第三十三話 死の神殿の探索
ベンケット不動産から開かずの間の扉の開錠依頼を終えてセブンブリッジへ戻った僕達。
一日休みを入れた後、ブロンズランクの十回目になる依頼を探しに冒険者ギルドへとやってきた。
「ちょうどよかったワンニャン、ルーシェス様こちらに来てください」
ギルド受付のベスティアが僕達の姿を見て手招きしてくる。
受付のカウンターには艶やかな髭を生やした背の低いスキンヘッドの老人がいて、ベスティアの行動を見てこちらに視線を向ける。
「ルーシェス様、依頼を探しているならこちらのドワーフさんのお話を聞いてあげませんかワンニャン?」
「後ろの全身鎧の人はともかく、こんな子供が冒険者じゃと?」
受付に近づくと、ベスティアが仕事を紹介し、ベスティアに紹介されたドワーフは髭をいじりながらけげんな表情で僕を値踏みするように見る。
「ルーシェス様は幼く見えますが立派な魔法使いですワンニャン、シュヴァルツ様はルーシェス様のお仲間で信頼のおける戦士様ですよワンニャン。それにお二人は数多くの依頼を成功させて、モンスター討伐もかなりの腕前ですワンニャン」
「魔法使いっ!? おぬし貴族か?」
「いえ、僕は魔法が使えるだけで貴族でも何でもありませんよ」
フォローする様にベスティアが僕達の能力や過去の実績を話し、ドワーフの老人は僕が魔法使いと紹介されると、信じられないといった表情で目を見開き貴族かと聞いてくるので否定する。
「ベスティアさん、このドワーフさんが何か依頼持ってきたんですか?」
「うむ、実はわしらの村で遺跡らしきものがみつかっての。危険がないか調べてほしいんじゃ」
ドワーフの老人が言うにはラーメイ山脈にあるドワーフ達の集落近くで大雨による山崩れが発生。被害状況を確認しに行くと山崩れ跡から遺跡と思われる建造物が出土したという。
「こういうのって勝手に調べていいんですか? 国に報告しないといけないとか?」
「別にそんな報告義務はありませんワンニャン」
「仮にあったとしてもわしらの村は自治じゃから鉱山が見つかったとかでもないと王国も何も言わんじゃろうて」
僕はつい日本での認識で工事中に古墳などが出土したときのような手続きがあるのではと質問するが、受付嬢のベスティアはそんなものはないと言い、ドワーフの老人は村は国境が定かではない山脈にあるので戦略価値のある鉱山とかでない限りは国は動かないと教えてくれる。
「とりあえず依頼は出土した遺跡を調べて、危険がないかの確認ということですか?」
「うむ、そうなるな。遺跡で見つかったものは全部そっち持ちでいい。報酬は全体でドラゴン金貨五十枚と滞在中の寝床と食事の保証でどうじゃろうか?」
「ではそれで引き受けます」
依頼内容を確認すれば悪くない条件に思えたので引き受けることにし、受付嬢のベスティアに受託処理してもらうと、さっそくラーメイ山脈のドワーフの村へと向かう。
「ドワーフだけの村ですか」
「十五年前にナブー王国がこの地域を平定するまではわしらは亜人種と言われて迫害されとったんじゃ。そういった差別から逃れるためにわしらは山に、エルフたちは森に隠れ住んどったじゃ」
ドワーフの村は三十人ほどのドワーフだけの村で、道中村がどうやってできたか教えてもらう。
十五年前ナブー王国とテイラス王国が戦争しており、テイラス王国は人間至上主義みたいなのを掲げてエルフやドワーフを亜人種と言って迫害していたという。
今回向かう村も元々は迫害から逃れるために隠れ住んでいた村らしい。
村に到着すると村長宅で一泊し、翌朝件の遺跡へと向かう。
目的の遺跡は村から徒歩で三時間ほど、確かに依頼人のドワーフが言ったように山崩れが起きており、人二人ぐらいが楽に歩けそうな洞穴がぽっかりと開いている。
「洞窟自体は元からあったようですね。何らかの形で埋もれていたのが今回の山崩れで出土したという所でしょうか?
「万物の根源たるマナよ 踊る光となりて 我らの道を照らせ 踊る光球!」
シュヴァルツが洞窟入り口付近を確認して、僕は明かりの魔法で洞窟内を照らし、中に足を踏み入れる。
「隠れ……神殿かな?」
「外装からして……善の神々のパンデオンではなさそうですね」
洞窟内を進んでいくと、ギリシャのパルテノン神殿のような外装の神殿があった。
シュヴァルツが神殿の外装から僕達人間にとって好意的な善の神々を奉る神殿ではないと教えられる。
神殿に近づき柱や壁を調べるが、奉ってる神を示す名前やシンボルもない。
「シュヴァルツ、先頭をお願い」
「承りました」
シュヴァルツは両手剣を抜いて先に神殿へと足を踏み入れ、僕も後に続く。
最初に辿り着いたのは広間、床や壁は古びて崩れており長い歳月を感じる。
「マスターっ! 敵です!!」
広間を調べようとすると、床のタイルを跳ね除けて土が盛り上がって、地面から骸骨が五体現れる。
全員錆びた剣と鎧に盾を装備しており、こちらを威嚇する様にカタカタと顎を鳴らし襲い掛かってくる。
「アンデッドのスケルトンです!」
シュヴァルツはそういうと両手剣を横なぎに振るう。スケルトンの一体が盾で防ごうとするが、盾は砕かれ腰から両断され、さらに近くにいたスケルトンまでも粉砕する。
「万物の根源たるマナよ 音の槍となりて 我が敵を粉砕せよ 衝撃の槍!!」
僕は呪文を唱えて衝撃波の槍を襲い掛かってくるスケルトンに向けて放つ。不可視の衝撃波をまともに食らったスケルトンたちは骨が粉砕されて粉々になる。
「どうやら……あまりよくない神殿のようですね」
スケルトンを撃退したシュヴァルツが周囲を警戒しながら呟く。
広間にも神殿が奉る神を示すものは何もなく、前方と左右に道が続いている。
「まずはこっちから調べてみようか」
光球を操作しながら通路を照らし、右側の通路を進む。
「行き止まりか……」
「土砂でこれ以上先には進めませんね。引き返しましょう」
そこは広間よりも狭い部屋で、かつては台所か食堂だったのか朽ち果てた食器やテーブルの残骸があった。
さらに奥へと続く通路があったが、今回の山崩れが原因かわからないが土砂で埋もれていた。
今度は広間左側の通路を進んでいくと、右側の食堂と思われた部屋よりも狭い小部屋に到着する。
そこは部屋の中央に両手足を拘束された骸骨が寝かされている金属製のベッド、壁には用途不明の錆びだらけの道具に鎖、そして鎖に繋がれて朽ち果てた骸骨が多数いた。
「何この部屋……凄く錆び臭い……」
「おそらく拷問部屋でしょう。どうやらこの神殿はあまりよくない神が祭られていたようですねえ」
僕は部屋に充満する匂いに思わず鼻をつまみ、シュヴァルツは壁にかけられている道具を見てこの部屋の用途を推測する。
「カエレ……クルナ……」
「っ!?」
部屋の様子を伺っていると、どこからともなくかすれた声が聞こえてくる。
また敵襲かと構えると、拘束された骸骨たちがガタガタと揺れて帰れ、来るなと繰り返す。
「どうやら拷問で死んだ犠牲者たちのようですね。原因はわかりませんが、死してなおここに捕らわれヘレネの抱擁に迎えられていないようです。捕らえられても犠牲者を増やさないように訴えかけるとは……」
「シュヴァルツ、何とか解放する方法はないの」
「コノシンデンノジャアクナルシンカン……フザートノノロイガ……ワレラヲクルシメル」
「フザートヲタオセ」
「フザートヲコロセ」
「コレイジョウギセイシャヲダスナ」
シュヴァルツが譫言の様に帰れと訴えてくる骸骨を見て悲しそうな声を漏らす。
僕がシュヴァルツに捕らわれた魂を解放する方法がないかと聞けば骸骨たちがフザートというこの神殿の邪神官フザートの呪いが原因だと訴えてくる。
「フザートという邪神官を倒せばいいみたいだね」
「そのようですね」
「僕達が何とかします! もうしばらく辛抱してください! シュヴァルツ先を急ごう!」
「はいっ、マスター!!」
「アリガトウ、ユウキアルモノ」
「ヤサシキモノニシュクフクヲ」
魂たちの訴えを聞いてフザートを倒すと僕は宣言すると、捕らわれた魂たちは次々と礼を述べる。
この魂を解放するためにも僕とシュヴァルツは神殿の奥を目指した。




