第三十五話 シェイクスからの招待状
ドワーフ達の依頼で山崩れから出土した遺跡の調査を受けた僕は遺跡の神殿で吸血鬼となった終末戦争時代の邪悪な神官フザートを倒し、捕らわれている魂とアルコンのラマスティラクス達を解放した。
解放されたラマスティラクスは魔法で局地的な地震を起こさせて神殿を再封印する。
「いや~、無事でよかった」
村に戻って僕は遺跡内を徘徊していたアンデッドを倒した後、また山崩れが起きて遺跡が埋まったと報告した。
シュヴァルツが言うには馬鹿正直に終末戦争時代の吸血鬼がいると言っても信じないか大騒ぎになるので、調べきる前に埋もれたことにすればいいと提案してきたので、そういうことにした。
ドワーフ達の村で一泊してセブンブリッジに戻り、冒険者ギルドで依頼完了手続きを行う。
「依頼完了、ですワンニャン。ルーシェス様とシュヴァルツ様はランクアップ試験を受ける権利がありますが、申請しますかワンニャン?」
「ええ、もちろんです」
「私もお願いします」
冒険者ギルドの受付嬢ベスティアに依頼完了の手続きをすると、ランクアップ試験の申請をするかと問われて申請した。
「ランクアップ試験っていつからです?」
「わかりませんワンニャン」
「あらら?」
ランクアップ試験を申請して、いつから開始かベスティアに質問するが、わかりませんと言われて僕は思わずズッコケそうになる。
「ランクアップ試験の内容や開催日は上層部と試験担当官が決めるので本当にわからないんですワンニャン。日程が決まりましたらギルドからご連絡行くと思いますワンニャン」
「わかりました」
ベスティアはランクアップ試験が何時になるのかが分からない理由を教えてくれる。そういうことなら仕方ないので、連絡を来るのをまとう。
「あ、そうそう! ルーシェス様達が依頼で出ている間にシェイクスさんから新作歌劇の招待チケット送られてきてましたワンニャン」
「あ……ありがとうございます」
ベスティアは思い出したように蝋印がされた招待状を渡してくる。
シェイクスという名前が出るだけで顔が引きつりそうになり、ベスティアに苦笑される。
招待状に同封されている手紙を読むと、以前僕がアイデア出した歌劇が完成したらしく鑑賞して意見をくれとの事だった。
上演日は明日だったし、招待客ということでシェイクスの面目を守るために今日は公衆浴場で念入りに体を洗って、明日着ていく衣装をアイテムボックス内にある衣装から選ぶ。
ゲーム内衣装もこの世界で実体化しており、モッドを導入して手に入れたアニメなどのコスプレ衣装などもある。
「これなら失礼ないかな?」
「ええ、それなら問題ないかと」
宿屋に備え付けられている鏡の前でアイテムボックス内にあった衣装をあれこれ組み合わせてみた結果、燕尾服にシルクハットという紳士スタイルに落ち着いた。
翌日ちょっと奮発して二頭馬車をレンタルしてセブンブリッジ大劇場へと向かう。
劇場前は大変混雑しており、交通整理の依頼を受けた臨時雇いの冒険者達がてんてこまいといった表情で交通整理して、馬車を誘導している。
「あ! ルーシェス君!」
「あ、ルビィさんこんばんわ」
僕が馬車から降りると、僕の馬車を誘導していたのはモヒーカーンさんのチームメンバーのルビィだった。
「凄いおめかししてどうしたの?」
「えーっと、依頼でアイデア提供した脚本家さんから舞台完成したから見に来いと招待されまして」
「嘘っ! いいなぁ~! 僕もシェイクスさんの新作みたぁい!!」
ルビィは僕の姿を見て驚き理由を聞いてくる。以来の縁で招待されたと招待状を見せて伝えると、ルビィに羨ましがられる。
「そんなに人気なんですか?」
「だってあのシェイクスさんの新作だよ! 初日は招待客しか入れないし、僕達庶民はチケットとれるかすらわからないぐらいの人気なんだからね! 他にも―――」
ルビィに新作の人気具合を聞くと、沼ジャンルに引きずり込もうとするオタクのような早口でシェイクスの歌劇作品の人気具合や作品の良さ等々グイグイ教えてくる。
僕がちょっと引き気味になってることにも気づかずルビィはシェイクスの過去作品のどれがどう良かった話を始めるが……
「いつまで喋ってるヒャッハー!」
「あいたぁっ!?」
「あ、モヒーカーンさんこんばんわ」
「おう、引き留めて悪かったな。用事あるんだろ? こいつは俺様に任せて楽しんできなヒャッハー!」
背後から忍び寄っていたモヒーカーンに拳骨を食らってルビィは両手で頭を押さえてその場にうずくまる。
僕はモヒーカーンさんに挨拶してその場を離れる。背後からはルビィがモヒーカンに怒られている声が聞こえ、ルビィが謝罪したり立ち去る僕に助けを求める声が響いていた。
劇場で招待状を見せると劇場スタッフが席まで案内してくれるが……貴族などの来賓客が多いエリアに案内されて周囲から奇異の目で見られる。
時折聞こえてくるひそひそ声は僕がどこかの貴族の子息じゃないかと話し合う声が多い。
「何か人だかりができてますね」
上の階に上がる階段があるエリアでは人だかりができており、色とりどりのドレスを着た令嬢達やエスコートしている殿方たちがわいわいがやがと騒いでいる。
僕を案内するスタッフもその階段に近づいていくので、誰か有名人でも来ているのかと覗き込んでみると、原理はわからないが階段がエスカレーターになっており、物珍しさからみんな何度上り下りして騒いでいる。
「これ凄いわねえ」
「魔動車という馬のいらない乗り物を作った錬金術工房の発明品らしいですわよ」
「パパ、もう一回乗りたいっ!」
上の階でもエスカレーター付近では人だかりができており、このエスカレーターの製作者の話やもう一回乗ろうとはしゃぐ令嬢たちがいた。
「こちらがお客様の席になります」
「え? 間違ってません?」
エスカレーターにはしゃぐ貴族たちを後ろに席に案内されるが……案内されたのは個室になっている席で、舞台真正面の特等席と言って過言ではない席だ。
「いいえ、シェイクス様からはこちらの招待状を持つ者をこちらに案内するように言われています」
座席や部屋の調度品も趣向が凝らされており、何となく落ち着かない。
とはいえ、せっかく用意してくれた席だし、断るのも失礼と思い席に着く。
「落ち着かないなあ……」
シュヴァルツは護衛として席の後ろに直立不動でたち、メイドがお茶を入れてくれる。
お茶を飲んで茶請けの菓子を食べながら開演を待っていると、ベルが鳴って緞帳が上がる。
指揮者の合図で楽団が演奏を始めて第一幕が始まる。第一幕では物語の主人公となる五人の泥棒が現れ、自分達は人を殺さず悪党から金を盗み、貧民に施す義賊だと名乗る。
名乗りを終えた五人組は次のターゲットとして悪い噂が流れる悪徳商人の商家を狙う作戦会議を行い、解散した後で五人組の頭と一人の泥棒が残る。
二人は親子の関係で、過去に起こった大火で頭は子を失い、部下は親を失い、お互いを義理の親子にしたという昔話を語るところで第一幕は終わる。
第二幕では噂の悪徳商人の家に忍び込んだ五人組が家主を起こし、悪事の証拠と金をよこせと脅す。
そこで商人は悪人ではなく、とある商人と貴族が結託して自分たちの販路や店を奪おうとして嫌がらせをしていると訴え、更に息子は小さい時に起きた大火で実の息子の代わりに保護した子供だと明かし、本当の親に申し訳が立たないのでせめて息子の命だけは助けてほしいと懇願します。
商人はタンスに大事にしまっていた服を取り出し、これが息子を保護したときに着ていた服で、この紋章が唯一の手掛かりだと訴えると、泥棒の頭は動揺する。
ここで盗賊の頭は大火で死んだと思っていた頭の息子が商人に保護されていたという事実を知る。
そして商人は自分の本当の息子には首の後ろに星形の痣があると言い、子供替わりだった泥棒が「これの事かと」服を脱いで痣を見せ、自分が実は商人の息子であったことを知る。
商人と盗賊はお互いに親子が生きて再会できたことに喜び、残りの配下もお互い血の分けた家族が生きて再開できたことに涙して喜ぶ。
商人は泥棒達に足を洗って家で働かないかと誘い、五人組は最後の大仕事を終えたら足を洗うと約束するところで二幕が終わり、休憩に入る。
ここまでは歌舞伎の白波五人衆とほぼ一緒で、違うのは歌舞伎の方では五人衆は足を洗わずお互い拾ってくれた人を実の親だと思い親孝行しろと言って別れることになっている。
休憩中食事に行こうとすると、メイドから部屋から料理が注文できると言われて、デリバリーしてもらう。ちなみに飲食代も席料に入っているらしい。
普通にこの席予約したらいくら取られるんだろう? また脚本アイデアくれと言われたら考えないといけないかもしれない。
休憩を終えて第三幕が始まり、最後の大仕事は本当の悪徳貴族と商人を懲らしめるために五人組が証拠集めしていく。
この幕では五人組がそれぞれの能力を駆使して悪事の証拠を手に入れていくシーンで、変装が得意な泥棒が男女配役を入れ替えて変装してるシーンを見せたり、身軽という設定の泥棒が僕が漏らしたパルクールアクションで観客たちを驚かせるところで第三幕が終わる。
続いて第四幕は悪徳貴族と商人が屋敷で悪だくみをしているところから始まり、舞台袖から五人組が悪事の証拠は掴んだぞと叫ぶ。
「何者だっ! 姿を現せっ!!」
「知らねえなら教えてやるぜ!」
悪徳貴族が舞台建物のバルコニーから叫ぶと、一人目が舞台装置か魔法で上空から現れて名乗りを上げる。
「聞かれてから名乗るのもおこがましいが!」
二人目が舞台袖から現れ、朗々とした声で名乗りを上げる。
「さてその次は俺が名乗らさせてもらおうかっ!」
「続いて次に控えている俺様は!」
続いて奈落のような舞台下から三人目が現れ名乗りを上げ、四人目は変装を解いたという設定で女優から男優に入れ替わった役者が名乗り上げる。
「さーて、最後に登場するのはっ!」
頭役の役者が現れ名乗りを上げると、残り四人も頭の周りに集合し、そして―――
「我ら五人揃ってホワイトラグーン五人衆!!」
五人同時に異口同音でポーズを決めて名乗りを上げると、ジャーンと楽団もそれに合わせて銅鑼を鳴らす。
「ええいっ! 曲者じゃ! 出会え出会え!!」
ここからは戦闘シーンで、俳優たちと楽団がタイミング合わせるように大立ち回りする。
特に身軽設定の役者はトンボをきったりバク転したり、派手なアクションで観客を盛り上げ、相手を殴るシーンでは楽団も激しく音楽を鳴らして臨場感をあおる。
第四幕が終わって最終幕では悪徳貴族と商人を懲らしめた五人衆は貴族たちを裸に剝いて(パンツは履いてる)広場に縛り上げ、罪状を書き上げた紙と証拠を民衆に晒す。
最後の大仕事を終えた五人衆は足を洗って商人の店で働き、幸せに暮らしたというハッピーエンドで幕が下りた。
歌劇が終わって観客達は席から立ち上がり拍手喝采だった。
劇を終えて歓談室では観客達が余韻に浸り、歌劇のどこが良かったかを話し合っている。
男性陣は四幕の名乗り上げや戦闘シーン、身軽設定の役者のパルクールアクションが気に入っている模様で、女性陣は美男子設定で男女自由自在に変装する役がお気に入りのようだった。
とりあえず好評だったようで、アイデア提供した僕としてもほっと胸をなでおろした。




