づくと、ボタボタボタと雨が地面に落ちるような音が聞こえてくる。
遺体が安置されていたアルコーグの穴からズワーズの大群が鍋から汁が噴き出すように溢れ出てくる。
「うわあああああっ! きっ、気持ち悪いいいいい! 最大出力の殺虫の霧!!」
四方八方のアルコーグから現れるズワーズの大群に思わず悲鳴を上げて、力強く杖で床を叩くと、杖で叩いた場所から全力全開の殺虫の霧が噴き出し、一瞬にして広間にガスが充満する。
殺虫の霧は昆虫や昆虫型モンスターのみに効果のある呪文なので、僕やシュヴァルツには害はないが、逆に昆虫型モンスターにとって有害物質である煙を吸ったズワーズたちが次々と仰向けに倒れてキシャーキシャーと断末魔の大合唱を広間に響かせる。
「はぁ……はぁ……しばらく夢に出そう……」
煙が晴れると床を埋め尽くすと言っていいほどのズワーズの死骸が散乱しており、その光景に僕は気持ち悪くなる。
「マスター大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないかも……」
シュヴァルツが心配そうに声をかけてくる中、僕は次からは昆虫退治系の依頼は受けないようにしようと心に決めた。




