第三十七話 VSロックトロール
「ゴブリンの待ち伏せがありましたが、追い払いました」
「これは手当に換算されるっすよね?」
「ええ、もちろんですとも」
アイアンランクへのランクアップ試験として商人の護衛を受けた僕達は道中待ち伏せしていたゴブリンを追い払った。
今回の依頼人であるリバンに報告し、マガミが危険手当扱いになるか確認すると、リバンはもちろんですと言って紙に今日の日付とゴブリンを追い払ったことをメモする。
「さて脅威も去ったことですし、出発しましょう」
「本当に大丈夫なんですか? 戻ってきたりしませんよね?」
リバンが移動を再開しようとすると御者のバッドが怯えたように周囲をきょろきょろと見まわし、ゴブリンが戻ってこないかビクビクしながら聞いてくる。
「僕の魔法で追い払いましたし、今日一日はずっと蜂に追いかけられてますよ」
「魔法で追い払ったんですかっ! 凄いなあ~、僕も魔法見てみたかったなあ……」
僕が魔法で追い払ったことをバッドに報告すれば、丁稚のトニーが目を輝かせる。
僕とマガミがトニーにどうやってゴブリンを追い払ったか話しながら街道を進んでいくと、最初の目的地であるオルグリーフに到着する。
「ここは宿が多いね」
「オルグリーフは一時期は街道沿いの大きな宿場町でした。王の道という馬車での移動をメインにした石畳の新しい街道が出来てからは少々さびれてしまいましたが」
オルグリーフに到着して思ったことは村の規模に対して宿が多いことだった。
シュヴァルツの説明を聞いて、オルグリーフが大手スーパーが出来て寂れた商店街みたいなイメージになった。
「明日の目的地はホーストレストという村です。明日の朝九時に出発しますので、それまではゆっくり休んでいてください。今日はお疲れさまでした」
宿をとれば依頼人のリバンがそう言って僕達は休憩に入る。
僕達にあてがわられた部屋は雑魚寝の大部屋だった。
「お風呂はないのかぁ~」
「いやルーシェス、公衆浴場があるセブンブリッジがおかしいだけで、よほどの高級宿でもないと風呂なんてないぞ」
部屋について荷物を降ろすと宿側からお湯の入った桶と布を渡される。どうやらこれで体を拭けということらしい。
思わず愚痴を漏らしたら、セガールが公衆浴場があるセブンブリッジが特別だと釘をさすように言ってくる。
部屋に荷物を置いて、用意されたお湯で体を拭けば夕食の時間。
宿の一階で食事をとる。夕食はミートパイとひよこ豆のスープ。
「ちょっといいっすか? ルビィと一緒に村で噂話とか集めてたんすけど……どうも次の目的地へ向かう道中に何か危険があるみたいっす」
食事を終えて雑談していると、マガミが手を挙げてオルグリーフで聞き込みした話を教えてくれる。
ここ数日、ホーストレストからオルグリーフにくる商人や旅人がいないとの事。伝書鳩などで届いてない荷物などの状況をホーストレスト側に問い合わせたら、荷物を運ぶキャラバンはもう出発してオルグリーフに到着しているはずなのに行方不明になっていることが分かったらしい。
「近いうちに街道警備隊が調査に向かうらしいんだけど……近いうちってだけで、いつになるかわかんないんだって」
ルビィも聞き込みなどで集めてきた情報を報告してくる。
街道警備隊に異常を報告したが主要街道から逸れてるせいで優先度が低いらしく、近い内という返事しかもらえなかったらしい。
「旦那様、街道警備隊が来るまで待ちましょう! ね、そうしましょうよ!!」
「いや……今回の荷物には期日指定のある商品があるんだ。急ぎというほどではないが日程に余裕があるわけじゃない。それにここで足止めされると宿代の経費が嵩む」
御者のパッドは主であるリバンに街道警備隊が来るまでオルグリーフでの待機を提案するが、リバンは期日指定の商品があると言って滞在を渋る。
「危険を冒してまで行くほどの物じゃないでしょ旦那様!」
「そのための護衛だろう? それに若いが魔法使いもいるんだ大丈夫だって」
御者のパッドはそれでも食い下がろうとするが、最終的に魔法使いの僕やシュヴァルツをだしにしたり、解雇を匂わせたりして、バッドはしぶしぶ出発することに同意し、僕達に護ってくださいよとしつこく釘を刺してきた。
出発が確定してお開きになると、御者のパッドはこの世の終わりのような蒼い顔でとぼとぼと部屋に戻る。
翌朝、キャラバンは次の目的地であるレフトアへと向かう。
御者のパッドは青い顔で終わりだ、皆死んじまうんだとブツブツ繰り返しながら呟き、いい加減にしろとリパンに怒られている。
「うーん……見晴らしも悪くはないですし……そういった脅威とか見当たりませんねえ?」
僕達はいつもより周囲を警戒しながら街道を進むが、街道は見晴らしも悪くなく少し先の道の脇に岩山があるぐらいだ。
「おっ、おい! どっ、どうしたんだ?」
街道脇の岩山が近づいてくると、荷馬車を牽引する馬が何かに怯えて足を止める。
御者のパッドが宥めようとするが、馬は怯えて暴れ出す。
「ルビィさん、マガミさん、あの岩山に矢を撃ってください! おそらくモンスターの擬態か、何かが潜んでるのでしょう!」
「え? お、おう!」
「うん分かった」
シュヴァルツが進行方向にある岩山を指さし、ルビィとマガミに攻撃するように叫び、半信半疑でルビィとマガミが岩山に向かってクロスボウと弓で攻撃する。
「グォォォォォォン!!」
「いっ、岩山が動いた!?」
「違いますっ! あれはロックトロールです! 岩山に擬態して街道を通る商人や旅人を襲っていたのでしょう!!」
マガミとルビィの攻撃は岩山に弾かれるが、攻撃を受けた瞬間岩山から地鳴りのような声が響き、動き出す。
正体を現したのはロックトロールと言われたモンスター。全長三メートルはある岩のような肌を持つ人型生物で、手足の指が三本しかない。異様に腕が長く、拳を地面に引きずりながらこちらに襲い掛かってくる。
「ヒィィィィ、おたすけええええ!!」
「アルテナ様! グランガイン様! ビクトール様っ! とっ、とにかく誰でもいいから助けてくださああいっ!!」
ロックトロールを見た御者のパッドは荷馬車を放棄してどこかに逃げる。
そのせいでリパンとトニーが乗る荷馬車が後退できず、二人はお互いを抱きかかえて神々の名前を叫んで助けを求める。
「下がれっ! そいつはシルバーランククラスじゃないと討伐できない! 依頼放棄して逃げろ! リパンさんも荷物は諦めてください!!」
ずっと黙って同行していたギルド職員のケインはロックトロールの強さを知っているのか逃げろと叫ぶ。
「マスター、トロール種は強力な再生能力を持っており、傷を炎で焼かないとすぐに再生します!」
「わかった! 万物の根源たるマナよ 炎となりて我らが武器に宿れ 炎属性付与!!」
シュヴァルツがトロールの特殊能力を僕に伝え、僕は魔法でシュヴァルツ達の武器に炎属性を付与する。
「うおおおおっ!? 俺の武器が燃えてるっす!?」
「ぼっ、僕のもだよ!?」
「落ち着け、ルーシェスの援護だ」
マガミとルビィは急に自分が持ってたクロスボウや弓が炎に包まれ、必死に消火しようと振り回す。
セガールは炎が噴き出すロングソードをもって二人を一括し、僕の横に来る。
「ルーシェス、防御の呪文で援護を頼む。シュヴァルツは俺と一緒にあいつの足止めだ」
「わかった! 万物の根源たるマナよ 不可視の盾となりて かの者達を護れ 魔法の盾!!」
「了解しました」
僕が魔法の盾の付与をメンバー全員に付与すると、セガールはシュヴァルツと連携してロックトロールに向かって走り出す。
「ウガアアアア!」
ロックトロールは雄たけびを上げて引きずっていた両腕を上げて、セガールとシュヴァルツを叩き潰そうとする。
セガールはスライディングでロックトロールの股の間に入って叩きつけを回避すると、通り過ぎ際にロングソードで太ももを斬りつける。
シュヴァルツは横に飛びのき、振り下ろしたロックトロールの片腕を両手剣で斬りつける。
二人の攻撃がロックトロールに命中すると固いものに金属をぶつけたような音が響く。
セガールとシュヴァルツ二人の攻撃は岩のような肌にほとんど塞がれてかすり傷ほどしか与えられない。
「マジかよっ!? シュヴァルツさんの攻撃ですらかすり傷っすか!?」
「マガミっ! けん制でもいいから攻撃するよっ!!」
マガミはシュヴァルツの攻撃ですらロックトロールに軽傷しか与えられないことに驚愕し、ルビィはそんなマガミの背中を叩いて、弓でロックトロールに攻撃するが、岩肌に阻まれて刺さらない。
「俺のクロスボウはどうっすか!」
「グガアアア!!」
マガミのクロスボウから放たれた炎が宿ったボルトは運よくロックトロールの弱い部分に命中したのか、深々と刺さりジュウウウっと肉が焼ける音と傷口から煙が吹いてる。
「ウガアアア!!!」
「げっ! こっち来たっす!?」
ロックトロールに大きなダメージを与えた代わりにヘイトがマガミに移ったのか、ロックトロールは怒りの咆哮を上げてマガミに襲い掛かろうとする。
「万物の根源たるマナよ 鋼の枷となりて 我が敵を拘束せよ 鋼の拘束具!」
僕が呪文を唱えて杖で大地を叩くと、ロックトロールの足元に魔法陣が展開し、無数の鎖の枷がジャラジャラと音を立ててロックトロールに絡みつき拘束していく。
「ウッ!? ウガアアアアア!!!」
ロックトロールは拘束具を引きちぎろうと暴れるが、僕の魔法で生み出した拘束具はちぎれず、逆に地面へと引きずり込むように鎖がロックトロールを引っ張る。
「万物の根源たるマナよ 我が敵の鎧の如き鱗を剥がせ 鱗剥がし!!」
「ゴアアアアアアっ!?」
連続で呪文を唱えて、杖の先端から発射された光線がロックトロールに命中すると、岩の肌が急速にひび割れしてはがれていき、ロックトロールは激痛による悲鳴を上げる。
「皆ッ! 今です!!」
「おっしゃっ!」
「それっ!」
僕の号令に合わせるようにマガミとルビィが矢を放ち、マガミのボルトが肩に、ルビィの矢が片目に命中する。
「グギャアアアアア!!」
「うおおおおお!!」
ロックトロールは目に矢が刺さったことで悲鳴をあげて体をそらす。セガールは露わになったロックトロールの腹部めがけて裂帛の雄たけびを上げながら、腹部を横一線に切り裂くと、傷口から腹圧で腸が飛び出す。
「勝利を我が主に捧げますっ!!」
最後にシュヴァルツが跳躍し、ロックトロールの首を刎ねる。
首を切断されたトロールの胴体はゆっくりと膝をつき、地響きを立てて倒れ、一拍間をおいてどちゃりと刎ねられたトロールの首も地面に落ちる。
「……ロックトロールを倒した……だと……」
冒険者ギルドの職員で今回の試験官であるケインはあり得ないといった顔でルーシェス達を見ていた。




