第三話 ようこそセブンブリッジへ
「ふあああ……おはよう、シュヴァルツ」
「おはようございます、マスター」
目を覚ましてテントから出ると、テントの入り口に直立不動で見張っていたシュヴァルツに声をかける。
「本当に夜通し見張りしていたの?」
「はい、幸いオークの再襲撃もなく、異常ありませんでした」
「シュヴァルツ、疲れない?」
「私はマスターから魔力供給される限り、疲労も睡眠も空腹も感じることもございません」
「魔力供給っていうけど、僕全然自覚ないよ。本当に供給している?」
「はい、マスターは私が魔力をいただいても気にならないほどの膨大な魔力量の持ち主です」
シュヴァルツは魔力を供給してもらっているというが、吸われている感覚も何もない。気を使っているのかなと思って質問すると、僕の魔力が膨大だから気づかないとシュヴァルツに言われる。
「膨大と言ってもよくわからないなあ……ねえシュヴァルツ、一般的な魔法使いと比べたら僕の魔力はどれくらいなの?」
「マスターの魔力量は一般的な魔法使い約一万人分です」
「ぶっ!?」
一般的な魔法使いと比べてどれくらいかシュヴァルツに聞いたら、まさかの一万人分の魔力を持つと言われて思わず吹き出す。
「いっ、一万人っ!? そんなにあるのっ!?」
「はい、マスターが引き継がれた英雄の力はこの世界で魔法使い約一万人分です。また回復量も同じぐらいなので私が魔力を頂いても即回復しています」
「スケールがでかすぎて全然自覚できないな……」
前世でプレイしていたゲームキャラはこの世界基準だととんでもない力を持っていることになっているようだ。
シュヴァルツの認識では、僕が引き継いだゲームキャラ能力は偉大な英雄の魂とか何かだと認識しているようだった。
自分の魔力がそんなにあるとは思わず、驚きながら朝食を済ますとセブンブリッジに向かって出発する。
「セブンブリッジまではこの川沿いに下っていきます」
川沿いに沿って南に下っていくと徐々に川幅が広くなっていき、時折魚が跳ねたり対岸で水を飲む野生動物を目撃する。
「道だ!」
「王の街道と呼ばれる交易路です。海を渡ってセブンブリッジに運ばれてきた交易品などはこの陸路を利用して各地へと運ばれていきます」
何度か休憩をはさんで森を抜けて平原に出ると石畳で舗装された街道が見つかる。
ある程度人の往来があるのか道幅も広く二車線道路の様に上り下りに分かれて馬車や人が通っていく。
街道を歩く人種も様々だ。全体的に白人系が多いが、中東や黒人系、エルフやドワーフと思われる耳の長い人に背の低いひげもじゃの老人。
二足歩行の服を着た動物のような獣人にリザードマンのような蜥蜴人間もいた。
街道脇には農場や牧場が広がっており、畑仕事している農夫もちらほらいた。
人々の服装を見ていると、海外ドラマで見た農村部の人々の服装で、牛に犂をつけて畑を整えたり、フォークで枯草を積み上げたりしていた。
自衛も兼ねているのか、大抵の旅人は腰にダガーやショートソードを帯剣しており、キャラバンの護衛と思われる人たちは革鎧に槍を持って周囲を警戒している。
「時折馬に乗った武装集団がこちらを見てくるね」
「あれは街道警備隊です。交易路ですから巡回に力を入れているのでしょう」
ブレストアーマーという袖のない胴体だけの金属鎧に、槍やクロスボウを持った四人組が馬上からこちらをいぶかしむように見つめながら通り過ぎていく。
シュヴァルツによるとこちらを見ていたのは街道警備隊だという。
そんな話をしていると昼過ぎ辺りに目的のセブンブリッジの城壁が見えてくる。
「城壁前にも町があるね」
「あれは門前町と言って、街に入るための正門周囲にできた町です。街に入る旅人たちを相手にした商売から店ができ、住民税を払えなかったり、城壁内の市民権を求める自由民が周囲に家を建てて生まれた場所と言われています」
城門に近づいていくと街道脇には宿屋や馬車や馬具の修理を請け負う鍛冶屋が立ち並ぶ。
また手続き待ちの旅人たちを目的にした屋台や曲芸師が芸を披露する広場が設けられており、吟遊詩人の演奏や屋台から料理の匂いが漂う。
「あの革を売っているのは?」
「ああ、都市に入る際武器を鞘に入れるのが決まりなのですが、鞘がないむき出しの武器を持ち歩く冒険者や傭兵の場合、あのような革屋で鞘を仕立てて封印してから門に並ぶのです」
斧と動物の皮の焼き絵の看板を指さしシュヴァルツにどんな店か質問すると、シュヴァルツは革細工の店で鞘がない武器の封印を請け負ってるのだと説明してくれる。
門前町を通り抜けてセブンブリッジの正門へと向かう。セブンブリッジの街を囲う城壁は歴史を感じる石造りで蔦や苔などが生えている場所も所々見受けられる。
胸壁の上部には見張りが立っており、クロスボウやマスケット銃と思われるライフルを持ち歩いて巡回していた。
「この世界には銃もあるの?」
「はい。ですが所持制限があって貴族やああいった警備兵しか所持できません」
そんな話をしながら僕たちは複数ある行列の一つに並ぶ。
「あれ? あっちの人たちは別の門から入っていくね」
「私たちが並んでいるのは旅人用です。あちらは市民や商人、身分証が発行された一時滞在者専門です。もう一つ向こうの豪華な作りなのは貴族用ですね。貴族や急使、伝令が通る門です」
自分たちが並んでいる列とは別にサクサクと進んでいく列を見てシュヴァルツに声をかけると、市民用の入場口だと教えられる。
市民用の入場口から出入りする人は身分証と思われる木札を見せるだけでスムーズに入っていき、貴族用の門と言われた場所では豪華な作りの馬車が止められることもなく都市内部へと入っていく。
旅人用の門で順番を待っていると駅弁売りスタイルの人々が食べ物や飲み物を売りに来る。
飲み物は主に果実を搾った飲料で、甘みのある奴ほど値段が高い。料理は全体的に持って食べれるものでパンやドライフルーツが多かった。
「あ! そういえば、僕たちはお金持ってるの?」
「マスターが受け継いだ英雄の遺産のお金を、神様がこちらのお金に両替しています」
行列に並ぶ旅人の一人が焼き菓子売りから菓子を買ってるのを見て、自分たちがお金を持っているのかどうかシュヴァルツに聞くと、シュヴァルツはゲームプレイキャラから引き継いだお金がこちらのお金に換金されていると伝えてくれる。
「シュヴァルツ、この世界のお金の単位って?」
「五種類ありますが、銅貨のニブ、銀貨のシャード、金貨のドラゴン。この三種が一般的に流通している通貨です」
「残り二つの通貨はどんなの?」
「白金のムーンと琥珀金のサンですね。両方商業や国家間の取引などで使用される通貨単位です。我々が持っていると逆に怪しまれますね」
シュヴァルツにこの世界の通貨単位を聞くと、金銀銅といった貴金属で通貨が製造されて流通されていることがわかる。そんな話をしていると、あと数組で自分たちの番になる距離まで門に近づいた。
「シュヴァルツ、あの人達は?」
「あれはセブンブリッジの市民ですね。セブンブリッジでは市民に限り両手で抱えて運べる品物には課税しないという決まりがあって、ああやって運び屋をやって日銭を稼いでる市民もいます」
門が近くなると荷物を持ちますと叫んでいる人たちがおり、シュヴァルツに何をしているか質問する。
セブンブリッジには手荷物には税をかけないという決まりがあるらしく、商人や引っ越ししてきた人などが運び屋の市民と交渉して荷物を持ってもらったりしている。
門は白亜で覆われた城門で、左右の胸壁には白銀製の竜の頭骨像が掲げられて見る者を圧倒させる。
門は跳ね橋になっており、有事の際には引き上げられて通行不能になるだろう。
門の詰め所には分隊規模の衛兵が詰めており、徴税官とその助手を連れて出入りの手続きをしている。
「領民でない者は通行税として一人シャード銀貨一枚、マジックアイテムを所持しているなら自ら申告せよ!」
僕たちの順番になると衛兵が割れた銅鑼のような大声で声をかけてくる。
指輪から取りだしたシャード銀貨を取り出す。
シャード銀貨は逆三角形の盾のような形で表に天秤、裏に剣に巻き付く蛇の彫刻がされている。
「あの~、マジックアイテムも自己申告だと黙っている人が多いのでは?」
「基本は黙っていますが、富貴を誇りたい商人や貴族は周囲に聞こえるように申告して税を支払ったりします」
徴税官に税を払うときにマジックアイテムの話をすると、徴税官は苦笑しながら小声で裕福であることを自慢したい人以外は黙っていると伝える。
「刃物は全て鞘に納めること、杖以外の武器はすぐに使えない状態にすること、弓などは弦を取り外すこと! 正当な理由なく抜刀等封印を破いた場合罰金としてドラゴン金貨十枚か一か月の強制労働刑に課せられるからな!」
徴税官に付き添う衛兵が目視で武器が収められているか確認しながら口頭で注意する。
「シュヴァルツ、罰金がドラゴン金貨十枚って高いの?」
「この規模の都市で暮らす一般市民家庭の一月分の生活費が約ドラゴン金貨五枚前後です」
罰金の額を聞いてどれくらい厳しいのかシュヴァルツに聞くと、シュヴァルツは一般市民の一月の生活費を例題を出す。
「ようこそセブンブリッジへ」
シュヴァルツとそんな話をしていると、セブンブリッジに入るためのすべての手続きを終えたのか、衛兵から声をかけられ、セブンブリッジの都市部へと僕たちは足を踏み入れた。
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