第四十一話 アイアンランクアップ試験終了
「セブンブリッジだ!」
「やっと帰ってこれた―!」
アイアンランクのランクアップ試験を兼ねた依頼でオーリンまで行ってた僕達は数日ぶりにホームタウンであるセブンブリッジに戻ってきた。
門前町では相変わらず入場者の行列ができており、荷物持ちの仕事をしている市民が大きな声を張り上げて自分がどれだけ荷物を持てるかアピールしている。
「こんな遠出とか初めてだから疲れた~」
「おいおい、護衛依頼によっては片道で一カ月とかもあるぞ」
「うへぇ……」
今回のアイアンランク試験で半月近く遠出してさすがに疲れた。伸びをしていると冒険者ギルド職員のケインが呆れた顔で護衛依頼とか受けたらもっと長期の日程もあるぞと言ってきて、思わずいやな顔になってしまう。
「さて、セブンブリッジの街も見えてきたことだし、街に戻ってからのことを説明しておくぞ。……と言ってもやることは普段と一緒だ。受付で依頼完了手続きをしてプレートを提出する、それで今日は解散、いつもの事だろ?」
「試験の結果発表は?」
「試験の結果発表は明日の午後一時とする。今日は長旅の疲れを癒してくれ」
入門の手続き待ちの間にケインが今後の予定を通達し、入門手続きを終えた僕達はまっすぐ冒険者ギルドへと向かう。
「ランクアップ試験はこれにて終了だ! ロックトロールという想定外のモンスターと遭遇したが、全員生きて戻れたことを喜ばしく思う。それでは解散!」
セブンブリッジの冒険者ギルドに到着するとケインは解散宣言をして職員通路を通って奥へ去っていく。
「皆さんランクアップ試験お疲れ様ですワンニャン。ギルドプレートの提示をお願いしますワンニャン」
受付に行くと狐耳の獣人である受付嬢のベスティアが応対し、労をねぎらってくれる。
「あれ? 今回はプレート返却されないんですか?」
「ランクアップ試験の結果が出るまではこちらで預かることになるんですワンニャン。明日の午後には結果出てると思うので来てくださいワンニャン」
依頼完了手続きを終えてプレートを提出し、いつもならプレートに依頼成否結果を刻まれて返ってくるのに今回は返ってこないので、理由を聞くとベスティアがランクアップ試験の手続きで返却できないと答える。
「手続きも終わったし、戦利品の山分けでもするっすか」
「頭割りでいい?」
ギルドで依頼完了手続きを終えると、僕達は盗賊のアジトで回収した戦利品の手続きと山分けをする。
宝石などはギルドに買い取ってもらい、特に揉めることもなくメンバーで山分けする。
次に僕達が向かったのはギルドの解体所。何度来てもここの匂いには慣れない。
「おう、また解体依頼か?」
「ええ、今回はこれをお願いしたいんです」
指輪から商人の護衛依頼時に倒したロックトロールの死骸を取り出すと、解体所の職員が唖然とした顔になる。
「……疲れてるのかな? ロックトロールに見えるんだが……」
解体所の職員は目の前に現れたロックトロールの死骸が信じられなく、目をこすったり、夢とでも思っているのか頬をつねったりしてる。
「ええ、ロックトロールですよ」
「いやいや……ロックトロールといえば事前準備をしたシルバーランクの冒険者チームで挑むモンスターだぞ! お前らまだブロンズだよな?」
僕が肯定すると、職員はあり得ないと首を横に振る。
「事実目の前に死骸がありますし、解体お願いしますね」
「……こいつの皮膚固いから嫌なんだよなあ……」
信じてくれなくてもいいからとりあえずロックトロールの解体をお願いすると、職員は皮膚の硬さを知っているのか難色を示す。
「あ、皮膚なら僕の魔法で柔らかくなってますよ」
「魔法で? うわっ、本当に柔らかいぞ!?」
僕が魔法で皮膚を柔らかくしたというと、職員は怪訝な表情で前掛けのポケットに入れてたナイフでロックトロールの死体を刺す。
ほとんど抵抗なくナイフが刺さり、職員はびっくりして腰を抜かしそうになる。
「これなら解体できますよね?」
「あ、ああ……任せてくれ」
預かり証である木札を受け取り、ロックトロールの死骸を解体所に手渡す。
冒険者ギルドでの用事を終えた僕達はいったん解散する。僕は公衆浴場で旅の疲れとほこりを落として宿でゆっくりと休んだ。
翌日身支度をして宿で食事と宿泊延長手続きをすると僕とシュヴァルツは街中で時間を潰しながら冒険者ギルドへと向かう。
昼過ぎに冒険者ギルドに到着して一階のホールに向かうと、昼時ということもあってほとんど冒険者はいない。酒場エリアで昼食をとっている者や、午前中の仕事を終えて午後も仕事をしようと掲示板を見ている冒険者がちらほらいるぐらいだった。
「ルーシェス様、シュヴァルツ様、ランクアップ試験合否の確認ですかワンニャン?」
「うん、ちょっと早かったかな?」
「二階の会議室で行われますワンニャン。案内しますワンニャン」
受付嬢のベスティアが僕の姿を見つけると声をかけてきてくれる。
試験の合否を聞きに来たというと、ベスティアが合否の発表を行う会議室まで案内してくれる。
「僕達が一番みたいだね」
「そのようですね」
会議室にはまだ誰もいなく、僕とシュヴァルツは適当な席に座る。
「ルーシェス、早いっすね」
しばらくシュヴァルツと雑談して時間を潰していると、マガミ達三人とギルド職員であるケインとティーポットなどをのせたカートを押す女性職員。
「全員揃ったな? それじゃあ試験結果を発表する」
女性職員は僕達に紅茶を出すと部屋の隅に控える。ケインが紅茶を一口飲んでのどを潤すと、試験結果を発表しようとし、会議室に誰かのつばを飲み込む音が聞こえた。
「おめでとう。お前達全員、文句なしでアイアンランクに昇格決定だ」
「やったっす!」
「やったー!」
「よかったー……」
ケインが合格を発表すると、僕とマガミとルビィが声に出して喜び、セガールは無言だが机の下でこぶしを握って喜んでいたのが見えた。
僕達がひとしきり喜んだのを確認してケインが控えていた女性職員に目配せする。
女性職員は僕達の傍に来ると鉄製のギルドプレートを手渡し、おめでとうございますと祝辞を述べてくれる。
「お前達は今日からアイアンランクの冒険者だ。ここセブンブリッジでは一人前の冒険者として今この瞬間から見られることになる。その辺をくれぐれも忘れないようにして行動しろよ。これでランクアップ試験を終了とする! これからもセブンブリッジの冒険者ギルドはお前達の活躍に期待する。以上解散!」
ケインはそう言って女性職員を伴って会議室を出ていく。
「ルーシェス、シュヴァルツさん、この後何か予定あるっすか?」
「いや、特にないけど?」
「この後うちのリーダー主催で打ち上げやるっす。ルーシェスもシュヴァルツさんも来てほしいっす」
ケインたちが会議室から出ていくとマガミが声をかけてくるので、予定がないというと打ち上げに誘ってくる。
「僕はいいけど」
「申し訳ございません。教義の関係で無理です。マスターだけお楽しみください」
「あー、やっぱりだめっすか」
僕は参加するがシュヴァルツはどうするのかとちらりと見ると、シュヴァルツは教義の関係でと断る。マガミもシュヴァルツに関してはダメもとだったようで仕方ないとあきらめている。
「ヒャッハー! その様子なら全員合格のようだな! 俺様が祝いの席用意したぜヒャッハー!!」
打ち上げ会場は冒険者ギルドのホールにある酒場。二階の会議室から一階に降りるとモヒーカーンが幹事となってセッティングしており、早くこっちに来いと手招きしてくる。
「おーしっ! 全員杯は持ったな? ルーシェス! 今回のリーダーとして乾杯音頭とれやヒャッハー!」
「ええ~~!? ぼっ、ぼくがですか!?」
モヒーカーンは仕切り屋なところがあるのか、てきぱきと料理と飲みものを用意するとメンバー全員に杯を持たせて、僕に乾杯の音頭をとれと言ってくる。
「当たり前だろヒャッハー! 今回のランクアップ試験のチームリーダーはルーシェスなんだからな! お前らもそう思うだろヒャッハー!」
「そうっす! ルーシェスに音頭とってほしいっす」
「ルーシェス君お願い」
「頼んだ」
モヒーカーンは自分のチームメンバーに声をかければマガミ達も僕に音頭をとるように言ってくる。
「じゃっ、じゃあ、ランクアップ試験に参加したみんなが全員が無事合格したことを祝して、そしてこれからの僕達の活躍を祈って……乾杯!」
「カンパーイ!!」
僕が音頭を取って杯を上げて、皆も続くように乾杯という。
「それにしても、さすがにランクアップ試験というだけあってきつかったわね。体力的にはともかく、精神的にね」
微かに眉を顰めつつも、今回のランクアップ試験について感想を述べるルビィ。酒の影響もあるのだろうが、人を殺したというのを自分の中で乗り越えられたというのがその口調からは感じられる。
「そうっすね……必要だというのはわかるっすけど……できればもう味わいたくないっす」
ルビィに同意するマガミはまだ若干盗賊を殺したことを引きずっているようだった。やはり人を殺すというのは精神的にかなりの重圧だったのだろう。
「……っと、ごめんごめん、せっかくの打ち上げなのに」
「なにちゃんと受け入れられたらいいんだよ。でも同族殺しには慣れるな。慣れちまったら戻れねえぞヒャッハー!」
少し暗い雰囲気になって慌ててルビィが謝罪するが、アイアンランクの先輩であるモヒーカーンが殺人に慣れるなと注意する。
「ちょっと話は変わるがルーシェス、こいつらの面倒見る気ねえかヒャッハー!」
「え? どういうことですか!?」
唐突にモヒーカーンからマガミ達をチームメンバーにしないかと話を振られて、僕は咽そうになる。
「いやまあ、いつって話じゃねえんだが……でかい仕事控えててな。そいつを終わらせたら、俺様は冒険者辞めようと思ってるんだわヒャッハー!」
モヒーカーンは真剣な表情で引退をほのめかす。マガミ達が驚いていないということは彼らには話が通っていたのだろう。
「こいつらがアイアンランクになったらセガールをリーダーにって思ってたんがよ。お前なら任せられるかと思ってよヒャッハー!」
「……気持ちは嬉しいけど、僕は今の所チームを組む気はないです。背負えません。今回みたいな臨時ならうけますけど」
モヒーカーンの気持ちは嬉しいが、あまり協調行動とるのが好きじゃない僕はシュヴァルツ以外とはチームを組む気はない。
僕が仲間を増やす気がないとわかるとマガミ達はがっかりする。
「そうか……まあ引退はまだ先だし、お前の考え方が変わるかもしれん。ちょくちょく面倒見てくれるだけありがたいと思っておくよヒャッハー!」
「すいません」
「おーっし、暗い話はここまで! おめえら飲むぞ! 騒ぐぞヒャッハー!!」
モヒーカーンは手を叩いて空気を入れ替えるように叫び、一気飲みして騒ぐ。
そこからは普通の打ち上げとしてみんなで楽しんだ。




