第二十六話 画家失踪事件
「本当に酷い目にあった……」
「あははは……お疲れ様ワンニャン。依頼人からは今回の仕事は大満足で、次回も是非よろしくと連絡が来ていますワンニャン」
「やめて、ほんっとやめて……」
冒険者ギルドの受付嬢ベスティアからのお願いで、舞台脚本家シェイクスの依頼を受けた僕は依頼から解放された翌日、ベスティアに依頼完了報告をする。
ベスティアは上機嫌で依頼完了受理を行い、次回も指名されていますと伝えてきて僕は首を横に振ってうんざりする。
「あ、そうそう! ルーシェス様に指名依頼が入っていますワンニャン!」
「シェイクスさんだったら断りますよ」
依頼完了手続きを終えて報酬とプレートを受け取ると、ベスティアは思い出したように手をパンと叩いて指名依頼が入っている旨を伝えてくるので、僕は一歩下がってシェイクスからの依頼なら嫌だと伝える。
「そっちじゃなくて、以前受託した新聞記者さんですワンニャン。また取材の護衛をしてほしいとの事ですワンニャン」
「アリッサさんか……じゃあ、引き受けます」
「依頼人さんからこの時間帯なら新聞社にいるので会いに来てほしいとの事ですワンニャン」
依頼人がブラックホースジャーナルの新聞記者アリッサさんとわかってほっとすると、僕は依頼を引き受けることにする。
僕達は辻馬車に乗ってブラックホースジャーナルという新聞社へと向かう。
ブラックホースジャーナルは西町にある新聞社で、元はどこかの商会が使っていた店舗を再利用した社屋だ。
この時代はセキュリティとかの意識が薄いのかアポもなしに普通に入れて、会社入り口にいた社員に用件を伝えると、部署を伝えられて勝手に行ってくれと言われる。
アリッサが在籍している部署に向かうと、僕からしたらアンティークなタイプライターで新聞記事を打ち込んでいる新聞記者たちがいる。
記事を書き上げると印刷所に持っていくのか凄いバタバタしている。
「ああ、ルーシェス! ここに来たってことは依頼受けてくれるの?」
そんな部署をうろうろしていると、アリッサが僕を見つけて応接室に案内してくれる。
「取材の護衛って聞いたけど、また幽霊騒動?」
「ううん、今回は有名画家の失踪事件の調査よ」
応接室で紅茶を飲みながら、アリッサは今回取材する事件の内容を教えてくれる。
東町に有名な画家が住んでおり、その画家がアトリエで失踪したという。
「画家の名前はリチャード、風景画で有名な人でね。まるで本物の風景をキャンパスに閉じ込めたって言われてるの。リチャードは絵をかくときは窓もないアトリエで内側から鍵をかけるの。丸一日たっても出てこないことを不審に思った奥さんが合鍵でアトリエのドアを開けたらいなかったってわけ」
アリッサは事件の概要を書き込んだメモを取り出して事件当日の流れを説明し始める。
「衛兵とか治安当局が捜査してるんじゃ?」
「一応動いてはいるけど進展はなし。身代金の要求とかないから失踪という形で捜査しているらしいわよ」
アリッサは都市の治安維持を担う衛兵の伝手から捜査内容を聞き出しており、進展はないと教えてくれる。
「でも、僕達が調べに行って奥さんは受け入れてくれますか?」
「そこは君が来てくれることで話がついてるのよ」
「僕が? なんで?」
事件の内容はわかったが、衛兵でも何でもない僕達が事件を調べて大丈夫なのかと聞くと、アリッサは僕を指さして話がついてるという。
「魔法使いとしての視点から事件を調べると言ったら夫人は快く承諾してくれたわ」
「僕が依頼引き受けなかったらどうする気だったんですか?」
「その時はそのときよ! 今からいけるなら画家の家に行くわよ」
アリッサに引っ張られるように僕達は画家が失踪した家に向かう。
画家の家は東町にある一角で、庭がとても広かった。
「貴方が魔法使いさん? その……随分お若いんですねえ……あ、もしかしてリピリーかしら?」
画家の家で応対してくれた夫人はやつれていたが、僕の姿を見て怪訝な表情を浮かべる。
「いえ、人間です。お話は聞いています、現場は見せてもらえるのでしょうか?」
「え? ええ、夫のアトリエはこちらです」
夫人に庭の一角に案内され、離れという家屋の前まで来る。
アトリエに入る前にぐるりと一周するが入り口は正面に一つしかなく、窓もない。
「窓もないんですか?」
「ええ、夫は作業を見られるのが嫌だったらしくて。作業中は私ですら立ち入りを禁止していたぐらいなんです」
窓もないことを聞くと夫人は夫の画家は作業を見られるのが嫌だったと答える。
「外で絵を描くことは?」
「……私が覚えてる限りではありません。モデルになる場所を見に行ったら、アトリエに閉じこもって書き上げていました」
風景画家なのにモデルを見ずにかける人なのかな?
「入り口はここだけですか? 鍵は? こじ開けられた形跡とかは?」
「ええ、このアトリエの入り口はここだけで、鍵は夫のマスターキーと私のスペアキーのみです。鍵に関しては衛兵たちが調べた限りではこじ開けられた様子はなかったそうです」
僕は正面玄関のドアを見て夫人に質問する。夫人が答えている後ろでアリッサは僕達のやり取りをメモして、アトリエの外観写真を撮ったりする。
「ええっと、当日失踪する前のリチャードさんの行動とか覚えていますか?」
「夫はいつも通り朝起きて朝食をとると、いつものようにアトリエに籠りました」
「何か思い詰めていたとか、焦っていたとかなかったですか?」
「……特になかったと思います。私から見て夫はいつも通りでした」
夫人に画家のリチャードが失踪するまでの行動を聞く。
僕は画家にいつもと違う変化がなかったか聞くが、夫人は必死に思い出しながらいつも通りだったと答える。
「異変に気付いたのは?」
「翌日になっても夫がアトリエから出なかったからです。夫は作業に没頭して食事を抜くことはあっても、睡眠に戻らず丸一日アトリエに籠って出てこないことなんて、今までなくて……」
夫人は不安そうにアトリエをしばし見つめて、当時の行動を再現する様に扉の前まで歩く。
「ここから夫に向かって声をかけても反応がなくて。鍵もかかっていたのでスペアキーで開けて中を見たら誰もいなかったんです」
「中には入れますか?」
「ええ、もちろんですよ」
夫人は鍵を取り出し正面入り口のカギを開ける。
中は六畳ぐらいのワンルームで、部屋のど真ん中にはどこかの森の風景が描きかけのキャンパスがイーゼルに立てかけられており、その手前には椅子がある。
他にも描きかけの絵や無地のキャンパス、絵の具を調合するための台などがあるだけで、争った形跡も何もない。
「うーん……争った形跡とかないですね。何か盗られた物とかありましたか?」
「すみません……アトリエは夫に全て任せていたので、中に何があって何がないのかは……」
夫人に何か盗まれたものはないかと聞くが、夫人は夫に管理を任せていたと言って何もわからないらしい。ほとんど神隠しとしか言えない状況だ。
「うーん……魔法使ってもいいですか?」
「魔法……ですか?」
手がかりらしい手掛かりがなく手詰まり状態なので、まずは探知系の魔法でこの部屋を調べてみようと思い、夫人に許可を求める。
「もしかしたらリチャードさんは魔法とかでどこかに転移されたか、何らかの方法でアトリエから連れ去られたかもしれません」
「……ここにあるものに害はないですか?」
「もちろんです。魔法を使われた痕跡を探る魔法なので、特に害はないですよ」
「でしたら、お願いします。何か手掛かりを見つけてください! 魔法を使うのに何か必要ならこちらで用意します!!」
夫人は僕が使う探知魔法でアトリエ内に何か悪影響があるのではと不安になるが、問題がないと伝えると藁にもすがるように許可をくれる。
「別に何も必要なものはありませんよ。では、万物の根源たるマナよ その力の残響を我に知らせよ 魔法探知!」
魔法探知を使ってアトリエ内を確認すると、イーゼルに立てかけられている描きかけ風景画から強い転移魔法の力を感じた。
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