第三十九話 二次試験その1
翌朝、僕達は誰一人かけることなくオーリンの正門前に集合する。
「……ここにいる全員盗賊退治試験を受けるという認識でいいな?」
冒険者ギルドの職員ケインは正門前に集まった僕達を見て、アイアンランク二次試験を受ける意思があることを確認する。
「よし、盗賊が出没する山に向かうぞ。やめるなら今のうちだぞ?」
ケインは最終確認を含めて再度声をかけるが、誰も立ち去ろうとしない。
「よし、出発だ!」
僕達は僕達は二次試験でもある盗賊退治に向かう。
目的地の山までは二日の日程、野営を挟んで山の中を探索することになる。
「マガミさん、ルビィさん、聞き込みで何かわかりましたか?」
「オーリンの冒険者ギルドにある情報とほぼ変わらなかったっす。どうもここの街の住人、自分が被害にあわないならどうでもいいと思ってるみたいっす」
移動中僕はマガミとルビィに聞き込みの成果を聞く。
マガミはお手上げのポーズをしてオーリンの冒険者ギルドで聞ける程度の情報しか集まらなかったとため息をつく。
「盗賊団も荷物も命も全部奪うんじゃなくて、私的な関所程度の身代金しか奪わないし、商人達も怪我するぐらいならと支払って通り抜けたりするし、死人が出ていないから街道警備隊も動きが遅いみたい」
「……だから保存食とかちょっと高かったんだ」
ルビィから盗賊による被害状況を伝え、人数分の保存食を買う時にセブンブリッジよりも値段が高かった理由に気づく。
「どういうことだ?」
「この街の執政者は気づいているのかわかりませんが、商人たちは盗賊団による損害をここに卸す商品の値段に上乗せして補填してるんですよ。セブンブリッジなら保存食は一食の値段がシャード銀貨三枚ですけど、ここじゃシャード銀貨五枚でしたよ」
「保存食ですら値上がりしてるということは、オーリンが行商人などに頼って輸入している商品は軒並み値上がりしているでしょうね」
セガールは保存食が高かったこととの因果関係がわからないのか理由を聞いてくるので、僕はセブンブリッジとオーリンでの保存食の値段の違いと理由を説明し、シュヴァルツが補足する様に説明する。
「住人からすれば命取られてないし、商品もまだあるんだからいいだろって認識なんでしょうね。値上がりした理由も理解せずに」
「はぁ~……保存食の値段でそこまでわかるもんなんっすねえ」
マガミ達は感心したように僕を見る。
「ケイン試験官、昨日聞き忘れた質問が一つある」
「ん? なんだ?」
保存食の値上がりの話が終わると、セガールがケインに声をかける。
「万が一盗賊たちが武器を捨てて投降した場合は?」
「……今回の試験の目的はお前達が躊躇なく敵である同族を殺せるかどうかだ。……とはいえ、命乞いしている奴まで殺せとは言わない。状況にもよるが……投降した場合は捕らえてもいい」
セガールは昨日聞き忘れていたと言って命乞いした状況ではどうしたらいいかと聞くと、ケインは試験目的を述べた後に悩みながら譲歩するように投降した盗賊は殺さなくていいという。
「ねえ、投降した盗賊の扱いはどうしたら?」
「拘束してオーリンまで連行して犯罪奴隷として売却だ。これも追加報酬に加算すればいい」
セガールの質問に便乗するように僕も盗賊が投降した後どうすればいいか質問すると、ケインはオーリンの街まで連行して奴隷として売ればいいという。
「捕らぬ狸の皮算用という言葉がある。投降者に関しては実際に現場で出から考えろ。殺すのが嫌だからって投降を呼びかけるのは無しだ」
ケインは僕達に投降を呼びかけるなと釘を刺すように言ってくる。
セガールは何とも思っていないようだが、マガミとルビィは投降を呼びかけるなと言われて動揺している。
「帰りも二日野営するんだぞ? その間モンスターと捕まえた盗賊を見張らなければならないということを忘れるな。捕虜を取ればその分リソースがいるということだ」
ケインは最後にそう告げて、僕達は無言で盗賊が出没するエリアに向かう。
「ルーシェス、そろそろ野営の準備に入ったほうがいいっすよ」
道中何度か休憩を入れて歩き続け、そろそろ時刻が夕方になるころにマガミが野営地の捜索を提案してくる。
「ルビィとマガミは野営に適してそうな場所探してくれる?」
「任せるっす」
「うん、わかった」
ルビィとマガミに野営の候補地探してもらう。
しばらくするとマガミ達が野営地に適した場所を見つけて案内してくれる。
「なんすかそれ? めっちゃ便利っす」
「いいでしょ~、僕自慢のマジックアイテム」
この世界にきて初めて野営する時に使った自動組み立て能力のあるテントを指輪から取り出して設置すると、マガミ達が目を白黒させてテントを見ている。
僕は特別なマジックアイテムだとだけ説明して、人数分の食料を取り出す。
夕食は石パンと言われる固く焼いて保存性を優先したパンと塩漬けの干し肉。
近くに綺麗な川があったので水を汲んで干し肉を出汁に簡易スープを作り、そのスープに石パンを浸して食べる。
「見張りの順番はどうするっすか?」
「僕の魔法で済ませるよ。この後寝るだけだから魔力消費も問題ないし」
「……お前がいると本当に便利だな」
食事を終えて見張りの順番についてマガミがどうするか聞いてきたので魔法で済ますというと、セガールが呆れたような顔をする。
「そういう便利な魔法あるっすか?」
「一定範囲にモンスターとかが足を踏み入れたら警報が鳴る魔法と、ゴブリン退治の時、マガミとルビィに付与した偽装の魔法とかだよ」
僕は野営時に使う魔法の事を説明しながらシュヴァルツの方に視線を向ける。睡眠不要のシュヴァルツは僕の意図が変わってくれたのか万が一の見張り番をすると頷いてくれる。
「じゃあお願いっするっす。後でどれだけの物か見せてほしいっす」
「いいよ、まずは準備から」
僕はまずは野営地を大きく囲むように杖で円を描くように線を地面にひいていく。
警報の魔法は線を描いた範囲内に部外者が足を踏み入れると警報が鳴る魔法で、まず効果範囲を決める円を描かないといけない。
「万物の根源たるマナよ この地に警戒の網を張れ 警報! 万物の根源たるマナよ この地に自然の纏いを 偽装!」
警報の魔法を野営地に付与し、続いて偽装の魔法で外部からは野営地が見えないようにする。
「おー、確かにこれは何もないように見えるっすね」
マガミは少し離れて野営地を確認しようとすると、野営地に設置したテントとか見えなくなっていることに驚く。
「マガミさんを警報の対象外に設定したから、ちょっとこの線の先に足を踏み入れてみて」
「大丈夫っすよね? 怪我とかしないっすよね? 信じてるっすよ!」
次に警報魔法の効果を実感してもらうために、マガミを部外者設定にして野営地を囲むように描いた円の中に入るように伝えると、マガミはおっかなびっくりといった様子でそろりそろりと足を延ばし、線の向こう側の地面につま先をチョンとつける。
「うわああああああっ!? なんなんっす!? この音は!?」
マガミが警報エリアに足を踏み入れると、例えるなら車両の盗難アラームのような騒音が野営地周辺に鳴り響き、近くにいた動物たちが驚いて逃げ出していく。
マガミは初めて聞くアラーム音に両手で耳を塞ぎその場にしゃがみ込む。
「なにごとだっ!」
「どうしたのっ!?」
野営地にいたセガールたちもアラーム音に驚いて僕達の元へ駆け寄ってくる。
「これが僕の警報魔法の効果です」
「こんな騒音なら寝てても飛び起きるな」
「僕が敵で忍び寄ろうとしたときにこんな音なったらパニックになっちゃうよ」
「俺も耳塞いで動けなかったっす」
アラーム音を停止させて魔法効果を説明すると、セガールとケインは魔法効果に感心し、マガミとルビィはその音の大きさに絶句していた。
「まだ耳の奥に音が残ってる気分っす……ルーシェス、これも魔法効果っすか?」
「それは気のせいですよ、そんな効果ないです」
野営地に戻ったマガミは、耳を小指でほじりながらそんなことを聞いてくる。
僕は苦笑しながらそういった効果はないと説明するとテントに戻り、横になる。
とりあえずこうして盗賊退治試験の初日は夜を迎えた。




