第三十四話 邪悪な神官フザート討伐
ドワーフからの依頼で山崩れで見つかった遺跡の探索に向かった僕達は、正体を伏せられた神を奉る神殿を見つけ、拷問部屋で死してなお捕らわれる魂となった幽霊たちを解放するために邪悪な神官フザートの討伐を引き受ける。
広間北の通路を進む。通路は上り坂になっており、登りきるとそこは中央に祭壇がある大きな部屋だった。
祭壇の前には祭壇を守る様に巨大な石像が鎮座しており、祭壇の裏側にはさらに奥へ続く上り階段があった。
祭壇をよく見れば高さ三メートルはある塔になっており、塔の先端にはエネルギー状の球体があり、その中に誰かが捕らわれている。
エネルギー状の球体に捕らわれている人物はこちらに気が付いたのか、必死に内側から球体を叩いて何かを叫んでいる。
「助けるよ、シュヴァルツ。あの石像、なんだかガーディアンっぽいから気を付けて」
「了解しました」
僕達はエネルギー状の球体に捕らわれている人物を助けるために祭壇の塔に近づく。
祭壇の塔に近づくと予想した通り、石像の目が光り動き出すが……同時に天井から二体の泥の塊のような物体が落ちてきて、更に床のタイルを押しのけてスケルトンが五体現れる。
「ストーンゴーレムにヌラーリ、それにスケルトンですか」
「ヌラーリって何? スライムみたいなもの?」
「いえ、泥から作り出せるゴーレム製造術の中でも比較的簡単なゴーレムの一種です」
「あれがゴーレム!?」
シュヴァルツがモンスター達の正体を叫ぶ。
天井から落ちてきた二体の泥の塊はスライムではなくゴーレムの一種と説明されるが、信じられなかった。
地面から現れたスケルトンたちがその手に持った錆びだらけのジャベリンを投擲してくる。ヌラーリという泥のゴーレムも体を震わせたかと思うと泥の礫を飛ばしてくる。
「万物の根源たるマナよ 石の壁となりて 脅威から我らを護れ 石の城壁!!」
僕は呪文を唱えて杖で地面を叩くと僕達を護る様に石でできた城壁が地面から生えるように聳え、モンスター達の攻撃を防御する。
「万物の根源たるマナよ 我らに天空を舞う翼を与えよ 飛翔!」
石の城壁に守られている間に僕は次に飛翔の魔法を唱え、僕とシュヴァルツは背中に魔法の翼が生えて飛行能力を得ると空を飛ぶ。。
「万物の根源たるマナよ 炎の柱となりて我が敵を焼き尽くせ 炎の一撃!!」
僕が呪文を唱えると同時にスケルトンとヌラーリの足元に魔法陣が現れ、杖を振り上げると同時に魔法陣から炎が吹きあがり、ヌラーリオとスケルトンたちを焼き尽くす。
吹きあがった炎が収まるとスケルトンは炭となってボロボロと崩れていき、ヌラーリは焼きレンガのような塊となって動かなくなった。
「次は私の番ですよっ!!」
同じく空を飛んでたシュヴァルツが急降下して、炎の一撃の範囲外にいたゴーレムに両手剣を振り下ろし、ゴーレムはその巨大な拳で迎撃しようと殴りかかる。
双方の攻撃が命中すると祭壇内に激突音が響き、シュヴァルツは後退し、ゴーレムは片方の拳を失う。
「うわっ!?」
「くっ!」
ゴーレムは残った腕で砕けた拳の残骸を掴むとそれを僕達に向けて投げてくる。
僕の傍を人の頭ほどあるサイズの石の塊が通り過ぎる風切り音に肝が冷える。
「今度はこちらの番です」
シュヴァルツはゴーレムの投擲を回避しながら急降下すると、ゴーレムの無事な方の腕を切り落とし離れる。
そのまま大きく弧を描いて低空飛行して両足を切断し、急上昇からの急降下でゴーレムの頭部を両手剣で切断する。
両手足に首を失ったゴーレムは機能停止し、魔法の保護がなくなったのか体が崩壊していく。
「これでモンスターは全部かな?」
「そのようですね」
伏兵がいないか周囲を伺うが、これ以上の襲撃はないように思える。
「捕らわれてる人を助けないと」
僕とシュヴァルツは飛翔魔法で塔の上のエネルギー状の球体に近づく。
球体の中には白鳥の羽根が背中から生え、蒼い髪に額に宝石が埋め込まれた少女が閉じ込められていた。
少女は球体の内側を叩きながら必死に何かを訴えるが、このエネルギー状の球体が音すら遮断しているのか何も聞こえない。
「捕らわれてるのは神々の使いのアルコンのようですね」
「とにかく、これを何とかしないと……魔法探知!」
シュヴァルツは捕らわれている少女の姿を見て、アルコンだと述べる。どういった種族かきになるが、まずは救助を優先する。
「封印魔法か、ならば。万物の根源たるマナよ 我が言葉に従い その力を散らせ 魔法解除!!」
魔法探知でエネルギー状の球体が一種の封印魔法であることを確認する。本来なら正しい手順で解除しないといけない魔法系のトラップだが、一万人分の魔力のある僕なら魔法解除呪文で強引に封印を解く事が出来る。
杖の先端でエネルギー状の球体に触れれば、ガラスが割れるような音が祭壇に響き、球体が破裂して、中に捕らわれていたアルコンの女性を解放する。
「………」
「えーっと、大丈夫?」
アルコンの女性はまさか力業で封印を解除されるとは思っていなかったようで驚いた顔で呆然としていたが、僕が声をかけるとはっとした顔で急に土下座する。
「偉大なる力を持った人族の少年よ、感謝する。どうか我が主ラマスティラクス様を助けてもらえないだろうか?」
アルコンの少女が言うには少女とラマスティラクスという主は終末戦争時代、魔王シディアスの配下の一人吸血夜王ヴァイス・クルーゼによって吸血鬼にされた神官フザードを討伐しようとこの神殿にやってきたという。
罠にかかってアルコンの女性が人質となって捕らわれて、ラマスティラクスはフザートに封印されてしまったという。
ラマスティラクスは封印される寸前に最後の力を使って、この神殿を山の中に埋めたらしい。
「もちろんそのつもりですよ。この神殿に捕らわれた魂にも解放するって約束したし。とりあえず貴方はどこか安全な場所に避難してください」
「偉大なる力を持った人族の少年よ、助力に感謝する。今の私ではフザートには勝てずまた人質にされる可能性が高い。だがせめて助力はさせてくれ」
フザートは元々討伐するつもりだったのでラマスティラクスを救出することを承諾すると、アルコンの女性は自らの羽根の一枚をちぎって渡してくる。
「これは?」
「一度だけどんな病気も呪いも怪我も生きているなら完治させる事が出来ます。どうかラマスティラクス様の事をお願いします」
アルコンの女性はそういうと一礼して飛んで神殿の外へと向かう。
僕は羽根をアイテムボックスに収納すると、さらに奥へと続く階段を駆け上る。
階段を駆け上るとそこも広間になっており、部屋の奥には朽ちかけた布がかけられた筒状の物が置かれ、それを監視する様にガーゴイルの彫像が三方向から睨んでいる。
「ようこそ、我が神殿へ」
含み笑いの混じった声が神殿内に響き渡り、天井にいた蝙蝠たちが一か所に集まると青白い肌に赤い瞳、唇の隙間から見える鋭い犬歯の痩せた男の形になっていく。
「お前がフザートだな? ここに捕らわれている魂の人々とラマスティラクスを解放するために討伐する!」
「ふははは、この我を人間風情が討伐するだと? お前達の血を吸って我が配下にしてこき使ってやるわっ!!」
僕がフザートを指さして倒すと宣言すると、フザートは自身の犬歯を見せつけるように愉快に笑い、指を鳴らす。
すると布が被った筒を見ていたガーゴイルの像の目が光り、三体のガーゴイルが動き始める。
「マスター、奴は吸血鬼です。太陽が弱点です」
「ふんっ! 弱点がわかった所で、このような場所でどうなるというのだ? 我を外にでも連れ出す気か? 笑わせるなっ!」
シュヴァルツが吸血鬼となったフザートの弱点を伝えると、話が聞こえていたフザートが鼻で笑い、ガーゴイルにこちらを攻撃する様に命令する。
三体のガーゴイルは石でできているとは思えないほどの滑らかな動きで羽を広げると、飛行しながらこちらを両手の鋭い爪で切り裂こうと攻撃してくる。
シュヴァルツは両手剣でガーゴイルの攻撃を弾き返し、僕はまだ効果が残っている飛翔魔法で大きく離れて回避する。
「小僧! 私の目を見ろっ!」
「マスターっ! 吸血鬼の目には魅了の効果があります!」
フザートは真紅の目で僕を見つめてくる。シュヴァルツが吸血鬼の目には魅了効果があると注意するが、特に変化はない。
「……何? なるほど、無策で突っ込んできたわけではないようだな。ならばこいつはどうだ!」
「うわっと!?」
フザートは自身の魅了の瞳の効果がないとわかると何か対策してきたと勘違いする。純粋にそういった状態異常耐性値が高くて抵抗しただけなんだけどね。
魅了の瞳が効果ないとわかったフザートは呪文詠唱を省略して、掌から無数の炎の球を飛ばしてくる。
僕は上下左右縦横無尽に飛びまわり、炎の球を回避していき、僕が回避した炎の球は壁や床に触れると爆発し、轟音と土砂を巻き上げる。
一方シュヴァルツは飛翔魔法で飛び交いながら三体のガーゴイルを引き付けている。
一体のガーゴイルが翼を斬られ墜落し地面に激突してその衝撃で石の体が粉砕される。
時折ガーゴイルの爪で鎧を引っ搔かれるが、シュヴァルツの鎧は頑丈で傷もへこみもなく、シュヴァルツはさらに一体を両断し、残り一体に斬りかかっていく。
「こっちもさっさと終わらせないと」
「ほう、蚊トンボの様に逃げ惑うしかないというのに、我に勝てるというのか?」
「それはこの魔法を見てから言ってみたら? 万物の根源たるマナよ 日輪の光となりて その輝きを照らせ 太陽光爆発!!」
「んなっ!?」
フザートの火球を避けながらそんなことを言うと、フザートは高笑いしながら余裕を見せてくるが、僕が太陽爆発の呪文を発動させると、一気にその顔が驚愕に変わる。
「たっ……太陽の光を呼び出すだとっ!? あっ、ありえんっ! 高位のクレリックでもない限りありこんな力ありえないいいいいっ!!!!」
「悪いね、こう見えて対アンデット系の呪文はそれなりに用意しているんだ」
杖の先端から生まれた太陽は神殿内の隅々まで闇の逃げ場を無くすように照らし出す。
フザートは太陽の光から逃れようとするが、太陽の光に当たった部分から肉体が焼けていき、骨が露わになっていく。
何度もあり得ないと繰り返し叫びながら全身が焼かれて骨だけになると、足元から骨が灰になっていき崩れ落ちていく。
呪文の効果が終了して太陽が消えてまた神殿に闇と静寂が戻るころには僕とシュヴァルツ以外動く者はいなかった。
「ラマスティラクスという人はどこに封印されてるのかな?」
「あれじゃないでしょうか?」
フザートを倒した僕達はアルコンの少女に頼まれたラマスティラクスの封印を解くために、その封印場所を探す。
シュヴァルツが指さす方向には戦闘で布がずれた筒の中に胎児のようなポーズで眠る金髪の女戦士がいた。
「魔法探知……うん、これが封印みたいだね。魔法解除!」
魔法探知で筒を確認すれば、アルコンの少女が捕らえられていた球体と同じ封印の魔法がかけられており魔法解除で封印を解除すると、中にいた女性が目を開けて筒を破壊して出てくる。
金髪の女性からは太陽のような後光が差し、額には何か紋章のような物が輝いている。
「助けていただいて感謝します。私は太陽神アルテナに仕えるラマスティラクス。力足りずこのような醜態を見せてしまいました……」
ラマスティラクスと名乗った女性は僕達の姿を確認すると、テレパシーみたいな能力で直接頭に語り掛けてくる。
「助かってよかった。人質にされたアルコンも助けたから」
「ありがとうございます。お礼にこれをどうぞ。もしあなたや大切な人が命の危機に陥った時、この笛を吹いてください。一度だけ助力することをお約束します」
僕がアルコンを助けたことを伝えると、ラマスティラクスは横笛を渡してくる。
「この邪悪な神殿は再度山の奥底に封印します。すぐに帰ってください」
「あっ! 拷問室に捕らわれている魂は?」
「大丈夫です。貴方がフザートを討伐した瞬間、彼らを縛っていた枷はなくなり減れの胸元へと旅立ちました」
「よかった……ちゃんと成仏できたんだね」
捕らえられていた魂が解放されたと聞いてほっとする。
僕達が神殿があった洞穴から離れたのを確認すると、ラマスティラクスは何か呪文を唱える。
すると、局地的な地震が起こり神殿があった洞穴が地中深くに埋もれていく。
ラマスティラクスは封印が完了したことを確認すると、僕達に頭を下げた後天へと昇って行った。




