第二十九話 戦士の塔
考古学者レイル・モーディンと戦士の塔という遺跡探索の依頼を受けた僕達はセブンブリッジの東門で依頼人を待っていた。
しばらくすると、ブロロロとエンジン音が聞こえてきて、フォードTモデルのような四輪自動車がやってくる。
「待たせたかね? さ、二人とも乗り給え」
運転席にはキルスがいて、一段高くなっている後部座席に乗馬服姿のレイルが座っていて、悪戯が成功したような笑みで乗車するように言ってくる。
「あの……これって……」
「ん~? 知りたいかい? 知りたいよよねえ? んふっふっふ、これはフェイスレス錬金術工房が発明した操縦者の魔力で動く魔動車という、馬のいらない馬車だ」
僕が自動車を指さすと、レイルは鼻を高くして他の見物客にも聞こえるように朗々と魔力で動く自動車だと説明する。
「ルーシェス、現場まではこれに乗っていくぞ」
「ええっと乗るのはいいんですけど荷物は?」
レイルはまるで子供がお気に入りの玩具を自慢する様に魔動車のふちを叩き、乗車する様に催促してくる。
僕はその前に長期の遺跡探索に行くのに身軽な格好のレイルを指さし荷物はどこなのか聞く。
「荷物ならここに全部入っているぞ」
「あ、マジックバック?」
「その通り、全部ここに入っているから安心したまえ」
レイルは荷物を指摘されると、またふふんと笑ってリュックサックを指さす。最初は意味が分からなかったが、マジックバックの存在を思い出して口にすれば、レイルは気分良く頷く。
「さあ、準備は万端だ。出発するぞ、キルス」
「はい、お嬢様」
入場待ちの人々の羨望や奇異の視線を浴びならが魔動車が走り出す。
速度は二頭馬車と同じぐらいで、サスペンションも効いているのか揺れも少なく快適だった。
街道を走る魔動車、対向車線の馬車を操る御者が唖然とした顔で見送ったり、馬車の主が詳細を聞こうとUターンしろと怒鳴ったりしているのを横目に進んでいく。
「キルス、ここからは私が運転を変わろう」
「よろしくお願いします」
セブンブリッジを出発して二時間ほどで、今度はレイルが運転を変わる。
キルスは汗だくで交代する様に後部座席に座ると革袋の水をごくごくと喉を鳴らして飲む。
「お見苦しい姿を見せて申し訳ありません。魔動車は結構魔力を消費するもので……」
キルスは僕の視線に気づくと申し訳なさそうに謝罪して休憩を取り始める。
2時間で運転手交代なんて燃費が悪いなと思ったが、この世界では産声を上げたばかりの魔力で動く自動車に日本のエコカーを基準にするのは良くないかと思った。
レイルと運転を変わると魔動車は街道を離れて山を登り始める。
「戦士の塔は山の上に?」
「うむ、死者が見下ろすように見守ってくれるようにという概念があったらしい」
山を登り始めたのを見て、僕が質問すると待ってましたとばかりにレイルはバグベアード帝国の社会などを語り始める。
レイルの話を聞いていると、バグベアードは遊牧民族系でチンギスハーンみたいなカリスマが生まれて周辺氏族をまとめ上げて帝国設立、拡張政策していって人間の勢力とぶつかり戦争、最後は滅亡した感じだった。
「天気が悪くなってきましたね。雨が降る前に何処か野営できる場所が見つかると良いですね」
レイルの話を聞きながら山道を走っていると、天気が曇り空になっていきシュヴァルツが雨が降る前に野営地を見つけたいと述べる。
山の天気は変わりやすいのはこの世界でも一緒なのか、みるみる曇り空は広がり、ぽつぽつと雨が降り始める。
「お嬢様雨具を」
「そうだな」
一旦車を止めてレイルはマジックバックから革製のポンチョを取り出す。ポンチョの表面には蠟が塗られており防水加工されている。
それを僕達は羽織り雨風をしのぐが、一気に天気は崩れてバケツをひっくり返したという言葉が似合う大雨になった。
サンルーフすらない魔動車のシートはグショグショで、雨具も水が侵食してぐっしょり濡れて重く不快でしかない。
「お嬢様あそこに洞穴が!」
後部座席で休んでいたキルスが起き上がると前方を指さす先には、岩山にぽっかりと空いた洞穴があり、洞穴の大きさからして無理すれば魔動車も乗り入れる事が出来そうだ。
「なんだこの洞穴は? 人の手が入った痕跡があるぞ?」
洞穴に近づくと荷物の搬入がしやすいように入り口がスロープになっており、魔動車を運転していたレイルが違和感を口にする。
「万物の根源たるマナよ 踊る光となりて 我らの道を照らせ 踊る光球!」
洞穴内は暗いので明かりの魔法を唱えて洞窟内を照らす。
「ここは……」
十二個の光球に照らされた洞窟内は自然洞窟ではなく、人の手が入った人工の洞窟だった。洞窟内にはアーチや柱、人間とは違う二足歩行生物の像が祭られている。
「ここは……戦士の塔?」
レイルは濡れたままマジックバッグの中に手を突っ込むと、一冊の本を取り出しページをめくる。
後ろからのぞき込むと挿絵が描かれたページで、目の前の二足歩行生物の像と挿絵の像が一致していた。
「やったぞルーシェス! ここだ! ここがバグベアード達の戦士が眠る戦士の塔だ!」
「うひゃあっ!? 抱き着かないでくださいっ! 濡れた服が冷たいっ!!」
レイルは興奮冷めぬ様子で僕を抱き上げると何度も頬にキスをしてくる。
本来ならうれしいシチュエーションだが、びしょ濡れ状態ともあって気持ち悪さと冷たさが勝る。
「お嬢様、濡れたままでは調査もままなりませぬ。ここは服を乾かしましょう」
キルスが慣れた手つきで洞窟内に焚火を作り火をつけ、着替える場所としてロープを張って布製のカーテンで簡易の更衣室を作る
「ふむ……我々は着替えを持ってきたが、お前たちの分……もう着替えたのか?」
「あ、僕もマジックバッグと同じアイテム持ってるから」
最初にレイルが着替え、更衣室から出てくるころには僕は指輪の中に収納した服に着替え、シュヴァルツはいつの間にか鎧が乾いていた。
「ふむ……ここはエントランスのようだな。見ろ、石の扉にも彫刻がなされてるぞ!」
着替え終わったレイルはさっそく調査を開始し、壁や部屋の左右と入口の対面に設けられていた石扉を調査する。
壁には何らかの塗料で描かれた絵があるが経年劣化で壁が崩れていたり削られていたりして何のかはわからない。
「お嬢様調査の前に腹ごしらえしましょう。まずはスープで体を温めませんと風邪をひきますぞ」
キルスはマジックバッグからダッジオーブンなど調理器具を取り出し調理を始める。レイルは最初は周囲を探索していたが、料理の匂いと空腹に負けて食事に入る。
「雨が酷くなってきましたね」
「まったくだ。可能ならば周辺も確認したいぐらいだ―――キャアアア!!」
雨はさらに激しくなり降り注ぐ音が轟音になる。ついには近くに落雷が落ちたのか稲光と轟音にレイルが悲鳴を上げて僕に抱き着く。
同時に三枚の石の扉も経年劣化から脆くなっていたのか、落雷の振動でガタガタ揺れたかと思うと留め金部分が馬鹿になったのか、石の扉が崩れ落ちて、バタンと倒れる。
扉が倒れたかと思うと、キィキィいう声がそこらじゅうでしたかとおもうと、一番大きな入口から大量のネズミがエントランスホールに一斉になだれ込んできた。
「うわっ!?」
「いやああああああ!!」
ネズミたちは落雷と扉が倒れた音でパニックになっているのか、エントランスホール中を縦横無尽に走り回り、ダッジオーブンを倒したり、中には焚火に突っ込んで火達磨になるネズミもいた。
僕達にもお構いなしに突っ込んできて噛みつこうとして、シュヴァルツが手で追い払う。
レイルは落雷となだれ込んできたネズミの大群にパニックを起こし、僕にしがみ付いたまま耳元で悲鳴を上げる。
キルスはダガーを抜くと襲い掛かってくるネズミを斬るが、多勢に無勢という状況だ。
「みんな僕の周りに集まってっ! 万物の根源たるマナよ 岩をも砕く音となりて広がれ 音砕き!」
シュヴァルツとキルスが僕の周囲に集まったのを確認すると呪文を唱えて杖の先端で大地を叩く。
すると叩いた場所を中心に外に拡散していくように衝撃波が走り、ネズミたちとダッジオーブンや焚火が放射線状に吹き飛んでいく。
魔法の衝撃波によって吹き飛ばされたネズミたちは壁に激突して絶命していく。
「ふう……もうネズミはいませんよ」
「本当? 怖かったぁ~」
暴れまわるネズミがいなくなったことを確認すると、安全になったことをレイルに伝える。
レイルは眼鏡越しに涙目になりながら恐る恐る周囲を見て安全を確認するとその場にへたり込む。
「まさかネズミが飛び出してくるとは思いませんでしたね。あーあ、料理が台無し」
ネズミが暴れまわったのと僕の魔法でスープなどが入った鍋は吹き飛び、中身がこぼれて散乱していた。
とりあえずネズミの死骸や焚火や料理の残骸をかたずけてから遺跡調査に戻ることにした。
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