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一時転生先で冒険者スローライフ  作者: パクリ田盗作
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第二十五話 舞台脚本家の依頼

「マスター、あの時の記事が掲載されていますよ」


 新部記者のアリッサの依頼を終えて数日後、宿で休んでいるとシュヴァルツがいくつかの新聞を購入して持ってくる。


「えーっとどれどれ?」


 ブラックホースジャーナルの新聞記者アリッサからの依頼で座礁した船に捕らわれた幽霊を開放した事件の記事が最新号のブラックホースジャーナルに掲載されていた。

 アリッサの記事は一面トップではないが二面ぐらいの扱いで、幽霊や僕達の写真と共に事件の発端や結末が事細かに掲載されている。


「いや~、こんな風に新聞に掲載されるのって変な気分だねえ」


 そんなこと言いながらも僕はニマニマ笑いながら自分の事が書かれている記事を何度も読みなおし夜を過ごす。


「ルーシェスさん、よろしかったらこの依頼受けてくれませんかワンニャン?」


 翌日冒険者ギルドに顔を出すと、受付嬢のベスティアから一つの依頼書を渡される。


「ブロンズランクで五回以上仕事を行った人限定で、仕事の話を聞かせてほしい? 何これ? 道楽者のダーヴィスさんみたいな人、他にもいるの?」


 ベスティアから渡された依頼内容を読んで首をひねる。


「依頼人さんは舞台脚本家のシェイクスさんという人で、新作のアイデアに冒険者たちの冒険譚などを聞いたりするんですワンニャン……ギルドマスターが依頼人さんのファンで、優先的に解決するように言われてるんですワンニャン」


 ベスティアは困ったような顔で狐耳を垂れさせて冒険者ギルド側の内情を漏らす。


「まあ、話するだけでいいなら受けますけど」

「ありがとうワンニャン! すぐに処理するワンニャン!!」


 僕が依頼を引き受けるというと、ベスティアは光の速さでなんて言葉が似合いそうな速度で依頼を受理処理する。

 気合の入り方からだいぶせっつかれていたのかな?


「東町のここに依頼人がいるからお願いするワンニャン!」


 ベスティアは軽く息を切らして処理を終えると木札を渡してくる。

 僕とシュヴァルツは辻馬車に乗って依頼人の舞台脚本家さんの家に向かった。


 依頼人が住んでいるのは東町の高級住宅街。ジョージアンという赤煉瓦の五階建ての家で、アパートの様に部屋を貸していてその一室を借りているらしい。


 家主さんに案内されて脚本家のシェイクスさんがいる部屋へと向かう。


「シェイクスさん、冒険者ギルドから依頼を受けた冒険者さんが来てますよ」


 家主がノックして要件を言うと、イライラしてかきむしったのかぼさぼさの頭、眼鏡の上からでもわかる寝不足で充血した目と隈の不健康そうな顔のエルフの男性が出てきた。


「……大家さん、人数分紅茶用意してくれますか?」

「はいはい」

「あ、すみません。宗教上の理由で人前で兜脱げないので私の分はお構いなく」


 シェイクスは僕達を一瞥すると大家に紅茶を頼み、部屋に入れと首でジェスチャーして部屋に戻る。

 シュヴァルツは立ち去る大家に一声かけると、シェイクスの部屋に入る。


「うわぁ……」


 シェイクスの部屋は一言で言うと汚部屋だった。執筆の資料と思われる本が積み上げられ、書くだけ書いて気に入らなくてくしゃくしゃにされた紙屑が部屋に散乱している。


「よし、話せ」

「え? もうですか?」

「お前たちは依頼を受けたんだろう? いいからさっさとしろ!!」


 シェイクスはソファーの上に散乱する洗濯物を蹴ってスペースを作ると、ドカッと座っていきなり本題に入る。

 いきなりだったので戸惑うと、シェイクスはイライラしたように怒鳴る。どうやら少し気難しい人のようだ。


「ええっとそれじゃあ、牧場からの依頼で……」


 まずはこの世界に来て初めて受けた依頼の話をする。

 シェイクスは紙とインクを用意して、あれこれ質問してくる。


「うーん……駄目だ駄目だ! 牧場の下にモンスターが潜んでたぐらいじゃインパクトがないっ! 次っ!!」


 どうやらお気に召さなかったのか、シェイクスはペンを乱暴に置いてメモを破り捨てる。


「二つ目は幽霊の目撃があった屋敷からの依頼で……」

「……最近過ぎるし、貴族がかかわると色々うるさいからな、別のにしてくれ」


 幽霊屋敷の話は肖像権というか名誉棄損とかに抵触するのか駄目になる。


「じゃあ廃坑に潜むゴブリ―――」

「ゴブリンなんてありきたりすぎる! もっと派手なのはないのかっ! どいつもこいつも冒険者の癖にありきたりなものしか言わんっ!!」


 モヒーカーンさん達と一緒に受けたゴブリン退治の話は、ゴブリンという単語を出した時点でシェイクスがテーブルを叩き、髪を掻きむしりながら喚き散らす。


(多分今までもこの人の依頼受けて、こんなこと言われて帰ったかトラブルになった人がいるんだろうなあ)


 ベスティアさんがこの依頼を勧めてきて、あんなに早く処理していた理由の一端がわかった。


「シェイクスさん、お茶を用意しましたよ。少しお茶を飲んで落ち着かれては?」

「む……失礼した」


 タイミングを見計らったように大家さんがやってきて紅茶を置いていく。

 シェイクスは用意された紅茶にこれでもかと砂糖と蜂蜜を入れて飲む。

 将来糖尿病確定だなぁと思いながらもそれは口に出さす僕も紅茶を飲む。


「随分と荒れているようですけど、何か理由でも?」

「む? うむ……もうしばらくしたら歌劇祭りという催し物があってな。それに合わせて新作を書かないと稽古が間に合わないのだが……」


 蜂蜜と砂糖たっぷりの紅茶を飲んで幾分か落ち着いたシェイクスは、不機嫌だった理由を教えてくれる。

 シェイクスが言う歌劇祭りというのは映画のアカデミー賞みたいなものらしく、それの優秀賞を狙って新作を書き上げようとしているがうまくいっていないようだった。


「僕まだ五回ほどしか仕事受けてなくて、残り二つはこんな感じなんですけど……」


 シェイクスが落ち着いたのを見計らってまずは道楽者ダーヴィスから受けた宝探しの話をする。


「くううう~っ! 凄くいい題材なのに、演目にするにはダーヴィスの許可がいるなっ! なんで個人で宝探しに行かないんだっ!」

「なんでって……あははは……」


 版権みたいな概念があるのか、シェイクスは悔しそうにダーヴィスの宝探しの話は断念し、しまいには個人で宝探しに行けよと睨みながら無茶を言ってくる。


「じゃあ次の話も無理かな? ブラックホースジャーナルの新聞記者から受けた依頼なんですけど」

「その時点で駄目だな」


 最後に最近受けた話をしようとすると、新聞社の名前を出した時点でシェイクスからダメ出しが入る。


「あのー、別に冒険譚じゃないと駄目ってわけじゃないですよね?」

「ん? どういうことだ?」


 徐々に不機嫌になっていくシェイクスに僕が質問すると、シェイクスは方眉を上げて聞き返してくる。


「僕の故郷のお話とかどうです?」

「ん? 故郷? ナブー出身じゃないのか?」

「僕はもっと北の方出身ですよ」

「……ま、聞くだけ聞こう」


 故郷と称して日本での話をしてみることを提案すると、シェイクスは食いつく。


「例えばですね……」

「それだっ! そういうのを私は求めてたんだっ!!」


 僕は日本で見た歌舞伎の演目などを話していく。

 さすがに勧進帳や舞踊演目、連獅子などはこの世界では理解されなかったが、シェイクスが特に興味をひかれたのが白波五人衆という悪党物と赤穂浪士などの仇討ち物だった。


「インスピレーションが湧いてきたぞっ! 君っ! まだ帰るんじゃないぞっ!!」


 シェイクスは日本の歌舞伎演目を聞いてインスピレーションが湧いたのか、血走った眼で紙に文字を書きなぐっていく。


「始まりはこうで……この流れでどうだ?」

「ええっと、そこはこうしたほうが」

「その案いいな! ぜひ使わせてくれ!!」


 火が付いたシェイクスはそのまま脚本作成に入り、なし崩しに僕も監修っぽい作業をさせられる。


「ええいっ! 腹が減って集中できん! そこの鎧っ! 適当に食いもん買って来い!!」

「わかりました。では何か適当に摘まめるもの買ってきますね」

「あ、僕も……」

「待ちたまえっ! 君はこっちの依頼が終わってないだろっ!!」


 シェイクスは空腹を思い出したのかシュヴァルツに小銭を投げわたすと食べ物を買ってくるように命令する。

 シュヴァルツの買い出しに紛れて脱出を試みるが、シェイクスに肩を掴まれ狂気じみた顔で脚本執筆の手伝いを強要される。


(冒険譚話すのが依頼だったよね?)


 そう思いながらも口に出す勇気のない僕はなし崩しにシェイクスの執筆を手伝う。


「できたぞおおおお!!」


 脚本の原案が出来たのは夜が明けたころだった。

 結局僕達は徹夜でシェイクスの執筆を手伝わされ、解放されたのは翌朝だった。


 最後までお読みいただきありがとうございます。

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[一言] 面白かったです、はやく続きが読みたいです。
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