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一時転生先で冒険者スローライフ  作者: パクリ田盗作
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第二十四話 幽霊のメッセージ


「ルーシェス、シュヴァルツ、そろそろ幽霊が出る時間よ」


 今回の依頼人でもあるブラックホースジャーナルの新聞記者アリッサが懐中時計で時間を確認して声をかけてくる。


「万物の根源たるマナよ 踊る光となりて 我らの道を照らせ 踊る光球(ダンシングライト)!」

「わお、これが魔法なんだ!」


 村長の家を出れば外は真っ暗で、僕が踊る光球で十二個の光の球を呼び出すと、アリッサがカメラで撮ろうとする。


 件の幽霊が出るのは漁村からもう少し上流へ上った川岸。

 星明りと川のせせらぎ、時折遠くから聞こえる夜行性動物の鳴き声以外に音はなく、道中も特に問題なく進んでいく。


「いたわ……あそこ」


 アリッサが指さす方向に半透明の男性が川岸にたたずんでおり、誰かに訴えかけるように対岸を指さしている。

 アリッサは足音を忍ばせてボックスタイプのカメラのファインダーを覗き込み、幽霊の姿を写真に撮ろうとする。


「写真……駄目、暗くて幽霊が写せない。ルーシェスもう少し近づけない?」

「大丈夫かな?」

「あの幽霊からは……悪意を感じませんね?」


 この世界のカメラじゃ夜の撮影は無理なのか、アリッサはそんなこと言いながら僕の服を掴んで幽霊に近づこうとする。

 近づいて大丈夫なのか不安に思っていると、幽霊の様子を見ていたシュヴァルツが幽霊に悪意がないという。


「ルーシェス、写真撮るからあの明かりを幽霊に近づけて」

「肖像権とか大丈夫かなぁ……」


 ある程度近づいても幽霊はこちらに反応することなく、対岸を指さし続けている。

 アリッサは幽霊をカメラに収めるのに夢中でファインダーを覗きながら幽霊に明かりを向けてという。


「よしっ! 決定的瞬間をゲ……」

「あっ……」


 光の球を幽霊に向けて明るさを調整すると、アリッサがシャッターを押し、幽霊をカメラに捕らえたと喜ぼうとした瞬間、幽霊がこちらに振り向く。

 幽霊の顔は朧気で輪郭から何となく男性っぽく見える。

 振り向いた幽霊は指だけは対岸を指したままで、こちらを見つめている。


「あ、あのう……」

「やっと……やっと……私の声を聴いてくれる人が来て来てくれました……ヘレネよ、私の願いを聞き入れてくれてありがとうございます」


 しばしお互い無言で見つめ合い、耐え切れなくなった僕が声をかけると幽霊は歓喜に震えているような声を漏らす。


「ヘレネ?」

「安らぎの貴婦人ヘレネは死者の魂をその胸に抱いて永遠の安らぎを与える死の神と言われています。ヘレネの抱擁を拒んだ魂は地獄に落ちたり、悪魔にとらわれたりとよくない事が起きると言われています」


 幽霊が呟いたヘレネという単語を呟くと、シュヴァルツが神様の名前だと答える。


「ねえ、貴方はなんでここにいるの?」

「私達はアンボニー号の船員です……私たちは獣の顎にいます……どうか私達を解放してください……お願いします」

「あっ! ちょ、ちょっと!!」


 アリッサが意を決して幽霊に話しかけると、幽霊はまた対岸を指さしながら、獣の顎にいて解放してほしいというと消える。

 アリッサが呼び止めるが幽霊は反応することなく消えて、静寂が戻る。


「えーっと、消えちゃいましたね。どうしましょう?」

「……いったん漁村に戻りましょう。土地勘ないし、こんな暗い中うろうろするのは得策じゃないわ」


 幽霊が消えた場所をしばし見つめていたが、いったん漁村に帰ることにした。


「幽霊を解放するんですか?」

「このままじゃ記事にならないし、なぜ幽霊が出るのか原因もわからないし、なにもかも中途半端でしょ! とにかくまずは漁村で獣の顎について知ってる人がいないか調査よ」

 

 アリッサはそう言って漁村へと帰り、翌朝獣の顎について聞きまわっていく。


「獣の顎についてわかったわ。テイラス河の支流にある難所の名称らしいわ」


 アリッサが漁村で聞き込み回った結果、獣の顎というのはテイラス河にいくつかある支流の一つで、地元の漁師でも近づかない難所だとか。

 なんでも無数の岩礁がまるで川底で獣が口を開けて獲物を待っているように見えることから、獣の顎という名前が付いたらしい。


「獣の顎には直接いけないけど、漁師さんが入り口付近まで連れて行ってくれるそうよ。ルーシェス、シュヴァルツ準備して」


 アリッサはカメラのフィルムを入れ替えると、出立する。

 僕達もアリッサを追いかけて村長宅を出て、近くまで案内してくれる漁師の船に向かう。


「獣の顎ってそんなに危険な場所なの?」

「んだ。岩礁もそだけども、時期によっちゃ獣の顎には濃い濃霧が発生してな、うっかり迷い込んで船を食われてしまうやつもいるんだ」


 手漕ぎの小舟に乗って僕達は獣の顎近くへと向かう。

 漁師に獣の顎の事を聞くと年間そこで海難事故が起きていることを教えてくれる。


「最近現れた幽霊も獣の顎に食われた漁師か船乗りかもしれねえなあ……ヘレネ様の安らぎがあらんことを」


 漁師はそう言って祈りを捧げると、僕達を獣の顎近辺の岸辺で降ろす。


「狼煙焚いてくれたら迎えに行くからな。よろしく頼むだよ」


 漁師はそう言って漁に出かけていく。


「さてと、獣の顎はあっちよ。何があるのか見に行ってみましょう!」


 アリッサはボックスカメラを持って獣の顎と言われる支流へと向かう。

 体感で小一時間ほど川辺に沿って歩いていくと、辺り一帯が鋭い岩礁の入り江があった。

 水底にも鋭利な岩が密集しており、よく見れば座礁した小舟の残骸などが沈んでいる。


「確かにこれは獣の顎ね……」


 アリッサは入り江の風景をカメラに収めながら進んでいく。


「あそこを見てください」

「アンボニー号……あれが幽霊たちがいいてた船ね」


 シュヴァルツが指さす方向には座礁した木造帆船があった。

 木造帆船は座礁してボロボロになっているが、かすれてはいるがかろうじてアンボニー号と刻まれたロゴが見えた。

 アンボニー号は傾いていたが座礁の原因と思われる船底の穴から船の中に入る。


 また呼び出した踊る光球で船内を照らすと、浸水してあちこち腐っており、魚や蟹が住み始めていた。


「ウォォォォ……ニモツハオレノモノダァァァ!!」

「きゃあああああ!!」


 船内を探索していると川辺で出会った幽霊とは違う目から血を流し、憎しみに表情がゆがんだ幽霊が壁から姿を現す。


「サムイイイイ……サムイイイ」

「シニタクナアアイ。ナンデオレガコンナメニイイイ」


 それを皮切りに全部で五体の幽霊が現れる。


「ちょっ、ちょっと! 私たちは貴方に頼まれて解放しに来たのよ!」

「下がってください! そいつらはレイスです! 昨日であった幽霊とは真逆の害をなす悪霊です!!」


 アリッサが現れた幽霊を説得しようとするが、シュヴァルツが幽霊たちの正体を叫びながらアリッサの肩を掴んで後ろに下げる。


「彼らには絶対触れないでくださいっ! 生命エネルギーを吸われて、吸いつくされると同族にされますよ!!」

「ヨコセエエ! オマエノイノチヨコセエエエ!!!」

「ひっ!?」


 一体のレイスの叫びをきっかけにレイス達が襲ってくる。

 アリッサは恐怖にひきつった悲鳴を上げて腰を抜かす。


「させません!」

「ウギャアアアア!!」


 シュヴァルツが両手剣で襲ってきたレイスの一体を斬ると、斬られたレイスは

断末魔の雄たけびを上げて霧散化する。


「マスター! こいつらは太陽の光が弱点です!」

「ならば! 万物の根源たるマナよ 日輪の光となりて その輝きを照らせ 太陽光爆発!!」

「ギィィィヤアアアアアアア!!!」


 僕は杖を頭上に掲げて呪文を唱える。杖の先端から船内を覆い照らす太陽の閃光が放たれ、光に触れたレイス達が断末魔を上げて消滅していく。


「……え?」


 腰を抜かして尻餅をついていたアリッサは、僕の魔法でレイス達が一瞬で消滅したことが信じられないように呆けている。

 よくよく見れば、恐怖で腰を抜かしてもカメラだけはぬらさないように死守している。感服するようなジャーナリスト魂だと思った。


 レイス達を撃退した僕達はアンボニー号の船内を探索する。


「これは航海日誌ね……」


 船員の部屋を調べていると、航海日誌を見つける。

 日誌には日々の公開や出来事が書いてあり、元々この船は貨物を運ぶ河川船で、セブンブリッジとテイラス河上流の輸送を担っていた。

 どうもこの船は禁制品を密輸していたらしく、その取り分で船員たちが不満を持っていたらしい。

 不満がついに爆発して反乱を起こし、船長と船長の味方に付いた船員を船倉に閉じ込めて船を乗っ取ったのはいいが、霧に飲み込まれて獣の顎で座礁。

 居残り組と助けを呼ぶ組に分かれたところで日誌は終わっている。


「助は来ず、餓死したのかモンスターにやられたのか……船員たちはレイスになったようね」

「あの幽霊は助けを求めた人ですかね」

「その可能性は高いわね。船倉も探索してみましょう」


 日誌を見てこのアンボニー号で起きた出来事が大体わかった。

 船内を探索して当時の惨劇の跡をいくつか発見してアリッサは写真に収めていく。


「これは……」


 船長たちが閉じ込められたという船倉に辿り着くと、船の柱に拘束された白骨死体が二つあった。

 周囲には錆びた短剣やクロスボウのボルトがあり、おそらくは捕らえた船長と船員を拷問したか、的にして遊んだのだろう。


「貴方達のような不屈の心を持つ者を待ってました……これでやっと船長と一緒に逝けます」


 僕達は拘束具を外して死体を解放すると、河辺で出会った幽霊が現れた。

 その表情は心なしか微笑んでるように見えた。


「旅のお方ありがとう。ずっと私の為に助けを呼んだお前にも礼を言わないと」


 船長と思われる服装の幽霊が現れて僕達と助けを呼んだ船員に礼を述べる。


「私は船長に拾われた恩を返したかったのです。飢えと寒さで死にかけてた孤児の私を貴方は助けてくれた。あの日頂いたパンの味を……頭を撫でててくれたあの大きな手のぬくもりを片時も忘れませんでした……」


 船員の幽霊は自分を助けてくれた恩を返したかっと船長の幽霊に述べる。


「あなたはその身を顧みることなく危険に立ち向かい、私たちを助けてくれました。その尊い行いには報酬があってしかるべきです。船長室のベッドの下を調べてください。私の感謝の印が見つかるはずです」


 船長の幽霊は自分の部屋を調べろと告げると、船員の幽霊を連れて微笑みながらゆっくりと歩き去り、その姿は光を残して空に消えた。


 二人を見送った後僕達は船長室に向かう。

 船長の幽霊が言うように、ベッドの下にスライドする床があり、船長のへそくりが隠されていた。


「これで一件落着ですかね」

「そうね、あとはセブンブリッジに戻って記事にするわ。二人のことも書いてあげるから楽しみにしなさいよ」


 アリッサは最後にアンボニー号の前で僕とシュヴァルツの写真を撮って、僕達はセブンブリッジへと戻った。


 最後までお読みいただきありがとうございます。

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